サンビーム昆虫記    作:夏目陽光

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学名 ドミニカンストライプニー (Phormictopus dominguensis)

親愛なる読者よ、君はカリブ海に浮かぶイスパニョーラ島の、あの呪わしいほどに濃密な熱帯雨林の夜を彷徨ったことがあるだろうか。地表をびっしりと埋め尽くす巨大なシダの葉が星明かりさえも容赦なく遮断し、足元では何層にも積み重なって腐りかけたゴムの落葉が、ぬるま湯のような熱と湿気を絶え間なく吐き出している。私は今、じりじりと肌を焦がす日中の余熱が居座る赤土の上に、膝と肘を泥まみれにして這いつくばっている。シャツはとうに汗で肌に張り付き、耳元では名前も分からぬ小さな吸血昆虫どもが、狂ったような金属音を立てて私の正気を削ろうと挑んできていた。だが、そんな不快のすべては、目の前にある直径五センチメートルほどの、地中にぽっかりと開いた縦穴の魅力に比べれば、まったく取るに足らない。見てほしい、この地中の芸術を。穴の入り口から指の届かない闇の奥まで、まるで高貴な姫君の寝室の天蓋のように、細く艶やかな純白の絹糸が、幾重にも重なって滑らかな壁面を作り上げているのだ。これこそが、私の心を捉えて離さない愛しの住人、ドミニカンストライプニーの城にほかなら――いや、格好をつけるのはやめよう、私はこの子がただ狂おしいほどに好きなのだ。この巣穴の前に来ると、私はいつも自分の年齢も立場も忘れて、ただの恋する子供のようになってしまう。

 

学名を Phormictopus dominguensis と呼ぶこの麗しき蜘蛛は、世間の人々が忌み嫌うような、本能だけに突き動かされるおぞましい怪物などでは断じてない。私の持つ古い手提げランプの、今にも消えそうな黄色い炎が、漆黒の坑道の奥をほんのわずかにかすめた。そこに、彼女はいた。ああ、なんという愛くるしさ、そしてなんという神々しさだろう。八本の太く頑強な脚は、濡れた良質の炭のように深い黒を湛えている。しかし、ただ黒いだけではない。その脚のすべての関節、特に大腿から脛の節にかけての背面には、まるで一流の絵師が細い筆に極上の絵の具を含ませ、震える手で一本ずつ描き入れたかのような、鮮烈なクリーム色の、あるいはほんのりと桜色を帯びた、美しい二本の縦縞が平行に走っている。私はこの縞模様を見るたびに、胸の奥が締め付けられるような愛おしさを覚えるのだ。このベルベットのような漆黒の毛並み、その上に浮かび上がる上品な色彩の対比。ああ、できることならこの手で直接そのお背中を撫で回し、その極上のふさふさ感を心ゆくまで堪能したいという衝動が、頭の片隅で常に渦巻いている。

 

彼女は今、完全に静止している。毛一本さえも揺らがず、まるで黒曜石の彫刻のようだ。だが、騙されてはいけない。彼女の全身を包む無数の細かな毛は、地中のわずかな大気の震えや、私の荒い鼻息さえも洩らさず捉える、極めて敏感なセンサーなのだ。彼女にとって、この絹張りの我が家は、外界のあらゆる動向を察知するための、張り巡らされた巨大な聴音器なのだろう。おや、見てごらん、彼女が動いた。その足取りの何と慎重で、かつ可愛らしいことか。八本の脚が、一本ずつ、まるでお気に入りの絨毯の感触を確かめるかのように、交互に絹の壁面を捉えていく。先ほどの激しい夕立によって、巣穴の入り口の赤土がほんの数粒、底へ転がり落ちたのを、彼女の爪先が察知したのだ。

 

