夏休みが始まって数日が過ぎた。例年ならほとんどの生徒が帰省しているらしいが、今年は王都に残る生徒が多く、寮も活気が溢れている。
「ねえシェイ、本当に帰らないの?」
「うん、夏休みは旅行するって決めてたから」
「お母さんもハ……お父さんも心配してるわよ?」
「大丈夫だって。てきとうにぶらついたらそのうち帰るからさ」
「……お姉ちゃんと一緒に帰りたくない?」
「お姉ちゃん、ちょっとしつこい」
お姉ちゃんがゔっとダメージを受けた。
後継ぎとしての予定があるため帰省するお姉ちゃん、一緒にどうと誘われたけど断った。夏休み前から何度も何度も、そして旅行鞄を前にして今、さすがにちょっと鬱陶しい。
「まあ言ってくれるだけシェイはいい子ね。それに比べてシドは……!」
一転、顔に怒りを滲ませる。
ああ、逃げ回ってるんだあいつ。ほんとアホだ。
「シェイ、もしシドを見つけたら一緒に帰って来なさい。お姉ちゃんが待ってるって」
「はーい」
お姉ちゃんはそう言うと、私の部屋をあとにした。
私も鞄の中身を最終チェックしてから部屋を出る。向かったのは下町の学生寮。ノックをすると、はいはーいと返事があってドアが開く。
「おはようシェイ」
「おはようシド。用意は……まだか」
部屋の中を覗くと、ベッドの上に旅行鞄が開かれていた。中には服やら下着やらが詰められている。
「あとどれくらい?」
「んー、もうちょい」
シドは部屋に戻り、ポイポイと詰めこんでいく。整頓しろよと言いたいけれど、4日分くらいなら何とか入るので見ているだけにした。
「シドさぁ、なんでお姉ちゃんから逃げ回るかな」
「逃げてないよ」
「うそつけ。逃げる以外で何したらあんな怒らせるのさ」
「一緒に帰るって約束してたけど、昨日の夜と今日の朝居留守使ってただけ」
「なお悪いわ」
約束破りのアホの背中に蹴りを入れる。前につんのめったシドは、何事もなかったかのように支度を再開する。
「それで結局どこ行くの?」
「秘密……って言いたいけど、もういいか。聖地だよ、聖地」
「リンドブルム?」
「そうそう、女神の試練ってイベントがあるんだって」
「へー」
女神の試練について軽く説明する。
女神の試練とは、年に一度聖域の扉が開かれる日に行われるお祭りだ。聖域から古代の戦士の記憶を呼び覚まし、挑戦者はその記憶の戦士と戦う。事前に申請すれば誰でも参加できるけど、古代の戦士がそれに応えるとは限らない事。毎年数百人の魔剣士が参加するけれど、実際に戦えるのは十人程度である事。
「シェイも参加するの?」
「私はパス、参加費も高いしね」
「いくら?」
「20万ゼニー」
「うげっ」
苦い顔をしたシド、ちょうど荷物を詰め終えて旅行鞄を閉じた。
「じゃあいこっか」
「あっ、ちょっと待って」
と思ったら。クローゼットを開けて中から紙袋を取り出した。
「はいこれ」
「なにこれ?」
「プレゼント。シェイに」
「プレゼント? 私に?」
「うん」
オウム返しに繰り返して、シドがそれに頷く。そこまでしてようやく理解が追い付いてきた。
「ありがとう…」
「どういたしまして」
渡された紙袋から直方体の箱を取り出す。さらに開けると、包装紙に包まれたそれが出てきた。
「あ、スニーカーだ」
「靴ボロくなってきたって言ってたから」
さらりと告げられたけど、シドの前でそんなこと言った記憶がない。なのに憶えてるとかなんだこいつ、タラシか。
(あ、タラシだったね、そういえば)
アルファを筆頭にガーデンのみんな、シェリー先輩、アレクシアにローズ先輩のお姫様コンビ。あと一応お姉ちゃんも?
