ヴァイオレットさんを倒した僕は全力ダッシュで追手を振り切り、念のためリンドブルムも脱出し山中に潜んだ。
しばらくしてもういいかなと、僕は普段の姿に戻りほっと息を吐いた。一直線にこちらに向かってくる気配を待つ。
すると、目の前に突然変な扉が現れた。赤黒い光で造られた扉だ。
「何これ」
怪しいなんてもんじゃない。僕は踵を返す。
「おい」
さらに反転。
「嘘だろ」
後方にジャンプ。
「マジか」
僕の動きに扉は全力で付いてきた。距離をとっても、どの方角を向いても、後方宙返り百回捻りを加えても、扉は僕の前に現れるのだ。
ならば仕方ない。
「斬るか」
僕は言葉と同時に抜刀し扉を切り刻んだ。
しかし、切れた瞬間元通りだ。僕は刀を納めて考えた。こんな怪しい扉を連れて街に戻るのは無しだ。どう考えても目立つ。そもそもこの扉は何だ。周囲に人の気配もないし、いたずらの類でもなさそうだ。扉の後ろには何もない。
「異世界式ど〇で〇ドアかな」
「なにそれ」
「ドアを開けば好きな場所に行ける魔法の扉さ」
音もなく隣に着地したシェイに返事をする。
「ふーん、こんな禍々しいのにすごいんだね」
「本物はシンプルなピンクのドアだけどね。それで、どうしよっか」
「心当たりは?」
「ない」
むしろ必死な感じで付いてこられて困ってると付け加える。
「でも僕が入れば解決だと思う」
「根拠は?」
「なんとなく」
シェイはふーんと相槌を打って、しばし考え込む。
「まあ、良いんじゃない」
意外だ。
「反対しないんだ」
「これじゃあ宿にも戻れないし。それに今日はお祭りだよ、楽しまなきゃ損でしょ」
言葉通り楽しそうに僕の腕を取り、シェイは歩き出した。
吸い込まれるように扉を通過する。気が付くと僕たちは真っ白な部屋にいた。
何もない部屋だ。扉がひとつと、四肢を椅子に縛り付けられた女性がひとり。ヴァイオレットさんだ。
「やあ」
僕は彼女に声をかけた。彼女は僕の方を見て、驚いたように目を見開いた。「……やあ」と僕を真似るように言った。
「さっきぶりね」
「だね。もしかして君が僕を呼んだのかな」
「呼んだ……? そんなつもりはないけど。ただ、楽しかったわ」
「僕もだよ」
「私の記憶は不完全だけど、覚えている中では貴方が一番強かった。私の時代にいてくれればよかったのに……」
「光栄だね」
「それで、貴方はどうしてここに?」
彼女は不思議そうに僕を見つめた。
「突然扉が現れて中に入ったらここだったんだ」
「よくわからないわ」
「僕もだよ。ちなみにここから出る方法とか分かる?」
「どうかしら。私も出た記憶がないのよ」
「さっき僕と戦ったけど」
「気づいたらあそこにいたの。あんなことって初めてよ。憶えている限りね」
「そうなんだ。困ったな」
僕はどうしようか頭を捻って考えた。
「2人とも、私を無視して話を進めないでくれます?」
シェイが不満げに言った。
「ごめんごめん。じゃあどうぞ」
片手を差し向けると、シェイが彼女に向かって笑い掛けた。
「初めまして、シドの双子の妹のシェイ・カゲノーです」
「あら、ご丁寧にどうも。それに貴方、シド・カゲノーって言うのね」
「そうだね」
「やっぱり2人も名前知らなかったんですね」
シェイが呆れながらヴァイオレットさんに近づく。彼女の前に跪いて、拘束具に剣を当てる。
「あら、貴女は助けてくれるのね」
「普通助けますよ。うちの兄が変なだけです」
どうやら僕は勘違いをしていたらしい。修行中かと思ってた。
拘束から解放された彼女は気持ちよさそうに伸びをする。立ち上がったシェイが壁になっているけれど、肌色の面積がとても多い。
「ありがとう。ざっと千年ぶりの自由ね」
「そんなにですか」
「適当よ。覚えていないから、最低それぐらい」
