「何者?」
浪人がそう聞くと割って入ってきた男は腰に差していた刀を抜きながら答えた。
「俺の名前は淀水(よどみず)甲凱(こうがい)!これ以上好き勝手にはさせないぞ!鬼め!」
(・・・鬼のことを知っている・・・つまりこの男が所属しているのは“鬼殺隊“と呼ばれる集団か)
咲夜はそう判断すると先ほど崩した恐怖に染まった顔をもう一度作り、淀水の背後で安心したような泣き声をあげた。
「た・・・助けて・・・助けてください・・・私・・・私ぃ・・・」
「心配いりません!俺がこいつをなんとかします!だからあなたは早く逃げてください!」
「で・・・でも・・・」
「大丈夫です!慣れてますから!」
そう笑顔を見せた淀水を見た咲夜はチラリと浪人の方に目線だけを向ける。
「あ・・・危ない!」
咲夜がそう叫ぶと淀水も気づいたのか鬼の方に目線を戻し、切り掛かってきた浪人の刀を間一髪受け止めていた。
「邪魔をするな、鬼狩り。俺の獲物だ!」
浪人は苛立った様子で淀水に何度も切り掛かってくるがそれを淀水は受け止めていた。
「獲物ってことはこの人を喰うってことだろう!それを黙って見過ごせるわけがないだろうが!」
そう言って淀水が放った斬撃は浪人の深編笠を切り裂いた。
「む」
浪人は深編笠を斬られ少し距離をとると、その切り口を少し撫でる。そしてその笠を脱ぎ捨てた。
「よくもやってくれたな・・・小僧」
悪態をつくが笠で隠れていたその表情は怒りで染まっているわけではなくむしろ楽しそうに口元を歪ませていた。
「いいだろう。興が乗った」
その一言で空気が変わる。嫌な殺気が淀水の体を覆い淀水は刀を握り直した。
鬼は自らの刃を握り込むとスッと引く。その手のひらから血が流れ地面に落ちかけた瞬間。
その血は蠢めくように集まり、赤黒い刃を作り上げた。
「・・・!血鬼術か」
(・・・血鬼術?)
咲夜が今まで退治してきた鬼の中にあのようなことができる鬼はいなかった。ただ力が強く、斬っても死なないくらいだったが今対峙している鬼は血で何かをした。
咲夜は鬼の意識が自分から外れたと悟ると刀を手に取り後ろに下がった。
鬼は血で作り上げた刀と持っていた刀の感触を確かめるようにブンブンと振った後、二刀流に構えた。
「参る」
そう言って鬼が地面を蹴り淀水に向かって飛び出していく。
その跳躍は先ほどよりも鋭く淀水は一瞬、反応が遅れるもなんとか受け止めた。
「くっ」
淀水が建て直そうとするがそうはさせまいと怒涛の連撃を叩き込んでいく。なんとか防ぐも踏ん張り切れないほどの衝撃が淀水の体を左右に暴れさせた。
しかも2本の刀の連撃は、単純な手数だけではなく鋭さも重さも増していた。この二刀流こそが鬼本来の戦い方だと嫌でも分かった。
「どうした?先ほどの威勢が消えているぞ。小僧」
そう叫ぶと鬼の攻撃の勢いがさらに増していく。
「こ、この!」
(・・・!それはいけない)
淀水が反撃しようとした瞬間、鬼はその攻撃を待っていたかというようにその刀を自身の刀で絡め取ると上に弾き飛ばした。
「やはり未熟。だが存外楽しめたぞ。鬼狩り!」
そう言って鬼が淀水に刀を振り下ろそうとした。
──その瞬間。
バキィン!
