他の人たちが勢いよく走っていく中、咲夜は歩いて山を登っていた。
この最終選別の合格条件を聞いた時、咲夜には急ぐ理由がなくなったからだ。
この最終選別の合格条件は7日間の生き延びること。
これを目的とするなら、まず鬼との接触を極力避けなければならない。
鬼の討伐数を合格条件ならいざ知らず、生き延びることだけを目的とするなら鬼と積極的に接触するのは愚策。
むしろこの試験で生き残るには──
そんな咲夜の上から鬼が叫びながら襲いかかってくる。
「久しぶりの肉だぁぁぁ!」
それを後ろに下がり避けながら、鬼が体勢を整える前にその首を斬り落とす。
そしてその隙をつき、真横から飛びかかってくる鬼の爪を頭を下げ避ける。
そして浮いている鬼の足に体をぶつける。
空中で体勢が崩れた鬼は地面に転がり落ちる。
その隙をつき首を斬り落とすと、鬼の体は灰となって消えていく。
「はぁ・・・」
咲夜は刀を納めながら、ため息をついた。
(どうやら随分と飢えているようですね・・・)
咲夜を襲ってきた鬼たちは、2体とも血走った目で涎を撒き散らしながら襲いかかってきた。
今まで出会った鬼と比較してもあまりにも余裕がない。
そしてあの言動から見ても、理性は飢えでほとんどないのだろう。
この状況で飢えた獣ほど厄介なものはないのだ。
「なるほど・・・随分と趣味の悪い」
そう言って咲夜が歩き出そうとした時だった。
「にゃああああああああ!!」
こちらに向かって叫びながら走ってくる1人の少女。
あの特徴的な髪色は──
その女の子は後ろから迫ってくる2匹の鬼の攻撃をうまく交わしつつ、逃げていた。
「人が!にょわ!深呼吸して!うわわ!落ち着こうと!ひゃあ!してる時に襲いかかってくるなんてひどいよ〜!」
そう叫びながら、涙目で必死に逃げている。
その様子を見ていた咲夜に気づいた少女は驚いた顔を浮かべ、叫んだ。
「あ!あの!ごめんね!鬼連れてきちゃった〜!よかったら助けて〜!」
咲夜は息をヒュゥゥゥゥと吸うと刀を抜き放ちながら、少女の傍を通り抜けつつ鬼に迫る。
「水の呼吸:肆の型:打ち潮」
流れるような動きで、飛び掛かってくる2体の鬼の首をすれ違い様に斬り落とす。
2体の鬼はそのまま何も言わず、灰となって消えていった。
咲夜は刀を納めながら、少女の方に向き直る。
「お怪我はありませんか?」
その横顔を月光に照らされた咲夜の姿を見た少女は目をキラキラと輝かせる。
「ふわぁ〜・・・すっごく綺麗」
咲夜は小首を傾げながら、へたり込む少女に手を差し出す。
前屈みになった際、垂れ落ちた横髪をかきあげる仕草すら美しく、少女の目はさらにキラキラと輝いた。
「あ!あの!」
「!?は、はい?」
突然差し出された手を思いっきり握られながら、顔を額がくっつくかと思うほどの距離まで詰められ、咲夜は目を丸くしてしまう。
「お」
「お?」
「お姉ちゃんって呼んでもいいでしょうか!?」
「・・・・はい?」
ここが危険な場所にも関わらず、場違いのことを叫ぶ少女に咲夜は思わず間抜けな返事をしてしまうのだった。
それから少女は落ち着きを取り戻し、あらためて自己紹介をし始める。
「先ほどは助けてくれてありがとうございました。私、
「では私のことは咲夜と。それで・・・雷の呼吸とは?」
「あれ?知りませんか?呼吸って色々と種類があるんですよ!確か炎・水・風・岩・雷が基本の呼吸で、これに派生していろんな呼吸があるんです」
流水から教えてもらった全集中の呼吸にいくつか種類があったのに驚きつつ、咲夜は尋ねる。
「雷の呼吸はどんな感じの呼吸なのですか?」
「雷の呼吸は、お父さん曰く『誰よりも早く辿り着いて、みんなを助ける呼吸』って言ってました」
「誰よりも早く・・・」
そう言って咲夜はチラリと柚雷の足に目を落とす。
思っていた通り、彼女は上半身より遥かに足腰を鍛え込まれている。
幼少期より咲夜自身も足腰を鍛え抜いているため足腰にはかなり自信がある。
そんな咲夜より幼いこの少女の方がおそらく下半身だけなら自分と同じくらいかそれ以上だと感じていた。
そして見る限り、身体機能もかなり高水準でまとまっている。
先ほど集まっていた者たちの中でもこの子は、鍛え方は尋常ではなく只者ではないと感じていた。
「それであの・・・」
「はい?」
「さっきの・・・えっと・・・お姉ちゃんって呼んでもいい?」
「あぁ・・・」
顔を赤らめながら尋ねてくる柚雷を見ながら咲夜は、顎に手を置き少しだけ考える。
もし万が一でも自分と敵対する可能性があるなら、情が移るような真似はしない方がいい。
しかし今は鬼殺隊に入るための試験を受けてる仲間。
それにこの子の言葉には一切の嘘も下心も感じない。
・・・それにこの子はどことなく吉郎に似ていてほっとけない雰囲気だった。
「仕方ないですね」
咲夜のその言葉を聞いて、柚雷は顔をパッと輝かせ咲夜の腕に自分の腕を絡ませた。
「ヤッタァ!ありがとう、おねぇちゃん!」
「こら!ここはまだ危険な場所なんですよ?警戒を怠らない!」
「・・・!はい!」
そう言って嬉しそうに前を歩く柚雷をやれやれと言った感じで見ながら2人は歩みを進めるのだった。