アニメ4期が2027年に放送されることも決まってエクスプロージョン!
この世界において【冒険者】という単語には二つの定義が定められている。
まず一つ目の定義としては、冒険者ギルドに所属している者の総称。すなわち冒険者登録を済ませ、冒険者カードを作成した者全員のこと。
これが最も世間一般に用いられる意味合いだ。
二つ目の定義は、
一度でも自分の目で見た物であれば、縛りなく全てのスキルを獲得できる職業…と言えば聞こえは良いが、ステータス面には何の職業補正もないため、コピー元の本職に出力で並ぶことは困難。
故に器用貧乏の最弱職と蔑む者も少ないという。
「(でもあらゆるスキルを習得可能ってのは、使い方次第じゃ化けそうなんだけどな…)」
この世界の連中は頭が硬い、とキルアは思う。
更に補足すると、神々によって最初に生み出されたこの職業名に因んで、人はいつしか一つ目の定義に該当するような存在を「冒険者」と正式に呼称するようになったのだという。
「(まあ大体予想通りだったけど、紛らわしいにも程があるっつーの。この世界の昔の人は何考えてんだ…)」
以上が【冒険者】についてキルアが調べあげた情報である。先程の会話で浮かんだ疑問は大方解消された。
〝冒険者の場合、まずは誰かがスキルを発動したのを目で見てスキルの使用方法を教えてもらうのです。するとカードに習得可能スキルという項目が現れるので、ポイントを使ってそれを選べば習得完了なのです〝
めぐみんの説明を聞いて、最初は冒険者全般がこのような方法でスキルを習得するものなのかと思った。
だが、それではあれだけ常軌を逸した熱量でカズマに爆裂魔法の習得を推奨していた彼女が、自分に何も言ってこないのは不自然だ。彼女はハンターのスキルにどのような物があるのか、こちらの冒険者カードを見ようとしてきただけだった。
更にその後カズマとクリスのやりとり、盗賊スキルの伝授をこの目で見たことで確信を得る。一連の場面で言う『冒険者』とは単に冒険者ギルドに所属している者を指しているわけではないと。
「それで…?あんたは何でさっきからオレのこと見張ってんの?」
キルアはため息と共にパタンと本を閉じる。口調の気楽さとは裏腹に警戒を滲ませて。
「………え!?あたしがキミのこと見てるのバレてたの?」
薄暗い本棚の影から現れたのはクリスだった。その中性的な顔立ちは驚きに満ちている。
なお彼らが今いるのは、冒険者ギルドの二階に構えられている資料庫。ギルドの職員はもちろんのこと、冒険者でも誰もが立ち入れるのだが、こんな辛気臭い所に好きこのんで入りたがるような物好きはそう多くない。
「
半分ウソだった。
ここでクリスが自分を監視していることに最初から気付いていたのは事実だが、それはキルアが彼女を警戒していたからこそ。無警戒の状態なら彼女の存在に気付けなかったかもしれない。
それほどまでに気配をほぼ完璧に消していた。
「(……これが盗賊職の潜伏スキルの力ってわけか。おそらく中堅レベルの念能力者の"絶"に匹敵するレベル)」
人間の場合は高レベルの敵感知スキル使用者でなければ、潜伏スキルを発動した者の存在を直接的な目視無しで看破することは出来ない。
キルアの場合はスキル無しで成し得たということになるが。
「あたしの潜伏スキルが最初から通じてなかったのキミが初めてかも。すごいじゃない!」
「そりゃどーも」
白々しい称賛には白々しい社交辞令で返し、容赦無くキルアは核心を突く。
「そんなことより、別の世界から来たオレに何か用?
「……………。」
クリスはビクッと震え、キルアの眼差しから目を逸らした。他に人っ子一人いない資料庫が更に静まり返る。
彼女が口を開こうとした、その時…
<緊急クエスト!緊急クエスト!冒険者各員は至急正門に集まってください! 繰り返します。冒険者各員は至急正門に集まってください!>
警報が鳴り響き、受付嬢のルナがアナウンスする声が聞こえた。
階下から不特定多数の人間が騒ぎ立てる声や忙しなく走る音が聞こえる。
「何があったんだろうな?魔王がこの街を攻めに来た…なんてことは流石に無いだろうから、魔王の手下が押し寄せてきたとか?」
「………ねえ、緊急クエストだよ?ダラダラお喋りしてるけどキミは行かないの?」
右頬を掻きつつ、おずおずと尋ねる盗賊クリス。
「もちろん行くよ。そう言うあんたこそ行かないわけ?
