「あ〜その話ね〜」
指令を受けてから数日経ち、咲夜とユラは近くの町で聞き込みをしていた。
途中の茶屋に入り、お団子を頬張るユラの横で、咲夜が尋ねると女将は言いにくそうにしながらも、小声で教えてくれる。
「最近、山菜取りやお参りのために山に入った人たちが消えてるって噂だよ」
「賊ですか?」
「その可能性もあるからお役人様に言って調査してもらったんだけどねぇ。何もなかったそうだよ」
「では危険な動物ですか?」
「あぁ多分ね。一部では鬼が出たなんて言ってる連中もいるが」
「・・・鬼ですか?」
「昔からよくある言い伝えだよ!夜の山に入ると鬼に攫われるぞ〜ってね。お嬢ちゃんたちは、それの調査に来たのかい?」
「調査というほどのものではないのですが、兄が帰ってこなくて」
「そいつは心配だね。どこにいるかとかわかってるのかい?」
「それが、この町へ来たところまでは分かっているのですが、その後の足取りが途絶えていて・・・」
「なるほど。それで最近人が消えてるって話を聞いちまったわけだね」
「はい」
「ん〜ならこれも教えとこうかね」
そう言うと女将は、咲夜の耳元に口を近づけるとボソリと教えてくれる。
「最近、浪人みたいな格好した奴らや羽織を着たお侍さん達が夜の山に入っていったらしいんだよ。でもねいまだにだ〜れも帰って来てないんだってさ」
「帰ってきてない?」
普通の浪人や侍が、何人も連れ立って夜の山へ入る理由など滅多にない。
おそらく彼らは、先に指令を受けた鬼殺隊士なのだろう。
「あぁ。宿屋のおばばに聞いたんだよ。客が全然帰ってこなくて迷惑してるって。もしかしたら本当にあの山に鬼がいるのかもね」
そう言った女将は、驚いた顔を浮かべている咲夜の顔を少し眺めた後、笑顔を浮かべる。
「なんてね、冗談だよ。まぁでも何かあるのは違いないからあんたたちも気をつけな。お兄さん、早く見つかるといいね」
「えぇ、そうですね」
そう言うと女将は咲夜から離れていった。
咲夜が今の話を整理していると、団子を食べ終えたユラが声をかけてくる。
「どうしたの?」
「・・・何でもないわ」
そう言ってユラの頭を撫でてやると、ユラはくすぐったそうにしていた。
(鬼殺隊士、それも上級隊士までやられていると考えるなら少し慎重にいくべきか。それともこれ以上被害を出さないためにも今晩にでも山に入るべきか)
そんなことを考えながら、茶屋から出ると、近くの路地裏から啜り泣くような声が聞こえた。
咲夜がそちらに顔を向けると、ユラは路地裏に歩いて行き、声が聞こえる方を覗き込んだ。
そこには、1人で泣きじゃくる泥だらけの小さな男の子の姿があった。
ユラは男の子の前にしゃがみ込む。
「どうしたの?いじめられたの?」
男の子は驚いたようにユラの方に目を向けるが、すぐにまた泣き始める。
「姉ちゃん・・・姉ちゃんが・・・」
「お姉ちゃん?」
ユラがそう尋ねると子供は少しずつ話し始める。
どうやら山に薪を集めに行った父親が帰ってこず、心配になった姉が昨日探しに行ったが、2人ともまだ帰ってきてないとのことだった。
男の子は他の大人たちに助けを求めたが、誰も話を聞いてくれなかったそうだ。
「うぅ・・・父ちゃん・・・姉ちゃん」
そう言って泣く男の子を慰めるようにユラはその頭をポンポンと撫でてやる。
「じゃあ私たちが連れて帰ってきてあげる!」
「・・・ほんと?」
「うん!任せといて!」
そう言って胸を張るユラを見た男の子は、何度も礼を言って少し笑顔になると自分の家に帰っていった。
「ユラ」
その男の子の背中に手を振っているユラに咲夜が声をかけた。
「どうしたの、お姉ちゃん?」
「あんまり期待をもたせるようなことを言ってはダメよ。相手は──」
「わかってるよ。でもそれが希望を持っちゃいけない理由にはならないでしょ?」
咲夜の言葉を遮るようにユラは、笑顔で咲夜に振り返った。
「それにちゃんと助けれたら問題ないもん」
その言葉に咲夜は、少し考えるように下を向くが、やがて顔を上げると優しくユラの頭を撫でる。
「そうね。じゃあ全員助けないといけませんね」
「うん!」
ユラの迷いのない笑顔を見ながら、咲夜は今夜、山へ入る覚悟を決めた。