この素晴らしい世界にゾルディック家三男を!   作:カトタンバ

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1話目を投稿した日がキルアの誕生日だったと後になって知りました…。


第2話「カエル ✕ ハ ✕ クエル」

 キルアの世界における「ハンター」の定義。

 

 それは怪物・財宝・賞金首・美食・遺跡・幻獣など、稀少な存在を探求することに生涯をかける者達の総称である。

 

 プロのハンターの資格を得るには、超難関とされるハンター試験を突破しなければならない。その合格倍率は数十万分の一とも、はたまた数百万分の一とも言われている。

 ハンター試験に合格しハンターライセンスを得た者は、民間人入国禁止の国の90%および立ち入り禁止区域の75%の進入が許される。また、公的施設の95%を無料で利用できる他、金融機関から一流企業並の融資を受けられる。

 

 ──ハンターとはそれほどの絶大な特権を有する存在なのだ。

 

 

「………キルア、確かに胸躍る設定ではありますが、嘘を吐くにしても話をあまりに盛り過ぎですよ?自分を女神とか言ってるアクアと同レベルです」

 

 

 めぐみんがキルアを心底哀れむような目で見る。

 

 

(なぁん)でよォ!?私はその子と違って嘘なんか吐いてないわよ!」

 

「オレだって事実しか話してねーよ!そこの胡散臭い女と一緒にすんな!」

 

 

 アクアとキルアが仲良く吠える。

 

 

「まあ、お前ら落ち着けって。そんでキルアが住んでた地域(・・)では、そのハンターライセンスってのは盗まれたり偽造されたり大変なんじゃないのか?そんなチートアイテム誰もが欲しがるだろ」

 

 

 カエルの唐揚げを噛みちぎるカズマが話の続きを促した。今の所、彼はキルアの話を信じてくれているらしい。

 試験の課題の一つとして「スシ」という料理を作れというものがあったことを話した時、カズマの物腰が変わった気がする。

 

 

「(ありゃカズマも何か隠してんな…別にいいけど)」

 

 

 ちなみに「他の世界から来た」と言ったら、色々と面倒なので「別の地域」とこの場では説明してあるが、その前提に無理があろうともカズマは受け入れてくれているようだ。

 

 

「なんかあらゆる偽造を防ぐ仕組みが施されてるから取得した本人以外には使用出来ないんだってよ。それでも他人のを欲しがる奴が後を絶たないらしい」

 

 

 そして売却すれば七代は遊んで暮らせるほどの莫大な金額が手に入るということを話すと、

 

 

「いいわね、それ!そのハンター試験に私が合格したら、ライセンス売って大儲けしてやるわ!その後はずーっとシュワシュワがぶ飲みライフ!!」

 

「…まああんたはそれがいいと思う(こいつライセンスすぐに失くしそうだし)」

 

 

 キルアも唐揚げを一口かじってみた。思いの外美味しい。

 幼い頃サバイバル術を教わった際にカエルの調理を教わったこともあるが、あくまで腹を満たして栄養を摂取することだけを考えた食事でしか無かった。

 一方、こちらは鶏肉のようなさっぱりとした味わいがある。これなら幾らでも食えそうだ。レモンが無いのが実に惜しい。

 

 

「オレのことはもういいから、めぐみんのその眼帯が何なのか教えてくれよ。もしかして目を怪我でもしてんのか…?」

 

「怪我してるんならアクアに治してもらえよ。こいつ回復魔法だけは得意だからさ」

 

「"だけ"って何よ!」

 

 

 憤慨するアクアの(クラス)はアークプリースト。回復魔法に特化した上級職で、あらゆる怪我を治癒することが可能である。

 

 

「フッ……!これは強大なる我が魔力を抑える為のマズィックアイテム!|外されれば、この世に大いなる災厄がもたらされるあろう……!」|

 

 

 カズマはごくりと唾を飲む。

 

 

「封印みたいな物か?」

 

「まぁ嘘ですが。ただお洒落で着けてるだけで……」

 

