──おおきくなったらなにになる?
日本のとある幼稚園にて。
園児達はこのお題の下、絵を一枚描くことになった。これは子供の想像力や表現力を伸ばしつつ、将来について考える最初のきっかけを与えるための幼児教育の一環である。
お医者さん、パン屋さん、ケーキ屋さん、運転士さん…等々、それぞれが思い思いに将来の夢を描いていた中、一人の子供が誰よりも時間をかけて作品を仕上げた。
「ボク、せいぎのみかたになりたい!」
キラキラした笑顔で担任教諭にそう言った子供の名前は、
彼の絵には、マントをひらめかせ空を飛ぶヒーローの姿が力強く描かれている。これが響夜の憧れる正義の味方だった。
悪者に襲われて助けを求める声が聞こえれば、すぐにそこまで飛んでいく。そして悪者との戦いでピンチになっても絶対にあきらめず、時には仲間と共に危機を乗り越え、カッコいい必殺技で勝利する。
響夜の大好きな特撮番組の主人公はそんな最高のヒーローなのだ。今思えばこの時点では夢というよりも、テレビの中のヒーローに対する淡い憧れに過ぎなかった…というのは響夜本人の弁。
「こらっ!その子をいじめるのはボクがゆるさないぞ!」
響夜はいつも正義であろうとした。
小学校に上がってからは、誰より率先していじめっ子を懲らしめ、学級委員としてクラスのトラブル解決に努めるようになる。自分が罵られようとも殴られようとも、助けてあげたいじめられっ子の感謝の言葉を支えに挫けなかった。
だが高学年になるにつれ、いじめの内容が徐々に複雑化し、彼の力ではどうにもならなくなった。更に中学生になると響夜自身まで「いい子ぶっててウザいから」という理由で、同じクラスの悪質な生徒達から陰でいじめを受けるようになってしまう。
教師すらも保身を優先して、それらのいじめを見て見ぬふりする始末。そこで響夜は「正義を貫くよりも平坦な道を行く方が良い」という、この世を支配する価値観にぶち当たり深く絶望した。
「………将来は警察官になろう」
いつしか社会を脅かす凶悪犯罪に立ち向かう職業を漠然と志し、勉学に励むようになる。目の前の悪に立ち向かえない苦い現実から逃避するように。
猛勉強の甲斐あって、響夜は県内でも有数の名門校への進学を果たす。
そして高校生になって本格的に進路を考えた結果、警察官を目指す道程はより具体性を帯び、大学卒業と共に国家公務員総合職試験に合格することを目標として掲げ始める。
それは幹部候補として警察庁に就職するためだった。より大きな正義のために警察組織の中でもより高い地位に就くことを望んだのだ。
学力に秀でるだけでなく、心身を鍛えるため取り組んだ剣道でも大会で優れた成績を出すようになり、文武両道な高校生活を送る響夜。周囲から一目置かれ、端正な顔立ちも相まって特に女子からは黄色い声が絶えない。
一見して文句の付けようのない日々を歩んでいるかのように他人には見えた。
だが、それでも響夜の心は晴れなかった。
幼い頃に思い描いた正義のヒーロー像と、自身がいじめに屈した事実は常に彼の心の中にわだかまりとして根を張っていたからだ。
「僕は本当にこのままでいいんだろうか…」
来る日も来る日も響夜は、答えの出ない問いを自らにぶつける。自分の人生の在り方をこれで良いと思えるようになる日はいつ来るのか、と。
第一志望通り入庁すればそう思えるのか、警察官として何か大きな実績を挙げればそう思えるのか、昇進を重ねて最終的に警視総監にでもなればそう思えるのか。
己の人生を肯定出来ないまま大人になり更に老いさらばえてゆくことを恐れる、そんな繊細な思春期の真っ只中に彼はいたのだった。
ある日高校からの帰り道のこと、響夜は危険な運転をしている大型トラックと遭遇する。
横断歩道で同じ学校の制服を着た女子生徒が青信号を渡っている時、後に続こうとする彼は気付いてしまったのだ。今にも信号無視で直進してくるトラックが存在することに。
「危ないっ!!」
響夜は反射的に駆け出してその女子生徒を押し飛ばした。代わりにトラックに轢かれた彼の全身を激痛が襲う。
助けられたことに気付いた女子生徒が涙ながらに悲鳴をあげた時、彼は安堵と共に意識を手放し世界が暗転した。