十分タラシだ。
でも嬉しいことには変わりなくて。
「ていうかこれミツゴシのやつだよね。高かったんじゃない?」
スニーカーをくるくると回し見て、必要のない照れ隠しまでしてしまう。まあきっとお友達価格で買ったんだろうけど……
「あー、まあね。僕たちの仕送り半月分くらい?」
「……え?」
ポテっとスニーカーが落ちた。
え? まじ? 半月分? 自腹で?
「え、その……お金大丈夫? あとちゃんと食べれてる?」
口に出してからしまったと思った、他に言うべきことがあるのに。でもこれは許してほしい。シドの仕送りはお世辞にも多くはないのだから。
うちが弱小男爵家というのもあるけど、単純に家の負担が違う。
ミドガル魔剣士学園、国内はもちろん国外からも将来有望な魔剣士たちが集う超名門。立地も設備も教師も超一流なので、当然のように学費も超一流。その額は王都に暮らす人の平均年収を軽く超える。
カゲノー家で学費が必要なのはシドだけ。加えて制服代に家賃に食費に光熱費に……と、お父さんが嘆いていた。
私とお姉ちゃんは特待生なので学費は免除、制服代も同じく。寮費はかかるけど、それでもシドの住む下町の学生寮の3割程度。特待生・高位貴族寮には朝晩の食事もついてくるので食費もお昼分だけ。光熱費? お姫様たちの住む場所にそんなのは無いらしい。
そんな理由もあって、仕送りが一番多いのが後継ぎとしての社交もあるお姉ちゃん。私はそれより大分少ないけど、食べ物くらいしか使い道がないので十分すぎる。
シドは仕送り額こそ私より多いけど、そこから諸経費をがっつり持ってかれる。このスニーカーが仕送りの半月分、毎月手元に残る分だけではかなりきついお値段。それこそしばらくお小遣いをゼロにしたり、食費を削ったりしなければいけないくらい。
「大丈夫大丈夫。3日くらいかかったけど、収支で言えば全然プラスだから」
「……あー、そういうこと」
納得できた、盗賊狩りだ。それだけで3日も掛かるなんてと思ったけど、王都近辺は比較的治安が良かったなと思い出した。さすがは王国騎士団のお膝元だ。
「ふふっ」
あのシドが私のためにそんな手間を掛けたことが信じられなくて、嬉しくて。
旅行が始まってもいないのに、なんだかヤバかった。
◇◇◇
荷物を持ったまま、聖地まで本気ダッシュで向かう。お昼前に王都を出発して到着したのは夕方。
まず見えたのが山の上に建てられた聖教会。無駄に派手な作りに加えて、夕暮れで見ても分かるくらいの白さ。
綺麗だとか神聖だとか思うよりも、あれにいくら掛けたんだろうって考えてしまうのは、貧乏男爵家だからなのか、それとも聖教の実態を知っているからなのか。
そしてその麓には白を基調とした街並みが広がっていて、街の中心を通るメインストリートはそのまま聖教会への長い階段へ続いている、らしい。
なぜ『らしい』なのかと言うと。私たちは今、そこから逆方向に離れた高台を進んでいるから。
「ねえシェイ、聖地って向こうでしょ」
「そうだよ」
「なんでこっちきてるの?」
「いいからいいから」
本気ダッシュを止めて新しいスニーカーに履き替えた後、しばらく歩いた。
高級そうな別荘がぽつぽつと建つエリアに入り、その中を地図を片手に歩く。
「ここかな」
辿り着いたのは、少し大きめな一軒家。周りの豪邸と比べればこじんまりとしている。
「なにここ」
「貸別荘。しばらくここに泊まるから」
「え、まじで?」
「まじで」
「僕聞いてないんだけど。ていうかお金は?」
「割り勘すればそんなにだよ。シドの分は私が出したから」
軽い問答をしてから呼び鈴を鳴らす。出てきたのはアルファだ。
「アルファ来たよー」
「いらっしゃいシェイ、シャドウも」
「あ、うん。久しぶりアルファ」
「ええ、久しぶりね」
挨拶を交わして中に入ると、玄関まで届く甘い香り。
これは……チョコレート?