 

 虚な眼差しを浮かべて手を動かそうとしたカズマに先んじて、鬼のような形相のキルアの手が眼帯に伸びる。

 

 

「……あうっ、ごめんなさい!引っ張らないでください!やめっ、やめろォっ!!」

 

「嘘吐きはてめぇの方かよ!ちょっと心配して損したわ!」

 

「後ついでに説明しておくとね…」

 

 

 アクアは眉一つ動かさず口を開く。目の前で繰り広げられるお子様同士のじゃれ合いを気に留める様子もない。

 

 

「彼女達紅魔族は名前の通りの赤い瞳が特徴的で、生まれつき高い知力と魔力を持ってるわ。大抵は魔法のエキスパートで、皆が変な名前を持ってるのよ」

 

「別にこいつの名前が変とは思わねぇけど…」

 

「おお、キルアはわかってますね!」

 

 

 キルアは己の記憶の中にある「変な名前のヤツ」というリストを脳内で広げてみる。

 アモリ、イモリ、ウモリ、ボポボ、ボノレノフ=ンドンゴ……こいつらより、めぐみんの方が名前としてよっぽどまともだろう。

 

 それはそれとして、

 

 

「お前が魔法のエキスパートなんて生意気だっつーの!」

 

 

 伸び切った眼帯をキルアがその場で放すと反動で元に戻る。バシィィンッと小気味良い音を立てて。

 

 

「痛ったァァァァ!?目がぁあああああッッ!!」

 

「それ俺がやりたかった…」

 

「…え?」

 

 

 カズマさんのS心丸出しな一言に引く女神であった。

 

 

 

***

 

 

 

 

「ではキルア、この私が魔法のエキスパートだという所をしっかり見ていてくださいね。未だ冒険者登録も出来ていない鼻垂れ坊やには刺激が強いかもしれませんが」

 

「へいへい」

 

 

 ここはアクセルの街外れにある草原。

 めぐみんの「我が魔法の力を疑うならその目で見てもらおうじゃないか!」という提案、否、厳命によりキルアは彼女達のクエストに同行することになった。

 

 

「言っとくけどオレはあくまでこいつの魔法とやらを見るだけだからな。お前らのクエストを手伝うつもりはねぇから」

 

「別にいいわよ?たかがカエルだし」

 

「そのカエルに前回パックリいかれたのは誰だったっけか?」

 

 

 不貞腐れた顔のカズマが見つめる先、そこにはカエル──ジャイアントトードが上半身をプクプク膨らませて佇んでいた。

 

 

「(何つうか名前まんまだな…)」

 

 

 ジャイアントトードの特徴は、全長3メートルを超える大きさのカエルということ。ただそれだけだ。

 キルアからすれば何の面白みもないデカブツでしか無いが、それでもカズマからすれば十分に脅威らしい。先程から顔がやや引きつっている。

 

 

「爆裂魔法は最強魔法。その代わり魔法を使うのに結構な時間が掛かります。私が準備を整えるまで、カエルの足止めをお願いします」

 

 

 そう言って杖を構えるめぐみん。

 

 すると、逆方向からもう一匹のカエルがこちらに向かって来ていた。どんどん近付いてくる。

 

 

「……二匹同時か。魔法で遠い方のカエルを標的にしてくれ。近い方は俺達が何とかする」

 

「はい!」

 

「おい、アクア。お前もたまには元なんたらの実力を見せてみろ」

 

「元って何よ!私は現在進行系で女神よ!」

 

「(こいつら大丈夫かねぇ…)」

 

 

 あくびを噛み殺してぼんやり眺めるキルア。早く帰りたいからさっさと魔法を見せてほしい、と口に出しそうになる。

 

 

「打撃系に強いカエルだけど……!こうなったら女神の力を見せてやるわ!!」

 

 

 アクアは杖を構えると、ジャイアントトード目掛けて勢い良く走り出した。

 

 

