この素晴らしい世界にゾルディック家三男を!   作:カトタンバ

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第3話「テンショク ✕ ニ ✕ テンショク」

 アクセルの市街地を包む夕焼けは、まるで古い羊皮紙に滲んだインクのように、重く、そして物憂げな色彩を帯びていた。

 家路を急ぐ人々の靴音も、街角から聞こえる露天商の喧騒も、それら日常の全てが夕日のヴェールに覆い尽くされ、どこか非日常的な風情を醸し出している……。

 

 

 

 

 

「もうどこのパーティーも拾ってくれないのです!荷物持ちでも何でもします!お願いです、私を捨てないでください!」

 

 

 ──街中に響き渡る少女の哀願は、己を背負って歩く青年に向けられたもの。

 

 

「やだ!?あの男、あの小さい女の子を捨てようとしてる…」

 

「隣にもなんか粘液まみれの女の子を連れてるわよ」

 

「弄んで捨てるなんて、とんだクズね。………見て!女の子二人だけじゃなくて男の子までヌルヌルよ!?」

 

「一体どんなプレイをしたのかしら、あの変態……」

 

 

 実際、今はこの黄昏時の情緒ある街並みに似つかわしくない非日常的な光景が見受けられ、道行く人々は奇異の目を向けていた。

 

 

「あのクソガエル……いつか絶滅させてやる!」

 

 

 現在注目の的になっている一人、ヌルヌル状態の少年は憮然と独り言ちる。

 元々釣り目なのにもかかわらず、怒りのあまり異様に目が吊り上がっていた。

 

 

 この銀髪ヌルヌル少年ことキルア=ゾルディックが何故このような惨事に陥っているのか、それを語るには少々時を遡らねばならない。

 

 

 彼が協力する羽目になったジャイアントトードの討伐クエストで一体何が起きたのか?

 

 

 

***

 

 

 

「カズマはアクアの方を助けてやってくれ。オレはめぐみんをあのカエルの口から引きずり出す」

 

 

 言うや否や、駆け出したキルア。

 

 ──さながら、その動きは翔ぶ影。

 

 カズマが返事を口にしようとした時、ジャイアントトードが身構えようとした時、既に彼は移動を完了していた。

 標的(カエル)の頭部に乗り、蝦蟇口から突き出る哀れな少女の足に触れられる位置に陣取っている。

 

 

「うわっ…息からしてくっせえな」

 

「ゲッ、ロッ!?」

 

 

 恐怖の欠片もなく只々不快を示す声が自らの耳に届いた時、ようやくこの大ガエルは理解する。……ちっぽけな獲物にしか見えない人間の子供が、己の身体を平気で足場にしていること。

 

 そして、

 

 

「おう。今助けっぞ、めぐみん」

 

「ゲコッ…ゲッ、ゲェェェェェエエェェ!!?!??」

 

 

 

 

 ──ただ手先の爪で一突きしただけで容易く己の生命機能を終わらせられることを。

 

 

 

 

「ちゃんと脳みそまで届いたみてぇだな」

 

 

 ジャイアントトードの両目の間にある頭骨を、キルアは指一本で刺し貫いて見せたのである。

 

 

「……あ、あいつ一体何なんだよ?どうなってんだよ?」

 

 

 役割分担を言いつけられ、ジャイアントトードが地に倒れ伏す姿を目撃するまでの時間…僅か数秒。カズマは微動だに出来なかった。

 たった数秒の間に起きた出来事の一部始終を理解することに彼は知らず知らず全神経を集中させていた。

 

 絶命し目玉が飛び出たカエルの口からめぐみんを引っ張り出すキルア。

 

 

「うぅ…我が爆裂道は………永遠に…ふ・め・つ」

 

 

 何やらうわ言を口にしているが、命に別状はなさそうだ。キルアは鼻を鳴らす。

 

 

「おーいカズマ、こっちは終わったぜ?そっちも早く助けてやりなよ」

 