彼女が一歩踏み出す、瞬きのうちに紫色のドレスが彼女を包んだ。
「それで貴女のお名前は?」
「名前……ごめんなさい、分からないわ」
「憶えてないんじゃしょうがないですよ。でも名前が無いのも不便ですし……シド、なんかいい名前無い?」
「ヴァイオレットさんとかいいんじゃない?」
僕は心の中で呼んでいた名前を答えた。シェイは首を傾げる。
「ヴァイオレット?」
「紫の別の呼び方だよ」
「ヴァイオレットかぁ……どうですか、この名前」
シェイが問い掛けると、彼女は「ヴァイオレット……」と二、三度繰り返す。そして笑った。
「いいわね。それじゃあヴァイオレットと呼んでちょうだい」
「わかった」「わかりました」
声がハモる。ヴァイオレットさん(本人公認)がまた笑った。
「さて、それじゃあどうしましょうか」
「私は解放、あなたたちは脱出。合ってるかしら?」
「そうですね」
唐突の話題転換、一拍遅れて理解する。
「協力しましょう」
「いいですけど、脱出の方法は分かるんですか?」
「分からないわ。でも解放の方法は分かる。聖域は記憶の牢獄よ。聖域の中心に魔力の核があるの。それを壊せば私は解放されるわ」
「
僕がツッコむと、彼女は横目でいたずらっぽく微笑んだ。
「何もかもすべて。あなたたちも出られるはずよ」
「聖域なくならない?」
「いいじゃない、困るの?」
僕はヴァイオレットさんの問いを頭の中で反芻し考えた。
「困らないね」
「……問題ないですね」
遅れてシェイも頷く。
「決まりね。あと気づいていると思うけど、魔力は使えないわ。ここは聖域の中心に近いの。魔力を練るとすぐに聖域の核に吸い取られるわ」
「みたいだね」
以前のテロリスト襲撃事件よりもずっと強力なやつだ。魔力を練るとすぐに消えてなくなる。色々試しているけど、これは少し時間がかかりそうだ。
「問題ない、壊すのは得意なんだ」
「あら頼もしい。ちなみに私は、魔力が使えないとか弱い乙女よ。一度ナイト様に守られてみたかったの」
彼女はまたいたずらっぽく微笑んだ。その余裕はとてもか弱い乙女には見えない。
くいくいっと袖が引かれた。振り向くと、軽く頬を染め、上目遣いで見つめてくるシェイ。
「私の事も守ってね、お兄ちゃん♡」
「行こうか、ヴァイオレットさん道わかる?」
「おいこら無視すんな」
ぐいっと袖が引かれ、少しバランスが崩れた。
「いやちょっと脳が拒絶して」
「酷いわね。こんなに可愛い妹さんなのに」
そうは言うが、ヴァイオレットさんならあざと可愛いと思えても、妹がやるとネタにしか見えない。
「ほんと酷いですよね、私だってか弱い乙女なのに。シドっていつもそうなんですよ、ここに来る前も──」
「あら、貴女も苦労してるわね──」
「そうなんですよ~。あっ、そういえばこの前──」
きゃいきゃいと盛り上がり始めたふたりに、なんとなく疎外感を覚えた。
◆
シェイたちのお喋りが一段落してから、ヴァイオレットさんに先導されて聖域を進んだ。
見覚えのない森の中、膝を抱える幼い少女がいた。
「泣いているみたいだね」
「そうね」
僕らは近づいた。屈んで顔を覗くと紫色の瞳から涙が溢れていた。
「君にそっくりだ」
「似ているだけよ」
「何で泣いているのかな」
「オネショでもしたんじゃない」
そう言ってヴァイオレットさんは煙に巻く。女の子は声を出さずに泣いていた。その身体には青痣が目立つ。
「それで、どうすればいいんだろう」
「先に進みたいならこの記憶を終わらせればいいの」
「つまり?」
ヴァイオレットさんは泣いている女の子の顔を持ち上げる。
「泣いても何も変わらないわ」
パンッ、と頬を叩いた。
「ひどくない?」
「いいのよ、自分だし」
「認めるんだ」
