咲夜は爆風で吹き飛びながらも、空中で身を翻し着地する。
咄嗟に左腕を盾にしたため、ボロボロに裂けた袖の下から血がスーッと流れていた。
咲夜はスッと立ち上がり周囲を探るが、先ほどの鬼の気配は、すでに遠くへ離れ始めていた。
「お姉ちゃん、大丈夫!?」
爆発に驚いたユラが咲夜のもとに駆け寄ってくる。
咲夜は左腕を軽く動かして具合を確かめ、特に問題ないと判断すると、微笑んで答える。
「えぇ、無事ですよ」
「腕……怪我してる。早く止血しないと!」
「ではお願いできますか?」
「わかった!」
ユラは咲夜から手拭いを受け取ると、傷口に巻いて止血した。
「まさか焙烙玉で自爆するとは……さすがは元隠密ですね」
止血具合を確かめながら、咲夜が呟くと少し不安げにユラが尋ねてくる。
「それで……どうする?」
ユラがそう尋ねると咲夜は安心させるようにその頭を撫でた。
「問題ないですよ。相手が隠密なら戦い方はいくらでもありますから」
それだけ言うと咲夜は、鬼の気配がある方とは別方向に足を向けた。
自爆した鬼は家へ逃げ込むなり、焦った様子で作業台の上をひっくり返しながら漁り始める。
床へ散らばるのも構わず、暗器を手に取ると次々と腰へ差し込んでいく。
「くそくそくそ!なんだあの女……あんなのがいるなんて聞いてないぞ……まさか柱か」
(柱……?)
町民たちに助けられ壁にもたれかかるように座っていた上級隊士は、鬼の言葉を聞いて顔を上げる。
その時、扉のすぐ横につけていた鳴子がチリンチリンと音を鳴らした。
その音に鬼はびくりと反応する。
「こっちに向かってきている……?なんで……いやそれよりも」
鬼はすぐに外に飛び出すと近くの木の上に飛び乗り、鳴子の仕掛けが続いている方角へ目を凝らす。
まだそこまで近づいてきていないのか、2人の姿は見えていなかった。
(どこだ……)
どこを探しても見つからず、焦りが強くなっていく。
その時、鬼の脳裏にふと疑問がよぎった。
(俺の罠を正確に見抜いてた奴が、今更鳴子なんぞに引っ掛かるか?)
その考えにたどり着いた鬼は、自分が誘われたと判断する。
(まずい……!早く家の中へ……)
鬼が木の枝を蹴って家へ戻ろうとした──その瞬間。
ズドッという鈍い音とともに、鬼の鼻と首に苦無が刺さる。
「グアッ」
鬼は姿勢を崩し足を滑らせると、真っ逆さまに地面に落ちる。
頭から地面へ落ち、ゴキッと首の骨が折れる鈍い音が鳴った。
鬼は少しの間、体をびくりびくりと揺らしたが、ゆっくりと刺さった苦無を引き抜きつつ、体を徐々に起き上がらせる。
「ぐ……ぐそ……どこから」
そう言いつつ立ち上がろうとした時、鬼の背後に誰かが立っていることに気がついた。
鬼はすかさず、手にしていた苦無を背後へ投げつけた。
だが、背後の影はそれをあっさりと避ける。
次の瞬間、鬼の頸がずるりと地面へ転がった。
その時、鬼が最後に見たものは、長い黒髪を揺らす女の姿だった。