創也が来て家の中が騒がしくなってから、三日ほど経った頃。
淀水が顔を洗うため外に出ようと扉を開ける。
するとその目と鼻の先に、ひょっとこのお面をつけた男の顔があった。
淀水は驚きのあまり、腰を抜かし叫び声を上げる。
「どうしましたか?・・・おやこれは鉄地河原さんじゃないですか」
「うん。上がるけどええな?」
「もちろんです。甲凱くん、いつまでもそこで座ってないでこっちにおいで」
流水は笑って、2人の男を迎え入れた。
いくつもの風鈴がぶら下がった笠を脱ぎ、2人は静かに頭を下げる。
「鉄地河原 鉄生(てっせい)だよ」
日に焼けた筋骨隆々の体とその異様な見た目からは想像できないほど、幼い声で彼は自己紹介をした。
「名鉄 鋼道です。稲羽様の刀を担当させていただきました」
そう言って礼儀正しく挨拶すると、頭を下げたまま、わなわなと体を震わせる。
「ていうか・・・創也テメェ!こっちにいるならもっと早く伝えろや!『流水のとこいるからそっちによろしく』じゃねぇんだよ!余計に歩いたわ!」
「だっははは。すまんすまん!」
「ったく。んんっでは気を取り直して、稲羽様」
「あっはい!」
「こちらが貴方様の刀です。どうぞ抜いてみてください」
ユラは刀を握り、刀身を抜き放つ。
ギラリと光る刀身と美しい波紋を見て、ユラがおおお〜と目を輝かせていると、雷が刀身に巻き付くように色が変わっていく。
「わわわ!なんか変わっちゃったよ!」
「はい。日輪刀は持ち主の呼吸の適性によって色が変わる、別名『色変わりの刀』と呼ばれているんです。稲羽様の刀は黄色に変わりましたので、雷の呼吸に適性があるということですね」
「そりゃそうだろう!なんたって俺の娘なんだからな!」
「では次は淀水様の刀をお渡ししますね」
豪快に笑う創也を無視し、名鉄はそう言って背負っていた刀袋をほどきながら、淀水の前に差し出した。
「これが俺の・・・」
淀水は、ごくりと生唾を飲み込む。
「はい、ただこの刀を打ったのは私どもではありません」
「え?じゃあ誰が」
「この刀を打ったのは鉄門地 銀地という名の刀鍛冶でして、私たち刀鍛冶は変わり者が多いのですが、銀地は特に変な奴で毎日刀を打っているため、外に出て来ないんです。ですので私が代わりに持って参りました」
淀水が刀身を抜き放つと先ほどのユラの刀とはまた違う、輝きを放つ。
そして刀身の色が炎を纏った様な赤色に変わった。
「どうやら淀水さんの適性は、炎の呼吸のようですね」
「え・・・?水じゃないのか?」
「えぇ。刀を見る限り、赤色の刀身は炎の呼吸に適性があるということですね」
「炎・・・」
淀水がどことなく意気消沈していると、淀水の肩を流水が優しく叩いた。
「あくまで適性の話ですよ。君の適性が炎であっても、今までの努力が無駄だったわけではありません。むしろ今知ったからこそ、強くなるのに別の選択肢もあるくらいに考えときなさい」
「・・・はい!」
「じゃあ次は僕やね」
そう言って鉄生が刀を咲夜の前に出す。
「これが君の刀や」
咲夜はその刀を手に取ると、ゆっくりと刀身を引き抜いていく。
静かな美しさを放つ刀身が現れ、鮮やかな赤紫色がゆっくりと滲んでいく。
光を受けて艶めくその色は、貝紫色と呼ばれる美しい紫だった。
「うん、初めて見る色や。とっても綺麗な紫色やねぇ」
咲夜は刀身を目線と水平に持ち上げ反り具合を確かめると、パチンと刀を鞘に収める。
「それでこの色はどの呼吸に適性があるのでしょうか?」
咲夜がそう聞くと、その場にいた全員が黙り込んでしまった。
「初めて見る色やからねぇ。この場にいるだーれも知らんと思うよ」
「そうなのですか?」
咲夜が確認するように流水たちへ目を向けると、流水も頷いた。
「そうだね。少なくとも僕らが知る呼吸の適性ではないのかもしれない。ただこういうのは珍しいけど今まで事例がないわけじゃないんだ」
「そうなのですか?」
「うん。複数の呼吸に適性があったり、基本の呼吸系統ではなく、まだ知られていない呼吸に適性があったりすると、今まで見たことないような色になったりすることがあるんだ」
「なるほど・・・」
咲夜が納得していると鉄生が立ち上がる。
「うん、いいものを見せてもらえたよ。じゃあ帰るね」
そう言って刀鍛冶の2人は帰ろうと家の外に出て行った。
「あの・・・」
その背中を咲夜が追いかけてくる。
声をかけられた鉄生は猫背気味な体を咲夜に向けて、首を傾げた。
「どったの?」
「もしよろしければ、別の物も作っていただきたいのですがよろしいですか?」
「別の物?」
「はい。こちらなのですが・・・」
そう言って懐から黒い手袋を取り出す。
2人はその手袋を繁々と見る。
「新しい手袋を作って欲しいのですか?確かにこれは珍しい・・・異国人の方が身につけているような品ですが、我々は刀鍛冶であって──」
「へぇ・・・これ面白いね。君が作ったの?」
名鉄の言葉を遮るように鉄生が少しはずんだ声で咲夜に尋ねる。
「いえ・・・鬼を拘束するために特注で作っていただいたものです」
「驚いたねぇ・・・世の中にはこんな絡繰作る鍛冶師がおるんや。で・・・これどうして欲しいん?」
「これを・・・日輪刀と同じ鉱石で作り直して欲しいんです」
「これを?いいけど・・・結構かかるよ?」
「構いません。費用についても言い値でお支払いします」
「ふーん。まぁ結構時間かかるし、お金のことはそこまで考えなくていいよ。新しい技術得られるから僕としても儲けもんやしね」
そう言って鉄生は手袋を受け取って重さを確かめる。
「軽さはこれくらいがええの?」
「はい。できればその重さのままで」
「ん」
鉄生はそれだけ言うと名鉄と共に帰っていくのだった。