どうしようもない兄を持ちまして   作:slo-pe

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新しい仲間とたゆまぬ努力

 

 

 兄のとんでもない所業を知ってからしばらく。シャドウガーデンには新たに4人のメンバーが加わっていた。

 ベータにガンマ、デルタにイプシロン。全員が全員超が付くほどの美人である。歳が近いこともあり、最近は私もたまに屋敷を抜け出して遊びに来ている。

 

「こんばんは、シャドウ。待っていたわ」

 

 今日も家の前でアルファが出迎えてくれた。

 

「こんばんは、アルファ。今日も元気そうだね」

「今日は私もいるよ~」

「ふふ、シェイがいるならデルタも喜ぶわね」

「えぇ……デルタの相手疲れるから嫌なんだけど」

 

 デルタは5人の中で唯一の獣人である。狼系の獣人である彼女は、「強さこそ正義」という少々めんどくさい考え方を持っている。

 

 デルタとは初対面の時に絡まれ、速攻で組み伏したところ、異常に懐かれてしまった。なんでも犬は上下関係を分からせるために上に乗るのだか。

 

「あの子が素直になるのは実力を認めた者だけよ。諦めるしかないわね」

 

 デルタはシドやアルファの言うことは素直に聞く。よくも悪くも上下関係に忠実なのだ。ただ何故か、私の言うことは全然聞かない。

 

(……あっ、この気配)

 

 背後から急接近してくる物体。噂をすればというやつだ。

 

 タイミングを合わせ、体一つ分だけ横にずれると、元居た場所を黒い影が通過した。

 

「シェイ! 今日も相手をするのです!」

 

 四足で目の前に着地したデルタが飛びかかってきたので、左足を軸に円を描きながら全身で勢いをいなす。ついでに頭を撫でておくと、ブンブンと嬉しそうに尻尾を振り回し始めた。

 可愛いんだけどホントにめんどくさい。デルタにとってはただのじゃれ合いなんだろうけど、気を抜くと大怪我しそうになる。

 

「あのねデルタ、いつも言ってるけどもう少し加減してくれない?」

「どうしてなのです?」

「危ないから」

「デルタの本気を受け止められるのはシェイだけなのです!」

「他にもいるじゃん、アルファとか」

「アルファ様にやると怒られるのです!」

「シドは?」

「ボスにもやる! でもやりすぎるとアルファ様に怒られるのです!」

「そうなんだ」

「そうなのです」

「それでなんで私に?」

「シェイなら飛びついても怒らないってアルファ様に教えてもらったのです!」

 

 えっ? と思いアルファを見ると、そっと目を逸らされた。おい、原因はお前か。

 

 諸悪の根源にジト目を送り続けていると、家のドアがガチャッと音を立てて開き、2人の美少女が出てきた。

 銀色の髪に泣きぼくろの少女ベータと、藍色の髪に理知的な青い瞳の少女ガンマだ。

 

「シャドウ様、お待ちしておりました。シェイもいらっしゃい」

「主様、ようこそいらっしゃいました。シェイも久しぶりね」

 

 駆け寄ってきた2人は満面の笑みだ。

 

 ただ、彼女たちはアルファやデルタと違い、最初からシドに心酔していたわけではない。

 

 人見知りで、私やシドのことを怖がってアルファの後ろに隠れていたベータ。

 武芸では最底辺の立場にあり、独りで悩み続けていたガンマ。

 

 2人はそれぞれ馴染めない理由があり、それを解きほぐしたのがシドの語った『陰の叡智』だった。

 

 剣や魔力の使い方に始まり、『ちょこれいと』や『こーひー』といった食べ物、多様で斬新なおとぎ話、銀行だの信用創造だの難しい話まで。

 そのどれもが途方もない話で私たちの常識を打ち砕くものだった。最初はあり得ないと否定したアルファたちも、自ら真実だと確かめ驚愕し、シドに尊敬の念を送った。

 

 ……ただ、本当はシドもよく分かってないんじゃないかなって疑う時もある。頭のいいアルファやガンマにツッコまれて適当に誤魔化してるときもあるし。

 

(本当になんでそんなこと知ってるんだろう?)