「ねえアルファ、今日の当番ってイプシロンだったよね?」
「ええ、そうね」
「もしかしてデザート作ったの? 私たちまだご飯食べてないんだけど」
「ふふっ、大丈夫よ。ちゃんとしたご飯だから」
アルファが珍しく悪戯っぽい笑顔をしている。チョコでご飯? どういうことだ。
首を傾げながら進み、アルファが光が漏れる扉を開ける。
中にいたのはベータにデルタ。そして2人が座るテーブルにある謎の物体……なんだあれ。
「シャドウ様、お待ちしておりました。シェイもいらっしゃ」
「ボスー!」
「っとと……デルタ、久しぶりだね」
ベータのセリフを遮るように、デルタが尻尾を振りながらシドに飛び付いた。そのままわしゃわしゃと頭を撫で始めたことで、向こうでベータがむすっとしてる。
「ベータ、そんな顔しないの」
「……分かってるわよ」
その顔は分かってない顔だと苦笑していると、怖い顔で睨まれた。そっと目を逸らし、気になっていたブツを指差す。
「それでなにあれ、チョコレート? 夕飯じゃないの?」
テーブルの中央には変なタワー型の機械があって、その頂上から茶色の液体──多分チョコレート──が流れ落ちている。
字面で見ると酷いけれど、頂上から流れてひとつ下の段へ、またひとつ下の段へと流れているのがきれいだった。カーテン? 滝? 噴水? うーん、うまく表現できないのが残念。
さっき遠目で見た聖協会よりも、私はこっちの方が好き。匂いも美味しそうだし。
「チョコレートファウンテン……」
「「「チョコレートファウンテン?」」」
ぼそりとシドが呟いた。隣にいた私、エルフで耳がいいアルファ・ベータが同時に聞き返す。デルタは大人しく撫でられていた。
「ああうん……なんかそんな名前が頭に浮かんでさ。あれって誰が作ったの?」
「私です、主様」
声の方を振り向くと、イプシロンがお皿を両手にやってきた。色とりどりの果物が載ったそれをテーブルに置く。
「チョコレートファウンテン。素晴らしい名前です、まさか主様に名付けてもらえるなんて……このイプシロン、試行錯誤を重ねた甲斐がありました」
「……これ、イプシロンが考えたの?」
「はい。主様の叡智によって生まれたチョコレートに、微力ながらアレンジを加えさせていただきました」
「へ、へえー……」
頬を染めて上目遣いになるイプシロン。シドは頬を引き攣らせている。
「凄いね、イプシロン。チョコが固まらないようにするのとか、大変だったんじゃない?」
「そうね。機械はガンマとイータに作ってもらったからそうでもないけど、やっぱりそこが大変だったわ」
曰く、チョコを溶かすだけでは温度変化ですぐに固まってしまったこと。温めた生クリームや牛乳の量を多めにして、時間が経っても固まりにくいチョコソースにしたこと。
「一時期はチョコを見るだけで発狂しそうだったわ……」
遠い目をするイプシロン。大変だったねと声を掛け、隣のアホに肘打ちする。我に返ったシドが口を開く。
「えっと…イプシロンは本当に料理上手だね」
「そ、そ、そ、そんなっ、イプシロンはまだまだです……!」
「ほんとにすごいよ。自分でこんな料理を作れるなんて」
はわわわと変な声を出すイプシロン。ベータがまた怖い顔になってる。
アルファが微笑ましそうにしながら歩き出したのでついていく。向かった先はキッチン。
「あとは運ぶだけだし、私たちでやっちゃいましょうか」
「あー、うん……」
運ぶのはもちろんやる。
やるが。
「ねえアルファ、これをチョコに付けて食べるんだよね?」
「ええそうよ」
「……マジで言ってる?」
皿に載っているものを見て、思わず訊ねる。正気を疑うような具材があったからだ。
マシュマロ、クラッカー、クッキー、カステラ。これはまあわかる。甘いは正義だ。
プチトマト、にんじん、かぼちゃ、パプリカ、ブロッコリー、さつまいも。……まあ、ドレッシングだと思えば何とか?
