───199X年・パドキア共和国───
小雨が降りしきる灰色の空の下。
薄暗くじめじめした路地裏に、生温い鉄錆びのような臭いが漂う。ああ、気分が悪い。
「ふむ…今回の仕事は80点といった所かな」
血脈を断った時の感触は、まだ手先に煩わしい穢れを伴って残っている。まだまだ修行不足ということらしい。
「標的が武器を隠し持っていることを僅かな挙動から見抜き、隙を見せることなく追い詰めるまでは良かった。満点を与えてもいいだろう。しかし、キル……一体何故なんだ?」
当時短髪だった兄は、傘をこちらの頭上に差し掛けつつ不満げに見下ろしてきた。
「何故最初からそいつの首を掻っ切らなかった?お前はわざわざ首の骨をへし折ろうとしたようだが、そのせいであやうく敵から反撃を受けそうになったんだぞ?」
「………。」
兄がちらりと目を向けた方には、つい先程まで確かに意思を持って動いていた"モノ"が物言わぬ肉塊として血の海に沈んでいた。名前すら教えられぬまま、ただ言われるがままに殺した相手だ。
「だってオレ………血の臭い、あんま好きくねーもん」
──本音を言えば、そんな物よりもっと嫌なことがあるのだが。
別に人の命を奪うことに罪悪感を抱いているわけではない。「かわいそう」だとか「申し訳無い」だとか、そんな真人間らしい感覚なんぞ自分には露ほども無かった。
もう人殺しなんてうんざりと嘯いてはみても、結局そういう意味では自分はこの兄と同類なのだろうか。
「ふぅん……オレは子供の頃、それも今のキルよりうんと小さい頃にはもう血の
兄は、精巧に作られた人形のように一切のブレ無く首を傾げる。
その表情には、意図された嫌味など微塵も混ざっていない。ただ純粋な、本心からの困惑だけがその顔に浮かんでいるようだった。
見上げた先にあるその無機質な瞳はまるで光すら呑み込むブラックホール…見つめているとそのまま引きずり込まれてしまいそうな気がしてならなかった。怖くなって思わず下を向く。
「チッ…」
精一杯の虚勢で舌打ちした矢先、目が合ってしまう。魂の抜けた空洞のような虚ろな目──たった今、自分が命を奪った死人の眼球。
「…………。」
………これだ、一切の光彩が映らないこの目。まるで
だから他者を絶命させるという行為を進んで行う気にはなれないのだ。
「やれやれ……だな」
兄は気怠げに湿気を帯びた己の髪をかき上げ、指先でいじる。聞き分けのない稚児をあやすような物言いで言葉を紡いでゆく。
「いいかキル? 家族でそんなこと言うのはお前だけだぞ? ミルキはお前みたいなこと一度も言わなかった。何ならお前より年下のカルトだって。そんなんじゃ──」
まだ話が終わらない中キルアは珍しく兄の言葉を遮る。
「じゃあ、■■■はどうなんだよ?あの子はオレ達の弟……いや妹だぞ?」
兄が誰より忌避する名前。ぴたりと、髪をいじる手が止まる。おそらく無意識に。
「何を言ってる…?あの自称妹は家族じゃない」
「……ッ!!」
「家族じゃないから、奴には
「イル兄………」
誰もが知るこの世の真理とでも言わんばかりに。兄はそう吐き捨てたのだった。
ぎりりっと奥歯が砕けそうなほど強く噛みしめるこちらには目もくれず、兄は屈み込む。コンクリートの地面を雨水と共に流れる血を人差し指で掬い取ると、鼻先にぐいと突き付けてきた。
「……や、やめろよ」
ツンと鼻を衝く臭い。反射的に後退るも兄の血塗られた指先は容赦無く追いかけてくる。
震える頬を伝うのは雨粒か、それともあるいは──
「なあキル…お前は親父のことを尊敬してるんだろう?親父のような凄腕の殺し屋を志してるんだろう?」
「親父の腕前にはホントに憧れるけど……でも、オレは──」
「だったらお前ももっと
滅多に見せない笑いと共にこう宣った。
「お前もゾルディックの家族なんだから」
「…………家族」
「さあ帰ろう、キル。予定通りの時間に片付いたから夕方頃には家に着くはずだ」
空はまだ明るい。その上、デントラ地区のククルーマウンテンまでここから車でニ時間もかからない。
「今晩は親父も
「……うん」
兄に手を取られ、その場を後にする。雨に打たれ早くも冷え始めた死体から背を向けて。
***
「お兄ちゃん!今お兄ちゃんの番!寝ちゃダメ!」
「……ん?あ、わりぃ」
こめっこのターンにぼうっとしている間にうたた寝してしまっていたらしい。………幼い頃のことを夢に見ていたような気がするが、細かい所はさっぱり思い出せない。