「一応冒険者ではあるんだけど、でも今はあたしにも調べなきゃいけないことがあるからね。………もしかしたらキミに関係のあることかもね!」
「あっそ」
「では、クエスト頑張ってくれたまえ!」
ひらひらと手を振り、ウインクと共にクリスは去って行った。数度まばたきする頃には、彼女の気配は消え失せていた。
「さてと…」
キルアは手に取っている本を元の棚に戻し、『冒険者総監 黎明期』と記された埃っぽい本の背表紙を指で軽くなぞる。
「……やっぱオレの冒険者カードはめぐみんに見せなくて正解だったな」
苦笑しつつカードを取り出す。スキルポイントはまだ全然足りないけれど、習得可能スキル一覧の最上段にこう記されていた。
「なあ、めぐみん………オレには──」
***
曇天の下、女神はかく語りき。
「この世界のキャベツは飛ぶわ…。味が濃縮してきて収穫の時期が近付くと、簡単に食われてたまるかとばかりに街や草原を疾走する彼らは、大陸を渡り海を越え、最後には人知れぬ秘境の奥で、誰にも食べられずひっそりと息を引き取ると言われているわ」
「「へ、へえ〜…」」
「それならば、私達は彼らを一玉でも多く捕まえて、美味しく食べてあげようってことよ!」
何だろう。一語一句、理解は出来ても納得は出来ない。
「あのさカズマ、一つ聞いていい…?」
「……おう、いいぞ。俺もキルアに聞きたいことあるけど」
キルアは周りの者達の顔付きを見渡し、消え入るように呟く。
「キャベツって飛ぶのが当たり前だったのか…?」
「………奇遇だな。俺もちょうど同じ質問しようと思ってたとこだ」
正門前。アクセルの冒険者達が数え切れないほど集まっており、期待と不安の入り混じった表情で遥か前方に目を凝らしている。
その先の空にはあるのは、物凄い速度でこちらへ押し寄せてくる緑波帯。さながらイナゴの大群だ。
「「「「「「「収穫だぁああああああああああああああああああっ!!!!!」」」」」」」
「マヨネーズ持ってこーい!」
鈍色の空を見渡す限り覆い尽くすキャベツの大集団は続々と降下。
お祭り騒ぎで冒険者一同が飛び出し、アクアも浮かれる中、ルナは喧騒に負けずに声を張り上げる。
「みなさーん、今年もキャベツの収穫時期がやって参りました!今年のキャベツは調査員の報告によると出来が良く、一玉の収穫につき1万エリスです!」
ここまではキャベツの収穫に関する説明としてそこまでおかしいとは思わない。しかし、
「既に住民の方には避難頂いております。では皆さん、出来るだけ多くのキャベツを捕まえ、この檻の中に納めてください!くれぐれもキャベツに逆襲されて怪我をしないようお願いします!」
「「………これだから異世界は!!!」
緊急クエストが発令された時、ここに来るまで家という家が戸締まりされていたものだから、ついに魔王の軍勢が攻め入ってくるドキドキイベントでも始まるのかと思いきや……現実は非情である。
とはいえ金を稼ぐ絶好の機会なのは間違いない。この世界で未だ懐が寂しいカズマやキルアにとってはまさしく渡りに船。
キャベツを狩らず帰って寝るなんて論外オブ論外と言えよう。
「カズマ、ちょうどいい機会だ。私のクルセイダーとしての実力、その目で確かめてくれ」
ダクネスも当然このクエストに参加していた。
もっとも報酬金よりも、カズマからの評価を得ることを目的としているという側面が強いが。
彼女は自信に満ちた表情で剣を構え颯爽と駆け出す。狙うは羽撃く敵軍。その姿は
一閃。
また一閃。
鋭い斬撃が幾重にも風を切り、その度に美しい軌跡を刻んでゆく。
「………全然当たらないじゃないか!」
驚くべきことに中空を大量に舞うキャベツには一度も当たっていない。どれだけ剣を振っても何故か掠りすらしない。
ある意味恐るべき技巧だった。もはや一周回って、常人には再現不可能な離れ業と言えるのではないだろうか?
