恐怖症を患ったのでVtuberになって治していこうと思います 作:水永有軌
二回目の配信を無理やりにでも終わらせ、僕は配信がちゃんと終わっているかも確認せずにCRの個別チャットルームを開くとそこにはつい数か月前まで毎日のように会話していた幼馴染から連絡が入っていた。
三木香菜|最近学校来てないみたいだけど大丈夫?
幼馴染である三木香菜からの連絡は短いながらも僕のことを心配してくれている人文が送られてきていた。
幼馴染である香菜は女性ではあるが今のところ女性恐怖症が起きているようには感じず、僕はキーボードにへとゆっくりと手を伸ばし。
ゆっくりと一つずつ言葉を打ち込んでいく。
未守狛|まぁまぁかな。
六文字、たったの六文字打つことが出来た。
会話をすることが出来るのかは分からない、けれども香菜とはチャットをすることが出来た。
「ははっ。なんだよ、打てるじゃん」
もう恐怖症が治るまで会話も連絡もできないと思っていた。
口には出していなかったが心の中で密かにその覚悟をしていた。
彼女に何の相談もせず、ただただ自分の心の中だけで答えを出した気になっていた。
三木香菜|前にお家に行ったけど、おばさんから今は会うことが出来ないって言われたからさ。心配だったんだ。
香菜との付き合いはなんやかんやで長い。
お互いの知らないことはないんじゃないかと思うほどお互いのことを知りあっている。
そこに恥ずかしさとかはない。
それにお互い成長し隠していることもあるだろう、それでも彼女との関係は変わることはなかった。
未守狛|心配してくれてありがとう。
「うれしいなぁ、ただの心配の連絡のはずなのに……。いつもしていた何気ない連絡のはずなのに………」
僕の壊れかけた心をいつも支えてくれたのは彼女だった。
いつもそばにいて、いつも話してくれて、いつも一緒に生きていた。
目からは涙がぽつぽつと流れていた。
「はぁ、ははっ。笑えるくらいにおかしいや。いつもありがとね」
この声が届くことはない。
小さくボソッと心からの感謝をこの画面越しにいるであろう彼女に。
三木香菜|どういたしまして。
涙は止まらない。
心にため続けていた悲しみの池が一気に崩れそうな、そんな気がしている。
でも、そうしないようにまた静かに心に小さな鍵をかける。
プルルルル! プルルルルル!
机の端に置いてあったスマホから着信音が鳴る。
画面に表示されている名前をみるとそこには岩世さんの名前が書かれていた。
顔に残っている涙を服の袖で取り、電話に出る。
「もしもし、どうしましたか?」
まだ少し上ずった声になってしまっているが岩世さんだからまぁいいだろう。
そんな僕とは対照的に岩世さんはちょっと焦ったような声と共に逆に落ち着いてもいるような声で僕にある事実を伝えてきた。
「あぁ、心君聞こえてる?」
「聞こえてますがどうしてライバー名で?」
「落ち着いて聞いてほしいんだけど、配信とじれてないよ」
「え? 今なんと?」
「もう一度言うね、配信。とじれてないよ」
「すぅぅぅう」
肺にたまっていた空気を一気に外に出しながら僕はマウスを動かし配信の画面を確認するとそこには確かに、配信が切れておらず自分の音声だけが流れ続けている配信画面と先ほどまでの独り言が聞こえていたのであろう視聴者たちのコメントの嵐があった。
瞼を一度、二度、三度瞬きをし、もう一度画面を見ても結果は変わらなかった。
「岩世さんごめんなさい」
「うん、そうね。まぁ、いいよ。いい話を聞かせてもらえたし」
電話が繋がっていた岩世さんに即謝る。
すると注意を受けるかと思っていたが結果はそうではなく、普通に許してもらえた。
配信コメントの方にも目を向けてみるとそこには視聴者たちが様々なコメントをしてくれていた。
配信コメント
:親方涙いいですか
:安心せい、俺も泣いてる
:親方、みんな泣いてますで
:うぅ、独り言の重みが違うよ
:苦しかったんだな
:けど良かったな
:幼馴染ちゃん最高の仕事をしてくれたな
:誰も配信事故には触れないんだな
:触れてあげるな、今は事実だけを受け入れこの結果を受け止めるのだ
:了解です親方
;うむ、ならお前がやるべきことは何だ
:泣きます
:よろしい
皆なんか泣いてる。
配信事故を起こしたという事実は変わらないが、それよりも僕が幼馴染と連絡をとれたことの方が視聴者からしたら印象が良かったそうだ。
「みんな、なんかごめんね。独り言そんなはっき聞こえてた?」
配信コメント
:それはもうはっきりと
:いいマイクを使ってらっしゃるのですね
:同時視聴配信をしていた一期生の先輩と同期の方々は現在大号泣でございます
:すごい耳が壊れそうなくらいみんな泣いてるな
:俺らも同じだろ
:同じです
:同じだな
視聴者たちからは暖かい反応が返ってきたが今後はこのようなことがないように気を付けなければいけないだろう。
それが配信者として気を付けなければいけないことなのだから
「とりあえず今日は本当にこれで終わり。今回のことについてはまぁ、そのうちまとまったら説明するよ。それじゃあばいばい」
今度こそ配信が終了しているかを確認し、画面を閉じた俺は椅子の背もたれに体重をかけ、今後について考える。
だけど、今は寝ることにした。