「………そうだった!待ってろアクア!」

 

 

 我に返ったカズマは剣を振りかざし、もう一匹のジャイアントトードへと向かう。

 

 

「(まあ、これくらいの雑魚ならカズマでも時間かけりゃ何とかなるだろ)」

 

 

 キルアから見てジャイアントトードの強さは、せいぜい元いた世界のグレイトスタンプと互角といった所。立ち居振る舞いからしてカズマは戦いに関してはずぶの素人のようだが、それでも焦らず慎重に攻撃すれば彼の力でも何とかなることだろう。

 あのカエルは今口が塞がっているから、いきなりカズマが飲まれる心配もない。

 

 

 そのようにキルアが楽観的に考え、鼻をつまみながらめぐみんの被害状況(ヌルヌルぶり)を確認していた時……辺り一帯の地面に異変が起きる。心なしか地盤そのものが軽く揺らいでいるような気さえした。

 

 

「おいキルア…これってまさか!?」

 

 

 ジャイアントトードに背中からチクチクと剣を刺していたカズマの顔が、見る見る内に青ざめていく。

 

 

 まあ無理もないだろう。………今自分が必死の思いで弱らせているのと同じ化け物ガエルが、あちこちから数え切れないほど湧いてきているのだから。

 

 

「カエルの群れってわけだな。十匹、ニ十匹…いや、もっといるか」

 

「数えてないで早く逃げるぞ!今こいつの口からアクアを引っ張り出せそうだから、お前はめぐみん連れて先に行け!」

 

 

 見れば、カズマが対峙していたジャイアントトードはようやく弱って身動きが取れなくなりつつある様子。

 口から見え隠れするアクアの足をカズマは力任せに引き抜く。すると、精も根も尽き果てた顔の女神がドバっと外界に身を顕にした。

 そしてカズマが彼女に肩を貸して立たせようとした時、

 

 

「あのさカズマ、ちょっとめぐみんとアクアを見ててくんない?あ、そっちのカエルにはちゃんとトドメ刺しといて」

 

「…え!?お前はどうすんだ?」

 

 

 困惑するカズマをよそにキルアはジャイアントトードの群れに向けて歩を進める。気楽な散歩の最中とでも言わんばかりにポケットに手を入れて。

 

 

 

 

「よおカエルくん達…」

 

 

 

 

 まるで親しい友達に話しかけるような気安い口調で語りかける。

 人間(キルア)の言葉の意味を知ってか知らずか、ジャイアントトード達は一斉に彼の方を向いた。

 

 

「下手に散らばったら面倒だからさぁ、まとめてかかってきてよ。まさかこんなにたくさんいて、オレ一人食うことも出来ないなんてこと無いよね?」

 

 

 その言葉に一匹のジャイアントトードがピクリと反応した。ピョンピョン、いやドシンドシンと動き始める。

 更にそれに倣うように他の連中もキルアへと殺到してゆく。

 

 

「………おいおい、大丈夫なのか?」

 

「へーきへーき!まあ見てなって」

 

 

 震えるカズマを尻目にキルアはニヤリと獰猛な笑みを浮かべる。

 

 

 その時、見えない圧がジャイアントトード達を襲った。捕食者に睨まれた被捕食者──それが彼らが本能で察知した自分達の置かれている現状であった。

 本能的な恐怖に抗うように先頭の一匹がキルアに襲いかかる。先程最初に動き出した個体だ。

 

 目と鼻の先、丸飲みにしようと、さらに口を大きく開ける。されど、その顎が憎き人間に届くことはなかった。

 一蹴……。強烈な空気を裂く音と共にその肉体は頭から縦へ、綺麗に割れたからだ。ただの蹴り、と言ってもキルアほどの並外れた膂力と技量ならば、それは容易に柔軟な体皮も頑強な骨格も区別無く破壊する。

 

 ジャイアントトード"だった物"が草むらに崩れ落ちた。

 