「今回はカードの引きが悪くないからな。・・・・・・ジャイアントトード二匹を生贄として墓地に送り、グレイトフルジャイアントトードを召喚!これで今度こそ勝てる!」
カジノ大国エルロードで流行り、最近ベルゼルグ王国にも伝わったこのトレーディングカードゲーム。
カズマが見れば一発で、自分と同じ日本人転生者がこの世界で広めた物と見抜いたことだろう。キルアの世界にあったカードゲームともよく似ていた。
「じゃあわたしは、安楽少女と無明の冒険者をイケニエに安楽王女を召喚!モンスターだろうとこいつの魅力にはイチコロ!このコントロール奪取デッキに死角無ーし!!」
「おいおい…ウソだろ!?」
「この安楽王女を手札から捨て、そんでもってグレイトフルジャイアントトードをエンドフェイズまでコントロール!」
「クッソーやられたぁっ…!!」
キルアはどーんと床に大の字で寝転ぶ。渾身の切り札を奪われ、もはや勝利は絶望的だ。
「……これで三敗目、と。なあこめっこ?」
「なにー?」
「お前そのカード、今日手に入れたって言ってたよな?ぶっころりーにもらったのか?」
「そだよ?」
「はっ、やっぱりな。さしずめ落とし穴を掘った犯人が自分だっていう事実を、お前のお父さんとお母さんに知られないようにするための口止め料ってとこか?」
得心がいったキルアは笑う。道理で、こめっこの両親の口から一言もぶっころりーに対する怒りや呆れなどの言葉が無かったわけだ。
「ん〜、ちがうよ?」
「違う?」
「ぶっころりーは口止めとかしてない」
「へ?そうなの?」
………ならばどういうことなのか。
「うん!ぶっころりーはそけっとのことが好きなんでしょ?だから、わたしが二人のキューピッドになるって約束した」
「……キューピッド?」
「わたしはよくそけっとと一緒にごはん食べてる。というか食べさせてもらってる。だから今度はぶっころりーもわたしやそけっとと一緒にごはん食べようって言ったらね、その時に自分のごはん代だけでも出せるようにバイト探してみるって言ってた!」
「お、おう…(スゲーな!それだけでニートを更生させたのかよ!?)」
こいつも人をコントロールする魔性の持ち主なんじゃないか?
「そんで立派な社会人になる以上は遊んでなんかいられないって、わたしが前から欲しがってたこのカードくれた」
「へえー(あいつ絶対後悔するな…)」
子供に見栄を張りたくなる大人のプライドというものは理解できるけど…と子供ながらにキルアが思った時のこと。
がらっと勢い良くふすまが開き、
「あなた達、いつまで起きているのかしら?」
紅魔族随一の良妻賢母ゆいゆいが、カードを手にしているキルアとこめっこをネグリジェ姿で見下ろしていた。
「あ、これは……」
「キルアさん、あんまりうちの子に夜更かしさせないでくださいな」
「このお兄ちゃんは悪くない!こめっこからヨバイかけたの!」
キルアはぎょっとし、ゆいゆいも慌てふためく。
「よ、夜這いって何言ってんだっ…!?」
「ああ、お気になさらないでください!この子のお姉ちゃんの友達に作家を目指してる女の子がいて、たまにこの子とも遊んでくれるんですけど、その影響で色んな言葉を覚えてきちゃって……」
「夜這い」という単語の意味を理解していなさそうのは不幸中の幸いといった所か…。
「ほらこめっこ?もう寝るわよ」
「落とし穴の中でずっと寝てたからねむくない!」
「いいから寝なさいったら。じゃないと明日の日中眠くなって遊べなくなっちゃうわよ?これは明日の朝まで預かっておくけどキルアさんもいいですね?」
「あ、はい…」
拡げられていたカードをちゃちゃっとまとめたゆいゆいは部屋の外に出ていこうとして、
「こめっこ、部屋に戻りなさい」
「やーだ!今日はこのお兄ちゃんと一緒にねることにしたもん!」
枕を抱えて駄々をこねるこめっこに頭を抱えていた。
「全くもう、この子は……」
「あの…オレなら大丈夫なんで」
このままでは埒が明かないと感じたキルアがフォローを入れる。
「こう見えてオレ昔は小さい妹を寝かし付けたりしてたんですよ。うちの執事じゃぐずる妹をどうやっても泣き止ませることが出来ないもんで、オレが添い寝して………」
……と、ここではっと口を噤み、言葉を噛み切る。
「(………妹?オレは何言ってんだ…?カルトは弟だぞ。それにあいつに添い寝したことも無いはずだ)」
キルアが思い浮かべたのはゾルディック家の末弟。