彼女の尾端にある二対の紡績突起が、まるで嬉しさに尾を振る子犬のように、細かく、実に楽しげに震え始める。身体を器用に半転させると、彼女は尾部を崩れた壁面にそっと押し当てた。そこから吐き出される無色透明の液体は、熱帯の湿った空気に触れた瞬間に、たちまち強靭な絹の帯へと変化する。右の後脚が、まるで手慣れた職人が道具を操るように、その糸を器用に拾い上げては、乱れた赤土の斜面へと優しく押し付け、均していく。一撫で、二撫で。彼女は決して慌てない。目で見ているのではないのだ。爪先にかかる土の抵抗と、毛が捉えるわずかな傾斜の狂いだけを頼りに、彼女は自分の愛する我が家の内壁を、元の滑らかな円筒形へと完璧に復元していく。この小さな職人の、健気で、美しい仕事ぶりを見ていると、私は自分の手で彼女に極上のコオロギを何匹も捧げてやりたいという、過保護な親のような気持ちになってしまう。誰が彼女に、この建築の秘訣を教えたのだろうか。彼女はただ、親から受け継いだ血の中に流れる、数百万年分の古の記憶に従って、この完璧な作業をこなしているのだ。

 

壁の手入れを終えると、彼女は実におかしな、そして私の大好きな「癖」を披露してくれる。前方の二本の脚を、空間に向かって、まるで見えない天を称えるかのように、ゆっくりと高く掲げたのだ。そのまま、彼女は再びピタリと動きを止める。世の愛好家たちがこぞってその姿を写し、集いたくなる気持ちが本当によく分かる。まるで「万歳」をしているかのようなこの最高に愛くるしいポーズ。しかし、これこそが彼女の最も重要な、無意識の索敵行動なのだ。掲げられた脚の先端にある、細かな毛の束が、外のジャングルから流れ込んでくる湿った夜風の成分を、雨の匂いを、そして近くを通り過ぎる他の生き物たちの気配を、余すところなく吸い込み、吟味しているのである。

 

やがて、彼女は満足したようにその脚を静かに下ろすと、今度は口元にある短い触肢を、左右交互にせわしなく擦り合わせ始めた。鋏角、つまりあの強靭な牙の根元に付着した目に見えないほど微細な土埃を、一本一本の毛から丁寧に払い落としているのだ。この念入りな清掃行動こそ、これから始まるであろう夜の狩りに向けた、彼女なりの厳かな「身支度」なのだろう。私はその様子を、ただ息を殺して見つめることしかできない。

 

彼女はゆっくりと、本当にゆっくりと、巣穴の傾斜を登り始めた。その動きには一切の無駄がなく、まるで闇そのものが、液体のようになって上へと染み出していくかのようだ。入り口の縁から、わずか指一本分ほど下の暗がりに、彼女の頭胸部が位置した。中央に並ぶ小さな単眼の列は、夜空に浮かぶちぎれ雲の間から漏れる、かすかな月光を捉えている。だが、彼女はその目で星々の美しさを見ているわけではない。彼女が待っているのは、ただ一つ、その光を遮って目の前を横切る、動く影の到来だけだ。彼女はここで、再び深い静寂の中に身を沈めた。その姿は、爆発を直前に控えた火薬の塊のようであり、極限まで高められた生命の緊張感が、その場に張り詰めている。

 

風が、周囲の巨大な塊茎シダの葉を「ザサリ」と大きく揺らした。地表からは、熱を帯びた赤土の濃厚な有機物の匂いが立ち上っている。そのとき、風の音とは明らかに異なる、規則的な、回数の多い足音が、私の耳にもかすかに届いた。落葉を踏みしめる、硬い節足の音。巣穴の入り口の周囲に、彼女があらかじめ放射状に張り巡らせておいた、目に見えないほど細い「警告の糸」の一本が、ピンと張り詰め、そして細かく震えた。

接近してきたのは、体長二十センチメートルはあろうかという、赤黒い不気味な光沢を放つオオムカデの成体だった。無数の鋭い脚を波打たせ、二本の長い触角を激しく振りながら、その怪物はまさに彼女の巣穴の入り口へと、その恐ろしい頭部を滑り込ませようとしていたのだ。ああ、危ない、私の可愛い子が襲われてしまう!……などという私の安っぽい心配をあざ笑うかのように、我がドミニカンストライプニーの行動には、いささかの動揺もない。その瞬間、静寂は破られた。黒い影が閃光のごとく地表へと躍り出たのである。彼女は獲物の背後へ回り込むや否や、驚異的な執念で肉厚な脚を絡めつけ、相手の自由を完全に奪った。ドミニカンストライプニー特有の、標的を全方位から包み込み、絶対に逃がさないという強い意思が、その貪欲な四肢の緊縛に満ちていた。彼女は上体を異様なほど高く反らし、頭胸部の底から二本の太く強靭な漆黒の鋏角を剥き出しにすると、ムカデの首の、最も柔らかい関節の隙間へと、正確無比に突き下ろした。肉厚な最深部へと、二本の黒い牙が深々と突き立てられたのだ。