 

「はい、まずは一匹目」

 

 

 哀れなカエルは断末魔の叫びすら上げられなかった。

 

 ここにきてジャイアントトード達は悟る。………本能が鳴らす警鐘は間違いではなかったのだと。

 

 

「まだまだ行くぜ!」

 

 

 キルアは敵の群れの中で小刻みな跳躍を繰り返す。ネコ科の動物を彷彿とさせるようなしなやかなステップで。

 

 

 二匹目。背中への膝突きで地面にめり込むほど叩き付けてやった。

 

 三匹目。下顎を蹴り上げて空高くまで打ち上げてやった。

 

 四匹目。バク転のついでに伸びる舌を徹底的に踏み潰してやった。

 

 五匹目は……

 

 

「はいシュートッ!」

 

 

 思いっきり蹴飛ばして他のジャイアントトードにもぶち当ててやった。

 

 

 こうして無力なカエル達は為す術もなく蹂躙され、いよいよ最後の一匹となろうしていた。

 

 

「嘘だろ………キルアの奴、あれだけの数をポケットに手を入れたまま足だけで!?」

 

 

 今やカズマの恐怖はただ図体がデカいだけのカエルではなく、そいつらの命を虫けらのように蹴散らす少年に向けられていた。

 無論キルアがただ者でないのはこの場に来る前に理解していたこと。それでも実際に自らの目でその力が振るわれる様を見ると、筆舌に尽くし難いものがある。

 

 それに──心のどこかで「あいつはまだ子供だから」という感覚があったのだ。

 

 

「ちぇっ、つまんねぇな……ラスト一匹は目をつぶってやってみるか」

 

 

 傷一つ無く、息一つ乱すこと無く、淡々と処理するのにも飽きてきたキルア。

 ここで彼は新たな「縛りプレイ」の条件を思い付く。念を使わない、手を使わない、これだけでは全く歯応えが無かったから視覚も封じてみてはどうかと。

 

 

「まあ楽勝かな」

 

 

 視覚以外の感覚も常人より遥かに鋭敏なキルアにかかれば、これすらも大した縛りにはならない。実際何も無い(・・・・)場所であれば、この三重苦状態でもジャイアントトード如き余裕で狩れたことだろう。

 だが、退屈のあまり集中力を著しく欠いているキルアは重大なことを失念していた。

 

 

「(フィナーレは派手なアクションで決めてやろっと)」

 

 

 そう考え曲芸のように縦横無尽に飛び跳ね、フィニッシュを決めようとした、その瞬間のことである。

 

 

 

 

ズルッ

 

 

 

 

「あっ…」

 

 

 数え切れないほどのジャイアントトードの屍が散乱するこの場には、あちこちに夥しい量の粘液が飛び散っていた。そのせいで草はヌルヌルに塗れている。故に草原のこの一帯は、現在とても滑りやすい状態だった。

 幾らキルアの身体能力が常人離れしているとはいえ、高速で移動しているため足を滑らせた時バランスは大きく崩れる。しかもポケットに手を突っ込んでいるため受け身が間に合わない。

 

 彼が自らの慢心を呪った時、倒れ伏している我が身に生温かい物が巻き付く感触があった。

 

 

「(これって………カエルの舌だよな?)」

 

 

 カエルという生き物は長い舌を持ち、それを瞬時に伸ばして狙った獲物を捕食する。超巨大版であるジャイアントトードもまた例外ではない。

 

 

 

 

パックリ

 

 

 

 

「キルアァアアアアア!!!!!」

 

 

 

 

 ──カズマの絶叫が草原に轟いた時、キルアの視界は暗闇に覆われた。

 

 

 

***

 

 

 

 その後カズマは何とか最後のジャイアントトードを倒し、キルアを助け出したのであった。

 結果的にめぐみんが一匹討伐し、カズマが二匹討伐したことにより、前日にカズマが倒していた二匹も含め、彼ら自身の力で五匹のジャイアントトードを討伐したことになる。ちょうどクエストの達成条件を満たしたと言える。