そして世界が割れた。鏡が割れるみたいに、朝の森が粉々に割れていき、深い闇の奥に消えていく。
辺りは何もない暗闇になった。
その中に、うっすらとヴァイオレットさんの姿が浮かび上がる。
「進みましょう」
「わかった」
ヴァイオレットさんは歩き出す。ちらりと隣を見ると、能面のように無表情のシェイ。
「そんなに気に病まなくていいのよ」
ヴァイオレットさんが立ち止まり、声を掛けた。さっきとは違い、柔らかい声だ。
「昔の事だもの」
ヴァイオレットさんが儚く笑う。シェイは何度か口を開けたり閉じたりして、結局何も言わなかった。
シェイが駆け足でヴァイオレットさんに並ぶ。そのまま無言で歩き出す。
何もない暗闇、進むにつれて魔力が吸い取られるのを感じる。歩く足の裏の感触すら曖昧で、上下の感覚もなかった。
そんな不思議空間をしばらく進むと、僕らは茜色の光に包まれた。
「森の次は戦場か」
シェイが呟く通り、夕日に染まった戦場だった。血のように赤い太陽が、地平線の上で輝いている。
「みんな死んでるね」
倒れた兵たちで大地は埋まり、どす黒い血が染み込んでいる。それが地平線まで続いていた。
「行きましょう」
ヴァイオレットさんはまるで行き先が分かっているかのように進んでいく。
死屍累々。
死体を踏みながら、黄昏の戦場を歩く。いつか僕もこんな大きな戦場で暴れてみたいものだ。
しばらく歩くと戦場の中心で血濡れの少女が泣いていた。僕らは少女の前で立ち止まる。
死体の上で膝を抱え、血濡れの少女が泣いている。顔を見なくても、それがヴァイオレットさんだと分かった。
「また泣いているね」
「泣き虫だったのよ。剣を貸して」
「はい、どうぞ」
シェイがヴァイオレットさんに剣を差し出した。
彼女は剣を引きずりながら少女の前に立ち、剣を上段に構え──
──その瞬間、僕は動いた。
彼女の背後、突如動き出した死体を蹴り飛ばす。
「死体がッ!?」
彼女も気づいたようだ。シェイに横抱きにされたまま驚いていた。
「聖域が拒んでいる……。厄介ね」
「ウィルスに反応したアンチウィルスソフトみたいな感じ?」
「よくわからない例えね」
「僕も詳しくないんだ。ちなみに、君はここで死ぬとどうなるの」
「はじめの部屋で拘束されるでしょうね」
「それは面倒だ」
僕は次々に襲ってくるゾンビを蹴り飛ばしながら話す。
険しい顔のシェイと目が合う。任せたとアイコンタクトを送られる。
「人使いが荒いなぁ」
近場の兵士を斬りつけた。一撃で両断するが、次々と兵士が立ち上がり、囲まれていく。僕は殲滅を早々に諦め、前方に突破口を開く。
シェイはヴァイオレットさんを降ろして、襲ってくるゾンビを殴る蹴る。ヴァイオレットさんは地面で這うゾンビに剣を叩きつけた。
「魔力がないと微妙だね。あと剣の使い方も」
「言ったでしょ、か弱い乙女だって。貴方は魔力がなくても動けるのね」
「言ったよね、問題ないって」
僕は剣で薙ぎ払い、押し寄せるゾンビを切り伏せる。
「僕は幼い頃から魔力を操れたから、成長に合わせて改造したんだ。自分の肉体を、戦うために最も適した形に。筋肉を、神経を、骨格を、魔力を操作し成長させていった」
一振りで3体まとめて切り裂き、横からの攻撃を蹴りで吹き飛ばす。ゾンビ一体一体の動きは鈍い。数が多いだけで、割と無双状態だ。
「圧倒的ね。子供を蹴り飛ばすゴリラみたい」
「もう少しかっこいい例え無いの」
「魔力を使えないゴリ…人間トーナメントがあったら貴方が優勝よ」
「マシになってよかった」
まあ優勝確実かと言われると疑問があるけどねと心の中で呟く。その原因は口を押さえてプルプル震えていた。
「プッ…ゴリラ……」
ツボにハマったらしい。ヴァイオレットさんに背中を撫でられて、次第に落ち着いていく。