 

 兄は別に優秀というわけではない。戦いに関する技術はすさまじいが、それ以外はごくごく普通の一般人だ。

 ……ただ、陰の実力者プレイをしているときの迫力はすごい。演技だとわかっててもちょっとカッコいいなと思ってしまう。

 

 それはともかく、シドが何処でそんな知識を得たのかは分からないけど、最近はどうでもよくなってきた。

 

 シドが変人なのは今更だから。

 例えば、「実は月からやって来たんだ」とか「僕の正体は神の使いなんだ」とか、そんなことの1つや2つあったとしても「へーそうなんだー」くらいしか感じないと思う……まあ、こんなのが神の使いだったらこの世界は終わってるだと思うけど。

 

 というわけで、兄に関しては深く考えるのを止めた。

 

「シャドウ様、先日伺った『シンデレラ』の続きを聞かせていただけますか?」

 

 どうやら今日はベータの番のようだ。

 

『陰の叡智』を聞くため、ベータとガンマはいつもシドを取り合っていたけど、交代制にしてからは喧嘩することも無くなった。

 

「私は夕飯の支度をしているから、その間みんなをよろしくね」

「はいはい、それじゃあ2人とも中に行こうか」

 

 家から持ってきた食料をアルファが受け取り、シドがベータとガンマを連れて家に入っていく。

 ただ、みんなと言うには1人足りない。私はアルファに訊いてみた。

 

「イプシロンも中にいるの?」

「あの子は少し出掛けているわ」

「あ、今日もなの?」

「ええ、いつもご飯までには戻ってくるのだけど……」

 

 シャドウガーデン5人目のメンバー、イプシロン。

 透き通った湖のような髪にそれより少し深い色の瞳をした、これまた派手な美少女である。

 

 ただ、イプシロンは部屋に籠ったり1人で出掛けることが多い。一番新しいメンバーなのでまだ馴染めていないのだ。私もあまり話せていない。

 

「シェイ、早く始めるのです~」

「はいはい、それじゃあ少し離れてね」

 

 引っ付いてくるデルタをどうあしらおうか悩んだが、結局は返り討ちにするのが一番早い。イプシロンを探すのはその後でいいだろう。

 

 

◇◇◇

 

 

 今日はデルタの機嫌が良く、模擬戦は5回ほど返り討ちにしたところで終了した。長いときはこの2,3倍相手をしなくちゃいけないので今日はラッキーだった。

 

 それから魔力探知でイプシロンを探すと、彼女は拠点から少し離れた廃屋の傍で膝を抱えていた。

 

「はぁ……」

 

 深いため息を吐いた彼女に、私はゆっくりと歩み寄る。

 

「こんなところにいたら風邪引くよ?」

「……シェイ、今日は来てたのね」

「うん。こんばんは、イプシロン」

「……こんばんは」

 

 挨拶を交わした後、イプシロンの隣に腰を下ろす。

 

 私は正面を見たままじっとしている。チラチラとこちらを見てくるイプシロンも何か話す様子はない。

 虫の鳴き声と風の音だけが響く。周囲にはほとんど明かりもないため、正直怖い。

 ただ、頑張って前だけを見る。

 イプシロンが何に悩んでいるかは想像がつくけど、自分から話してほしかった。ここは耐えるしかない。

 

 我慢比べの結果、先にその沈黙に耐えられなくなったのはイプシロンの方だった。

 

「最近、ずっとずっと考えているの」

 

(よかったぁ……)

 

 気づかれないようにほっと息を吐く。あと少しで私が耐えられなくなっていたところだった。

 

「私、ここにいていいのかしら……?」

 

 一度口を開くと、それはぽつりぽつりと語られた。

 

