鬼滅の刃〜残花異聞〜   作:みしゃぬこ

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第16話

 呼吸の音が変わる。

 

 肺に入った大量の酸素が取り込まれ、自分の全ての細胞が開いていくのがわかる。

 

 心臓が強く脈動し、身体中に力がみなぎっていく。

 

 咲夜はヒュゥゥゥゥという呼吸音をあげた。

 

 次の瞬間、ドンッという音と共に大量の水飛沫が天高く舞う。

 

 力強い踏み込みは一瞬で先生との距離を詰め、その刃は美しい曲線を描きながら先生の首筋目掛けて動いていく。

 

 先生は刀を高く上げ、刀の柄で受け止めると力任せに弾き返し、今度は逆に斬り返した。

 

 咲夜はその斬撃を受け止める。

 

 互いの剣閃が激しく交差し、舞い上がる水飛沫を斬り割いていく。

 

「・・・そうだ!思い出せ、咲夜!お前の戦い方を!」

 

 先生は咲夜の剣を弾きながら言葉を紡ぐ。

 

 先生の剣はどんどん早く、重く、鋭くなり私の剣では耐えるのが難しくなっていく。

 

 だがそれと同時に、思い出していく。

 

 自分の剣の在り方を。

 

 自分の剣は自分を“守る“ための剣じゃなく、帝をそして家族みんなを“護る“ための剣だったと。

 

 剣圧で下がりかける足を一歩前に踏み出して、荒波すら弾き返す壁の如く、その剣戟を真っ向から受け止める。

 

 そしてその剣の隙。

 

 一瞬だけ現れたその隙を見定め。

 

 先生が繰り出した渾身の剣を受け止めるのではなく、受け流した。

 

 わずかだが先生の上体が流れる。

 

 そのわずかの隙をつき、私の剣は先生の面を割っていた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

 激しく肩で息を吐きながら、先生のその下の顔を私は初めて見た。

 

 先生は自分の顔に少しだけ触れると、優しく微笑みながら咲夜の頭にポンッと手を置いた。

 

「咲夜・・・生きろ。今度はちゃんと自分の意思でな・・・」

 

 そう言い残した先生はやがて霧のように消えていった。

 

 そしてそれと入れ替わるように吉郎が目の前に現れる。

 

「姉さんはやっぱり強いね」

 

「吉郎・・・」

 

「僕は結局姉さんたちのようになれなかったし、毎日が辛かったけど」

 

 吉郎はそう言いながら咲夜に笑いかける。

 

「姉さんたちがいてくれて本当に幸せだったよ」

 

 咲夜は手に握っていた刀を落とすと、吉郎を力一杯抱きしめながら膝から崩れ落ちた。

 

「ごめ・・・ごめん・・・護ってあげれなくて・・・ごべんね・・・」

 

 咲夜の顔から大量の涙がこぼれ落ちていく。

 

 その背中に優しい手が重なっていく。

 

 それが誰の手か見なくてもすぐにわかった。

 

「みんな・・・ごべん・・・なさい・・・」

 

 咲夜は言葉を詰まらせながら、吉郎の服を強く握りしめる。

 

「私・・・ちゃんと生きるから・・・」

 

 震える声でそう呟く。

 

「だから・・・だから・・・」

 

 そう叫ぶ咲夜の頭に吉郎はポンッと手を置いた。

 

「ふふっ姉さん。約束だよ」

 

 そう言って吉郎もみんなの姿も霧のように消えていった。

 

 その夜、咲夜は初めて声を上げて泣いたのだった。

 

 次の朝、咲夜は流水を連れ出し全集中の呼吸ができたことを見せた。

 

 しばらく流水は咲夜の動きを黙って見ていたが、やがて決心したように咲夜に話しかける。

 

「少しこちらにきてくれますか」

 

 そう言って流水が咲夜を案内したのは、滝からほど近い川のほとりだった。

 

 そこには流水と咲夜の背をゆうに越す大岩があった。

 

「これが斬れますか?」

 

 流水に言われ、咲夜は驚いた顔をするもすぐに真剣な顔で呼吸を吸い、その大岩に向けて刀を振り下ろした。

 

 割れた大岩を前に流水は少し懐かしげな表情を浮かべながら語り始める。

 

「・・・これほど大きな岩を斬れたのは、あなたが初めてですよ」

 

 そう言いながら斬れた大岩に懐かしげに手をつく。

 

「これは私の育手だった人のやり方でして、当時の私は随分苦戦したものです」

 

 そう言って咲夜に向き直る。

 

「先日まで全くできなかったとは思えないくらい見事な呼吸でした。これなら私も安心してあなたを送り出せます」

 

 そして咲夜の顔をじっと見ながら優しく微笑む。

 

「・・・少しは余裕ができましたか?」

 

「・・・え?」

 

「以前ここにきたばかりのあなたは、余裕がない顔つきをしていましたから。今のお顔を見ると憑き物は落ちたようですね」

 

「はい・・・もう大丈夫です」

 

 咲夜はそう言いながら胸に手を当てた。

 

「私は・・・もう1人じゃないですから」

 

 その言葉を紡いだ咲夜の表情を見て流水は、嬉しそうに笑う。

 

「本当にいい表情になりましたね」

 

 咲夜はその言葉を聞いて何気なく水面に目をやるとそこには自然に笑顔になれてる自分がいた。

 

 その様子をしばらく見ていた流水だが、少し寂しげな表情を見せながら咲夜に切り出す。

 

「あなたには話しておかないといけませんね。鬼殺隊のことを」

 

 そう言って流水は簡単に鬼殺隊について教えてくれた。

 

 ──“鬼殺隊“

 

 現在の隊員数は数百名。

 

 古き時代から存在し、鬼狩りを生業とする政府からは正式に認められていない組織だと。

 

「あと鬼殺隊のことは広く知れ渡っているわけではありませんが、完全に秘匿された組織というわけでもありませんので民間から依頼が入ることもあります」

 

「鬼を狩る以外にも何かあるのですか?」

 

「はい。よくあるのは商隊の護衛とかですね。まぁそこら辺は無事入隊した後にでも現役の方から聞いてください」

 

 そういうと流水は滝の方を見つめる。

 

「最終選別・・・どうか2人とも生きて戻ってきてください」

 

「・・・・はい」

 

 そう言って2人はしばらく並んで滝の方を見つめるのだった。

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