どうしようもない兄を持ちまして   作:slo-pe

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※本話には、暴力・拷問・報復など、通常よりも刺激の強い描写が含まれます。苦手な方はご注意のうえ、お読みいただければ幸いです。



いつかの約束と圧倒的破壊

 

 

 王都中心部にある時計台には、シャドウガーデンの幹部が勢揃いしていた。

 

「シェイ……久しぶりね」

「うん、イプシロンも久しぶり」

 

 軽く挨拶をして、奥の方にいたアルファに声を掛ける。

 

「アルファ、今ちょっといい?」

「シェイ…どうしたの?」

「これ見て」

 

 シドの部屋から持ってきた封筒を開けて、中に入っていた手紙をアルファに渡す。それを見た彼女はその端正な顔を歪めた。

 

「これは……」

「シドのところに来てたやつ。私がやってもいいよね?」

「……いいわ、こちらからも人を付けるわよ」

「了解」

 

 アルファは手紙を折りたたむと、私に咎めるような視線を向けてきた。

 

「……それと、少しはその殺気をしまいなさい。みんな怯えてるわよ」

「? ……あっ、ごめん」

 

 完全に無意識だった。

 ふぅーと長く息を吐く。吐き切ると少し落ち着いてきた。

 ……うん、冷静じゃないとできることもできない。こんな時こそ冷静になる、前にシドにも怒られたもんね。

 

「シェイ、怒ってるです?」

「ちょっとね。でももう大丈夫だよ」

「よかったのです! それじゃあ……!」

「でも飛びついては来ないでね。今日は手加減しないよ?」

「うっ、分かったのです……」

 

 デルタはシュンと尻尾を垂れさせた。いやいや、そんな悲しいか。

 何となく申し訳なくなって頭を撫でていると、アルファがニューを連れて戻ってきた。

 

「ニューが一緒に来るの?」

「ええ、彼女は尋問のスペシャリストよ。身柄を確保したら彼女に引き渡して」

 

 アルファはそう言うと、ガンマたちの所に戻っていった。ニューもよろしくお願いしますと一礼した。

 ……ニューって拷問得意なんだ。意外。

 

「シェイ様、どうかなさいましたか?」

「ううん、何でもない。ニューとは最近縁があるね、私専用係にでもなったの?」

「いえ、そうではないのですが……」

「ごめんごめん、本気にしないで」

 

 最近分かったけど、ニューはこういうとき困ったように笑う。根が真面目なのだ。

 

『七陰』から私への扱いは結構雑なので、ちょっと新鮮な気分。

 今回だったら、アルファは「違うわ」の一言で済ませるだろうし、ベータも「何言ってるのシェイ?」って呆れると思う。他のみんなも多分そんな感じだ。

 

「あ、それとね、1つだけ言っておきたいことがあるんだけど」

「何でしょうか」

 

 アルファたちは教団の情報を引き出したいらしい。ガーデンの立場ならそうなるのも当然である。

 だけど。

 

「せっかくのニューのお仕事、無くなっちゃったらごめんね」

 

 今回は好きにやらせてもらう。手加減なんてありえない。

 

「……かしこまりました」

 

 これだけでニューは察したみたい、ちょっと硬くなりながら頭を下げた。

 

 

 

 

 手紙に書かれていた場所は林道の奥だった。アレクシアが誘拐された現場に近いその場所へ、私は独り足を進める。

 ニューには気配を消して後ろに隠れてもらっている。

 

 これは復讐だ。誰にも邪魔はさせない。

 

 しばらく待っていると、新たに2つの気配が近づいてきた。

 そして、何かが飛んできたので片手で受け止める。一瞥してそれが何かすぐに分かった。

 

「学校のブーツ……アレクシアのかな」

 

 騎士団の装備に身を包んだ2人の男が、林道から姿を現した。

 

「おうおう、色男の妹さんよぉ。アレクシア王女の靴なんて持ってどうしたんだ?」

「あーあ。バッチリ魔力痕跡残ってるな」

「兄妹揃って王女誘拐とは恐れ入るなぁ」

 

 アレクシアのブーツをぽいと投げ捨てる。

 