バゲット、ワッフル。これは絶対美味しい。さすがはイプシロンだ。
アーモンド、くるみ、マカデミアンナッツ、カシューナッツ。うん、確定美味しい。
問題は残りのこれだ。
肉団子、コロッケ、ウィンナー、ベーコン、カマンベールチーズ、かまぼこ・ちくわ。
あり得ない。合うわけがない。これだけで美味しいのになぜチョコをかけようとする。
「アルファ……」
「ふふっ」
冗談ではないらしい。アルファの愉しそうな顔がわずかな希望を砕いた。
最後に罰ゲームで食べる用なのかなとか、それにしても量が多いなとか、マズかったら全部シドに食べさせようとか、そんなことを考えながら皿を運んだ。
チョコレートファウンテン。最高でした。
疑ってごめんねイプシロン。
◆
私のモノの好き嫌いは、かなりの部分でシドの影響を受けている。
物心つく前はシドとニコイチだったらしいし、物心ついてからも変わらずシドに引っ付いていたから。
夏の旅行にリンドブルムを選んだ理由は二つ。
一つが、アルファたちが女神の試練に合わせて聖域を調査する際、不測の事態に協力できるようにするため。
そしてもうひとつが、リンドブルムが温泉の名所だったからだ。
「ふぃーー」
「また変な声出して」
お湯につかり、気の抜けた声を出していると、イプシロンも隣に入ってきた。
その身体はいつものスライムもりもりパーフェクトボディではなく、スレンダーで可愛らしいものだ。
肩にお湯をかける、あったかい。
「しあわせそうな顔してるわね」
「そうだねー……寮のお風呂もいいんだけど、やっぱり開放感が違うからね」
特待生寮は個室ごとに足を伸ばせるサイズの浴槽がある。シドの住む下町寮はシャワーのみな事を踏まえると贅沢なのだが、所詮は1人用。観光用のお風呂と比べちゃいけない。
温かいお湯につかって、手足を伸ばして、身心共にリセットして。
ディアボロス教団とかいうシドのでっち上げ(実在した)の所為で、精神的に荒みがちな私にとって、食事や入浴といった時間は本当に大事。
可愛い女の子の癒しも合わさればなお良し。
指を組んで、手の平を天に向けるように伸びをした。
「んん~……やっぱりお風呂は命の洗濯だねぇ」
「命を……洗濯?」
「なーんか前にシドがそんなこと言ってた」
「命の洗濯……いいわね、ベータにも教えてあげようかしら」
「今度の小説に出てくるかもねー」
イプシロンにぐでーっと寄りかかる。
「重いわ」
「重くないよ……ふぃー……」
「さっきから何なのよその声」
「きもちいよー、イプシロンもやって見なよ」
「いやよ、恥ずかしい」
「いいじゃんいいじゃん、今私しかいないんだしさ」
そう促すと、イプシロンは少しの躊躇いの後、恥ずかしそうに呟いた。
「ふ、ふぃー、……」
「こっち寄りかかってみてよ。最高にだらしなくしてさ」
「こう、かしら」
「そそ。はい、それでもういっかい」
「ふぃぃー……」
気の抜けた声と共に、寄りかかる重さが増した。絶妙なバランス、今片方が動いたらもう片方は確実に溺れる。
「……ちょっといいかも」
「でしょー」
「……ふぅ」
「……へぇ」
「……ほぉ」
「へんなの」
「貴女がノッてきたんじゃない」
ぼんやりと頭の悪い会話を楽しむ。
あったかい、ねー。
洗濯できた? ピカピカよ、ピカピカは洗濯違くない? うるさいわね。
あしたはアルファと入ろっかなー、わたしひとりになるんだけど、ベータと入れば? は? ごめんなさい。
耳たべてい? 5度目はないぶちころす、おぉこわ。
そんなこんなでしばらくお喋りをして、イプシロンが身体を起こした。
