鬼滅の刃〜残花異聞〜   作:みしゃぬこ

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第40話

 山の中で佇む木造建築の古びた家。

 

 外観こそぼろぼろだったが、造りは丈夫なのか大きな損壊はなく、外から見れば少し大きいだけの普通の民家だった。

 

 ただし、家の奥には普通の民家にはあり得ないものがあった。

 

 人間を閉じ込めるための大きな牢が2つ並び、その中には何人もの町民が押し込められていた。

 

 その牢に背を向けるように男が1人、赤い瓢箪からお猪口に赤黒い液体を注いでいき喉の奥に流し込む。

 

「・・・ふぅ」

 

 男は味わうように、ゆっくり息を吐いていると、暗器類が置いてある作業台の前にかけられていた小さな鈴が微かに鳴る。

 

 男はその音を聞き、しばらく黙って座っていたが、もう1度、瓢箪から赤黒い液体を注ぎ一気に流し込むと立ち上がり、牢の方に歩み寄る。

 

 牢の中にはそれを怯えた顔で見つめる町民たちと、重傷を負った隊士を介抱する羽織姿の上級隊士が身を寄せ合っていた。

 

 男はゆっくりと腕を上げ、父親らしき男と抱き合って怯えている少女に指差す。

 

「そこの子供。次はお前だ」

 

 男の声に2人の顔は、みるみるうちに青ざめ、女の子の方は恐怖で声も出なくなっている。

 

「お、お、お待ちください・・・この子はまだ子供です。せめて私から・・・」

 

 父親が懇願すると、男は牢の扉をガンッと蹴り上げ、冷たく言い放つ。

 

「その子供の順番は、鬼狩りどもを代わりにして1度延ばしてやった。2度目はない」

 

 そう言ってこちらに来るように指で再度促した。

 

「どうする?来ないなら──」

 

 そう言おうとした男の前に羽織を纏った上級隊士が立ち塞がる。

 

「・・・なんの真似だ?」

 

「次は俺が行く」

 

「・・・だめだ。黙って座っていろ」

 

「なぜだ?あんな子供より──」

 

 そう言った隊士の顔面を男は牢の隙間から殴りつける。

 

 隊士が倒れ込むと、男は鍵を開けて中に入ると子供の腕を掴み無理やり連れて行こうとする。

 

「ひっ・・・やだ!離して!」

 

「お願いです!どうか!その子は!」

 

 そう叫ぶ子供と縋り付く父親の声を無視し、泣きじゃくる子供を牢の外に引き摺り出すと、地面に投げ捨て牢の鍵を閉める。

 

 よろよろと立ちあがろうとする子供の髪を掴み、無理やり立たせると、必死に子供の名を叫び牢から手を伸ばす父親を無視し、その手を掴もうと手を伸ばす泣きじゃくる子供を外に連れ出した。

 

 男は子供を肩に抱え、家のすぐそばにある山の洞窟へと足を運んでいく。

 

 山の洞窟の近くまで行くと、中からぐちゃぐちゃと嫌な音が響き渡っていた。

 

 男は洞窟の近くに無造作に置かれた木製の檻へ子供を入れると、鍵を閉めて洞窟へ向かった。

 

 男が洞窟の中に入ると巨大な岩のような背中が暗闇の中でモゾモゾと動き、辺りの壁には飛び散った赤い液体が滴っていた。

 

「おい」

 

 その背中に男が声をかける。

 

 その声に反応したのか、咀嚼音が消え、その巨大な影は男の方にゆっくりと顔を向けた。

 

「また来たぞ。いつものように俺がここに誘き寄せるから後処理はちゃんとやれよ。いいか!なるべく殺すなよ!」

 

 そう言って男が出ていくとその影は低い唸り声をあげ、再び嫌な音を撒き散らし始めるのだった。

 

 男は外に出て、素早く木に飛び乗ると木の枝に飛び移りながら侵入者たちの場所まで向かっていった。

 

 木々の間を飛び移りながら、山中に張り巡らせた罠の位置を思い浮かべる。

 

 落とし穴、鳴子、獣道を塞ぐ縄。

 