「貴女はお兄さんみたいに筋肉ゴリラにしてないのね」
「女の子ですからね。ムキムキはちょっと……あ、でも肉体改造もちょっとはしてますよ」
それは知らなかった。教えてもいないし、いつやったんだ。それにもしかしたら僕が知らない方法とかあるかも……
「食べ放題行くときとかに胃を広げたり、甘い物食べ過ぎたときとかも早く消費してくれ~って。一時的にですけど」
期待した僕がいけなかった。シェイはこういう子だった。
「それでシド、何とかなりそう?」
「うーん、魔力無しじゃ終わりが見えないなぁ」
地平線まで続くゾンビの群れ、長々と戦っていてはいずれ体力の限界が訪れる。
「そっか」
一言。シェイはヴァイオレットさんから剣を受け取ると、膝を抱える少女を前にして。
「ごめんなさい」
少女の口から血が零れ落ちる。
世界が割れた。粉々に世界が砕けていき、僕らはまた暗闇の世界に立った。
剣を納めるシェイの隣、ヴァイオレットさんが立つ。さっきよりも近い、拳ひとつくらいの距離だ。
そのまま無言で暗闇の中を歩き、やがて光に包まれる。
僕らは聖域の中心にたどり着いた。
◇◇◇
そこは遺跡のような場所だった。
今まであったどこか夢の中のようなぼんやりとした感覚は消えて、少しひんやりした空気が僕の感覚を醒ます。
天井は高く、魔法の光が辺りを照らしている。
「ここが中心ね」
ヴァイオレットさんはくるりと回って周囲を見渡した。
「それで、何を壊せばいいの」
魔力の核とやらは見当たらない。ただ巨大な扉が少し離れたところにある。
「扉の向こうみたい」
「なるほど」
ヴァイオレットさんは石畳を歩き、その先にある巨大な扉へ向かう。僕らも彼女に続く。
巨大な扉だ。前面に古代文字がびっしりと刻まれていて、太い鎖が何重にも巻き付いて、扉を固く閉ざしていた。
「鎖を斬ればいけるかな」
「でしょうね」
剣の柄に手を添え、じっと鎖をみつめる。
一閃──びくともしないな。
「うん、無理だね。どうやっても剣の方が先に折れるよ」
どれだけ想像しても無理なものは無理だ。
「あのね、普通鍵があるとか思わない?」
「なるほど、それもそうだ」
ヴァイオレットさんとシェイの視線の先。扉の脇の台座に、何やら豪華な剣が突き刺さっている。加えて剣の台座には何かびっしりと古代文字が刻まれていた。
「この剣でなら鎖を斬れるようね」
古代文字を読みながらヴァイオレットさんが言う。
しかし僕は分かってしまったのだ。台座に突き刺さる剣、このパターンは……。
「僕にはわかる」
「えっ……?」
「この剣は抜けない……」
そう言って僕は剣に手をかけ引き抜こうとするが、剣はびくともしない。
「やはり……そういうことか……」
僕は意味深に呟く。シェイがまた始まったよとジト目を向けてくるが、テンションが上がったこの状況では痛くも痒くもない。
「剣が、拒絶しているッ……この剣は選ばれし者にしか抜けないんだ……!」
「なんですって!」
ヴァイオレットさんは慌てて台座の古代文字を指でなぞる。
というわけで、僕は剣から手を放した。相変わらずシェイはジト目のままだ。
「聖剣は英雄の直系にしか抜けない……確かに書いてあるわ。よくあの一瞬で暗号化された魔術文字を読み取ったわね」
「フッ……テンプレはすべて網羅しているからね……」
台座に刺さった聖剣は選ばれし勇者にしか抜けない。
いいね、異世界って感じする。テンプレは何度使い古されても面白いからテンプレなんだ。
「魔術文字の暗号パターンをテンプレート化して網羅していた……そういうことね」
「多分きっとそういうことだ」
僕は満足して頷いた。小声でシェイが「多分きっと違うと思う」と零した。
「困ったわ……」
ヴァイオレットさんは台座に腰かけ呟いた。
「別の方法はないんですか?」
