「・・・んぅ」
ユラはもぞもぞと身じろぎし、寝ぼけ顔で起き上がった。
大きな欠伸をすると、キョロキョロと辺りを見渡す。
「よく眠れましたか?」
声がした方に目を向けると、これまで使っていた刀を収めた刀袋を押し入れの布団の中に隠している咲夜の姿が見えた。
隠し終えた咲夜は日輪刀を収めた刀袋を手に取ると、ユラの方に顔を向ける。
「おはよぅ。お姉ちゃん」
「おはようございます。もうお昼をまわったくらいですので、そろそろ湯浴みに行きましょうか」
「ん〜・・・ん」
ユラは大きく背伸びすると、のそのそと立ち上がり咲夜の後について部屋をでた。
部屋のすぐ近くに湯殿への入口があった。
湯殿前の帳場に座っていた奉公人は、咲夜たちの姿を見ると一礼した。
二人の日輪刀を預かり、座ったまま手のひらで奥の湯殿を示す。
中に入り着物を脱いだ2人は、湯気の立つ湯殿へ足を踏み入れた。
女将が気を利かせてくれたようで、湯殿には薬草の深い香りが湯気に混じって漂っている。
2人は手桶で身体を流すと、久しぶりの温かな湯へゆっくりと身を沈める。
「はぁ〜・・・」
ユラが気持ちよさそうに声をあげ、顎が浸かるくらい身体を湯船のなかに沈めていく。
「ふぅ・・・」
咲夜も息を吐きながら、身体をほぐしていった。
2人はしばらく湯を堪能した後、湯船から出て身体と長い髪を洗い、部屋に戻ると、座卓には2人分の膳が並べられていた。
炊きたての白飯に味噌汁、香ばしく焼かれた魚と、根菜の煮物。湯上がりの空腹を誘う香りに、ユラの目がたちまち輝いていく。
咲夜は脇に置かれている飯櫃を覗き、中に白米がたっぷりと入っていることを確認すると、ユラと向かい合って膳の前に腰を下ろした。
ユラは嬉しそうに手を合わせると、咲夜も静かに手を合わせる。
「いただきます」
ユラはさっそく焼き魚に箸を伸ばし、頬を緩ませながら美味しそうに食べ始める。
一方の咲夜は、静かな所作で箸を進めながら、空になった椀へ何度も飯をよそっていく。
やがて2人が箸を置く頃には、たっぷり入っていた飯櫃もすっかり空になっていた。
「ごちそうさまでした」
2人は手を合わせたあと、食後のお茶を飲みながらゆっくりと過ごした。
「そういえば・・・お姉ちゃん、昇格したの?」
ユラは思い出したように咲夜に話しかける。
咲夜はお茶をズズッと啜る。
「えぇ。戊になりました」
「えっ・・・と戊だから・・・」
「10階級中、上から5番目の階級ですね」
「そんなにあがったの!?」
前のめりになったユラの問いに、咲夜は静かに答えた。
「鬼殺隊に入る前から何体かの鬼の討伐はしてましたので、それも考慮されたみたいです」
「なるほど〜」
ユラはそれだけ言うと、ストンと座り直しお茶を啜った。
「それよりユラ。少しは休めましたか?」
「うん!」
ユラの元気な返事に、咲夜は静かに頬を緩めた。
ゆっくりと過ごしているうちに出発の時間となり、二人は旅籠の前で別れると、それぞれの依頼へ向けて歩き出した。
それから3日後。
順調に依頼をこなしていたユラも見回り中に鬼を討伐したことで壬に昇格していた。
咲夜も期間の短い高難度の依頼を中心にこなし、鬼殺隊の生活に慣れ始めた。
そんな時だった。
依頼を終え、詰所を出ようとしていた咲夜のもとに、桜花がけたたましく叫びながら咲夜の前に飛び降りてきた。
「咲夜!指令!指令!ココカラ北北西ノ町!山デ人消エテル!」
それだけ言うと桜花は、再び飛び上がっていく。
「指令ですか」
咲夜は考え込むようにそう呟くと、ちょうど詰所から真波が出てくる。
「何をぼーっとしてるの?指令出たんでしょ?」
「聞こえてましたか?」
「近くにいたからね。それに鴉たちは声が大きいから。それで?早く準備して出ないと野宿することになるわよ」
「そうですね・・・ただ黙っていくのは」
「何?・・・もしかして前に一緒にいたあの子のこと?子供じゃないんだから大丈夫でしょ?」
「ですが・・・」
「そんなに気になるんなら一緒に行けばいいじゃない」
「・・・よろしいんですか?」
「えぇ。指令は受けた本人だけで受けなきゃだめなんて決まりはない。だから複数人でこなしても問題ないわ。まぁ、一人で達成した時ほど評価は上がらないけど」
「なるほど」
「まぁ何にしても、指令が出た以上さっさと済ませたほうがいいわ」
そう言いながら真波は咲夜の横を通り過ぎ、真剣な顔で伝える。
「指令が出た時は、運よく早期に見つけられたか、被害が増えて鬼が隠しきれなくなったか。そのどちらかよ」