一見するとジャポン風の着物を身に纏う美少女だが、本人はあくまで「ボク」という一人称を貫き男として振る舞っていた。
カルトとは別に仲が悪いというわけでもないが、正直あまり好ましく思っていなかった。あいつが、何かとこちらを束縛したがる母親とべったりだったこともあって近付きがたいと感じていたからだ。
だからあまり話すことは無かった気がする。一緒に寝ることなどあるはずも無いのだが。
「(まあ、なんか変な夢見た気がするから多分そのせいだな…)」
そう自分の中で解釈するも拭い切れない違和感を覚えた時。キルアはあることに気付いた。
「ちょっとキルアさん………今何とおっしゃったかしら?」
「え?オレが小さい妹を寝かし付けてた話?わりいけど、あれはオレの勘違いで──」
「いえ、そうじゃなくて!……あなたのお宅は執事さんを雇うほどの家なの!?」
ゆいゆいの目の色が変わっていることに。
「ま、まあオレんちはその……家業がそれなりに儲かってるから山一つが丸々私有地なもんでさ、屋敷に住んでるから使用人を雇わないと──」
「山一つが私有地!?しかも屋敷!?」
「あっ……」
キルアは察した。彼女が何故目の色を変えたのか。
「頼むわよ、こめっこ!」
「りょーかいっ!ヨバイがんばる!」
母子の無駄に息の合ったコンビネーション。待ってましたとばかりにこめっこはキルアの布団の中に、目にも止まらぬ速さで潜り込んだ。
「では私は邪魔しませんので、ごゆっくり仲を深めてください。キルアさん……私のことはこれから"お義母さん"とお呼びになっても構いませんよ?おほほほほ………」
「は、はぁ……」
引き笑いを浮かべて固まるキルアを尻目に、ゆいゆいは先程とは打って変わって上機嫌にふすまを閉めた。
「〜♪」
ふすまの向こうから鼻歌が微かに聞こえてくる。今にもスキップでもしそうな軽い足取りで遠ざかって行ったようだ。
「ふぅ…」
娘を助け出してくれた少年ということで全幅の信頼を置いているのかもしれないが、流石にこれはどうなのか。
「………なあこめっこ?」
「ん?」
「おもしれーな……お前のお母さん」
娘二人も面白いけど…とは言わなかった。
「お父さんも面白いよ!」
「そっか…」
もうこの一家には何も言うまい。
一つ言えるのは………キルアから見て、笑いの絶えない家庭っぽいということだけだ。
「ねえお兄ちゃん…」
「ん?」
こめっこがキルアに向き直る。布団の中でもぞもぞとしながら。
「お兄ちゃんの家族は……どんな人達?」
布団を頭から被ったまま顔だけを出して聞いてきた。
デリケートな質問をしているという自覚はあるのだろう。布団から覗くその顔は、それまで彼女が見せていた楽しそうな姿とは雰囲気が異なって見えた。
「オレの家族……………」
そう来たか…。
数え切れないほどの許せないこと…辛かったこと…悲しかったこと。それに負けないくらいたくさんある掛け替えのない思い出。絆というには歪極まりなく、呪いというには憚られる、そんな複雑な糸で繋がり合った関係。
一言ではとても言い表せない。言い表せるはずもない。
「………………。」
「ごめん。変なこと聞いちゃった」
「いや別にいいって。気にすんな」
〝ハンターの資格取ったらまずうちの家族とっ捕まえるんだ。きっといい値段で売れると思うんだよねー″
まだゴンと出会ったばかりの頃。かつてこんなことをふざけて言っていたのが遠い昔のことのように思える。
実際、自分は将来的に──どのように家族と向き合っていくのだろうか。
「ところでこめっこ、オレからも一つ聞いていいか?」
「何?なになに?」
こめっこは少しほっとしたような顔でキルアの言葉を促す。
「お前姉ちゃんいるんだろ?姉ちゃんが家を出て寂しくねーの?」
「全然」
「………マジ?」
まさかの即答だった。
「姉ちゃんがいないおかげで食料の取り分が増える」
「……そういうことか」
実にこめっこらしい…。
「でも早く帰ってきてくれた方がうれしいかな…」
「何で?」
「姉ちゃんが一緒の方がごはん何倍もおいしいから!」
「そういうことか」
これはこれで実にこめっこらしい。
「そういやさ、ここってもしかして姉ちゃんの部屋だったりする?」
キルアは壁際の本棚に目を向けて質問する。
本棚の中には『暴れん坊ロード』というタイトルの小説らしきボロボロな本の他に、『上級魔術教本』と書かれた分厚い本が入っていた。これはおそらく紅魔族の学校の教科書なのではないだろうか?
