その日、流水は鴉を使い最終選別に参加する者が1人増えることを伝えた。
その夜、流水はいつもより少し豪華な夕餉を振る舞ってくれた。
いつも以上に勢いよく鍋を食べる淀水といつものように上品な手つきで食べる咲夜を流水は眺めながら、淀水に声をかけた。
「甲凱くん、わかってると思うけど最終選別は何が起きるかわからない。だからいつも以上に冷静に、平常心で行くんだよ」
「はい!」
淀水はリスのように口いっぱいに頬張ったものをごっくんと飲み込むと元気よく返事をする。
「咲夜さんもね」
「はい」
咲夜は少し微笑みながら静かに返事をした。
夕餉を終え、3人は最終選別に向けての旅支度を進めていく。
その次の朝、2人は流水に見送られながら最終選別が行われる場所に向かって出発した。
最終選別の会場まではここから二日ほど。
2人は途中の宿で休みを取りながら、その場所を目指した。
その場所は、淡く光る藤の花が咲いた木々で囲まれたどこか神秘的な場所だった。
(季節ではないのに・・・見事なまでに満開ですね)
そんなことを思いながら、整えられた石畳の上を進んでいくとやがて奥の方に1つの鳥居が見えてくる。
その近くまで来ると鳥居の手前は少し開けた場所になっており、そこには数十人の人たちが来ていた。
みんな緊張しているのか誰も一言も話さず、地面に座り込んでいる者、立ったまま目を瞑り精神を落ち着けている者、腕を組んだまま足を揺らし少し苛々とした様子で待つ者、緊張でかすかに震えている者など様々な人がいた。
淀水もここに来るまで1人で騒がしかったのに今では一言も喋らず、先ほどから体が石でできたかのように動きが固い。
そんな空気に当てられたのか咲夜自身もどこか胸の奥がドキドキとしているような、そんな不思議な高揚感があった。
そんな静寂を破るようにたったったっと少し元気な足音を鳴らしながら最後の受験者がたどり着く。
その受験者は可愛らしい顔をした女の子だった。
金糸に薄桃色の雷光を混ぜたような髪。
金色の毛先に混じる淡い桃色は、跳ねるたび火花のように揺れている。
猫のように鋭く、それでいて人懐っこい琥珀の瞳で小動物のように不安げにあたりをキョロキョロと見渡すが誰にも話しかけられなさそうな空気を察したのか、しゅんと落ち込んだように肩を落としていた。
(随分と・・・面白い子が来ましたね)
咲夜は可愛らしい見た目のその子を何気なしに見つめていた。
それに気づいたのかその子は、先ほどと打って変わってパッと弾けるような笑顔を浮かべ咲夜に近づこうとした時だった。
「「皆様、今宵は鬼殺隊最終選別にお集まりくださってありがとうございます」」
重なったその言葉でその場にいた者たちの視線が集まる。
その視線の先にいたのは、真っ白な髪色の女の子とその対になるような真っ黒な髪色の女の子が静かに立っていた。
2人は髪色と藤の花の髪飾りを逆方向につけていることくらいでしか区別できないほどその見た目は瓜二つの女の子たちだった。
まずは白い少女が口を開いた。
「この藤襲山には、鬼殺の剣士様方が生け取りにした鬼が閉じ込められており、外に逃げることはできません」
次に黒髪の少女が口を開く。
「山の麓から中腹にかけて、鬼どもが嫌う藤の花が1年中狂い咲いているからでございます」
再び白い少女が話し始める。
「しかしここから先には藤の花は咲いておりませんから、鬼どもがおります」
再び黒髪の少女が。
「この中で7日間生き抜く。それが最終選別の合格条件でございます」
そして最後の締めの言葉は2人同時に。
「「では行ってらっしゃいませ」」
その言葉を境にその場の空気がピリッと引き締まる。
淀水は鼻から息をし、フンと鳴らすと咲夜を置いて1人で山に向けて歩き出した。
そしてその場にいたほとんどがそれに続くように山に向けて歩みを進めていく。
先ほどの特徴的な髪色の女の子は、はわはわとしていたがこちらに来るのを諦めたようにトボトボと歩いて行った。
(鬼どもがいる山ですか・・・さてさて・・・どうなることやら)
咲夜はちゃきと流水から与えられた日輪刀の感触を確かめると、皆の後ろについていくように山に入っていくのだった。