「はあああ!震えながら眠るがいい!」

 

「ん?」

 

 

 キルアは彼女から"何か"を感じ取る。

 

 

「ゴッドレクイエム!……ゴッドレクイエムとは、女神の愛と哀しみの鎮魂歌!相手は死ぬ!」

 

「何だ、ありゃ!?」

 

 

 杖の先端から迸る眩い閃光。ただならぬ力にキルアは、気怠げな姿勢を崩し、身構え、凝視する。目が離せない。

 

 

「(これは念とは全く違う……でも何か凄い力なのは間違いない!いけるぞ!)」

 

 

パックリ

 

 

「…………は?」

 

「さすが女神、身を呈しての時間稼ぎとは」

 

 

 アクアはジャイアントトードに頭から飲み込まれた。敵に一切のダメージを与えることなく。

 

 キルアの目が点になる。……あの強そうな力は何だったんだ?

 

 一方、このまさかの事態にカズマはというと全く動じていない。おそらくアクアがこうなることなど分かりきっていたのだろう。

 彼女を少しばかり見直しかけていたキルアとは対照的な姿だった。

 

 

「まぁ………アクアはこんなもんだろうな」

 

 

 思わず身構えてしまったのを誤魔化すようにキルアは俯く。恥ずかしすぎて、穴があったら入りたい……。

 

 

 やはりこいつらに着いてきた所で面白いものなんて見れないか。そう思っていた矢先のこと、

 

 

「うっ……何だっ!?」

 

 

 突然、背後から突風が吹いて身体がよろめいた。

 

 振り向くと、めぐみんの杖の先端が光り輝き、周囲の空気がビリビリと震えている。

 

 

 

 

「──黒より黒く、闇より暗き漆黒に、我が深紅の混淆を望みたもう…」

 

 

 

 

 空気が震える中でも、めぐみんの詠唱がはっきりと聞こえる。

 

 そこでキルアは我が目を疑う。

 

 彼女の足元に炎のような、紅蓮の陣が浮かびあがった。

 彼女が掲げる杖の先端には、闇色の奔流が螺旋を描きながら集束されゆく。

 

 

「──覚醒の時来たれり。無謬の境界に落ちし理。無行の歪みとなりて現出せよ!」

 

 

 その一瞬キルアは強大な念能力を幻視(よかん)し、"凝"で見極めようとする。

 凝とは、体内のオーラの何割かを体の一箇所に集めて強化する技術。目にオーラを集中させれば、念能力を視認することが可能となる。

 祖父ゼノ=ゾルディックの放つ『龍星群(ドラゴンダイブ)』のような、一握りの達人が数十年の研鑽を経て至る、神業に通ずる「何か」を本能的に感じ取ったが故の行動だった。

 

 

「(いや、違う!これもあくまで念とは別の力だ…)」

 

 

 キルアはすぐに思考を切り替える。目の前のこれは決して念能力ではない。当然ながら、凝など使わなくても問題無く一部始終を目に収めることが出来る。

 されど、キルアの知る念能力の中でも最上級の大技に匹敵する力を持つことは疑いようが無かった。

 

 

「──踊れ、踊れ、踊れ……我が力の奔流に望むは崩壊なり。並ぶ者なき崩壊なり。万象等しく灰塵に帰し、深淵より来たれ!」

 

 

 集束した闇の奔流は今や、鳴動を伴って更なる次元へとその力を昇華させつつあった。

 キルアを貫く全身を突き抜けるような重厚感。神聖にも邪悪にも映り、神々しさすらも感じさせるその光景に、彼のこめかみを一筋の汗が伝う。

 

 自分よりも小柄な背丈の少女。しかし、その背中はあまりにも大きく見えて……。

 

 

「──これが人類最大の威力の攻撃手段!これこそが究極の攻撃魔法!」

 

 

 めぐみんは高く高く、解き放った。この世を遍く焼き尽くさんとするかのように。

 

 

 

 

 

 

「エクスプロージョン!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 少女の叫びが魔力を解き放つ。

 