 

 

「「ああ生き返る〜(カエルだけに)」」

 

 

 大衆浴場の湯船に浸かり、カズマとキルアは異口同音に至福の声をあげる。奇しくも心の声まで一致したのは当人達には知り得ぬことだが。

 

 クエスト終了後、皆で風呂に入ることになった。……流石にカエルの粘液で全身ヌルヌルの人間が三名もいれば、即決したのも頷ける話である。

 (カズマは常々残念がっているが)この浴場には混浴など存在しない。アクアとめぐみんは女湯で体を流している頃だろう。

 

 先程めぐみんが、敢えて道行く人々に誤解を与えるような振る舞いをしたことで、カズマは肉体だけでなく精神的にも疲れ果てていた。

 間違いなく、あれはアクアに勝るとも劣らない地雷女だ。カズマはそのように結論付ける。

 

 やっと彼女達から離れて一息付けた所、隣でくつろいでいたキルアが話しかけてきた。

 

 

「なあカズマ、風呂上がったら一緒にギルド行く約束忘れんなよ?金が手に入りゃオレも冒険者の仲間入りってわけだ」

 

 

 斜に構えた物言いだが、その目は輝きを隠せていない。遠足前日の小学生のような目の輝きを。

 

 

「忘れるわけねぇだろ。俺にとって初めてのクエスト達成報告なんだからな」

 

 

 苦笑しつつカズマはほっと息を吐く。爆裂魔法の時といい、やっぱりこいつも何だかんだ微笑ましい男の子(ガキンチョ)なんだなと。

 

 

「(こうやってガキと一緒に風呂入ってると、昔弟と風呂入ってた時のこと思い出すなぁ…)」

 

 

 カズマ、もとい佐藤和真が日本にいた頃は家族と共に暮らしていた。家族構成は両親および弟…つまり四人家族。

 両親も弟も、学校をサボって引きこもっていた自分に鷹揚に接してくれたものだった。こんな甘ったれた自分に。

 今思えば、自分は人生の最後まで家族みんなに心配をかけていたように思う。せめて最後に「ごめん」と「ありがとう」を伝えたかった……。

 

 

「(もう一度元の世界に行って家族に会えたらいいのにな……)」

 

「んで、冒険者登録ってどんな感じなんだ?何か儀式的なことでもやんのか?」

 

「……………。」

 

「カズマ…?」

 

 

 虚空を見つめたまま返事を寄越さないカズマに対し、キルアは訝しげに問いかける。

 

 

「………冒険者登録だろ?別に儀式なんて大層なもんねーよ。一言で言うなら、お役所の手続きだな。あれは」

 

「ふーん、もっと王道ファンタジーな感じだと思ってたのに」

 

「この世界(・・)にそんなキラキラしたイベント期待するだけ無駄ってもんさ」

 

 

 

 

 ──キルアも本来はこの世界の住人ではない。

 

 

 

 

 カズマは薄々その事実を察していた。

 

 

 

***

 

 

 

「では冒険者カードについてご説明します」

 

 

 カズマから受け取った金でキルアは無事に冒険者登録を果たした。

 

 冒険者の諸々について説明するのは、冒険者ギルドの受付嬢を務めるルナ。スタイル抜群の金髪女性だ。

 噂によれば、彼女は現在恋人募集中らしい。もし兄貴(ミルキ)を紹介してあげたら、どんなリアクションを見せるだろうか?