「御剣響夜さん、ようこそ死後の世界へ。あなたはつい先ほど不幸にも亡くなりました。短い人生でしたが、あなたの生は終わってしまったのです」
次に響夜が目を覚ましたのは、この世の物とは思えぬ見知らぬ空間だった。
彼の前には、滑らかな水色の髪を靡かせた綺麗な女性が座っている。
彼女は、日本で若くして亡くなった魂を導く女神なのだという。その女神アクアの口から、響夜は死んでしまったことを告げられた。
自分がトラックに真正面から轢かれてしまったこと…その時の忘れようもない痛みを思い出し、彼女の言葉が嘘でないことを痛感する響夜。
家族や友人に二度と会えないことに思い至り、深い悲しみに身が引き裂かれそうになる。
そんな彼に、アクアは三つの選択肢を与えた。
一つ目は天国行き。天国とは名ばかりの娯楽など一切無い場所で、永遠にのんびりと時間を過ごす。
二つ目は現世での転生。記憶も身体もリセットし、元の世界で生まれ変わる。
そして三つ目は異世界転生。異なる世界に行き、魔王を倒す勇者を目指す。
響夜の決断は早かった。
迷わず三つ目の選択肢を選び取り、魔王の恐怖から異世界の人々を救う道を選んだ。次こそ幼い頃に思い描いたような"正義の味方"になれると信じて。
するとアクアから、転生特典を一つ好きな物を持って行っても良いと告げられた。それは強力な特殊能力だったり、とんでもない才能だったり、神器級の武器だったりと、多岐に渡るらしい。
それを聞いた響夜は、剣道の経験を活かすため最強の剣を選んだ。強大なドラゴンすら滅ぼせるほどの力を持つ神器『魔剣グラム』を。
「さあ、その魔剣グラムを手に旅立ちなさい。選ばれし勇者よ」
「女神様…必ずこの僕が魔王を打ち倒し、世界を救ってみせます!」
「はい、期待していますよ…」
死んで何もかも失った自分を転生させたばかりか素晴らしい武器まで授けてくれた女神に惜しみない感謝を捧げ、御剣響夜──ミツルギキョウヤは異世界へと降り立った。
それから数カ月後のこと。
「あれが伝説のエンシェントドラゴン…!?」
「あんな奴に勝てるの…?逃げた方がいいんじゃ……」
「奴を野放しにすれば、多くの人が傷付き命を落とすかもしれない。奴を倒すことが出来るのは…僕達だけなんだ!」
共にパーティーを組んだ二人の少女の心配も何のその、ミツルギは一刀の下にエンシェントドラゴンを斬り伏せクエストを達成した。
女神に選ばれし勇者に勝てぬ敵はいない。この力ならば魔王すらも斬れる。
……そうした選民思想を孕んだ全能感にいつしか酔い痴れるようになりつつ。最寄りの街アクセルに休息のため立ち寄った時のこと。
ミツルギは信じ難い光景を目の当たりにする。
檻に閉じ込められた状態で街中を馬車により運ばれる一人の女性──見間違えるはずもない。
新たな世界で正義に燃える己の背を優しく押してくれた、女神アクアその
***
「女神様っ!?女神様じゃないですかっ!何をしているのですか、そんな所で!」
「(何だこいつ?せっかく覚悟決めたとこなのに邪魔しやがってよ………)」
キルアの耳に青年の甲高い叫び声が飛び込んでくる。そのせいでカズマ達に声をかけそびれてしまった。
ウィズと話して和らいでいた心にまたもや苛立ちが湧き立つ。
「こんな物っ…!」
一方、黒いマントをひらめかせるその青年は、放心状態で檻に引き篭もるアクアに駆け寄ったかと思うと、なんと鉄格子をいとも容易く捻じ曲げてしまった。
傷だらけの鉄格子とはいえ、それを素手でグニャリと粘土のように。
通りすがりの誰もが目を疑い、その場が騒然とした空気に包まれる。
「(よし、何か知らねえけど今の内に…!)」
キルアは、その人間離れした怪力に皆の注目が集まっている内に素早く馬車の下に潜り込み気配を消す。
一世一代くらいのつもりで話しかけようとして失敗したのが何だか無性に気恥ずかしく、どうにもその場に立っていられなくて、とっさに見つけた隠れ場所がそこだった。
「(……いや、まあ我ながら何してんだとは思うけど)」
「マジですか!?この檻を…」
「おい、ウソだろ!?これブルータルアリゲーターの大群が何時間かじりついても壊れなかった檻だぞ!?」
青年のゴリラ顔負けの握力にめぐみんとカズマも驚愕のあまり呆然としていた。キルアの存在には露ほども気付いていない。
「やるじゃん、こいつ…(こんな力があるなら
