咲夜は窓縁に腰をかけ、じっと町の往来を見つめながら、1人ひとりを観察していた。
「目ぼしいのはいたかい?」
「今のとこはいないわ。陽の光だけで死ぬからかやはり昼間だと出てこないみたい」
しばらくしてから団子を持ってきた老婆が咲夜に声をかけたが、咲夜は目まぐるしく動く目線を外さないまま老婆に答えた。
「そうかい」
「それで?何か変わったことは?」
「特には。昨日また1人消えたくらいさね。あとは先ほどぶつかった男にあれこれ聞かれたくらいか」
「なにを聞かれたの?」
咲夜はふと目線をとめ、老婆に顔を向けた。
「人が消えた情報をね。どこで消えたか何か知らないかを聞かれたよ。話した内容は今出回ってる情報くらいだけどね」
「そう」
「珍しい。最後の『宵』のものが1人の人間に興味があるのかい?」
──『宵』
それは咲夜がかつて所属していた影の部隊。
帝を守るために創設され、数百年にわたって皇室へ仕えてきた者たちである。
日本各地から集められた子を人道から外れた方法で肉体の限界以上まで鍛え上げ、帝の為にその一生を捧げる異常者とも言える集団だった。
だがその部隊も過去の話。
鬼に隠れ里を襲撃され、咲夜を残しみんな殺された。
そして帝の側にいる宵もすでに死んでしまっていた。
「そうね。少し興味がある。『[[rb:明鳥 > あけどり]]』の情報力で何かわからないかしら?」
明鳥とは宵たちが任務をこなす際、情報を得るために全国各地にいる草の者たちのことだ。
「表ではわからないね。ただ裏の話をするなら少しだけ」
「何?」
「噂によると“鬼狩り“の集団がいるという話だよ」
「鬼狩り・・・」
自分と同じように鬼を狩る者たちがいる──その程度に考え、咲夜は再び外へ目を戻した。
老婆はその様子を見て、そっとその部屋を後にした。
その夜──
宿に戻った咲夜は刀を背負い外に出ていた。
そして昼間、目星をつけていた連中がいるところまで足を運ぶ。
(さて・・・もう少し人通りが少ないところへ)
咲夜がそう思い、歩みを進めようとした時だった。咲夜の目の前に数人の男たちが立ちはだかる。
「よぅ姉ちゃん。女だてらに随分なものを持っているじゃないか」
「なー刀なんて重くて歩きにくいだろう?俺たちが貰ってやってもいいぜ?ついでに俺たちと遊ぼうじゃねえか」
「そうだぜ。女1人でこんな夜道を歩いていたら危ない。俺たちがちゃーんと安全なとこまで連れて行ってやるよ」
男の数は3人。
なかなかに引き締まった体をしている。
それに顔色や足取りを見る限り健康状態にも問題はなさそうだった。
──釣り餌としての数は十分だ。
そう判断した咲夜は男たちに笑顔を向ける。
それにしても宿から出て数歩歩いただけで絡まれるとはと咲夜は内心げんなりしてしまった。
「まぁご親切にありがとうございます。この町には今日来たばかりでして・・・」
「なら尚更俺たちが案内してやるよ」
「まぁ。ご親切にありがとうございます」
「それでどこに行きたいんだ?」
「あっはい。それは──」
咲夜は世間知らずの女性を演じつつ、男たちの隙間から町の人たちの様子を見たが、皆関わらないようにしたいらしく顔を背けて離れてしまった。
咲夜は男たちに目的地を伝え、男たちに囲まれながら、どんどん人気の無い場所に連れて行かれる。
男たちが連れてきた場所は少し開けた広場だった。
男たちは、そろそろいいかと互いに目で合図すると、突然咲夜の後ろにいた男が咲夜を羽交い締めにする。
「え!?な、何を!」
「へへへ。だめだぜ?女1人でのこのことこんな場所までついてきちゃ」
そう言って男は下卑た顔で咲夜にゆっくりと近づいてくる。
「あ、あのお金ならちゃんとお支払いいたしますから、どうか離してくださいませんか?」
「金か。もちろん金もいただくが・・・今はこっちの方が欲しいんだよ。俺たちは」
そう言って咲夜の着物に手をかけようとした時だった。
「無粋」
ただ一言。
静寂な闇の中でその言葉が響き渡った。
男たちと咲夜は声がした方に顔を向けると深編笠で顔を隠した武士らしき男が逃げ道を塞ぐように立っていた。
「なんだ、お前は?引っ込んでろよ」
そう言われた武士らしき男だったが何も言わず、男たちを見つめる。
「なんとか言えよ!」
男たちの一人が拳を振り上げ、武士へ向かって走り出した。
次の瞬間、武士はすれ違いざまに刀を抜き放ち、その胴を両断した。
武士が刃についた血を振り払うとびしゃり、と地面に赤い斑点が散った。
男たちは一瞬呆然としたが、すぐに顔を恐怖で歪め、悲鳴を上げて逃げ出した。
しかし武士はその男たちの背を容赦なく切り捨てた。
咲夜はその様子を怯えた表情を浮かべつつ黙って見ていたが、武士は深編笠から少しだけ覗く眼で咲夜を見下ろしていた。
「いつまでそうしている?」
そう言った武士は咲夜に向けて刀を放り投げた。
それは先ほど連れ込まれている時に男たちに抜き取られた咲夜の刀だった。
「抜け」
武士はそれだけ言うと先ほどと違い、上段に刀を構え、咲夜を明らかな敵として見ていた。
そしてその口には笑みが溢れており、その口からは鬼の牙がのぞいていた。
そう言われた咲夜の表情からは先ほどまで見せていた怯えていた表情が消え、何も感じていないような表情にスッと変わる。
咲夜が刀を手にとろうとした。
その時だった。
「待て!」
大きな声が静かな夜に響く。そして次の瞬間、咲夜を庇うように昼間出会った男が立っていた。