「そういえば貴女、学園テロでボタンを飛ばしたそうじゃない」
「そんなこともしたね。それが?」
「あれ、私も戦闘に使えないかしら」
「イプシロンなら使えると思うよ」
具体例を見せようと思ったけど、今は素っ裸。
この楽園から出たくない。
この至福の時間が終わるのが寂しい。
脱衣所に置きっぱなしになっている、イプシロンのスライムの一部を壁越しに浮かせる。ドアを開けさせ、浴室に入れ、ドアを閉め、掌まで持ってくる。
「相変わらずふざけた魔力操作ね」
「えへへ」
バチャッ、と顔にお湯をかけられた。当然お返しはした。
顔の前に手を持ち上げ、デコピンを形作る。指先に載るのは、爪サイズのスライム。
「イプシロン、受け止めてね」
言葉と同時、指をはじく。イプシロンも難なく受け止めた。
「じゃあこれは?」
スライムを返してもらって、もう一回デコピンを作る。
再度指をはじく──
「ひゃんっ!」
──その前にもう片方の手で脇腹をつついた。
「何するのよ!」
「こういうことだよ」
指をはじく。イプシロンのおでこにスライムが当たった。ぽよんと弾み、また私の手に戻ってくる。
イプシロンからあっ、という声が漏れた。
「銃ってさ、庶民のオモチャなんかじゃないと思うんだよね」
手の上でスライムをコロコロと転がして、もう一度構える。
「魔力も使わずに引き金を引くだけで人を殺せるっていう圧倒的な性能だし、不意を突けば私やシドだって簡単に殺されちゃう。そんなぶっ壊れ道具が誰でも使えるんだから、普通ならオモチャ扱いされるなんてありえないよね」
みんながチヤホヤするアーティファクトだって、そんな都合の良い物は少ない。使用者の魔力を要したり、面倒な下準備が必要だったり、色々と制限があるのだ。
「射撃のタイミングとか軌道が予測しやすいっていうのは、使い手の練度次第で何とかなると思うし。銃声とかサイズとか、弾詰めの手間とかは多分改善できるはずだよ……スライムならそれ全部要らないけど」
「……なるほどね」
スライムをはじくと、受け止めたイプシロンはそれを指で弾く、私がキャッチする。そこそこの威力だ。
「理想は魔力だけで撃ちだすことかしら」
「そうだね。私もまだできそうにないけど、それができたら手札が一気に増えるよね」
なにせガーデンのみんなは全身をスライムスーツで覆っている。間合いや体勢に関係なく、致死性の攻撃が飛んでくるとか、究極の初見殺しだ。
魔力だけで撃ちだすと、案の定さっきよりも威力が弱い。イプシロンも同じく撃ちだすけど、これまた同じく威力が弱い。
「足りないのは魔力量? ……いや、圧力かしら。それならもっとこう……」
ブツブツ言いながらスライムを発射してくるので、その度に受け止めて返す。スライムで胸を盛った時もこんな感じだったなと、懐かしさと共に見つめる。
けど、その数が30を超えた辺りでさすがにのぼせてきた。
「まあ訓練は今度にして、そろそろ上がろっか」
「…そうね」
切り替えて立ち上がろうとするイプシロン。
「あっ、その前にイプシロン」
「何かしら」
ちょいちょいと手招きすると、エルフ特有の長い耳を寄せてくる。
……私は悪くない。引っ掛かったイプシロンが悪い。
かぷかぷ。かぷり。
バッシャーン!!
「じゃあ私上がるね~」
「ちょっと待ちなさい!」
「体冷えちゃうからむりー」
「こんのっ、貴女って女はぁ!」
怒られた。正座と言われ、5分くらい。
でも湯冷めするといけないからって、服を着てドライヤーかけてから、というのはイプシロンらしい。
多分6度目も許してもらえそうな気がする。