彼らの足元でコッソリ聞き耳を立てるキルアは、小声でほんの少しばかり気持ちを込めて賞賛を呟く。
ブルータルアリゲーターは大きめなワニのような姿をした水棲性のモンスターである。キルアはそのことを知らなかったものの何らかのモンスターの名前なのは察せられた。
仮にあまり強い部類でなくともこの世界のモンスターの攻撃を長時間耐え抜くほど頑丈な鉄格子を曲げてしまう腕力ならば、ゾルディック家でも通用するはずだ。試しの門の最低でも一の門(扉片方2トン,扉両方合わせ4トン)は余裕で開けることだろう。
「(何なら二の門もいけるか。まあどうせ三の門は無理だろうし、四の門なんて1ミリたりとも動かせねえだろうけど…)」
試しの門は、次の段階に上がる毎に押し扉の重量が倍になる代物である。
かつて三の門を開けることに成功し今の自分なら四の門も開けられると自負するキルアとしては、この邪魔男が自分と同じ域に達している可能性を考えるのはプライドが許さなかった。実家の稼業は嫌いでも、自分が培ってきた力には誇りを持っているのだ。
「……おい、私の仲間に馴れ馴れしく触れるな。貴様、何者だ?知り合いにしては、アクアがお前に反応していないのだが」
ダクネスは先程の二人ほどには驚かなかったらしく、即座にアクアを庇い立てる。
彼女がしばらく青年と睨み合っている内に騒動の発端らしいアクアがようやく正気を取り戻し、のそのそ檻から出てきた。
「……あんた誰?」
「(結局こいつが何者か知らねーのかよ…)」
それでもやはり面識はあるようだ。相手の腹から下しか視界に入らない今のキルアの目にもハッキリ分かるほど青年がたじろいだのだから。
おそらくアクアが彼のことを忘れているだけなのだろう。
「何言ってるんですか女神様!僕です、ミツルギキョウヤですよ!貴女にこの魔剣グラムを頂いた!!」
「え………?」
ミツルギキョウヤがかざした剣を見てもなお彼女は首を傾げていたが、誤魔化すように笑い出すと、
「あ、……ああっ!いたわね、そういえばそんな人も!ごめんね、すっかり忘れてたわ。だって結構な数の人を送ったし、忘れてたってしょうがないわよね!」
「お前絶対今も思い出せてないだろ!」
なんともいい加減なことを言い出し、カズマも「さすが駄女神」と言いたげにツッコミを入れる。
とはいえ、これも致し方無い部分はある。数え切れないほど日本の死者をこの世界に送り続けてきた彼女にとって、ミツルギもその大勢いる転生者の一人でしかない。ミツルギがどれだけアクアを崇拝していようとも、アクアにとってミツルギは路端の石…とまでは言わないが大して特別視するほどの存在でもないのだ。
そうした事情をミツルギも弁えているのか、爽やか勇者スマイルでアクアに話し続ける。……実の所、口の端がにわかに引きつっていたが。
「……ええっと、お久しぶりですアクア様。あなたに選ばれた勇者として、日々頑張ってますよ。職業はソードマスター、レベルは37にまで上がりました。ほら、二人とも!そんな所にいないでアクア様にご挨拶を」
ミツルギの呼びかけに応じて、少し離れた所で様子を伺っていた二人の少女が近付いてくる。赤髪を三つ編みにした少女と緑色のポニーテールの少女だった。
「私はフィオ、職業は盗賊です!」
「クレメアです。戦士やってます!」
「あ、どうも…」
二人は愛想良く嬉しそうにアクアに挨拶した。一度会話のきっかけを持てたからか更にグイグイと迫る。
「……あの、私達がキョウヤに出会えたのって女神様のおかげなんですよね!?」
「私達からしたら、あなたは超恩人です女神様っ!!」
「ふむふむ、女神に感謝を捧げるとは実に感心。カズマさんにも見習わせたいくらいだわ」
フィオとクレメアは、互いに目を見合わせつつキャーキャーとアクアに感謝の言葉を述べる。なおアクアは訳が分からなくとも腰に手を当てドヤ顔。
まるでテレビやネット越しにしか知らない有名人と話すみたいなテンションだなと、カズマはぼんやり思った。一方キルアも心の片隅で同じことを思ってはいたのだが、それ以上にこの二人のはしゃぐ足の動きに言い知れぬ鬱陶しさを感じていた。
「あーあ…(変なとこに隠れたせいで出てくタイミング完全に逃しちまったな、クソが……)」