「あなたたちがシドを拷問した2人?」

「それがどうした?」

 

 騎士団の男は言い訳すらしなかった。そのニヤケ面、本当に気色悪い。

 

「さっさと口を割れば、あんな面倒なことする必要も無かったのになぁ」

「お前の兄貴も痛い思いをせずに済んだだろうに」

 

 男2人が無遠慮に歩いてくる。

 

「シェイ・カゲノー。王女誘拐の容疑で逮捕する」

「抵抗するなよ、俺たちだって手荒な真似はしたくないんだ」

「心配要らないぜ、後で兄貴も連れていってやるからよ」

 

 そして、剣を抜こうと柄に手を添えた。

 

 その瞬間。

 

「あ?」

 

 男たちの身体が木に縛り付けられた。

 その四肢にはスライムで作った縄。

 

「これで大人しくなるかな」

「て、てめぇ、何しやがった!?」

「なにって、木に縛り付けただけだけど?」

「騎士団にこんな事をしてただで済むと思うなよ……! お、俺たちが死んだら真っ先に疑われるのはてめぇの兄貴だ!」

「そうだねぇ」

 

 私はゆっくり歩きながら男たちの前に立つ。

 男たちの顔が恐怖に歪んだ。

 

「ひ、ひぃッ……! て、てめぇはもう終わりだ……! 兄貴共々終わりだ……!」

 

 必死に、無様に、男たちは騒ぎ立てる。

 

「大丈夫だよ」

 

 両手にナイフを作って、木に突き立てる。

 

「ひぃッ!」

 

 男たちの首から、一筋の血が流れた。

 

「夜が明ければ……朝が来れば、全部終わってるから」

 

 木に刺したナイフを抜いて、一本は剣に、もう一本は縄へ変化させる。

 

「それに私は、貴方たちがシドにやったことを、一通りやり返すだけだから」

 

 まずは右側の男。その靴を切り刻み、スライム製の縄で足先を固定する。

 

「両手両足の爪は全部剥がしてから」

 

 剣の切っ先を爪に引っ掛け、力を込めると、汚い悲鳴が響く。一気になんてやってあげない。じっくりと、少しずつ剥がしていく。

 親指から始まって小指まで。片足を終えて、もう片方も親指、人差し指と突入したところで、男が本格的に狂い始めてきたため、一旦やめる。

 

 相方が狂う姿をただ見ていた男は、私と目が合うと心底怯えた表情になる。

 

「あとは、気を失わない程度の力で殴り続けるんだっけ?」

 

 スライムを棍棒に変化させて、左右に打ち込んでいく。

 

「ああそれと、痛みにもバリエーションが必要なんだよね?」

 

 作り変えた針を喉元に触れさす。男たちはひぃっとしゃくり上げて、首を小刻みに動かした。

 少しずつ、針を前に。これ以上はヤバいかなっていう寸前まで、進めてゆく。

 

 そして、抜く。

 微動だにせず、呼吸すら止めていた男は、ようやく荒い呼吸を繰り返す。

 爪剥ぎで狂っていた方の男も、ある程度正気に戻ってきていた。

 

「そうだ忘れてた……あなたたちにね、3つ良い話があるんだぁ」

 

 そんな2人に笑みを作ってみせる。

 こういう時、相手が笑っている方が何倍も怖いはずだから。

 

「1つ目は、あなたたちの裸なんて興味ないし、服は着たままで良いよ」

 

 靴は切り刻んだけど爪を剥がすためには仕方ないよね、とおどけてもみる。

 

「それじゃあ2つ目ね。人間って急所さえ守っていれば結構頑丈なんだよ?」

 

 男2人は言葉の意味が分からず戸惑う。

 

「どれだけ切られても、どれだけ刺されても、動脈と大事な臓器さえ守っていれば死なない」

 

 一転、顔を青くする。

 

「だからさ、死なない程度に、死にたくなるくらいに……あなたたちがシドにしたこと、何倍にもして返してあげる」

 

 一際大きくなった悲鳴を聞き流しつつ、2人同時に思い切り針を突き刺した。

 

「それで最後、3つ目」

 