 それはさながら極小の太陽を地上に生み出したかの如き大規模現象。

 一筋の劫火が大地に炸裂した刹那、強烈な熱波とそれに追随する爆風が草原を駆け抜けていく。

 

 

「「ぅぅ~~っ!!」」

 

 

 カズマ、そしてキルアは声にならない悲鳴をあげると地面に蹲り、襲い来る爆風と地響きに耐える。

 

 

 

 全てが収まった時には、地面には目算で直径20メートル以上のクレーターが発生しており所々ガラス化をも引き起こしている。

 言うまでもなくジャイアントトードはこの世から消え去っていた。

 

 

「すっげえ……これが魔法か!」

 

 

 静寂が訪れた草原にカズマの感嘆の声が響き渡る。一方のキルアは声一つ出せない。

 

 

「(これが、これが、めぐみんの力………いつかオレにもこんな究極の力が)」

 

 

 心ここにあらず。それが今のキルアの精神状態を表すに相応しい言葉だろう。しばらくは誰かに話しかけられても気付かないに違いない。

 キルアの心は今や爆裂魔法に支配され尽くしていた。不覚にもめぐみんの魔法に魅せられてしまったことへの悔しさなど彼の中には微塵も無い。

 

 少年の胸中にあるのは純然たる情景、ただそれだけだった。

 

 

 

 のそのそっ……ゲコッゲコッ……

 

 

 

 ここでカズマは背後から嫌な音を耳にする。

 

 彼が振り返ると、めぐみんが立つ場所の近くの地面が盛り上がり、新たなジャイアントトードが這い出て来た。大爆発の衝撃で目覚めたのかもしれない。

 見渡す限り水場もない草原で、このカエル共はどうやって乾燥を免れ生息できているのだろうとカズマは思っていたが、地中に潜ることで水分を得ていたらしい。

 

 とはいえ、ジャイアントトードの動きは緩慢。

 めぐみんにはあのカエルから距離を取りつつ、また先程の爆裂魔法で消し飛ばしてもらえばいい。

 

 

「めぐみん!一旦離れて……」

 

 

 カズマは彼女に指示を出そうとするも、

 

 

「……え?」

 

 

 ドサリとめぐみんが倒れた。

 

 

「ふっ…我が奥義である爆裂魔法は、その絶大な威力ゆえ、消費魔力もまた絶大。……要約すると、限界を超える魔力を使ったので身動き一つ取れません。近くからカエルが湧き出すとか予想外です。やばいです!食われます!すいません、ちょ、助け……あっ……!?」

 

 

「めぐみーん!!」

 

 

 補食されためぐみんに、カズマが悲痛な叫びをあげる。

 

 

 

 

 

「ハッ!?」

 

 

 

 

 

 夢から覚めたような心地で、我に返ったキルアが見たもの。

 それはアクアに続いてめぐみんまであのカエルに食われた姿、そして自分に頭を下げるカズマの震える体だった。

 

 

「すまんキルア、どうか俺に力を貸してくれ!後で報酬をお前にも分けるから!」

 

「……………。」

 

 

 キルアとしては言われるまでも無かった。

 別に彼らの仲間になるなどと言った覚えはない。それでもここで見捨てていくなど寝覚めの悪くなるようなことが出来るはずもない。

 

 

「……わかった。カズマはアクアの方を助けてやってくれ。オレはめぐみんをあのカエルの口から引きずり出す」

 

 

 本音を言えば自分一人で終わらせた方が手っ取り早いのだが、そこまでカズマを甘やかしてもいいことはないだろう。

 

 

「(それにめぐみんを助けて恩を売れば爆裂魔法を教われるかもしんねぇけど、逆にアクアを助けたらアクシズ教とやらに勧誘されそうで面倒だし……)」

 

 

 こうして、異界の少年は着々と“この世界”に溶け込んでいくのであった。




キルアも何だかんだそういうのに憧れる少年だと思っています。
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