 

硬い皮が引き裂かれる鈍い音が、狭い林床の闇に響く。牙の根元から、獲物の神経を瞬時に麻痺させる強力な毒液が、容赦なく送り込まれていく。ムカデの抵抗はなおも激しく、二つの生命は泥まみれになりながら転がった。ああ、がんばれ、負けないで、あの不気味な赤い頭を噛み砕いておしまい! 蜘蛛の腹部からは、激しい摩擦によって、細かな刺激毛が雲のように舞い上がり、ムカデの触角や気門の粘膜を容赦なく襲う。これにはさしの持ち主も、たまらず動きを鈍らせざるを得ない。

 

やがて、あれほど激しくうねっていたムカデの長い身体から、次第に力が抜けていった。脚の動きが、端の方から一枚ずつ機能を停止していくように、弱々しい痙攣へと変わる。蜘蛛は、牙を深く突き刺したまま、しばらくの間、完全に動きを止めた。彼女の頭胸部が、激しい運動のために、数ミリメートル単位で大きく上下している。そのかすかな、しかし力強い生命の拍動、その息づかいだけが、静まり返った闇の中で、唯一の音として響いていた。哀れなムカデの触角が、最後に一度だけ、虚空に弱々しい円を描き、そして、完全に垂れ下がった。

 

これを残酷と呼ぶべきだろうか。いや、ここにあるのは、自然が定めた冷徹な、しかし完璧な調和なのだ。憎しみによってではなく、ただ明日を生きるための糧として、彼女はその大いなる力を振るったにすぎない。彼女は勝利の余韻に浸ることもなく、自らの体重ほどもあるその長大な死骸の頭部をがっしりと咥え直すと、ゆっくりと、一歩ずつ後退を始めた。その足取りには、先ほどの爆発的な俊敏さは微塵もなく、まるで大切な宝物を神殿の奥深くへと厳かに運び込むかのような、奇妙な気品と独自の「間」が保たれている。彼女は、獲物を引きずりながら、再びあの漆黒の縦穴の奥へと、静かに滑り落ちていった。

 

巣穴の底には、再び完全な闇が戻ってきた。ここから、夜を徹した、極めて忍耐強い「食事」の時間が始まるのだ。蜘蛛という生き物は、獲物を丸呑みにすることはできない。彼女は口元から、強力な消化液を絶え間なく分泌し、ムカデの硬い殻の内側の肉を、じっくりと時間をかけて液体へと溶かしていく。工程は遅々として進まないが、彼女は驚くべき、熱帯の夜にふさわしい、じっと雨を待つ大樹のような辛抱強さでこれに付き合う。工程の合間にも、彼女は時折、大切な絨毯を撫でるように一本の脚を優しく動かしては、巣穴の壁の糸の感触を確かめている。ああ、あんなに獰猛だったムカデを、こうしてじっくりトロトロにして味わうなんて、やっぱり私の彼女は最高にクールで可愛い。その無意識の行動の繰り返しの中に、彼女の生存のすべてが、イスパニョーラ島の密林の歴史が、静かに刻まれている。

 

外では、ついに本物のスコールが始まったようだ。巨大な雨粒がジャングルの天蓋を激しく叩き、私が這いつくばっている林床は、またたく間に泥の海へと変貌していく。しかし、彼女の巣穴の入り口は、あの巧みな赤土の傾斜と、彼女が丹念に張り巡らせた厚い絹の障壁によって、一滴の水すらも浸入を許さない。激しい雨が大地を揺らすその大振動を、彼女は巣穴の奥で、全身の毛を使って静かに聴いているのだろう。その黒とクリーム色の美しい身体は、いまや完全に闇と同化し、ただ生命を維持するための静かな営みだけが続いている。私はたまらず、懐中電灯のスイッチを切り、ただその闇に向かって、そっと心の中で口づけを送った。私の愛しい、美しき隣人よ、今夜も素晴らしい姿を見せてくれてありがとう。泥にまみれた私の膝の痛みなど、彼女のこの完璧な夜に比べれば、本当に、どうでもいいことのように思えるのだ。

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