 逃げ道を1つずつ潰し、最後にはあの洞窟へ追い込む。それが男の狩り方だった。

 

(今回の獲物は、2人の女。だが雰囲気的にただの女ではない。おそらく以前来た鬼狩り連中の仲間だろう)

 

 そう考えた男は木陰に隠れ、2人の動向をみていた。

 

 咲夜達は、警戒しつつ迷いない足取りで獣道を進んでいく。

 

 獣道には、男が仕掛けた落とし穴や鳴子が待ち構えている。

 

 前に来た鬼狩りがこの獣道で罠にかかっていたこともあり、男は内心笑いながら咲夜たちを見ていた。

 

 咲夜たちは何も気づいていないかのように、罠へ近づいていく。

 

 しかし咲夜がユラを手で制すると、2人はその場に立ち止まる。

 

(・・・気づかれたか?)

 

 男がそう考えていると、咲夜は刀を抜き、近くの茂みを切り払った。

 

 そうすると隠されていた獣道が姿を現し、2人はその道を進んでいく。

 

(ちっ・・・勘の良いやつだ)

 

 そう思い、先回りするため男が移動しようとした時だった。

 

 背中にゾクリとした視線が突き刺さる。

 

 男はすぐさま身をかがめ、先ほどの咲夜達の方に目をやると、こちらをじっと睨む咲夜と目が合った気がした。

 

(・・・バレてる?そんなはずはない・・・今まで俺に気づいたやつなんて・・・あいつはまずい・・・あいつだけでも誘導しなければ)

 

 急いでその場を後にした男は、次の罠が仕掛けてある地点に辿り着くと、バレないように今度は距離をとって身を潜め、咲夜達を待ち伏せする。

 

 少しの間、待っていると遠くからでもわかる金色の髪が見えてくる。

 

 男はその様子を見ていたが、しばらくして気がついた。

 

(あの女はどこだ?)

 

 目立つ髪色のせいで気が付かなかったが、2人いたはずの女がいつの間にか1人しかいなくなっていた。

 

 焦って女の周りに目を配るが、どこにも見当たらない。

 

 男が焦りながら周囲を探しふと鼻を鳴らした──その時だった。

 

 土と木の匂いに混じり、微かに近くから女の匂いがする。

 

 さらに背後から迫る僅かな気配を感じ、男はすかさずその場から飛び上がった。

 

 男が飛び上がった瞬間、ヒンッと刃が走り、両足首が切断された。

 

 2つの足が、地面へぼとりと落ちる。

 

 男は何とか木の枝に登り、下を見ると、片割れの女がこちらをジッと見ていた。

 

「まさか気づかれるなんて・・・随分と警戒心が強いんですね」

 

 男は額に汗を流しながら、足を再生させる。

 

(この女・・・同業か!)

 

「お前・・・どこの里のものだ!」

 

「里・・・?」

 

 その言葉を聞いて、男の素性を察した咲夜はフッと鼻で笑う。

 

「あぁ、隠密の方でしたか・・・鬼に堕ちるとは情けないものですね」

 

「・・・き、貴様!」

 

 そう叫び、鬼が飛びかかってきた──その時。

 

 突然、背後から投げられた苦無が咲夜へ迫る。

 

 その苦無を体を回転させながら切り払うと、間近に迫っていた鬼の攻撃を寸でのところで刀で防ぐ。

 

 互いに距離を取り、構えたまま相手の出方を窺いつつ、じりじりと円を描いて動く。

 

 咲夜は周囲を探るが、気配も動きも感じられず、警戒を強めていく。

 

 鬼はその様子を見ながら、何かを取り出すように左手を懐へ差し込んだ。

 

 それを見た咲夜は即座に距離を詰め、鬼の頸目掛けて剣を振るう。

 

 鬼はその動きを目で追わず、咲夜の顔だけを見つめ、そして笑った。

 

 咲夜はその顔を見て、刀を止めると同時に後ろに距離を取る。

 

 しかしその瞬間。

 

 鬼の体がカッと光ると、凄まじい衝撃と爆風が巻き起こるのだった。

 

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