……もっとも実際の所、これは自分自身に対する言い訳に過ぎない。キルアの逃げ癖は未だ治っていなかった。
普段のキルアならば…皆との別れを控えていないキルアならば…そもそも隠れもせず会話に割って入っていただろうに。
「……ところで、アクア様はなぜここに?というか、どうして檻の中に閉じ込められていたんですか?」
ミツルギの問いかけにカズマが説明を行う。
「それは・・・」
「(アクアがカズマのダサい死に方を馬鹿にした。そんでカズマが腹いせにアクアを転生特典とやらに指定した。…………こいつら初対面からこんなんだったのかよ)」
キルアは思わず、はあ〜っと溜め息を吐く。
元々カズマがキルアともまた異なる世界の住人で、死後この世界に転生したこと自体はエリスから聞いていたので、今更思うことは無い。
しかし一応本物の女神であるアクアが降りてきた経緯は物凄く気になっていたのだ。まさかここまでアホな裏事情があったとは…。
カズマが事情を全て説明し終えるとミツルギは素っ頓狂な声をあげた。
「………はあっ!?女神様をこの世界に引き込んで!?しかも今回のクエストでは檻に入れてモンスターだらけの湖に浸けた!?君は一体何を考えているんですか!?」
更には熱り立ってカズマの胸ぐらに掴みかかる。フィオとクレメアもミツルギの後ろから同調するようにカズマを睨んでいた。
これにはさすがのアクアも慌てて仲裁に入る。
「ちょ、ちょっと!?私としては結構楽しい毎日送ってるし、ここに連れて来られたことももう気にしてないし!檻に入ったのも浄化が終わるまで出なかったのも私の意思なんだから!しかもクエスト報酬30万よ、30万!それを全部くれるって言うの!」
珍しく素直にカズマとの日々を良き思い出として語る彼女を、ミツルギは憐憫の眼差しで見下ろす。
「……アクア様、こんな男にどう丸め込まれたのかは知りませんが、女神なのに今のあなたの扱いは不当ですよ!ちなみに今はどこに寝泊まりしているんです?」
「(あー、これ
キルアは思わず手にビキビキと肉体操作を施しそうになる。顔は見えなくても声の調子で、考えていることは大体読めた。
どうやらこの男はアクアのことをブラック企業に洗脳された社員とでも勝手に思っているらしい。こういう相手のことをよく知りもしない上から目線の憐れみはキルアが大嫌いなものだった。
仕方の無い部分はあるのかもしれない。何なら自分だって、他者に知らず知らず似たようなことをやってしまったことが無いとも言い切れない。
それでも見ていてムカつくものはムカつくのだ。
「えーっと、馬小屋で……」
ミツルギの怒気に押されたアクアがおずおずと答える。
「はぁっ!?」
「
カズマの胸ぐらを掴む手に更なる力が込められた。その横暴にキルアの目が険を帯びる。
「うわ、
「女神様に馬小屋暮らしさせるとか信じらんなーい」
フィオとクレメアは、ミツルギに詰められるカズマに容赦無く援護射撃を浴びせた。
「おい、いい加減その手を放せ!お前はさっきから何なのだ。カズマとは初対面のようだが、狼藉にもほどがあるだろう」
「ちょっと爆裂魔法撃ちたくなってきました」
ずっと見守っていたダクネスとめぐみんもヒートアップする。
「……クルセイダーにアークウィザード?……それに随分綺麗な人達だな。パーティーメンバーには恵まれているようだ。……君達、今まで苦労したみたいだね。これからはその男でなく僕と一緒に来るといい。高級な装備品も買い揃えて──」
「善意の押し売りもその辺にしときな……」
「ぐっ!?…誰だ!?」
「こいつらの……仲間
ミツルギが何者かの接触に気付いた時、カズマの胸ぐらを掴んでいた右手首に鈍い痛みが走った。
一拍遅れて、日本で言うならおそらく中学生に成り立てくらいの年頃であろう銀髪の少年が自分の手首を握り締めていることに気付く。……突然どこから出てきたのやら。
「…キルア!?」
次に状況を理解しためぐみんが口を開いた。カズマ、アクア、ダクネスもその後に続く。
「……お、折れるっ!?やめろ!離してくれ!!」
「離して欲しけりゃオレ達の前からとっとと失せなよ」
手首を万力の如くぎりぎり締め付けるキルアの手を、ミツルギは慌てて振り払おうとする。
「離せェッ…!!!!」
