「──だからな師匠!本当に咲夜には世話になったんだよ!」
「なるほど。そうですか」
食事中、淀水は口の中に煮えた肉を放り込んで喉の奥に流し込みながら鬼との戦いについてひっきりなしに語っていた。
師匠と呼ばれた男はそれをずっとニコニコと聞いており、嬉しそうに見つめていた。
(・・・そういえばこうやって誰かと食べるのは久しぶりだな)
最後に誰かと食べたのは宵の訓練時代。
厳しい修行と空腹で心が折れかけた仲間たちを励ますために作って食べたきのみ汁。
あの味はひどいものだったがそれでも私にとって・・・。
咲夜はよそわれた椀を見つめながら、少しずつ口に運んでいく。
(・・・美味しい)
1人になってからここまでの間、ちゃんとした夕餉をとったのも随分久しぶりだった。咲夜は少しだけ口元を和らげながら箸を進めていく。
「気に入ってくれたみたいで良かったよ」
「・・・え?」
咲夜が静かに食べ進めていると師匠が声をかけてきていた。
「女性に鍋を勧めるのもどうかと思っていたけど口にあったみたいだね」
「あ・・・そうですね。とても美味しいです・・・」
咲夜がそういうと淀水が不思議そうに咲夜を見つめる。
「お前・・・またなんか雰囲気違わないか?そんな感じだっけ?」
「え?あ・・・」
咲夜は少ししまったという感じで急いで取り繕おうとするがそれを師匠は首を振って止めた。
「それが君の素なんだろう。ここでは作らなくても良い」
「・・・そう・・・ですか」
咲夜はそういうと少し考えたあと、スッと目をあける。そこにあった表情はまるで人形のように何も感じられないような表情だった。
「あなたにはあまり意味がないと判断しましたので、お言葉に甘えさせていただきます。これでよろしいですか?」
「あぁ構わないよ。ここで取り繕う必要なんてない」
そう言いながら師匠はなくなった咲夜の椀を受け取るために手を差し出した。
咲夜はいつの間にかなくなっていた自分の椀に目を落としながら少しの間何か考えていたがやがて素直に椀を差し出す。それを受け取った師匠は優しく椀に夕餉を注いでくれた。
やがて夕餉を終え、片付けていると師匠が咲夜の前に座った。
「自己紹介が遅れてしまったね。私の名は流水。平賀流水だ。淀水くんの育手をしている者だよ」
「・・・私は咲夜。宵月咲夜と言います」
「俺は淀水だ!淀水甲凱!」
「それは知ってる。・・・出会った頃に名乗ってたでしょう?」
「いや流れ的に俺も自己紹介してた方が良いかなって・・・それに素の咲夜とは初対面なもんだし」
それを聞いた咲夜は少し驚いた顔をすると少しだけ口元を押さえる。
「あなたにとってた表情も間違いなく私よ。それにあなたに言われた『もしかして鬼?』って言葉・・・あれで少し怒っていたのも本当だし」
「甲凱くん・・・君そんな失礼なことを言ったのかい?」
「いやだって・・・師匠だってあの場にいたら絶対そうなりますって!」
そんな会話をしていたあと、咲夜はスッと真面目な顔に戻ると流水の前で頭を下げた。
「咲夜さん?一体どうしたんだい?」
「流水様。不躾なお願いであることは重々承知しております。けれどどうか私を鬼殺隊に入れていただけないでしょうか?」
そう頼む咲夜を流水は少し困った顔で見つめていたがやがて咲夜の手を取り、咲夜の顔をあげさせた。
「咲夜さん。君が何を背負って鬼殺隊に入りたいかはしらない。だけど鬼殺隊というのは鬼を倒すことを生業としていて本当に危ない目に遭うことが多いところなんだ。鬼殺隊に入ってすぐ死んでしまう者もあとを絶たない。だから君が生半可な気持ちで入りたいなら私は止めなければならないと思っている」
流水はそう言って真剣に咲夜の目を見つめた。
「君はなんのために鬼殺隊に入りたいんだ?」
「私は・・・鬼を殺せなきゃいけないんです」
「なぜ?」
「私が唯一生き残ったから・・・私は彼らの・・・死んでいった者たちのためにも鬼を殺せる手段を手に入れておかないといけないんです」
そういった咲夜の表情は先ほどと同じく感情が読みにくかったがその目は強い決意に満ちた、少し危うい雰囲気を流水は感じていた。
流水はしばらく考えていたがやがて咲夜の手を離すとすくっと立ち上がり背を向けた。
「・・・2人とも今日はもう寝なさい」
そう言った流水は押し入れから布団を出すと咲夜の方を見てにこりと笑いかけた。
「明日から2人とも稽古をつけますよ」
そう言われ、咲夜の体は良かったとゆっくり胸を撫で下ろしたのだった。