「ではそのように仕立てさせていただきます」
呉服屋の主人がそう言うと、奉公人達が反物を運んでいく。
「えっとえっと・・・お金・・・」
ユラは少し涙目になりながら、あわあわしていたが咲夜が安心させるように声をかけた。
「ユラ。ここは私が払いますから大丈夫ですよ」
「で、でも・・・」
「これは私の昇格祝いでもありますから。受け取っていただけると私も嬉しいです」
「・・・それなら・・・ん?昇格?」
ユラが引き下がったのを見計らって、主人が声をかけてくる。
「仕上がりについてですが、そちらのお嬢さんの羽織は店にある反物を使いますので、一週間ほどで仕上がります。ただ、貴方様の羽織は特注品となりますので、ひと月ほどお時間を頂くことになりますが、よろしいでしょうか?」
「構わないわ。じゃあ・・・あそこにある羽織もいただけるかしら」
そう言って咲夜が指差した方には、黒一色で染められた木綿の羽織があった。
「それは構いませんが・・・あちらでよろしいので?」
「えぇ。しばらくはあれを着るわ。手直しが必要かしら?」
「少々お待ちを」
そう言うとその羽織を奉公人に持って来させ、咲夜の身体に合わせて丈や袖を確認する。
「・・・これでしたら特に直しも必要ないでしょう」
「ならそれを頂いていくわ。あと先ほど頼んだ羽織なんだけど、取りに来るのに時間がかかるかもしれないから、その時はしばらく保管しておいてもらっても大丈夫かしら」
「問題ございません」
「そう。ではよろしくお願いしますね」
「おまかせを。あとこれは先ほど頼まれたものでございます」
主人が差し出してきた宿の場所が書かれた紙を受け取り、咲夜は驚いた顔で固まっているユラを引き連れ、外に出た。
咲夜はユラの手を引きながら、地図を頼りに老舗旅籠の前に立った。
「ここね。ユラ、入るわよ」
「は!?」
声をかけられ我に返ったユラは、咲夜に手を引かれながら、引き戸を開けた。
暖簾をくぐると、帳場にいた女将が顔を上げた。
女将は咲夜達の姿を見ると、帳場から出て、洗練された所作で頭を下げた。
「いらっしゃいませ」
「呉服屋の主人にここへ来るよう言われたのだけど」
「存じ上げております。すぐにご案内いたします」
いかにも高そうな旅籠にすっかり萎縮してしまっているユラを促し、2人は履き物を棚にしまうと、女将について部屋に上がる。
1階奥の座敷に案内された2人が部屋に入ると、女将が一礼する。
「こちらのお部屋をお使いください。宿泊される日数などは決まっておりますか?」
「明日までお願いできるかしら」
「承知いたしました。湯殿の方はいかがいたしましょう?」
「すぐに入るわ。あと夜はいないから、夜使うのが私たちだけなら沸かさなくても大丈夫よ」
「お心遣い痛み入ります。夜出掛けられるなら夕餉の支度も急がせましょうか?」
「そうね。そうしてもらえると助かるわ」
「承知いたしました」
「忙しいのに仕事を増やしてしまってごめんなさいね」
「この程度なにも問題ございませんよ。では早速支度いたします」
そう言って女将が出ていくと、程なくして女中が茶と菓子を運んできてくれる。
咲夜は礼を言ったあと、座卓の前に座りその茶をズズッとすすった。
「うん・・・いい香り」
ユラは、まだ緊張しているのかそわそわと辺りに視線を彷徨わせていた。
その様子を見かねた咲夜は、優しく微笑むとユラに声をかける。
「そんなに緊張しないでいいのよ?」
「で、でもここもすごく高そうだよ・・・?」
「そんなに心配しないでも大丈夫よ。それよりユラ、まだ寝てないでしょ。今日も夜から仕事なのだから今のうちに寝ておきなさい」
「えっでも・・・」
「私もまだ寝てないから、一緒に寝てくれると助かるのだけどだめかしら?」
「ううん!お姉ちゃんが寝るなら私も寝る」
ユラはそう言うと、座っていた座布団を持って咲夜の近くにちょこんと腰を下ろす。
2人は座布団を枕がわりにして、並んで横になると、嬉しそうに咲夜を見ていたユラの瞼が落ちていき、やがて静かな寝息を立て始める。
咲夜はユラを起こさないよう、自分の羽織をそっとかけてやると、自分も目を瞑り眠りにつくのだった。