ミツルギにとって極めて屈辱的なことに、一切手加減無く全力を出してようやくその小さな手を振り払えた。
「チィッ…」
あの鉄格子をあっさり曲げるだけのことはあるらしい。それはキルアも認めざるを得なかった。
彼はミツルギを一睨みすると、カズマを促し馬車の裏手に回った。
「キョウヤ!?」
「大丈夫…だよね?」
「……あ、ああ問題無いよ(魔剣グラムを僕が装備している間は、人の限界を超えた膂力を手に入れられるとアクア様から聞いたはずなのにどうなってる!?本当にあの少年は一体何者なんだ……)」
顔面蒼白のミツルギの背中に嫌な汗が滲み出す。見た目にはさして変わった所は無いはずの少年が怪物にすら見えた。
なお、もし魔剣グラムの継承者が元々もっと力のある者ならば、それに応じて膂力の上がり幅も大きくなる。
魔剣の加護頼りでようやくソードマスターになれるほど、素の筋力ステータスがそこまで高くないミツルギではこの様である。
「いや〜…さすがに痛いと思ってたとこだから助かったぜ!いつの間にキルアもここ来てたんだ?」
「……さっきカズマがあいつにアクアのこと説明してる時に通りかかってね…オレ耳がいいから全部聞こえてたよ。んで、あいつのあの剣も転生特典って奴なのか」
キルアはささやかな嘘で誤魔化した。
ミツルギの方をチラリと見ると、彼は向こうで先程掴まれた手首を擦りつつ他の二人とヒソヒソ話している。フィオとクレメアは会話中チラチラと、怒りと恐怖がごちゃ混ぜになった顔付きでキルアに視線を向けていた。
このままさっさと帰ってくれるとありがたいのだが。
「ああ、そうらしい。タダで貰った魔剣でこの世界で苦労もせずに生きてきた勝ち組に、何で一から頑張ってきた俺が上から目線で説教されなきゃいけないんだかな…」
「……いや、そこに関してはさ…。ああいう強い装備とか蹴って一から頑張ることを選んだのはカズマなんだろ?縛りプレイしてんのはカズマの意思じゃん?」
「まあ、そうだけど……」
聞き捨てならないと思ったのかアクアが勢い良く割り込んでくる。
「あんな剣一本よりこの私の方がよっぽどチートに決まってるじゃない!カズマは縛りプレイどころか、ルールの穴を突いて最高の特典を選んだのよ!」
「「いや、それはない」」
「何でよーっ!?」
「なあキルア、少し良いか?」
…と、ここでダクネスが苦笑を浮かべながらキルアに声をかける。
「めぐみんがお前に聞きたいことがあるようでな。ここ数日あいつは誰よりも落ち着かない様子だった。そろそろちゃんと話してやってくれないか?……どこにも隠れずにな」
「………ちぇっ…」
そして、めぐみんはいつになく神妙な顔をしていた。
キルアの言う「もう自分達と関わってはいけない」とはどういうことなのか、どうして自分達のことを避けるようになったのか。
本当のことを聞かなければならない……でも聞きたくはない。そんな
だから、それを見兼ねたダクネスが二人の間を取り持ったのだ。
「………キルア。今度こそ逃しませんよ?」
めぐみんはゆっくりと、しかししっかりとした足取りでキルアに歩み寄る。
今この時を逃してしまえば一生彼と真正面から向き合って話すことは出来ない…そう彼女は確信していた。
「はいはい、わかったよ……」
キルアもお手上げだった。やれやれと両手を振る。
じーっと穴の空くほど見つめてくる紅目と一度目が合ってしまうと、もうはぐらかす気も起きなかった。
さあ今をおいて他にない、と言わんばかりにダクネスも微かに頷く。
「めぐみん聞いてくれ。みんなもだ……」
その言葉にめぐみんを後押ししたダクネスは元より、カズマとアクアもキルアの言葉に耳を傾ける。
「まったく、お前って奴はいつまでも勿体ぶりやがって…」
「そうよ!水の女神たるこの私に隠し事なんて水臭いじゃない!」
「…お前それで上手いこと言ったつもりか?」
普段と変わらぬ二人のやりとりについキルアの口元も緩む。
名残惜しいが、そろそろ伝える時か。
「あのさ……オレ、実は──」
「おーい君達、ちょっといいかな?一つ提案があるんだ」
……どうやらまだ帰っていなかったようだ。
アクアよりもよっぽど空気の読めない男がそこにいた。
実際鉄格子を曲げる筋力のある人は試しの門をどこまで開けられるんでしょうかね?