金属同士が砕けるような音。
そして淀水の目の前には砕け散った刀の破片とその刀を握る鬼の姿、そして先ほどまで怯えていたはずの咲夜の姿が映っていた。
鬼は折られた刀を驚いたように見つめたが即座に敵を認識すると血で作った刀を咲夜に向けて振るおうと体を捻るがそれすら許さぬ一閃。
返す刀で放たれた一振りが鬼の首を斬り落としていた。
あまりにも自然。
いつ振ったのか、いつ抜いたのか、いやそもそもいつ体を動かしたのかすら認識できないほどその動きは洗練されすぎていて警戒心すら抱けなかった。
鬼の首は無造作に地面に転がる。
そしてその体もやがて糸が切れたように崩れ落ちた。
「怪我は?」
惚ける淀水に咲夜は声をかける。
「あ・・・あぁ」
初めて出会ったとき可愛らしい表情を浮かべていた女性であり先ほどまで怯えて泣いていたとは思えないほどその女性の表情から感情を感じられなかった。
まるで──
「もしかして・・・鬼だったり?」
そう言葉にしてしまった後、すぐにまずいと気づいた淀水は慌てて口を押さえ恐る恐る咲夜に顔を向けるとそこには面と向かって言われた予想外の言葉で口を開けたまま硬直してしまっていた。
咲夜はハッと気づいたのか頭を振ると淀水をジトっと睨みつける。
「失礼な。私のどこが鬼に見えるというんですか」
「いやだって・・・」
「死ぬ気で鍛錬を重ねればこれくらいは誰でもできますよ。できないというなら鍛錬が足りないのでは?」
「いやいやいやいや!俺だって死ぬ気で鍛錬してるよ!筋肉だってほら!こんなについてる!」
そう言って力こぶを作るが咲夜は興味なさげにため息を吐き出す。
「わかりましたから少し待っていてください。まだ夜は長いんですから」
「夜が長いって・・・どういう意味だい?」
「それは」
咲夜はそれだけいうと鬼の方を指さす。鬼は落ちた首をゆっくりと拾い上げ自分の首とくっつけていた。
「なんで・・・首を斬ったはずだろ?」
「鬼ですよ?首を切ったところで生き返るのは・・・いえそんなまさか・・・あなたが首を斬れば死ぬのですか?」
咲夜がそう尋ねると淀水は刀を抜き放ちながら咲夜に見せる。
「俺が斬るからというか鬼はこの“日輪刀”で首を斬れば消失するんだよ」
それを聞いた咲夜は驚いた表情を浮かべていた。
日輪刀など聞いたこともないのもそうだが日光にあてなくても鬼が首を斬り落とすだけで死ぬなんて思いもしなかった。
「あの・・・その話もう少し詳しく」
そう言おうとした咲夜の言葉を遮るように淀水は前に出て刀を構えた。
「話してやりたいのは山々だけど今はこいつを倒してからだ」
斬られた首は綺麗にくっつけた鬼は首をゴキゴキと鳴らした後、折れた刀の代わりに自分の血刀をもう一本作り出すと咲夜たちに向けてその切先を向けた。
咲夜は仕方ないと考えると下段に刀を構え、淀水と肩を並べた。
「仕方ありませんね。私が援護しますので存分にやってください」
「分かった!」
淀水はそう叫ぶと鬼に向かって走り出す。
それに呼応するように身構えた鬼だったが、突如として背筋がゾクリとするほどの殺気を背後から感じ思わず目線を外すがそこには誰もおらず、急ぎ前を向くと冷めた目線でこちらを見つめる咲夜が微笑を浮かべながらこちらを見つめているのが見えた。
鬼はその目を見て侮られたと思い頭に血が昇ったが、咲夜に攻撃どころかすでに目前まで迫っていた淀水の攻撃に反撃できる時間すらなかった。
「ちぃ!」
鬼は咄嗟に腕を差し込み間一髪で首を守った。
腕を斬られながらも距離を取るために後ろに飛び退くがそれに追従するように淀水は鬼に距離を詰めた。鬼はイラついた様子で刀を淀水に振り下ろそうとするが振り切る前に咲夜が振り下ろした刀で押さえ込まれてしまう。
「う!」
押さえ込まれてしまったことにより首筋が無防備になったところへ淀水は腕を左右に交差させながら迫っていた。
「くっくそ!貴様ら!2対1なんてひきょ──」
その言葉を言い終わる前に淀水の攻撃は正確に鬼の首に入っていた。
「水の呼吸:壱の型:水面斬り!」
勢いよく水平に放たれた斬撃が鬼の首を斬り飛ばすと鬼の体は崩れ落ち、地面に転がった首すら灰となって消えてしまったのだった。