淀水は2人を歓迎した。
疲れ切っている2人は水面から直接水を飲み、淀水が渡した木の実と魚をガツガツと食べ始めた。
その様子をニコニコ顔で見ている淀水とは裏腹に、咲夜は少し離れた場所でユラと夕餉を取り始めていた。
淀水は2人の様子を見て自分の分の魚を勧めると、先ほど淀水と話していた方は遠慮しようとする。
しかし遠慮の言葉を口にする前に、もう1人の男が淀水の手から魚をひったくり、何も言わず食べ始めてしまった。
その様子にもう1人が気まずそうにしたが、淀水は特に気にした様子もなかった。
夕餉を終え咲夜たちが夜のための準備をしていると、嫌な目でこちらを見ていた受験者は準備もせずに地面に寝そべり始めた。
その様子を見たもう片方は、焦ったように声をかける。
「お、おい。もうすぐ夜になるぞ。準備しないと」
そう言われたが動こうとせず、むしろ気だるそうにそちらを一瞥して吐き捨てるように言い放った。
「疲れてるんだよ。こいつらと違って」
「何言ってるんだ・・・?疲れてるのはみんな同じだろ」
「はぁ?こいつらの様子を見て、本当にそう思うのかよ」
そう言われ彼は黙ってしまった。
咲夜は黙って用意を進めながら、2人を静かに見つめていた。
その様子に気づいた男は横になったまま、咲夜に噛み付く。
「なんだぁ?文句でもあるのかよ」
その言葉を聞いた咲夜は何も答えなかったが、その目はスゥ・・・っと冷たくなった。
そんな様子に気づいていない男は舌打ちをして、体を起こそうとするが淀水が割って入ってきた。
「そうだな!俺たちにはまだ余裕があるし、2人は明日の最終日に備えてくれたらいい」
「淀水さん、何を言っているのですか?」
咲夜は冷たい目線のまま淀水の方を見るが、その言葉を聞いた男は当たり前だとでも言うように寝直し、本当に寝息を立て始めてしまった。
「淀水さん、どういうつもりか聞かせてもらっても?」
咲夜は軽はずみな淀水に抗議するように睨みつけたまま尋ねる。
「いやだって・・・こいつらの様子を見ただろ?生き残るためにも助け合わなきゃ」
「助け合い?これがですか?」
そう言って、心底呆れている様子で咲夜は淀水を見た。
「あぁ。今日俺たちが頑張れば、明日万全な状態の2人が戦力に加わってくれる。そうすれば最終日はグンっと楽になるだろう。なぁ?」
そう言って淀水は、気まずそうにしていた受験者の方に目を向けた。
「え?・・・あ」
いきなり話を振られた彼は、少し戸惑った様子だったが咲夜の方をしっかり見ながら答えた。
「も、もちろん、協力する。今日だって本来なら自分の力で生き残らなきゃいけないこともわかってる・・・それでももし君たちが許してくれるなら・・・少し休ませて欲しい。お願いします」
そう言って頭を下げる姿を見た咲夜は、しばらく軽蔑に近い眼差しでこの2人を見ていたが、やがて大きくため息をつくと淀水を睨む。
「わかりました・・・」
淀水は嬉しそうにするが、咲夜は「ただし」と付け加えた。
「彼らの面倒は、淀水さんが責任を持って見てください。いいですね?」
「あぁ!もちろんだよ」
そう言って淀水は頭を下げていた彼に優しく話しかけ、安心させる。
やがて2人とも眠りにつき夜がやってきた。
現れた鬼を昨日までと同じように退け、六日目の夜も問題なく越えられるはずだった。
だが余計な荷物を抱え込めば、疲労が激しくなるのが道理。
淀水はいつも以上に息を切らせ生傷も増えている。
そしてユラも彼らを気にしてしまい、何度か危ない場面があった。
明らかに疲労している2人の様子を見て、咲夜は内心舌打ちしてしまう。
森の奥から時折感じる視線。
この山には他の鬼とは違うのが少なくとも1匹いることがわかっている。
それがいまだに姿を現していない以上、最終日はユラと淀水には万全な状態で臨んでもらう必要があった。
だがそれも荷物を抱えた今の状況では、望めない。
淀水が言うようにあの2人が協力してくれるなら、いいのだがおそらくそれはないだろう。
咲夜は悩むように明るくなってきた空を見上げながら、ユラを優しく寝かしつけるのだった。