 ……キルアは頭の片隅でぼんやりと意地の悪いことを考える。

 

 

「このカードは冒険者の身分証明書となる物であり、必ずこれを保管してもらうよう義務付けられています。原則として、このカードがなければクエストを受けることはできません。本来は貴方のように無資格で他のパーティのクエスト攻略に参加するのもあまり推奨される行為では無いのですが…」

 

「お姉さんがオレに無料(タダ)で登録させてくれたら、そんなことしなかったんだけどね?」

 

 

 ルナはキルアの顔を一瞥するもすぐに視線をカードに落とす。生意気な子供の言い分に付き合うつもりはないらしい。

 

 

「このカードには様々な情報が記載されており、冒険者様の氏名、レベル、職業、ステータス、所持スキルポイント、習得済みのスキル、習得可能なスキル、討伐モンスターの名称および数などが表示されます。また、表示される記録は自動で更新されるようになっております。カード取得前に貴方が倒したとおっしゃるジャイアントトードの数も表示されますので、討伐が事実と証明されれば追加報酬が支給されるかと」

 

「マジ!?スッゲー便利じゃん…(ハンターライセンスもこれくらい便利ならいいのにハンター協会はだらしねぇな…)」

 

 

 その後もルナの説明は続く。

 

 

「ではキルア様、こちらの水晶に手をかざしていただけますか?」

 

 

 そう言って彼女が見せたのは、歯車のような摩訶不思議な機械が取り付けられた水晶玉だった。

 

 

「これで貴方のステータスが分かりますので、その数値に応じてなりたい職業を適当に(・・・)選んでくださいね!(まあ、どうせ子供だから大したことないでしょ。生意気の報いを受けるがいいわ…)」

 

「(この女、考えてることめっちゃわかりやすいな)」

 

 

 自分に向けられる不機嫌な視線など意に介さず、キルアは手をかざす。

 すると水晶は眩い光を発し、水晶を取り囲む機械が動き始めた。そして、下に置いていた冒険者カードに光線を放ってこの世界の文字を記していった。

 

 

「完了のようですね。あら…?」

 

 

 ここで彼女は瞠目する。

 

 

「なっ…何ですか、このステータスはっ!?」

 

「へへへ…」

 

 

 もしも今が、閉館間際の人が少ない時間帯でなければ、大騒ぎになっていたに違いない。

 僅かながら同室に居合わせていた冒険者達が、一体何事かと受付のルナに目を向ける。

 

 

「……筋力と俊敏性がとんでもなく高い数値じゃない!こんなの見たことないわよ!?知力と器用さも相当な数値だし……坊やは一体何者なの?」

 

 

 驚愕のあまり敬語を忘れてしまう彼女の姿にキルアはほくそ笑む。どんなもんだと。

 

 

「あ、でも魔力の数値は最低ランクですね。残念ながら魔法職になるのは少し厳しいかと…」

 

 

 安心したかのような口ぶりでルナは彼の弱点をあげつらう。すっかりビジネスライクな所作を取り戻していた。

 

 

「ちぇっ…」

 

 

 キルアは少なからずショックを受ける。

 

 この世界について最初に調べた時は、何より魔法が存在するという事実にワクワクしたものだ。異世界ファンタジーの醍醐味といえば、やはり何を置いても魔法を使うことだろう。

 『ハリー・◯ッター』『ドラ◯ンクエスト』『◯ァイナルファンタジー』に出てくるような魔法には誰だって一度は憧れたことであろうが、その憧れを現実で叶えられる大チャンスだったのだ。

 それなのに自分には魔法使いの素質は皆無だと早々に突きつけられてしまった。無念極まりない。

 

 

「でもキルア様にオススメの職業がありますよ。貴方のステータスを最大限に活かせる上級職です」

 

「ホント!?」

 

 

 その言葉にキルアは少しだけ機嫌を直す。

 ファンタジーといえば魔法だけではない。剣や弓矢を扱ってカッコ良く戦うのだって立派なファンタジー世界の戦士ではないか。しかも「上級職」という響きには絶妙にそそられるものがある。

 

 ルナは笑顔を浮かべてキルアの適職を告げた。一切他意の無い笑顔を浮かべて。

 

 

 

 

「はい。盗賊の上級職──アサシンです」

 