「その通り!ここは姉ちゃんの部屋。姉ちゃんが旅に出る前はわたしと一緒にここで夜寝てた」
「ふーん…」
キルアはパラパラと教科書のページをめくってみた。
各種上級魔法の特徴や詠唱などが事細かに記されていて、魔法が使えるわけでもないのにワクワクして心が躍った。ゆんゆんが使用した『ライト・オブ・セイバー』とかいう光の剣もこの魔法の括りらしい。彼女が雷を落としたのも『ライトニング・ストライク』という上級魔法なのだろう。
爆裂魔法はまた別ジャンルの魔法なのか一切記載されていなかった。ならば爆裂魔法一筋のはずのめぐみんが未だこんな教科書を残しているのは何故か…それは将来こめっこが入学した時に使ってもらうため?
「……そんじゃオレはもう寝るから」
この教科書をもっと読んでみたいが、続きは起きてからにしよう。
「おやすみ、こめっこ」
「お兄ちゃんはお布団に入らない?」
こめっこは布団の中で横に寄ってキルアのスペースを作ろうとしたが、彼はそれを手で制する。
「いいんだ。
ここで彼女はぴくりと反応した。
「……!?…お兄ちゃん、もしかして姉ちゃんを──」
「よし寝るぞ!お兄ちゃんは疲れてんだ、あっという間に寝ちまうから何言われても喋んねえ。お前も眠れなくっても目を閉じて体を休めるんだ。いいな?」
「うん……」
こめっこは素直にうなずき目をつぶったようだ。十分と経たずにスー…スー…と可愛らしい寝息が聞こえてきた。
「(いずれ必ずゴンと再会する…家族との関係を見直す………そして、ずっと消えない"違和感"の正体にたどりつく。その前に………)」
キルアは畳の上で寝返りを打つ。
「(オレはこの世界でどう生きていくか…)」
めぐみんに引き止められたあの時、少しだけなら立ち止まっても良かったかもしれない。少しだけならこの世界の仲間達に正直な想いをもっと伝えても良かったかもしれない。けれど、どんなに後悔してもあの時にはもう戻れないのだ。
「(だからオレはオレの明日を生きなきゃな)」
新たな一日を生き抜くための力を蓄えるように、キルアもゆっくりと目を閉じ、穏やかな眠りに身を委ねた。
***
「もう行くのかね?」
「はい」
「もっとゆっくりなさったらいいのに…」
「どーかお気遣いなく」
翌朝、玄関前にて。
ひょいざぶろーとゆいゆいは、娘を救ってくれた少年との別れを惜しんでいた。
「さて、キルア君はこれからどうするつもりなんだ?」
「ゆんゆんがもうすぐ里を発つそうなんで、こめっこと一緒に見送る予定です。でもそっから先はどこ行くか決めてないから、旅しながら考える感じかな」
「もし旅に疲れたらいつでもうちに来てくださいね?ここを
「今ワシはDIYに凝っていてな。キルア君が次来るまでに君用のリクライニングチェアでも作っておこう」
「はは…どうも」
「お兄ちゃん早く行こ!」
苦笑するキルアの袖口をこめっこがちょいちょいと引っ張る。
「おう、分かった分かった!それじゃオレはこれで。お世話になりました」
こめっこと並んでゆんゆんの家に向かう少年を見送った二人はほっと息を吐く。
「行ったか」
「行きましたね」
どちらが吐き出したともつかないため息が、静かに重なった。ばつの悪い、しかし安堵したような笑みを二人して零す。
「間違いない……めぐみんが手紙で書いていた新たなライバルにして仲間というのは間違いなくあの子のことだろう」
「ええ、私もそう思います」
