咲夜は、元気よく手を振って見送ってくれるユラと別れると、その足で町へと向かう。
刀を腰に差したままでは人目を引くが、隠から渡された刀袋へ収め、背負っていれば咎められることもなかった。
咲夜は、道沿いに建つ茶屋の縁台にゆっくりと腰をおろした。
咲夜が腰を下ろすと、奥からおばあさんが咲夜の方に寄ってきて注文を聞いてくる。
「団子を3本とお茶をいただける?」
「あいよ」
「そういえばおばあさん、今日は宵の月が綺麗に見えるそうよ。よかったら店主にも伝えてあげて」
「えぇえぇ。ご親切にどうも」
そう言っておばあさんが中に入ってからしばらくして、咲夜の座る縁台とは背中合わせになる位置へ、男が静かに腰を下ろした。
「ほい。お団子とお茶。お待ち遠さん」
そう言って団子が乗った皿とお茶を背中越しのまま差し出してくる。
「あら?店主さん自ら持ってきてくれたんですね」
「はっはっは。綺麗なお姉ちゃんと話せる機会が目の前に転がってるのに、それを逃す手はないでしょ」
「まぁ。お上手ですね」
「それじゃ失礼して・・・あっ自分の分の団子はここにっと」
店主はそんな軽口を叩きながら、咲夜の分とは別に自分の分の皿をそばに置いた。
咲夜は懐から出した依頼書を店主のそばに置かれた団子の皿の下に敷く。
店主は皿を依頼書ごと持ち上げ、団子を一つ口へ運んだ。
にこやかな笑みは崩さないまま、その声だけが周囲に届かないほど低くなる。
「もう少しかかるかと思ってたけど、こんなに早くに取り掛かってくれるなんてありがたい限りですわ」
「それで、わざわざあそこに依頼した理由は?」
「宵の当主であるあんたの手助けになる・・・っていうのは建前で。少し厄介な相手だからあなたに任せたいのが本音ですわ」
「厄介?」
「今は宵に代わり他組織が帝の守りを担っているんですが・・・そいつらこういうのが不慣れのようで」
「手際が悪いと」
「えぇ。依頼書に書かれた盗賊団を壊滅させ、とある品を回収するだけなんですが・・・2度ほど失敗してるんですわ」
「それは・・・少し妙ね。仮にも帝の護衛を担っている組織でしょ?」
2人は唇をほとんど動かさず、表向きはにこやかに世間話をしているように振る舞った。
「えぇ。こっちでもう1度洗い直してみたんやけど・・・どうやら、その盗賊団を率いている奴は、ご当主が今いる組織と関わりがありそうなんですわ」
「・・・鬼が?」
「裏までは取れてません。ただ夜しか活動しないことや毎回死体まで綺麗に回収してるとこ見るとその可能性が高いっちゅーのがうちらの見解ですわ」
「・・・わかった。とある品については?」
「帝が特注で作らせた鉄扇ですわ」
「鉄扇?・・・わかったわ」
それだけ言って咲夜は、団子を綺麗な所作で口に運んでいく。
美味しそうに頬張る咲夜の姿に町人たちは、歩きながら目を奪われていた。
「姉ちゃん、目立ちすぎやで。みんなの視線で僕の背中まで痛いわ」
そう言って店主が大袈裟に立ち上がると、みんなそそくさと散っていった。
「あら、ごめんなさい。ついおいしくて」
先ほどまで依頼について話していた2人だったが、今は町人として話していた。
「そんなにうちの団子、気に入ってくれたんか?嬉しいなぁ。あっよかったらこれで手拭いとき」
と言いながら先ほど受け取った依頼書を返してきた。
咲夜はそれを受け取りながら、くすくすとおかしそうに笑う。
「お手拭きにしては少し大きいですが、ありがとうございます。では私はこれで」
「また食べにきてや〜お姉ちゃんなら大歓迎や」
「えぇ。他の小鳥たちのお世話はちゃんとしてあげてくださいね。言ってくだされば私も何か手伝いますので。では」
そう言って立ち去っていく咲夜の背中に手を振っていた店主だったが、その背中が見えなくなるとやれやれと言った感じで店の中に戻っていく。
店の奥では先ほどのおばあさんが静かに勘定場の中で座っていた。
「ご当主が、何かあれば助けるから、これからも組員を大切にしろってさ」
「そうかい。随分と優しい子が当主になったんだねぇ」
「僕は、好感が持てるけど。美人なだけじゃなく優しいなら支えがいがあるやろ」
「全くお前ときたら・・・元締めを譲ってやったのに変わんないねぇ」
「僕は僕やからね。さてまぁ・・・これから忙しくなりそうやし。色々準備だけはしときますか」
そう言って店主は店の奥に腰を下ろし、各地へ送る文をしたため始めるのだった。
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