2日目の夜がやってくる。
陽が沈み、辺りが暗くなってくると、不穏な気配が木々の間を抜けて漂ってくるのがわかった。
その気配に淀水は、震えながらも気丈に刀を構える。
ユラは、1日目のこともあり肩の力が抜け、静かにその手を刀に添えていた。
咲夜は木々の音や臭い、周囲に漂う気配を探りながら、二人に声をかける。
「2人とも今日はここで戦いますよ」
咲夜がそう言うと、淀水は少し驚いた顔で咲夜を見た。
「でも、こんな開けた場所で立っていたらすぐに見つかるんじゃ」
「それはあくまで相手が人間の時です。人は夜目がききませんから」
話をしていた咲夜だったが、何かの気配を感じたのか刀をちゃきっと鳴らし、背後の森へ肩越しに目を向ける。
「どうしたんだ?」
「・・・いえ」
咲夜は警戒を強めながら、目線を前に戻し話を続けた。
「それに森の中に入れば、木の上からの奇襲も受けやすくなります。ですので今日はここで戦いましょう」
「・・・わかった」
淀水はそれが最善なのかわからず、一瞬ためらうような表情を浮かべたが咲夜の言葉に従うことに決めた。
(自分よりも鬼と戦った経験がある咲夜の言葉に従う方が生き延びられる)
そう考えた淀水は、何も言わずに森へ視線を戻した。
──それから数刻。
夜も更ける中、辺りを明るく照らす焚き火へ枝を放り入れながら、咲夜は二人の戦いぶりを見ていた。
淀水は襲いかかってくる鬼に腰が若干引けており生傷が増えているが、確実に仕留めていく。
一方ユラは今のところ、傷一つないが刀が少し流れ過ぎているように見える。
それでも、それを補って余りあるほど彼女の剣は速かった。
正面から迫る鬼の頸を鋭い一閃で斬り落とし、すぐさま刀を鞘へ納める。
これまで見てきた居合の剣士と比べても、ユラの技量は頭一つ抜けている。
そして何より、彼女は何かを察知する能力がずば抜けて高い。
ユラは死角から迫る鬼の気配にもすぐに反応し、不意に飛びかかってきても難なく対処していた。
そして咲夜はというと──
「ほらまた・・・背中が隙だらけですよ」
咲夜はそう言って、また淀水の背後から迫った鬼の攻撃を防いだ。
この場での咲夜の役割は、全体の流れを読み、崩れないように維持すること。
そのために必要なのは、2人の穴の補完だった。
「淀水さん、前ばかりに集中しすぎです」
咲夜はそう言いながらまた背後から襲いくる鬼の首を斬り落とした。
「大丈夫。俺の背中はお前が守ってくれるだろう」
「そういうことではなく・・・」
咲夜はため息をつきながら、さらに横合いから迫った鬼の首を落とす。
淀水は仲間を信じると、その方向への警戒を完全に解いてしまう。
一人で戦う時には死角の攻撃にも反応できるはずなのに、仲間がいればすべてを任せきってしまうのだ。
人を即座に信頼できるのは彼の長所だが、仲間が倒れた時を想定できないそれは、同時に致命的な短所でもある。
そこに咲夜は一抹の不安を覚えていた。
彼の長所であるその性格がこの先も何一つ変わらないのであれば、このままではいつか取り返しのつかないことになる。
そんな不安を抱えたまま、二日目の夜は過ぎていった。
朝陽が昇り、鬼の気配が薄れていくのを感じた咲夜は、二人に声をかける。
「どうやら今日はここまでのようですね。2人とも、お疲れ様でした」
咲夜がそう言うと、二人は大きく息を吐き出し、地面に大の字で寝転がる。
「疲れた〜〜」
「眠〜い」
緊張の糸が切れた2人の姿にクスッと笑いながら咲夜はユラに声をかける。
「今日は自分で寝れそうですか?」
「え?う〜ん・・・」
ユラは少し悩んだ後、体を起こし咲夜に頭を差し出す。
「お姉ちゃんが撫でてくれたらすぐ寝れそうかも」
ユラが期待したように咲夜を見上げると、咲夜は苦笑しながらもその頭を優しく撫でてやる。
そうするとユラは気持ちよさそうに目を細め、小さく鼻歌をこぼすのだった。