シェイがその隣に腰かける。
「ここには記されていない」
「そうですか」
また無言の時間が流れた。さっきまでの無言と違って、少し居心地が悪い。
シェイがちらりと僕を見た。
僕は聖域に入ってから、とある準備のため右目を閉じている。シェイはそれに合わせるようにスッと右目を閉じてから、ゆっくりと開いた。
──見抜かれている。それが何だか嬉しかった。
僕は聞く。
「君は消えたいの?」
「消える?」
「核を壊したら消えるんだよね」
「そうね。消えるというより、解放されるといった方が近いわ」
ヴァイオレットさんは僕の方を見ずに微笑んだ。
「その違いは?」
「ここは永遠に繰り返される記憶の牢獄。私には少し、辛すぎるの……」
消えそうな声で、彼女は呟く。その肩にシェイが寄りかかった。
「少し休みましょうか」
「ええ。少し、疲れちゃったわ」
ヴァイオレットさんもシェイに寄りかかった。2人は目を閉じて、お互いに体重を預け合う。
そこに。
「お客さんが来たよ」
突然、光の裂け目が現れた。裂け目は次第に広がり、そこからハゲたおっさんとエルフの美女が現れる。
「ん……?」
「どうしたの?」
「いや、エルフさんの顔が友達に似ていたんだ」
でも別人だ。骨格が違う、歩き方が違う、癖も違う。
「シェイ、知ってる?」
「予想だけどね。機会があれば教えてあげる」
「そっか」
それならいつか教えてくれるだろう。今はあのエルフさんがアルファと別人なのが分かればいい。
「ほう……アウロラを連れ出したか」
ハゲのおっさんがヴァイオレットさんを見て言った。
「知り合いのハゲ?」
「さぁ見覚えのないハゲだけど。でも私の記憶は完全ではないから……どこかで会ったハゲなのかも」
「2人とも、ハゲハゲ連呼したら可哀そうですよ」
僕らはコソコソと話す。
「だが残念だったな。その扉は貴様らには開けん」
ハゲたおっさんが嗤う。
「そこの小僧らも災難だったな」
「僕?」
僕は自分を指さして言う。
「どこの迷子かは知らんが、魔女に誑かされたせいでお前たちは死ぬことになる。このオリヴィエに切り刻まれてな」
ハゲたおっさんの命令でエルフの美人さんが前に出た。おっさんは大したことないけど、このエルフさんは強いね。
シェイを見る、シェイも僕を見ていた。言葉はなく、視線を交わすこと数秒。
「…あとでちゃんと仕事してもらうからね」
立ち上がったシェイが腰に提げた剣を外す。これ持ってて、と投げ渡された。
「使わないの?」
「あのエルフさん相手じゃ邪魔になるだけだし。武器ならこれで十分」
シェイが右腕に左手を当てる。手を外し右腕を振るうと、平べったい短剣が滑り出てきた。
「カッコいい……」
「でしょ」
学園テロから色々考えてたの、と自慢げなシェイ。僕の感性にグッとくる仕掛けだ。
革製の鞘を外して、そのままエルフさんに向かって歩いていく。
「恨むなら私でなくそこの魔女を恨むがいい。それと、愚かな自分をな……! 殺れ、オリヴィエ!」
オリヴィエさんが聖剣そっくりの剣を構える。シェイは短剣を手に歩いているだけ。
僕は頬が緩むのを感じた。
「待って、戦ってはダメ!」
ヴァイオレットさんが叫んだ。シェイが立ち止まって、肩越しに振り向く。
「大丈夫ですよ、ヴァイオレットさん。確かに私はか弱い乙女ですけど」
いやか弱くも、と考えた途端睨まれた。これが双子の血か、以心伝心も考え物だな。
「魔力が使えなくても、別に弱くはないですよ」
シェイは正面に向き直り、また歩き出す。
咄嗟に手を伸ばしたヴァイオレットさんの肩に手を掛ける。
「どうして止めるの! 貴方の妹さんが……!」
「大丈夫だよ。シェイは負けない」
ヴァイオレットさんの言葉を遮って断言する。
「シェイに勝てるのは、僕だけだ」