「ご馳走様でした」
咲夜が綺麗に空になった膳を前に手を合わせ、食器を隠の人に返していると、扉が開き、何人かの隊士たちが入ってくるのが見えた。
そのうちの1人が羽織を纏って歩いていく姿を見た咲夜は、ああいうのを着てみてもいいかもしれないと思った。
今まで着る服に特にこだわりはなかったが、上の階級になった隊士は羽織を着ていることが多いようで、それなら階級が上がったのだし、依頼をこなすついでに呉服屋にでも寄ろうかと考えていたとき、ユラが1日目の依頼を終えて帰ってきた。
「あっお姉ちゃん」
少し疲れた様子のユラはフラフラとこちらにくると履き物を脱ぎ、咲夜に抱きついた。
「どうしましたか?」
咲夜が頭を撫でながら尋ねると、ユラは捨てられた子猫のような顔で咲夜を見上げる。
「お腹すいた〜」
その言葉を裏付けるように、ユラのお腹が鳴る。
それを聞いた咲夜は、小さく息をついて隠の人へ向き直る。
「申し訳ありません。もう1人分、お願いできますか」
咲夜が座り直しつつ注文すると、隠の人たちが料理を用意し始める。
咲夜は空腹で力尽きたユラを膝枕し、その頭を優しく撫でてやる。
出来上がった料理を隠の人がユラの前に並べると、その匂いを嗅いだユラが飛び起きた。
「・・・いい匂い!」
ユラは目を輝かせ、姿勢を正すと嬉しそうな顔でパンッと手を合わせる。
「いただきま〜す!」
ユラが料理を食べている間、咲夜は依頼棚から青、青、青の比較的簡単で期間が短い依頼を受け、ユラが食べ終わるのを待った。
「ご馳走様〜」
お腹いっぱいになったユラが満足したように笑顔で食器を返すと、咲夜はユラとともに町の方に向かった。
「依頼はどうでしたか?」
「特に問題なかったよ!」
「それはよかったです」
「お姉ちゃんは?」
「私も特には」
咲夜達がそんな話をしていると、老舗の呉服屋の前にたどり着いた。
「何か買うの?」
「えぇ。せっかくですから羽織を買おうと」
「おお〜!じゃあ私が選んであげる!」
そう言って勢いよく入っていくユラを見て、くすっと笑いながら咲夜も暖簾をくぐっていった。
咲夜が暖簾をくぐると、店内の座敷にいた番頭が顔を上げた。
「主人に取り次いでもらえるかしら」
番頭は一礼すると、主人を呼びに奥へと下がっていった。
呉服屋の中に飾られた反物を物色しているユラを横目で確認しつつ、咲夜はやってきた主人にそっと近づく。
「これで」
咲夜が小声で主人の前に、丁寧に畳まれた真っ白な絹の手拭いを置く。
「拝見いたします」
そう言い、手拭いの中身を確認すると丁寧に畳んで咲夜に返した。
「こちら拝見させていただきました。それで本日はどのような」
「羽織を仕立ててもらいたいの。それと泊まれる場所を教えてくれるかしら」
「承知いたしました。宿泊場所についてはこちらから連絡しておきます」
「助かります」
「それで羽織はどのような?あまり目立たないものを?」
「いえ。あの子が選んでくれた物を着るわ」
咲夜の目線の先には、いろんな反物を見て目を輝かせているユラの姿があった。
「・・・お知り合いで?」
「えぇ、妹みたいなものよ。私個人のね」
「左様でしたか。では皆にそのようにお伝えします」
「何から何まで感謝するわ」
「いえ、このくらいなんでもございません。・・・どうやらお連れ様がいらしたみたいですね」
そう言って主人と話していた咲夜のところにユラがやってくる。
「お姉ちゃん!綺麗な反物がいっぱいだよ!」
「えぇ、そうね。それで気に入ったものはあった?」
「う〜ん」
そう言って悩んでいるユラを見ていた主人は、近くにいた奉公人に軽く耳打ちし、奥からいくつかの反物を持って来させる。
「でしたら、こちらなどはいかがでしょう」
そう言って出してきた反物は上品な艶を帯びた、淡い白藤色の反物だった。
ユラは物色していた時よりもさらに目を輝かせるが、明らかな高級品であることに躊躇っている感じだった。
「えぇ・・・悪くないわ」
咲夜はその反物をじっくりと値踏みする。
「ユラはどう思いますか?」
「え!?えっと・・・す、すごく綺麗だと思うけど・・・」
躊躇う素振りを見せるユラだが、チラチラと何度もその反物を見ていた。
その様子を見た咲夜は納得したように頷く。
「ではこれで羽織を。あと裾と袖先の裏地を濃紫に染めて、あまり派手すぎない・・・そうね、彼岸花のような柄をつけてもらえるかしら」
「かしこまりました」
そう淡々と注文していく咲夜にユラは驚愕の顔を浮かべて、咲夜の肩を揺さぶった。
「お、おおおお、お姉ちゃん!?そ、そんな注文して大丈夫なの!?それ結構な──」
そう言って涙目になってあわあわしているユラの唇に、そっと指先を当て咲夜は微笑む。
「心配いらないわ。じゃあ次はあなたのも選びましょ。あれなんてどうかしら?」
「さすがはお目が高い。あの反物は──」
そう言ってユラを置いてきぼりにして話が勝手に進んでいく。
「お、お姉ちゃん。私はいいから!そんな高いの払えないから〜!?」
そんなユラの悲鳴が響き渡るのだった。