 針を引き抜き、手をかざす。淡い水色の魔力が2人を覆う。

 手を離すと、そこには傷一つないきれいな肉体があった。突き刺した針跡だけではない。右側の男の爪は元通りに生え揃い、左側の男の殴打の痕もきれいに消え去っていた。

 

「魔力ってね、上手く使えばこんな風に傷を治すこともできるんだよ」

 

 男たちの顔が絶望に染まった。

 

「だからね、あなたたちが生まれてきたことを後悔するくらい、何度でも続けてあげる」

 

 さっきと全く同じ場所に、全く同じようにスライム針を刺す。

 

 絶叫が響き渡った。

 

 

◇◇◇

 

 

 男たちへの報復を終えて、ニューに身柄を引き渡した私は、作戦本部である時計台に向かった。

 ちなみに、ちょっとやりすぎた所為でニューはかなり難しい顔をしていた。本当に申し訳ない。

 

「遅かったわねシェイ。待っていたわよ」

「ごめんごめん」

 

 アルファは私を見つけるや否や駆け寄ってきた。

 

「待ってたって、私に何か用?」

「ええ、貴女の力を貸してほしいの」

「……何があったの?」

「あれを見て」

 

 哀しそうに騒ぎの一角に視線を向けるアルファ。

 

 そこには化物がいた。醜悪な巨体の化物だ。

 禍々しく肥大した右腕は一度振るえば建物が壊れるほどの威力、まともに喰らったら即死だろう。……ただ、その左腕は何かを抱き締めるかのように胴に癒着していた。

 その相手をしてるのは……アイリス王女か。

 

「あれって元々悪魔憑きだった子?」

「そうよ、教団に実験台にさせられていたのでしょうね」

 

 アルファはいつも以上に冷徹な表情で巨人を見つめている。

 

「それで、私に何をしてほしいの?」

 

 私が取れる選択肢は2つ。アルファならきっと───

 

「あの子を助けてほしいの」

 

 だよね。私も助けてあげたいんだけど……

 

「……ちょっと難しいかも」

「シェイでも難しいの?」

「うん、悪魔憑きって制御できない魔力の反動が肉体に現れるんだよね?」

「そうね」

「あの子の場合だと魔力が乱されすぎてる。魔力を元に戻すだけなら、ちょっと時間は掛かるけどできる。でも、完全に元通りの身体になるかは分かんないかな」

 

 悪魔憑きを治すことができるのは、私とシド、それにアルファとイプシロンの四人だ。

 私はアルファたちより練度は上だけど、シドよりは下。あれを完全に治せるかは正直、運な気がする。

 

「そう……」

 

 落胆の表情は一瞬、アルファはすぐに顔を上げた。

 

「それでもお願いするわ。どのくらい時間がかかりそう?」

「30秒は欲しいかな。それと周りの騎士団も引き付けてほしい、顔バレしたらヤバいし」

「分かったわ」

 

 アルファはそう一言告げると、アイリス王女の所へ駆け降りていった。

 アイリス王女が巨人から離れたのを見計らって、私も巨人の前に降りていく。スライムで作ったローブで顔を隠すのも忘れない。

 

「ア゛ァァァァアアアアアッ!!!!」

 

 巨人の腕が振り下ろされる。

 私はそれを避けなかった。轟音と共に、深々と地面が抉られる。

 

「よかった」

 

 この子は悪魔憑き。望んで暴れているわけじゃない。多分ただ苦しいだけなのだ。

 それなら元に戻れる可能性がずっと高い。

 

 地面にめり込んだ右腕にそっと手を添える。

 

「落ち着いて。少しだけだから、じっとしてて」

 

 触れた場所から魔力の流れを操る。乱れが激しい分、いつもよりかなり強引に。

 

 巨人の子は一瞬暴れかけたけど、ぐっと腕に力を入れて自力でそれを止めた。

 

「ありがとう」

 

 残していた攻撃への備えも捨てて、魔力操作に全神経を注ぐ。

 

「グアァァァァァアアアッ!!!」

 

 苦しみの声を上げる巨人の子。

 ごめんね。正常な流れに戻すためとはいえ、乱れ切った魔力を強引に捻じ曲げたからめちゃくちゃ痛いと思う。

 でも。

 

