6日目の夜をなんとか越え、咲夜たちはいつものように体を休めていた。
しかし咲夜が休み始めてから数刻、それは起きた。
「それに触らないでいただけますか?」
咲夜はゆっくりと目を開け、自分の荷物を勝手に漁ろうとする態度の悪い男に警告する。
「・・・は?」
咲夜が声をかける前、のそのそと動き始めた男は、しばらく水辺で顔を洗ったりして過ごしていたが、やがて淀水の近くに行き、何かしていることに咲夜は気づいていた。
淀水の近くには彼の荷物があり、その付近で何かしているならおそらく食べ物か何かめぼしいものを探しているのだろう。
そして何もなかったのか、今度は咲夜たちの荷物が置いてあるところまで来て立ち止まったのを感じ、咲夜が警告をしたのだ。
その男は咲夜の荷物の前に座り、今まさに荷物の中を漁ろうとしていた。
「それは私のです。あなたにそれを触っていいと言っていませんよ?」
「うるせぇ。女が指図するな」
そう言ってもう一度漁ろうとした男に咲夜は不快感を覚え、刀をちゃきと鳴らす。
「これが最後です。・・・それに触れるな」
少し語気を強め咲夜が軽く威圧すると、男は何か言いたそうにしていたがしばらく口をパクパクと動かした後、舌打ちをしてその場から離れた。
「・・・んぅ?お姉ちゃん?」
ユラが目をこすりながら咲夜に目を向ける。
「・・・ごめんなさい。まだ寝てていいですよ」
咲夜はそう言って優しくユラの髪を撫でると、ユラはむにゃむにゃとしながらまた咲夜の膝の上で寝息を立て始めた。
咲夜も最終日に備えてもう少し休んでおきたかったが、結局淀水が受け入れたこの2人が度々こちらに来るため休めなかった。
態度の悪い男は咲夜が寝たと思うと気付かれないように近づいてくるし、礼儀正しい男の方も遠慮しがちにこちらに話しかけてくる。
鬱陶しいことこの上ないが、この2人が求めているのは要するに食料だ。
6日目に食料を渡してくれたから、もちろん最終日も用意してもらえると踏んで遠回しに何度も催促してくる。
その度に咲夜は「食料が欲しいなら自分で探しに行けばいいでしょう」と伝えるが、2人は森に入らずその場にいたままだった。
それから淀水とユラが起きてからは、木の実をくれた淀水とだけ話していた。
やっと二人の相手から解放され、咲夜は一息つきつつユラと魚捕りに勤しむのだった。
そしてとうとう迎えた最終日の夜。
この夜は今までと何かが違った。
夜になり、いつものように鬼がやってくる。
その鬼を淀水が対処しようとするが、態度の悪い男が淀水を押し除けると、大袈裟な動きで鬼の首を落としていた。
無駄な動きが多く、頼まれてもいないのに淀水の前へ割り込んだだけにもかかわらず、その男は得意げな様子で咲夜に視線を送ったが、咲夜は無視して周りの気配の異様さに警戒を強めていた。
こちらに迫ってくる気配が多い。
ユラもそれを感じたのか、髪の毛を逆立たせ森の方を見つめながら刀を強く握りしめる。
本来であれば連日鬼の処理をしているのだから、最終日の鬼の数は確実に減っているはずだが、まるでそれを感じさせないほどの勢いで鬼たちが迫ってくる。
そして危険な状況になり始めたことを咲夜とユラ以外の3人はわかっていない様子だった。
淀水はいつもの感じで武器を構えながら辺りを見渡し、警戒態勢を維持していたが、他の2人が最悪だった。
態度が悪い男は、刀を肩に担ぎながら欠伸をしている。
そしてもう1人の男は、今日は働くと言いながら、咲夜の近くで刀を構えながら歯をガチガチ鳴らし震えていた。
この状況なら自分は淀水たちを援護する“影“として動くより、積極的に前に出る“壁“として動く方がいい。
そう判断した咲夜は仕方なく前に出ようとした。
しかしそれを塞ぐように態度が悪い男が立ち塞がる。
「どこ行くんだよ」
「そこをどいていただけますか?」
「逃げる気か?」
この男は何を言っているんだろうか?
「逃げるも何も──」
「やっぱり女がここまで生き残ってるなんておかしいと思ったんだ」
そう言って男は咲夜に詰め寄る。
「どうせあの男に守ってもらってここまで生き残ったんだろ?」
その言葉を聞いた淀水は思わず誤解を解こうと警戒を緩めてしまった。
「いや・・・彼女の方がむしろ──」
咲夜にとって今はそんなことどうでもよく、むしろもうあと僅かしかない時を無駄にするわけにはいかなかった。
「申し訳ありませんが、そこを──」
そう言って咲夜はどいてもらうために手を男の方に伸ばそうとする。
しかし──
パシンッ!
乾いた音が鳴り、咲夜の手が男によって払われた。
一瞬何をされたかわからない顔で咲夜は男を見ていたが、男はイライラした様子で咲夜に突っかかっていく。
「どうせ自分だけ安全な場所を確保してるんだろ?それで鬼殺隊に入ろうなんて許されると思うなよ?」
そんな言葉を吐かれた咲夜は、冷たい視線で男を見据えるがやがてゆっくりと笑みを作る。
その顔を見た男は少し顔を赤らめつつも、咲夜に詰め寄った。
「な、何笑ってやがる」
「いえ。あなたの言いたいことはわかりました。ですので──」
そう言って咲夜は顎で男に前を見るように促す。
男がそちらを向くと同時に、木々の間から複数の鬼たちが飛びかかってきた。
「ちゃんと見ていて差し上げます。あなたがどうなるかを・・・ね」