鬼滅の刃〜残花異聞〜   作:みしゃぬこ

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第34話

 店主から返された依頼書には、一枚の地図が忍ばせてあった。

 

 そこには、洞窟の周囲に設営された賊たちの野営地が記されていた。

 

 いつもは賊の笑い声で騒がしいその野営地も今晩はとても静かだった。

 

 すでにもの言わぬ体に成り果てた賊たちを背に咲夜は刀を払い、刀身を袖で拭うとゆっくりと納刀した。

 

 そして腰に差していた日輪刀を握ると、目の前に立つ頭目を見据えながらゆっくりと抜き放つ。

 

 長い腕をだらりと下げながら、ニタニタと気味の悪い笑みでこちらを見ている頭目とは、対照的に咲夜は美しい笑みを浮かべたまま、凛とした姿勢で刀を構える。

 

「ずいぶんとひでぇことをするじゃねぇか。こいつらはただの人間だぜ?」

 

「あら、あなたは違うのですか?」

 

「見てわかってんだろ?えぇ?鬼狩り」

 

 その回答に咲夜はなぜ帝の護衛組織の人間が後れをとったのか理解した。

 

 ただの人間と相手を侮り、鬼に食われたのだろう。

 

「なるほど」

 

「けけけ・・・ここまで苦労したんだぜ?そいつらをまとめあげて、従順になるように仕込んだのによ」

 

「あら?それならよかったです。彼らも解放されてさぞ喜んでることでしょう」

 

 そう咲夜が言ったのと同時に、咲夜の顔があった位置を鋭い爪が空を切る。

 

 咲夜はその爪を半歩下がることで軽くかわしていたが、不意打ちを避けられたことに鬼は苛立たしげに舌打ちをした。

 

「ちっ避けやがったか」

 

「なぜ鉄扇を奪ったのか聞いても?」

 

「あぁ?そんなものしらねぇよ!」

 

 そう言って鬼は後ろに飛び退いて、地面に手をつける。

 

「その余裕の態度・・・気に入らねぇな」

 

 そう言った鬼の手から、ズズズと固い地面が柔らかい砂に変わり広がっていく。

 

(これは・・・血鬼術)

 

 鬼の持つ特殊な技を見た咲夜は、自分の足元まで伸びてきた砂を横跳びに避ける。

 

 すると咲夜の後ろにあった賊の死体たちまで伸びていった砂が賊の死体をその砂の中に飲み込んでいった。

 

「砂の中に・・・」

 

 咲夜が砂に目を向けている隙を狙い、鬼は咲夜の頭を貫こうと手刀を突き出す。

 

 しかし咲夜はその手刀を体を少しずらすことで躱し、すれ違いざまに突き出された腕を手首から斬り落とし、流れるようにその首も斬り落とした。

 

「な──」

 

 驚愕の顔を浮かべながら短く叫んだ鬼の首は地面に落ち、砂の塊に成り果てる。

 

 咲夜は刀を構えたまま、首のなくなった鬼の体も砂に変わっていくのをただ黙って見下ろしていた。

 

 そして少しの静寂の後。

 

 先ほど砂に変わった地面の中から勢いよく、先ほど首を斬り落とした鬼が飛び出し咲夜の背後から掴みかかってくる。

 

 咲夜は振り向きざまに鬼の胴を両断すると、またもやその体は砂に変わり今度は咲夜の体に降りかかる。

 

 その砂を浴びた咲夜は、服や体に付いた砂を払おうとするが、まるでへばりつくようにその砂は取れなかった。

 

「けけけ・・・残念だったなぁ・・・俺の砂はそう簡単に取れねぇぞ?」

 

 そう言いながらまた砂の中から鬼がゆっくりとその姿を現す。

 

 地面を砂へと変え、その砂を自在に操る。

 

 それが、この鬼の血鬼術だった。

 

「・・・厄介ね」

 

 身体にまとわりついた砂を一瞥し、そう愚痴をこぼすが、咲夜は表情一つ変えず、静かに鬼と対峙していた。

 