 見上げるほどだった巨体が見る見るうちに縮んでいき、華奢な女の子の姿に変わった。

 

「よかった……」

 

 崩れ落ちる身体を受け止める。その姿は──少なくとも見た目の上では──普通の人間の姿だ。

 

 彼女の左腕から、カチャンと何かが落ちた。地面に目を向けて、はずみで開いたペンダントを見て、私は息を呑んだ。

 2人の父娘が写った金色のペンダント。

 忘れようのない、彼が持っていたのと同じペンダントだ。

 

「ようやく約束を守れますね、オルバさん」

 

 ──この子は2年前に約束した、オルバの娘だ。

 

「シェイ、戻るわよ」

 

 アイリス王女の足止めを終えて戻ってきたアルファ。彼女もペンダントを見て察したみたいで、その声音には優しさが込められていた。

 

「うん」

 

 私はペンダントを拾い、ぎゅっと握ると、その場をあとにした。

 

 

◇◇◇

 

 

 ~アレクシア視点~

 

 突如現れた漆黒のロングコートを纏った男。

 悠然と歩みを進めた男は、ゼノンの間合いの一歩外で止まった。

 

「漆黒を纏いし者……。君が近ごろ教団に噛み付いてくる野良犬か」

 

 ゼノンが鋭い眼光で漆黒の男を睨む。

 

「我が名はシャドウ。陰に潜み、陰を狩る者……」

 

 深く、低く、深淵から発せられたような声だった。

 

「なるほど。小規模拠点を幾つか潰していい気になっているようだが、君たちが潰した拠点に教団の主力は1人もいない。ただ雑魚を狙っているだけの卑怯者だ」

 

 シャドウと名乗った男はどうやらゼノンと敵対しているようだった。それはアレクシアにとって朗報だ。しかし、この男が味方だとも思えない。

 

「何奴を狩ろうと何処で狩ろうと同じ事だ」

「残念だが同じにはならない。教団の主力はここにいる。君は今日、私の手によって狩られる運命にある」

 

 ゼノンがシャドウに剣を向けた。

 

「次期ラウンズ第12席ゼノン・グリフィ。君の命、ラウンズへの手柄とさせてもらおう!」

 

 ゼノンがシャドウへと剣を振るう。

 アレクシアはその軌道ををかろうじて目で追うことしか出来なかった。

 白刃の残像が空を裂き、シャドウの首へ迫る。

 

 しかし。

 

「鈍い剣だ……」

 

 シャドウはいとも容易くそれをいなした。いなし続けた。

 ゼノンの攻撃が止み、睨み合う2人。

 

「そんなものか、次期ラウンズ」

「ッ……!」

 

 ゼノンの表情が憤怒に染まった。敵への怒り、そして何よりも自身への怒りに。

 

「舐めるなァァァァァァァアッ!!」

 

 ゼノンが怒涛の連撃を仕掛ける。

 だがその総てが通じない。

 

「アアアアァァァァァァァアッ!!」

 

 気合いの咆哮が虚しく聞こえた。

 まるで大人と子供、達人と素人の戦い。勝負にすらなっていない。

 

 アレクシアはその様子を衝撃と共に見ていた。

 未だかつて、ゼノンがこのような姿を曝すことがあっただろうか。余裕の笑みも人格者の仮面も脱ぎ捨てて、それでも尚まるで届かない。

 

 カン、カン、カンと。

 

 場違いなほど軽い剣の音が辺りに響く。それはまさしく稽古の音だった。

 漆黒の刃と白刃が描く剣の軌跡。

 いつしかその稽古にアレクシアは見入っていた。漆黒の刃に魅入られて、目が離せないでいた。

 

 だってそれは──

 

「シェイの剣だ……」

 

 力みのない構えも、基本に忠実な剣筋も、無駄が削ぎ落された魔力の使い方も。

 なにもかもがシェイに似ていた。

 

「いえ、違う……逆だわ」

 

 シェイが、彼の剣を真似ているのだ。

 

『いつかアレクシアには私以上の理想を見つけてほしいな』

 