 悪魔憑きとなり、今までのすべてが崩れ去った絶望感。

 生きる意味を失くし、かと言って死ぬ勇気も無く、ただ腐りゆく肉体を引きずって山道を歩いていたその時、シャドウが現れたこと。

 彼女を包んだ青紫の魔力によって救われたこと。

 

 ──そして、シャドウの背を追いかけてきたこの場所で壁にぶつかったこと。

 

「このままじゃ私の立場は無くなってしまう……」

 

 イプシロンの気持ちも分かる。なんせシャドウガーデンには既にあの4人がいるのだ。

 

 アルファに関しては言うまでもない。武力でも頭脳でも欠点らしい欠点が見当たらない、まさに完璧超人である。

 デルタは完全な戦闘特化型。技術の「ぎ」の字も無い脳筋だが、戦闘力ではアルファにも並ぶ。

『最弱』の名を欲しいままにするガンマも、ズバ抜けた頭脳を持っている。

 ベータは突出した長所こそ無いが、何でも卒なくこなしてみせる。総合力で言えばイプシロンより上だ。

 

 こんな人外魔境の中にいれば自信を無くすのも当然だ。私は努めて明るい声を掛けた。

 

「でもイプシロンにも良いところいっぱいあるよ。料理も一番上手いし、前に淹れてくれた紅茶も美味しかった」

「それくらいでは私の存在する価値がないわ。武芸も頭脳も劣っていて、美貌ですら彼女たちに敵わないんだから……」

「イプシロンも美人だと思うよ? 蒼い髪も綺麗だし」

「そう、ありがとう……」

 

 割と本音だったのだが、ありきたりな慰めでは効果がないようだ。それならと思い、ある提案をした。

 

「それならシドに相談してみたらどう?」

「主様に? そんな、恐れ多い……」

「いやいや、そんな大したやつじゃないからアレ」

 

 シャドウガーデンのメンバーはシドを神格視しすぎだ。確かにすごいところもあるし、状況から仕方ない部分もあるが、その中身は真正のアホである。

 

「あのね、忘れてるかもしれないけど、シドも人間なんだよ?」

 

 ……多分、最近は私も怪しんでいるが。

 

「みんなは自覚がないかもしれないけど、シドだってイプシロンたちにいっぱい迷惑かけてるんだから」

 

 設定に付き合わせてること。アルファたちの努力の全部を演技だと思って流していること。悪魔憑きを治せたのだって、シドが人体実験をしていただけの副産物だ。挙げていけばキリがない。

 

「ただでさえディアボロス教団なんて組織を相手にさせられるんだから。その代わりって考えれば安いモノじゃない」

「でも……負担に思われないかしら?」

「いやいや、大丈夫だって」

 

 むしろアレに負担を掛けられる人がいれば見てみたい。そしてできれば私の苦労分も上乗せしてくれないかと頼みたい。

 

「遠慮なく迷惑かけちゃえばいいんだよ」

 

 カラカラと笑いながら言ってみるも、納得しきれていないイプシロン。

 まあ、私も最初から説得できるとは思っていない。自分の中に溜めたくなかっただけだ。

 

「それにさ、やるかやらないか悩んでるよりも、さっさとやって後悔した方が建設的じゃない?」

「……やらないって選択肢はないの?」

「それじゃあ『やっぱりやった方が良いのかな?』って悩むことになるじゃん? やっちゃったら後戻りなんてできないんだから」

 

 私が最近のシドを見て思ったこと。

 悩むなんて時間と労力の無駄である

 

 アルファと会ってから数週間、私は胃痛と戦っていた。

 兄の作った設定が真実だったりとか、会うたびに増えていく教団の情報とか、新しく悪魔憑きの子(ベータのことである)を見つけたりとか。

 

 ただある日気づいたのだ。

 こんなことを一々気にしていたら私が壊れてしまう。バカとはバカなりに付き合うのが正解なのだ、と。

 

