咲夜たちは、桜花と牡丹ちゃんに案内され、町はずれの大きな建物に辿り着く。
敷地を囲う塀には、藤の花をかたどった紋が一定の間隔で刻まれており、外から見えるほど立派な1本の藤の木が敷地内にあるのがわかった。
重苦しい門を開くと、右手には美しい藤の花が舞う庭があり、正面の石畳の先には2階建の母屋があった。
「これが・・・鬼殺隊の詰所?」
ユラが不思議そうに呟いた。
詰所と聞いて、咲夜は兵舎や稽古場のようなものを想像していた。
だが町外れにあったのは、大きな商家のお屋敷のように見え、少なくとも表からは鬼殺隊の施設には見えなかった。
そんなことを思っていると、母屋の扉がカラララと開いて、青い羽織を纏った女性が出てくる。
「あら?」
女性は2人に気付いたのか、咲夜たちの方に近づいてきた。
「あなたたち・・・もしかして新しく入隊した人?」
「あっはい!稲羽柚雷って言います!」
「私は宵月咲夜です」
「そ。私は天流寺(てんりゅうじ)真波(まなみ)。階級は丙(ひのえ)よ」
そう言って真波は、咲夜たちを少し見た後、踵を返しついて来るよう手で合図した。
「そうね。誰かに頼むのも悪いし、私が案内してあげる。ついてきなさい」
そう言ってスタスタ歩いていく真波の後を2人はついて母屋に入って行った。
中へ入ると、中庭まで続く広い土間が伸びていた。
左手には板敷きの食事処があり、低い卓がいくつも並んでいる。
右手には上がり框と、それに隣接するように一段高い帳場が設けられていた。
帳場の脇には、いくつもの小さな引き出しが並ぶ木棚が置かれている。
2人は履物を脱いで棚へ収め、上がり框から屋敷へ上がった。
右手には板張りの廊下が続き、その奥には2階へ通じる階段が見える。
「あの帳場で、町で受け付けた依頼書を管理しているの」
真波が帳場を指差した。
指差された場所で帳場に座る隠の人が優しく手を振っており、ユラもブンブンと振り返す。
「鬼の討伐が私たちの本来の任務だけど、鬼の出現が確認されていないときは、こうして町からの仕事を請け負って地域に貢献する。それもこの詰所の役目よ」
続いて、帳場の脇に置かれた木棚へ目を向ける。
「受け付けた依頼書は、この棚に分けて収められているわ。引き出しの取っ手に木札が掛かっているでしょう?」
真波は一つの木札を外すと、その引き出しから依頼書を取り出した。
その依頼書を見ようとユラが真波の近くでぴょんぴょんと跳ねる。
「木札を取ったら、必ず中の依頼書も一緒に持っていくこと。前に木札だけ適当な場所へ戻した馬鹿がいて、大変なことになったから」
「はい、了解です!」
ユラが元気よく返事をしたが、真波は気に留める様子もなく説明を続ける。
「木札には、上から3本の色線が引かれている。一番上が依頼の種類、2番目が必要な期間、3番目が難易度よ」
真波は木札を2人に見せた。
「依頼の種類は、赤が賊の討伐、黄が護衛、青がそれ以外。赤と黄は、場合によっては血が流れる仕事だと覚えておけばいいわ」
木札には、上から黄、青、青の線が引かれていた。
「残りの2本は、赤、黄、青の順に期間が長く、難易度が高い。この札なら、短期間で終わる簡単な護衛依頼ね」
真波は依頼書へ目を落とす。
「日中だけの護衛みたい。これなら入隊したばかりのあなたたちでも問題ないでしょうね」
そう言って、依頼書と木札を元の場所へ戻した。
「じゃあ次ね。こっちから先は隠の人たちがここの管理とかで使ってる場所だから、用がない時はあまり入らないように」
通路の先を少し覗いてみると顔を隠した黒装束の人たちが忙しなく部屋を出入りしているのが見えた。
「じゃあ2階に行くわよ」