 かつてシェイに言われた言葉を思い出すと同時、アレクシアは自身が震えていることに気づく。

 

 歓喜だった。

 

 シェイから剣を教わるようになって、自分の力が飛躍的に伸びていることは感じていた。

 だが、ここまで圧倒できるものなのか。これほどまで高みにいけるものなのか。

 

「凄い……」

 

 改めて思う。自分はこの剣を極めていこうと。

 地道に、ひたむきに、まっすぐに。

 気が遠くなるほど研鑽を積み重ねたその先に、この剣があるのなら。

 

「き、貴様いったい何者だ! それだけの強さがありながらなぜ正体を隠す!」

 

 幾度となく剣を振るいながらも、ゼノンの攻撃はただの一度も当たっていない。

 彼は荒い息を吐きながらシャドウを睨む。

 

「我らはシャドウガーデン。陰に潜み、陰を狩る者。我らはただ、それだけの為にある……」

「正気か、貴様……?」

 

 シャドウは答えない。ゼノンはふっと笑みを浮かべた。

 

「いいだろう。貴様が本気だと言うのなら、私もそれに応えようじゃないか」

 

 懐から赤い錠剤を取り出す。

 

「この錠剤によって、人は人を超えた覚醒者となる。しかし常人ではその力を扱いきれず、やがて自滅し死に至る。だがラウンズは違う。その圧倒的な力を制御できる者だけが、ラウンズになる権利を得るのだ」

 

 ゼノンは錠剤を一気に飲み込んだ。

 そして。

 

「覚醒者3rd」

 

 魔力が暴風となって吹き荒れた。

 一瞬にしてゼノンの傷が治っていく。筋肉は締まり、瞳は充血し、毛細血管が浮き出る。

 圧倒的なまでの力の重圧に押し潰されそうになる。

 

「最強の力を見せてやろう」

 

 余裕の笑みを取り戻したゼノンが言う。 それに対してシャドウは、

 

「醜いな……」

「醜いだと……?」

 

 笑みを消してゼノンが問う。

 

「その程度で最強を騙るな。それは最強への冒涜だ」

 

 淡々としたその声には、ただ絶対の自信が込められていた。それだけで彼が積み重ねてきた道の険しさが窺える。

 

 気圧されたゼノンが数歩後ずさる。

 それを追うように、シャドウがゼノンへとゆっくり近づいていく。

 

 そして、高々と足を振り上げ、足元に転がる瓶を──ゼノンが使った赤い錠剤を否定するかのように──踏み潰した。

 

「借り物の力で最強に至る道はない」

 

 その瞬間、青紫の魔力が世界を覆った。

 

 

 

 

 それは唐突に襲い掛かってきた。

 

「っ───!」

 

 根拠はない。

 ただなんとなく、ぞっとするような何かを感じた。

 

「シェイ、どうかしたの?」

「あ、うん、何かいやな予感が……」

 

 したんだけど、と。

 問い掛けてきたアルファに返事をしようとして、突如膨大に膨れ上がる魔力を感じた。

 

 その瞬間、私は察した。察してしまった。

 

 ──ああ、あのバカ調子乗ったなと。

 

 こんなアホみたいな魔力を扱える人間、私は1人しか知らない。

 目を背けようか迷うこと少し、私は予感の発生源へと身体を向けた。

 

 そしてその数秒後、青紫の魔力が爆発した。

 呆れてしまうほど綺麗な魔力。天上に伸びたそれが、王都の半分を包み込んでいた。

 隣のアルファをチラリとみる。彼女はいつもの冷静な表情でその光景を見つめつつ、その瞳には憧憬の念が混ざっていた。

 

(ううーん、恋じゃないけど、盲目って怖いね)

 

 どうしてそんなに全肯定なのか。

 いやまあ結果だけ見ればそうなるんけど、もうちょっと中身も見てほしい。そのアホさ具合がわかるはずなのに。

 

 はぁとため息を吐いた私は、蒸発する王都を眺めながら、

 

(まあうん、多分避難は終わってるでしょ。人的被害がなければそれでよし)

 

 現実からそっと目を逸らした。

 

 

 

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