「(ふんっ、見かけ倒しな女騎士だぜ)」
ダクネスの痴態を遠目にキルアは内心で失笑を漏らす。
「あぁんっ…見かけ倒しな女騎士と罵られてしまったぁ!」
「…って、あんたは人の心の声が読めるエスパーか何か!?」
他者に心の内を悟らせぬよう戦闘訓練を受けてきたキルアすら、彼女の変態レーダーから逃れることは叶わなかったようだ…。
そんな折、キャベツの大編隊がキルア目掛けて野球の剛速球のように飛来する。
「(とはいえ…)」
"スイッチ"を入れ直したキルアは、己の肘そして手首をゴキリと鳴らし、
「(撃墜
関節を外した両腕をブンッと鞭のようにしならせ、襲い来るキャベツ達を迎え討った。
いつの間にか両手指の血管はビキビキと肥大化し、爪も異様なほど鋭利な形状へと変貌している。彼が幼くして体得した肉体操作だ。
「はい、いっちょあがり〜」
キルアの間合いに飛び込んだキャベツは羽だけを
彼のナイフよりも切れる十爪は正確無比な動きでキャベツを次々と血祭りに上げていった。………キャベツが血祭りとは?
前後上下左右斜め全方位から殺到しようとも、そもそも微かな羽音すら耳で捉えるキルアに死角などという弱点は存在しない。
舞の如く彼が上半身を少し捻るだけで易々と対処され、キャベツの命運は潰えることとなった。
「(何だ、ありゃ!?あいつは阿修羅像かよ…)」
キルアの体捌きは残像をも紡ぎ出す。常人には彼の頭部や腕部が幾重にも分裂したようにすら見える。さながら三面六臂。
先程スティールと共に教わった潜伏スキルで身を隠し機を伺っていたカズマもまたそのクチである。前世の学校の教科書に写真が掲載されていた仏教の守護神像を想起したのも無理からぬ話であろう。
されど、阿修羅の如く猛威を振るう本人は周囲に死屍累々と積み上げられてゆくキャベツの山に目もくれない。
「(こんなのレイザーのボールに比べりゃ止まって見えるレベルだぜ…)」
レイザーも己の放つボールが、まさか異世界のキャベツと比較されるなど夢にも思わなかったことだろう。
しかしながら比較対象が、念能力者の中でも上位の実力者の放つ大砲級の一撃だから見劣りするだけのこと。
アクセルに多くいる駆け出し冒険者達からすれば十分過ぎるほどの脅威。まともに体当たりを食らえば骨折、当たり所によっては最悪の事態もありえるかもしれない。
事実、そこかしこで倒れ伏す者達もいればオロオロと逃げ惑う連中もいる。
また、誰かに投げられたり打たれたりするだけのボールとは一つ明確に異なる点があった。
「キャベキャベキャベキャベッ……」
「こいつら、キャベツのくせして仲間に情報を伝達してやがるのか!?」
それは彼らが意思を持った存在だということである。
最初は一人ポツンと離れた所に立つ子供のキルアを重点的に狙っていたキャベツ達も、彼の力を認識するや否や動きを切り替えたようだ。今はキルアから遠く離れた所にいる冒険者達を率先して襲っている。
野菜に脳みそなんぞ存在しないはずなのに、どうやら下手なモンスターよりも知恵が働くらしい。
「チィッ…」
舌打ちしつつも図抜けた速力と跳躍力を活かしキャベツを仕留め続けるキルアであったが、やはりキャベツの方からこちらに向かってきてくれた時と比べ、能率が落ちるのは免れない。
遠くに一際キャベツが密集しているポイントを見つけ、一網打尽にしてやろうとキルアは考えた。ところが、そこでおぞましいものを目にしてしまう。
「あれは…!?」
「倒れた者を見捨てるなど……出来るものか!」
そこにいたのは鎧が砕け衣服が裂けようとも、仁王立ちで人々の盾となる自己犠牲精神に溢れた女騎士ダクネス。
──否、断じて違う。
「(み、見られている…!むくつけき男たちが私の肌を見て興奮している…!なんという辱め、汚らわしい…!たまらん!!)」
「「((………ただのド変態クルセイダーじゃねーか!!!!))」」