真波に付いて上がっていくと、左手に先ほどの帳場のような場所があり、右手には左右に4つずつ並んだ板戸が見えた。
「ここが宿泊部屋よ。泊まりたい場合は、ここの帳場でお金を払って木札を借りなさい。それを部屋の横の柱に掛けておけばいいわ」
そう言って真波は帳場の人に簡単に許可を取ると、板戸横の柱の上部に取り付けられた釘に木札がないことを確認し、部屋をガラリと開ける。
部屋の中は、簡素だが整えられており、押入れや文机、行灯なども置かれていた。
「基本は休憩のために使うものだから、1週間以上の長期間の滞在なら町宿を使うことを薦めるわ」
それだけ言うと、真波は扉を閉めて下の階に降りていき、中庭の方に咲夜たちを連れていく。
「この中庭の左手にあるあの建物は救護施設。怪我したらあそこに行きなさい。で右手の少し離れた場所にあるのが見ての通り、この施設の物資を保管している土蔵よ」
救護施設は母屋に比べたら小さいが、外観からもちゃんと清潔に保たれているのがわかった。
咲夜は救護施設の力の入れように感心したように頷き、ユラは広い庭を見て少しはしゃいでいた。
3つほど並んだ大きな土蔵では、隠の人たちが物資を種類ごとに土蔵へ運び込んでいるのが見えた。
「これで説明終わり。何か質問は?」
それを聞いて、咲夜は働いている隠たちの方に目を向けて尋ねる。
「あの・・・隠という方々は一体何をされている方たちなのですか?」
咲夜がそう尋ねると、真波は怪訝そうな顔で咲夜を見つめた。
「・・・隠について何も聞いていないの?」
「はい。よろしければ教えていただけませんか?」
咲夜から悪意がないことがわかると、真波は仕方ないと言った感じで教えてくれる。
「・・・彼らは私たちの鬼狩りを助けてくれる人たちよ。私たちが鬼狩りに専念できるように後始末や情報、さらには物資なんかも仕入れてくれてるの」
「鬼殺隊の支援を行っている方達ということですね・・・」
「えぇ。その解釈で間違いないわ」
咲夜が頷いたのを見た後、真波は咲夜たちに尋ねる。
「それであなたたち、呼吸は何を使うの?」
そう聞かれ、ユラが元気よく手を上げながら答える。
「雷の呼吸です!」
それを聞いた真波は少し驚いた顔をする。
「へぇ・・・雷の呼吸って厳しくて最近全く弟子を出していないって噂なのに・・・あなたすごいのね」
「えへへへ」
ユラが嬉しそうにしてるのを見ていた咲夜に真波は声をかける。
「それであなたは?」
「私は水の呼吸です」
「水・・・育手は流水先生?」
「はい。ご存じなのですか?」
「私の育手も流水先生よ。あなたが合格したということは・・・あのバカはまだ先生のとこにいるのね」
「・・・あのバカ?」
「えぇ、淀水って弟子もいたでしょ。また他の弟子に先越されて泣いてるでしょうから慰めに行ってやらないと」
「・・・?淀水さんなら私たちと一緒に入隊しましたよ」
「・・・え!?」
それを聞いた真波は、今までで1番大きな声をあげながら、咲夜の肩を掴んだ。
「だって・・・先生はあなたを選別に出したんでしょ!?」
「あぁいえ。淀水さんが選別にいくことになっていたのですが、私も追加してもらえたのです。私と淀水さんは合格して、淀水さんは今朝早くに、鬼討伐の任務に出掛けられましたよ」
それを聞いた真波は驚愕の顔をしたまま、後ずさる。
「あ・・・あ・・・あいつぅぅぅ!」
そう叫ぶと怒ったようにその場で地団駄を踏み始める。
「私があいつにどれだけかまってやったと思ってるのよ〜!それなのに連絡1つよこさないなんて!!・・・淀水のくせに〜〜!」
突然怒り始めた真波の姿を見て、咲夜は怯えた顔をしているユラをギュッと抱きしめるのだった。