 それに気づいてからはそれまでの胃痛が嘘のように楽しかった。

 アルファは雰囲気がお姉ちゃんに似ててカッコいいし、ベータはほんわかしてて癒される。ガンマは運動ポンコツだけど知的な雰囲気がカッコいいし、デルタは少し面倒だけど尻尾をブンブンするのは可愛い。

 イプシロンも凛とした雰囲気がカッコいいし、笑えば可愛くだってなるだろう。

 

 シドが嘘を吐いていることは隠しつつ持論を語っていると、イプシロンはポカンと口を開けてしばらく固まった後、急に笑い出した。

 

「ぷっ、あはははは! 何それお気楽すぎるって!」

「いいじゃない、メリハリが大事って言うでしょ?」

「それにしたってよ……ふふ、ほんとおかしい」

 

 柔らかく微笑んでいたイプシロンがすっと目を閉じ、少し間を空けてゆっくりと目を開いた。

 

「でも、そうね……主様に相談してみるわ」

「うん、それが良いと思うよ」

「それじゃあ早速聞いてくるわね」

「待って」

 

 勢いよく立ち上がったイプシロンの腕を掴んだ。

 

「まずはご飯だよ、せっかくアルファが作ってくれてるんだから。それにさ、『腹が減っては戦はできぬ』だよ?」

「なに、その言葉?」

「シドが教えてくれたことわざなんだ。いい言葉じゃない?」

「『腹が減っては戦はできぬ』……いかにもシェイが好きそうな言葉ね」

「そうそう、頭空っぽな感じがいいよね」

「自分で言うのね。それじゃあ次来たときは私が料理作ってあげるわね」

「ほんと? 楽しみにしてるね」

 

 2人で歩きながら、やっぱりイプシロンには笑顔が似合うなと思った。

 

 

◇◇◇

 

 

 1週間後、アルファたちの拠点を訪れた私は目を疑った。

 

「あっ、シェイが来たってことは料理当番は私ね。アルファ様、代わっていただけますか?」

「構わないわ。昨日もあなたが当番だったけどいいのかしら?」

「シェイと約束していましたから」

「それならお願いしましょうか」

「今日の夕飯は何なのです?」

「そうね、主様が色々と持って来てくださったから……シチューなんてどうかしら?」

「わーいなのです、それじゃあデルタはお腹を空かせに行ってくるのです」

「こらデルタ、走らないの。それじゃあここは頼んだわねイプシロン」

「はい、アルファ様」

 

 イプシロンがアルファやデルタと楽しそうに話している。先週までとは違い、イプシロンが過度に遠慮している様子も無い。

 それは嬉しいことなのだが、イプシロンの身体に変なものがくっついている。

 

(なにあれ、スライム……?)

 

 うん、間違いない。あれはスライムだ。

 

 シドはスライムが魔力によって形を変化させるという特性を活かし、好きな形に出来る武器と装備を作り出した。私もここで模擬戦をするときはよく使っている。

 スライムは硬化させれば防御性能も高くなるので、身に纏うのは間違ってはいない。

 

 ただ、胸部に2つだけくっついたあれは防具というよりむしろ──

 

「──擬似おっぱい?」

「っ──!」

「ご、ごごごめんなさい! なんでもないの!」

 

 突如あふれ出した殺気に反射的に頭を下げた。なにこの殺気、怖過ぎる。

 

「……ねえシェイ?」

「……ひゃい」

「別に怒ってないのよ。顔を上げて?」

「……本当に怒ってない?」

「ええ、本当よ」

「……なんでしょうか」

 

 おずおずと頭を上げると、イプシロンは険しい表情でこちらを見ていた……やっぱり怒ってる? 