恍惚のあまり蕩けた顔で大量のキャベツに嬲られ続けるドM騎士ダクネスがいた。……いや本当に怖すぎる。
彼女の姿を見守る者達は皆、高潔な騎士道精神の表れと都合良く解釈しており、本心を見抜いているのはキルアとカズマの二人だけのようだ。
「(つーかこの女、鎧が割れるような攻撃を生身でボンボン食らいまくってもニタニタ笑ってられるのかよ!実は念能力者で"堅"が使える……なんてことはないだろうな!?)」
別の意味でもキルアはドン引きする。
念の基本技の中には、無意識に垂れ流しになってしまっているオーラを肉体に留める"纏"、オーラを練り上げ通常以上のオーラを生み出す"練"と呼ばれるものが存在している。
この二つを組み合わせることにより全身を大量のオーラで守り、防御力を飛躍的に高める応用技が"堅"である。
キルアがあのキャベツの集中砲火を一切の身動き無しに全身で受け止めた場合、堅を行ってようやく軽傷に抑え込めるかどうかといった所。
それをダクネスはせいぜい軽く打ち跡が付く程度で持ち堪えているのだ。………日頃から鉄を食っていると言われても正直納得出来てしまう。
「ふふふふふ、あれほどの敵の大群を前にして、爆裂魔法を放つ衝動が抑えられようか………いや、ない!」
反語表現。キルアは後方を振り返った。
「──光に覆われし漆黒よ、夜を纏いし爆炎よ、紅魔の名の下に原初の崩壊を顕現す…」
まただ。まためぐみんが
「(………密集してるキャベツ狙いなんだろうし早く避難しねぇと)」
「──終焉の王国の地に力の根源を隠匿せし者、我が前に統べよ!」
「ダクネスだっけ?あんたも早く逃げなよ」
「いい、恥を承知で頼むっ!私は
本人がそう言うなら、もう行こう。
──この灼熱の輝きを見逃すのは惜しいから。
***
「はい、これ!」
「……………。」
「もしもーし、キルアさん…?」
「えっ?………何?」
アクアがコップを片手にしゃがんでいた。どうやら地面に座って休むキルアに目線を合わせているらしい。
「これお水!あなたも喉渇いてるでしょ?」
「あ、ああ…サンキュ」
とりあえず一口飲んでみることにした。
お世辞にも品行方正とは言い難い彼女だが、どこぞのハンター試験を35回受けたオッサンよろしく飲み物に何かを仕込むような嫌がらせはしないだろう。
「(あのオッサン、今年の試験には来てたっけ?…いや、そもそも何て名前だっけ?………コンパ?テンパ?コテンパン?)」
哀れトンパ…。
「ぷはっ!?うめぇ…!!」
アクアに渡された水は、どういうわけか予想の万倍美味くて一口どころか全部飲み干してしまった。
干上がった大地に雨が吸い込まれるように、乾いた喉を通ってすーっと身体の奥に溶けていく。
「お気に召して頂けたかしら?まあ、このアクア様の花鳥風月で生み出した水なんだから美味しいのは当たり前だけど」
どうやら彼女は宴会芸スキルの花鳥風月で発生させた水を、このクエストに参加した冒険者達に振る舞っているらしい。至る所に、生き返ったような表情で水を飲んでいる者達がいる。
「(さっき酒場でこいつの宴会芸スキルを馬鹿にしたの謝ろっかな…)」
……口に出したわけではないものの、些かの罪悪感が湧いてくる。
「それにしてもめぐみんが爆裂魔法を撃つ度に背負わなきゃいけないなんてカズマも大変よねー。ヒキニートのカズマさんに体力なんか無いでしょうに」
横たわるめぐみんに他の冒険者達が目もくれず思い思いの行動を取る中、ただ一人カズマは彼女に近寄り介抱している。
思いっきり面倒臭そうな顔をしつつも、その小さな体を抱え上げる彼の手付きは優しい。彼女も安堵の表情を浮かべ、彼の背に身を委ねている。
とても出会って二日目の間柄には見えなかった。
「でも私こういうの割と嫌いじゃないかも!なんか『仲間』って感じするじゃない?爆裂魔法で繋がってるって感じ?」
その後の「…あ、もちろん私以外のパーティメンバーは皆女神のしもべだけどね!」というアクアの戯言を聞き流しつつ、キルアはコップを彼女に返す。
