「フフフ……遂に!遂にこの日がやって来たのだ!!」
大陸中央を治める大国、カルラベル王国。その中心に位置する壮麗な王宮の地下で、国王バノアスは興奮気味に叫んだ。
「えぇ、準備は万全。確実に異世界の猛者を呼び出せます」
バノアスの言葉に、隣にいた司祭が答える。
「呼び出した者が何者であろうと、我らの洗脳魔法があれば問題はございません。必ずや陛下の忠実な下僕となるでしょう」
「太古の昔に滅んだとされる異世界の者への干渉技術……我らが大陸の覇権を握る時が来た!!召喚の儀式を始めよ!!」
バノアスの号令により、部屋の中央に描かれた魔法陣が輝き出す。取り囲む司祭達が手を掲げれば、その光はより一層強まった。
「いでよ、異世界の下僕よ!!」
バノアスの言葉に応えるかのように、魔法陣から光の柱が立ち昇った。やがて、柱の中に人影が見え始める。それを見た全員が儀式の成功を確信した。
「陛下、儀式は成功ですぞ!さぁ、選ばれし強者の主としてお声掛けを!」
「うむ……!」
バノアスは興奮を隠しきれない様子で柱へと近付いて行く。人影もバノアスを認識したのか、光の中から彼に近寄って行った。
「おぉ……なんと屈強か!」
「……」
バノアスは出て来た者を見て驚愕した。カルラベルのどこを探しても居そうに無い程巨大な背丈。その全身にはち切れんばかりの筋肉が宿り、見る者全てを圧倒する。金色の長髪の奥から覗く鋭い眼光と豊かな髭は、歴戦の戦士のそれだった。
「これほどまでの者が儂に仕えるとは……!」
「面白い事を言うな」
「……は?」
バノアスの歓喜に対しての男の呟き。それは周りの空気を一瞬で凍らせた。
「おい、洗脳魔法はどうなったのだ!?」
「た、確かに作動した筈です!決して不発な訳が……」
「洗脳?あぁ、先程の頭痛か。残念だが効果は無いようだな」
「馬鹿な……!」
男は周りを見渡すと、出口に向かって歩き出した。当然、司祭の一人と目が合う。
「う……」
「さて、ここから出してもらおう……案内付きだと尚の事ありがたいが」
「何をしておる!そやつを止めるのだ!!」
男の威圧感の前では、国王たるバノアスの怒号も意味を成さない。固まったままの司祭を見て、バノアスは次の命令を叫んだ。
「仕方ない、
「は、はい!」
司祭の一人が慌ただしく呪文を唱え出す。男はそれを止めるまでも無く、黙って見ていた。
「フフフ……牛頭鬼のパワーに勝てる人間などおらん!殺されたくないなら大人しく儂に従え!」
「その牛頭鬼とやらの実物を見てからでも遅くは無いだろう」
「くっ……」
男の異様な落ち着きぶりに、バノアスはある種の恐怖を覚えた。一方で男はストレッチで戦いに備えている。
「む、あれが牛頭鬼とやらか?」
体を伸ばしていた男の前に、牛頭鬼が現れる。巨大な両刃の斧を持った筋肉質の怪物は、目を血走らせていた。
「案外小さいものだ」
「なっ……!?」
男の品定めするような視線を感じ取ったのか、呆気に取られるバノアスとは違い牛頭鬼は斧を振り下ろす。
「フンッ!」
しかし男はただのアッパーで迫り来る斧を弾き返した。正真正銘ただのアッパーである。腕全体に青いオーラを纏っている事以外は。
「「「「!?」」」」
一同驚愕。最早声すら出なかった。そしてその光景を眼前で見た牛頭鬼はショックの余り思考停止の領域まで追い込まれ、その動きを止める。
「さて、ギャラリーは少なめだが……肩慣らしだ!」
無防備な状態の牛頭鬼を抱え、男が高く飛び上がる。そのまま空中で一回転して急降下、脳天を思い切り石床に叩きつけた。
牛頭鬼の上半身は石床を突き破り、腰までめり込んでいる。
その名も『マッスルボマー』。男が誇る最大級の必殺技だった。
「ウオォオォォアーッ!!!」
勝利の雄叫びを上げた男を見て、一同はもれなく恐怖した。次にあれを喰らうのは自分かもしれない……そんな予感がしてくる。
「馬鹿な……牛頭鬼を抱えて……」
「本当に人間なのか……?」
「……しかし、とんだ期待外れだな。私を本気にさせる奴はいないなか!?」
床にめり込んだ牛頭鬼から離れ、男はバノアスに近付く。
「さぁ、改めてここから出してもらおう。案内付きでな」
「は、はい……」
バノアスはすっかり萎縮した状態で答える。
……かつて、混迷を極めたアメリカプロレス界をその力の下に統一した絶対王者。
"マスター・オブ・マッスルボマー"ヴィクター・オルテガ。異世界においての初陣、並びに初勝利の瞬間だった。
「因みに、どこへ向かわれる予定で……?」
「牛頭鬼より手応えがある奴の元だ」
(これ止められないやつだ……)
マッスルボマー
掴みから←↓↙+掴みボタン
約5割の体力が消し飛ぶ。かっこいい(小並感)