 

 

 

〝それがいい。お前は根っからの人殺しなんだから″

 

 

「!?」

 

 

 突然ねっとりとした声で囁かれた気がして、キルアは思わず後ろを振り返る。……そこには誰もいなかった。

 

 

「あの…どうされました?」

 

 

 目の前の少年の奇妙な動作にルナは怪訝な顔をする。

 突然の奇行に加え、その少年の顔色が冴えないものになっていったことで、ルナは心から心配の言葉を口にした。

 

 

「…………。」

 

 

 暗殺者(アサシン)………自分は他の世界でも結局その道を歩まされることになるのか。

 

 

 「(落ち着けオレ……これはあくまで冒険者としての職業なのに何を焦ってやがる?)」

 

 

 頭ではそうと分かっていても、冒険者カードが指し示す己の道は、まるで世界を跨いでも変えられぬ宿命を暗示しているようで。

 

 

 ──糞食らえだ。オレは違う生き方をすると決めたんだ。

 

 

「ねえ、他にはオレに向いた職業無いの…?」

 

 

 声を絞り出した。心に巣食うモヤモヤを吐き出すように。

 

 現在キルアのカードには職業の選択肢が記されているらしく、ルナは再び目を通す。しかし、その表情は芳しくない。

 

 

「そうですね…確かに貴方のステータスならクルセイダーやソードマスターなども、そつなくこなせると思いますが…」

 

 

 彼女は淡々と言い放つ。他の選択などありえないと言わんばかりに。あくまで客観的な視点で。

 

 

「他の職業と比べてもアサシンが貴方に一番向いていると思いますよ。高度な潜伏スキルを以て敵の急所を突くという、慎重さと繊細さを求められる職業ですから」

 

 

 ……もうこれ以上、彼女と話していても埒が明かなさそうだ。

 

 

「貸して!」

 

 

 キルアは彼女の手から引ったくるように冒険者カードを受け取る。この世界における自分という存在(キルア=ゾルディック)の証明書を、素早く、一欠片の余裕も無く。

 

 

 すると山ほどある職業の選択肢の中、一瞬にして彼の目を引く物があった。他のどれよりも。

 

 

 

 彼が指差したのは適職ではなく、天職。

 

 

 

 

「──ハンター」

 

 

 

 

 その単語だけを残して、他の職業名は消えてゆく。

 

 

「ハンター…?あの、ちょっと見せてください」

 

 

 たどたどしい手つきでカードを受け取った彼女は職業一覧を再度見直した。何度も文字の配列を確認している。

 

 

「あ、確かにありますね!でもこんな職業の人は見たことありませんよ?アサシンになれば貴方の適性を最大限に活かせるのは確実なのに、本当にハンターでいいんですか?」

 

「ああ…!」

 

 

 キルアは力強く頷いた。その瞳に一切の迷いはない。

 ハンターとやらの何が彼の心を動かしたのかも分からず、あまりの変わりようにルナは困惑を禁じ得なかった。

 

 

「ハンターというのがどんな特徴を持つ職業なのか、このギルドには一切のデータがありません。以前にこの職業を選択した冒険者がいるのかどうかすら分かりません。……つまり全てが未知の世界ということです」

 

 

 ここでルナは身を乗り出す。あくまで純粋に冒険者の未来を案じているが故に。

 

 

「最終確認ですが、本当によろしいですね?」

 

「もちろんさ…」

 

 

 

 

──未知を追い求めるのがハンターだから

 

 

 

 

 キルアは誓う。

 

 ゴンが父親に再び会える日を夢見てハンターとして生きているように、自分はゴンとの再会を果たすためこの世界でハンターになると。




ハンターは本作オリジナルの職業ですが、アサシンは短編集の『よりみち4回目!』に登場した職業です。
このすば世界にアサシンが存在することを知って、クロスオーバーのキャラとしてキルアを選ぶことを思いつきました。
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