「仲間…か」
***
「(キャベツ炒め何皿もおかわりしちまった…オレがこんなに野菜食ってる姿見たら、おふくろなんて泣いて喜ぶんじゃねーか?)」
偏食家キルア=ゾルディックは、不覚にも母親の願いを一つ叶えてしまった。
何故か単なるキャベツの野菜炒めすら理不尽なまでに美味い。キルアの隣でキャベツ料理を口にしているカズマも複雑そうな面持ちだ。
悔しいことにこの世界のキャベツが高値で売れるのは妥当と認めざるを得なかった。
黙々と食事する男二人を尻目に女三人は会話に花を咲かせていた。
「あなた、流石クルセイダーね。あの鉄壁の守りには流石のキャベツ達も攻めあぐねていたわ」
「いや、私などただ堅いだけの女だ。誰かの壁になって守ることしか取り柄が無い」
「アクアの花鳥風月も見事な物でした。冒険者の皆さんの士気を高めつつ収穫したキャベツの鮮度を冷水で保つとは」
「まぁねえ!皆を癒やすアーク・プリーストとしては当然よね」
「めぐみんの魔法も凄まじかったぞ!キャベツの群れを一撃で吹き飛ばしていたではないか!」
「ふふ~ん。紅魔の血の力、思い知りましたか?」
「あんな火力の直撃…食らったことは無い!」
「(あれが直撃しても生きてるって化け物かよ…もしこの女が念使えるようになったら魔王なんて余裕でぶっ殺せるんじゃねーの?)」
爆裂魔法の直撃を受けたダクネスは流石に意識を失うほどの重傷を負ってはいたが、それでもこの上なく幸せそうな顔でアクアの回復魔法を享受していた。
キルアもかつて拷問の訓練を受けてきたことにより痛みへの耐性は高かったが、痛みを感じないわけでもましてや痛みを快感と受け止めるわけでもなく、ただ常人より遥かに我慢強いというだけだ。彼女の感性は一生かかっても理解出来そうにない。
「キルアの超人的な格闘術にも痺れましたねぇ。あなたはあれですか?長年山に籠もって修行したみたいな感じですか?」
「あー、まあ当たらずとも遠からずというか…」
「カズマ、あなたも中々のものだったわよ」
アクアが珍しくカズマを尊敬の眼差しで見つめている。めぐみんも同調した。
「確かに。潜伏スキルで気配を消して、背後からスティールで強襲する…その姿はまるで鮮やかな暗殺者の──」
「いいや、そいつは違うね」
「え…?」
「そこで出す喩えが暗殺者ってやっぱお前センスねーな」
めぐみんの言葉を遮ったのはキルアだった。皿の上の何もない部分にフォークを突き立てながら。
ぶすっとした顔で話に割り込まれ彼女はたじろぐ。何か彼の地雷に触れてしまったのかと己の発言を振り返っても皆目見当も付かない。
アクアとダクネスも目を丸くしていた。
「ふーん、暗殺者じゃなかったら俺は何なんだ?」
カズマが話を振る。食事を取る彼の手は一度も止まっていない。別にこの空気を気にしてはいないようだった。
「うーん…オレはカズマをハンターっぽいって思ったかな。なんか辛抱強くチャンスを待って、いざその時になると獲物を一気に狩る感じがね」
「いいわね、ハンター! カズマ、私の名においてあなたに華麗なるキャベツハンターの称号を授けてあげるわ!」
「おっ!服も緑だしちょうどいいじゃん。いかにも野菜収穫してそう」
「お前らやかましいわ!」
アクアとキルアの頭をその手で盛大にワシャワシャするカズマ。アクアだけでなくキルアも、反発しつつもどこか楽しげだった。
元の賑やかな空気に戻って、めぐみんはほっとする。ほっとしたついでに…
「紅魔族においても随一の私のセンスを馬鹿にした報い、とくと受けてもらおうじゃないか!」
テーブルの上に置いてあった赤唐辛子を、瓶の中身の大部分をキルアの料理にぶち撒けた。
「おわっ…!?テメー何しやがんだ!!!」
「この唐辛子は口から火を吐くほど辛いので、くれぐれもお気を付けになりますよう」
我が名は