 

「どうしてこれが贋物だってわかったの?」

「何と言いますか、胸のあたりから魔力を感じたから……」

「そう、まだまだ甘いのね……」

 

 イプシロンは真剣な表情でぶつぶつと呟いている。どうやら怒っていないというのは本当らしい。

 

「……ねえシェイ、私たち協力しないかしら?」

「……協力? なんの?」

「説明が必要かしら?」

「いえ、必要ないです……」

 

 こうして、今までふさぎ込んでいたイプシロンは急激に明るくなり、訓練にも人一倍取り組むようになった。

 

 

 

 それからというもの、毎回のようにイプシロンから相談を持ち掛けられた。

 

「ねえシェイ? 今日はどうかしら」

「形はきれいだけど、本物には見えないかな」

「それはどうして?」

「ん~、ちょっと待って」

「……ねえ、なんでベータの方を見てるの?」

「あれこそ本物でしょ?」

「……そうね」

「真似するなら悔しくてもきちんと視なきゃだめだよ?」

「……分かってるわよ」

「…………あっ、わかった。揺れだ」

「揺れ?」

「そうそう、質感って言えばいいかな。イプシロンのそれは動いてないでしょ?」

「だから本物に見えないわけね」

 

 しばらく経ち、シャドウガーデンに新たなメンバーが加わった頃。

 

「ねえ! どういうことなのあれ!」

「なにが?」

「ゼータとイータよ!」

「新しいメンバーでしょ。それの何が……ってああ、2人ともおっきいもんね」

「そうよ、なんでここにはそんな女ばかり……!」

「それは私も不思議に思ってるよ」

「それにあれはまだ大きくなるわ……」

「なんでそんなことわかるのさ」

「……持たざる者の勘よ」

「悔しいなら言わなきゃいいのに」

「何か言ったかしら?」

「いや何も」

 

 またしばらく、彼女が『緻密』と呼ばれるようになり、私が少し飽きてきた頃。

 

「聞いてよシェイ! あいつ、まだ大きくなってるのよ!?」

「あーうん。そうだねー」

「それに他のみんなも……」

「みんなすごいよねー」

「呑気なこと言ってる場合!? これは戦いなのよ!」

「なんの?」

「天然と人工のよ!」

「それじゃあ負けられないねー」

「そう、人類はいつだって自然の脅威に打ち勝ってきたのよ……!」

「がんばってねー」

 

 これまたしばらく、盛りに盛った胸を張って問いかけてくるイプシロン。

 

「これならどうかしら? ベータにも負けてないと思うわ」

「バランスが悪い」

「バランス?」

「うん、元々イプシロンって小さいじゃん?」

「あ゛?」

「……身長が」

「そうよね、身長が(・・・)小さいのよね」

「……うん、そうですね」

「それで? 身長が(・・・)小さいと何が問題なの?」

「えっと……華奢で小柄だと大きい胸に釣り合わないと言いますか……」

「そ、それは……」

「身長もそうだけど、おしりとかくびれとかもちょっと足りないかと……」

「……改善するわ」

「がんばってください」

 

 そんなこんなで色々と大変だった。

 

 特に擬似おっぱいとか小さいって言ったとき。戦えば私の方が強いのに、冗談抜きで殺されるかと思ったくらいだ。

 

 

 

 そしてついにやって来たある日。

 イプシロンは豊満なスライムを載せるように腕を組んでいる。彼女のお気に入りのポーズだ。

 

「どう?」

「うん、完璧」

 

 自信満々なイプシロンに、私は言葉少なく頷く。スライムボディスーツによって盛られた究極完璧な肉体は、もはや一種の芸術だ。

 

 ここまで来るのにどれだけの努力を積み重ねたのか。

 誰にも悟られないように細心の注意を払い、憎き好敵手を細やかに観察する。

 それを毎日続けたというのだ。本当に感慨深い。

 

 あのバカ兄への想いが源でなければもっと喜べたのに、という思考は頭の片隅に押しやる。

 

「これで主様も私のとりこに……!」

 

(まあシドはとっくに気づいてると思うけど)

 

 希望とスライムを胸に抱くイプシロンを前に、私は心の中だけでそう呟く。

 

 世の中には言ってはいけない言葉もあると私は学習した。イプシロン本人が満足しているならそれでいいのだ。

 

 

 

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