ひょいざぶろーの言葉にゆいゆいも相槌を打つ。
「アクセルの街から来た、銀髪、めぐみんより一つ年下、とても強い、ちょっぴり生意気だけど結構優しい…ドンピシャですものね」
二人はめぐみんからの手紙で、彼女がアクセルの街で無事パーティーを組むことが出来たのは知っていた。
ドMで世間知らずだけど、強力な攻撃にも耐える勇敢なクルセイダー。
ドジでお金に汚いけど、酷い怪我や呪いも治す女神のようなアークプリースト。
スケベでノンデリだけど、トリッキーな立ち回りを得意とする聡明な冒険者。
書かれていたメンバーの特徴をまとめると大体こんな感じだったろうか。色々と残念な所はあっても根は悪い人達ではないというのは何となく……そう何となく伝わる。
そしてパーティーメンバーではない仲間もいるという話も聞いていた。
「あの爆殺魔人もぐにんにんを討伐するほどの子だとは思わなかったが…」
ゆんゆんもいたことに加えて色々と有利な条件が重なったおかげで倒せただけだと本人は謙遜していたが、それでも紅魔族のアークウィザード達が何度も取り逃してきた相手を、冒険者になって日の浅い子供が打ち倒したというのはとんでもない快挙だ。
「本当に…」
ひょいざぶろーは、うーむ…と唸って腕を組む。
「あの子は何者なんだろうな?」
本当に同じ世界の人間なのか?……そんな紅魔族基準ですら馬鹿馬鹿しいと一笑に付されそうな疑問さえ湧いてきてしまう。
すると妻から思わぬ答えが返ってきた。
「あら、キルアさんはきっとどこかいいとこの御曹司だと思いますよ」
「何!?」
「ご実家は家業を営んでるらしく山一つを持ってて、執事さんのいる屋敷で暮らしていたとか…」
「母さん!それを何故早く言わん!?」
ひょいざぶろーは色めき立つ。どこかいいとこの御曹司というならば、もっと親交を深めておけば商売を拡げるチャンスだったかもしれないのに。
「あら、あなた…?大方キルアさんとのコネを深めれば商売を大きく出来るかもとかそんなこと考えてらっしゃるんでしょうけど、キルアさんがあなたの作る魔道具に微妙なリアクションだったことをお忘れではなくて?」
「むぐっ…!」
痛い所を突かれ、ひょいざぶろーは肩身が狭そうに縮こまる。
「ゴホンッ!……まあとにかくだ!」
彼はわざとらしく咳払いし、話題を変える。
「あの子がめぐみんの仲間だというなら、何故ワシがめぐみんの話をしても何も言わなかったのかそれがわからんな。何か事情があるのやもしれん」
「アクセルからわざわざこの辺の森まで来たというのも不思議ですしね」
「ああ…」
ひょいざぶろーは眉間にしわを寄せて考え込んでいる。
「もしや、めぐみんや他の仲間との間に何かあったのかもしれない。めぐみんの親として、大人として、彼に聞きたいことは山ほどあるが………」
そんな強張った夫の肩に優しく手を添えるゆいゆい。張り詰めた緊張が緩やかに解けてゆく。
「子供達のナイーブな世界に大人が首を突っ込むなんて野暮ですからね……ここはめぐみんとキルアさんを信じて見守りましょう。二人共賢くて優しい子なんですから、いつかきっとお互いに納得のいく
「うむ、そうだな……ワシら大人に出来るのはあの子達のことを信じて待つ、ただそれだけだ」
夫婦は小さく頷き合って、我が家の敷居を跨ぐ。
冒険に疲れた子供達をいつでも迎え入れられるよう、この家から温もりを絶やさぬことを心の中で誓って。