「助太刀ありがとう!助かった!」
淀水は刀を収めると咲夜に頭を下げていた。
「・・・どうも」
咲夜もゆっくりと刀を収めるとプイッと目線を逸らしてしまう。
淀水は気まずそうに頬をかきながら疑問になっていることを聞いてみた。
「それにしてもどうしてこんな真似を?」
「こんな真似?」
咲夜はそっぽを向いたまま尋ねる。
「暴漢に襲われてる娘がいるって聞いたから助けに来てみたら君が鬼に襲われていて、助けようとと思ったんだが・・・それだけの実力があればそもそも暴漢に襲われても自分で回避できただろう?なぜそうしなかったんだ?」
咲夜は少し考えた後、淀水に目線を戻す。
「それが1番、確実だったからです」
「確実?」
「あの鬼は若い女ではなく男・・・それも筋肉質な男を好むと判断したので餌として使ったんですよ」
これは岡崎の町に向かう道中で糧食の中に紛れこまされていた文の中にあった情報から判断した結果だった。この鬼の被害者は、若く鍛え上げられた男が多くならず者であることが多かった。
おそらくは突然いなくなっても問題なく、反撃してきてくれたらむしろ楽しみが増えるぐらいに考えていたのだろう。
咲夜にとって面倒なのは女子供老人でも構わず喰らう鬼だと見つけるのは困難だったが、ある程度絞れるならあとは簡単だった。
「だけどそのせいで人が死んだんだぞ?」
「その男たちが死んでも特に問題ないのでは?」
「・・・人が死んだのに問題ないなんて──」
「その男たちの調べはある程度ついています。働きもせず暴力で金品を強奪し、時には旅人を襲って日銭を稼いでいた。そんな者たちが死んでなんの問題があるんですか?」
「・・・だからと言って」
「そんなことよりいい加減聞かせていただきたいのですが?」
「・・・え?何を?」
そう言われた咲夜信じられないものを見たかのような表情を浮かべ、淀水に迫った。
「日輪刀のことですよ!どうしてこれで斬ったら鬼は消滅したんですか!?どこで手に入れたんですか!?どうやって手に入れれば!?」
「わかった!わかった!教えるから!」
咲夜のあまりの勢いに淀水は驚きつつ、こほんと咳払いすると話し始める。
「俺は“鬼殺隊”という鬼を狩る組織で働いていて、この刀もそこから支給されたんだ。この刀で斬ったら鬼が消滅する理由までは考えたことなかったし知らないけど」
「なるほど」
咲夜がしばらく考え込んでいると淀水は大きくため息をついた。
「じゃあ・・・俺の師匠のところに行くか?」
「お師匠さんですか?」
「あぁ。師匠ならもっと色々知ってると──」
「是非是非!いきましょう!」
咲夜はキラキラとした目でそういうと淀水に軽く体を押し付けながらその手を握った。
淀水は少し体を赤めたあと「近い近い!」といって体を離してしまうのだった。
そんなやり取りから10日ほど経った頃──
岡崎の町を離れた2人は淀水の案内で深い森の奥まできていた。
あまり人が来ておらず、少ししか補強されていない山道を草木をかき分けながら進んでいくとやがて一軒の小屋が見えてくる。
「着いたぞ。ここが師匠の家だ」
そういって淀水が中に入っていくと咲夜も中に入っていく。
中は痛みがひどいが普通の民家で夕餉の支度をしているのかいい匂いがしていた。そしてそのいい匂いが立ち上っている囲炉裏の前で座っている男性がいた。
「師匠。今戻ったよ」
その言葉を聞いた男性はゆっくりと体ごと振り返る。
その顔はとても優しげで本当に鬼殺隊なんかやっているのか疑わしいほど人の良さそうな男性だった。
「おかえり、甲凱くん。試験は無事こなせたかい?」
「もちろんだ・・・と言いたいとこだけど実は・・・」
そういって言い淀む淀水に首を傾げながらもチラリと咲夜を男性は見つめた。
「あっ・・・私は咲夜と言います。この度はその・・・淀水さんに鬼から助けていただきまして」
「いやいや何いってるんだよ!君がいたから退治できたんだろ!」
「いやあの・・・淀水さん?そこは黙っていた方が・・・」
2人のやり取りを見ながら顎をさすっていた男性はふっと笑う。
「まぁまぁ2人とも。そんなとこで話してないで早くお上がり。ちょうど夕餉の支度が終わったところなんだ。たくさん作ったからいっぱい食べなさい」
「・・・え?」
「おっ師匠!今日の夕餉は?」
「今日は良い猪がいたからね。今日は山鯨(猪鍋のこと)だよ」
「やった!師匠の鍋美味いんだよ」
そう言いながら淀水が草履を脱ぎ捨てると嬉しそうに棚から皿を人数分取り鍋の前に並べていった。咲夜がポカンとしていると師匠と呼ばれた男はにこりと笑いながら咲夜に話しかける。
「君も早く上がりなさい」
「あ・・・は、はい」
咲夜はまだ状況が整理できていなかったがいそいそと履いていたものを脱ぎ丁寧に並べると行儀良く鍋の前に座わるのだった。