 大勢の手下を惨殺した時から変わらないあの貼り付けたような笑みに、鬼は薄気味の悪さを感じ始めていた。

 

「ずっとへらへらとしやがって・・・すぐにその顔を恐怖に染めてやるよ」

 

 そう叫ぶと鬼は、地面の中から2体の砂人形を出し、今度は同時に咲夜へ襲いかかってくる。

 

 咲夜は静かに息を吸い、呼吸の音が変わる。

 

「水の呼吸:漆ノ型──」

 

 そう言い、刀の切先を鬼の頭に狙い定める。

 

「雫波紋突き──双紋」

 

 ほぼ同時に放たれた2連突きが、向かってくる砂人形たちの額の中心を正確に貫き、その体は前のめりに崩れ落ちる。

 

 倒れた体は砂となり、咲夜の周りと足にかかるように広がった。

 

(単調な攻撃だけど・・・狙いはこれか)

 

 そう思いながら、咲夜は自身の足に付いた砂で動きがまた制限されていることを軽く確認し、背後から迫っていた鬼の首をまた斬り落とす。

 

「何度斬っても無駄だ・・・俺の砂人形はいくらでも作れるんだからなぁ」

 

 そう言って今度は一気に4体もの砂人形が現れ、咲夜を取り囲むように散開する。

 

「・・・いい機会かもしれませんね」

 

 砂人形が一斉に襲いかかってくるが、咲夜は静かに佇むと呼吸を静かに吐き出した。

 

「宵の呼吸:水ノ型──」

 

 咲夜の存在が薄まり、そこにいるはずの咲夜の体をすり抜け、砂人形たちの攻撃が空を切る。

 

「月華ノ静水」

 

 まるで咲夜の体をすり抜けたように感じるほど、最小限の動作で攻撃を避けた咲夜は、鬼が気づかないほど自然にそれぞれの首に刃を滑らせていく。

 

 水面が跳ねないほど静かな舞のように、斬られたことさえわからないほど自然の流れのまま、咲夜はその場から一歩も動いていないように見えた。

 

 砂人形の首が静かに地面に落ち、砂となって消えていく。

 

 咲夜はゆっくりと息を吸い込むと、その薄くなっていた存在がまた戻っていく。

 

 鬼の砂がさらに咲夜の体にまとわりつき、咲夜は、かろうじて身体を動かせる程度まで拘束されていた。

 

 咲夜はグググっと腕を動かし、砂を剥がそうとするが、それを許さないとばかりに、砂人形が飛びかかってくる。

 

 咲夜は無理やり腕を振るい、人形たちを一掃するが、その砂が咲夜の頭上に降り注ぎ、咲夜の体はほとんど砂の中に埋まってしまう。

 

 咲夜が砂に埋まったことを確認した鬼は、砂の中から這い出てくる。

 

 ぜぇぜぇとしんどそうに息をする鬼は、ゆっくりと咲夜の方に歩いていく。

 

 砂人形を生み出す行為は、鬼自身の体力も大きく消耗させていた。

 

 普段はここまで念入りに拘束しなくても仕留められたため、ここまで人形を使ったのは想定外だった。

 

 鬼は自分の手で始末しようと、ゆっくりと咲夜の方に近づき、片手を振り上げる。

 

「水の呼吸:陸ノ型──ねじれ渦」

 

 砂の中で身体を捻り、強烈な回転を生み出す。

 

 まとわりついていた砂が一気に吹き飛び、咲夜が鬼の前に姿を現した。

 

 鬼は咲夜が出てきたのを見て、焦ったように背を向けて砂の中に戻ろうとした。

 

「いけませんよ。この距離で背を向けてしまっては」

 

 そう鬼の耳元で囁く声が聞こえた。

 

 鬼が肩越しにそちらを向こうとした時。

 

「水の呼吸:壱ノ型──水面斬り」

 

 鬼の首が宙を舞い、今度は灰となって消えていくのだった。

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