「では改めて──名はダクネス。一応、両手剣を使ってはいるが戦力としては期待しないでくれ。何せ不器用すぎて攻撃がほとんど当たらん。だが、壁になるのは大得意だ」
「うちのパーティもなかなか豪華な顔ぶれになってきたじゃない!アーク・プリストの私にアーク・ウィザードのめぐみん、そしてクルセイダーのダクネス。四人中三人が上級職なんてパーティそうそうないわよ!」
今後の苦労を想像したのかカズマはため息を吐いていたが、キルアは実際悪くないパーティだと思っていた。
「(さっきダクネスはその鉄壁の守りによって大量のキャベツ共を安定して引き留めることに成功していた。そこをめぐみんが爆裂魔法で一網打尽にし、ダクネスの負傷も無事アクアが回復した……だから)」
キルアは唐辛子まみれになった料理を一気に口に放り込む。
食えないと言ったらめぐみんに舐められそうだし、数々の拷問を耐え抜いた自分が辛い物を口にした程度で参るはずが無いと思ったからだ。
「(こいつらの能力が上手く噛み合えば、どんな強敵相手にだって勝機が生まれるかもしれない)って…辛ええええええええええええ!!!!!!」
「(異世界の唐辛子って本当に口から火を吐く代物なのかよ…!?俺は手を付けなくて本当に良かった…)」
「あの、キルア…」
キルアが落ち着くのを待ってめぐみんが口を開く。
「な、何だよ…」
「あなたは本当に我々のパーティには入ってくれないのですか?私はあなたにも仲間になって欲しいです」
別人のようにか細い声だった。
「…ああ、何度聞かれても変わんないよ?オレは魔王討伐には全く興味無いからな。今後もずっとお前らと同じクエストを受けていくわけにはいかないんだ。だからお前らの仲間にはなれない……」
「そうですか…」
少女は紅目を力無く伏せる。
「諦めろ、めぐみん。そりゃ俺だって一人くらいはまとも枠のメンバーが欲しいけどよ…」
「まあ、キルアが入りたくないなら強要は出来ないしね。まとも枠はこの女神たる私一人ということで」
キルアがパーティ入りをはっきりと拒絶したからなのか、あるいはアクアの自己評価があまりにも現実とかけ離れていたからなのか、その後は特に会話らしい会話も無く今宵の祝勝会はお開きとなった。
風に揺らぐ木々の音が聞こえるほど、すっかり暗く静かになった通りを皆で歩いていた時のこと…
「ではキルア、こういうのはどうだろうか?」
発言したのは、しばらく何かを考え込んでいた様子のダクネスだった。
「──お前は我々のパーティには入らない。それでも我々と仲間になる、と」
「……………え?」
キルアは我が耳を疑った。意味が分からない。同じパーティでないのに仲間?
「単純なことさ。私とクリスだって別に同じパーティというわけではないが、それでも大切な友であり仲間だ。そういう関係もこれはこれで良いものだと思う」
「お、確かにダクネスの言う通りだな。んじゃキルアも俺らの立派な仲間ってことで!……ちなみにお前がパーティに入りたくない本当の理由がこの駄女神なら、いつでもこいつを解雇する用意は出来てるからな」
「気にしないでキルア…この人ヒキニートだから今時は簡単に解雇なんて出来ないということを知らないの」
そのまま例によってカズマとアクアは喧嘩を始めたようだ。キルアは何だかんだこの二人のこういうやりとりを見るのも割と嫌いではないことに気付く。
そして、
「……まあ宿命のライバルが同じパーティなんてのもおかしいですしね。キルア、これからはライバル兼仲間ということでよろしくお願いします!」
「ああ…こっちこそ」
キルアをまっすぐ見つめる紅目は、暗闇を焼き払わんとするような強い輝きを帯びていた。
──ごめんな、ゴン。オレいつか絶対そっちの世界に戻るから。今は少しだけ……少しだけこいつらと…………
「(ダクネス、いえララティーナ…素晴らしい仲間に
とある女神の独り言。
めぐみんの炎メシのCMが大好きで、動画を何回もリピートしてます。