紫鬼が支配する桜ヶ島を奪還できるのは、彼らだけ……だと思います。
ここも、大幅にアレンジしています。
「……何だ、これは……」
街の風景は、異様だった。
目に光のない大人達が、子供達を収容所に連行していく。
琉球エージェントの真栄田理茶土と岸本終は、超能力を持ちながらも怯えていた。
普段なら子供達を温かく見守るはずの親や近所の大人達が、
虚ろな表情で子供達の身体を掴んでいる。
泣き叫び、嫌がる子供達の手首には容赦なく冷たい縄がかけられ、
不気味な黒塗りの大型トラック――いや、
「地獄収容所」へと続く異形の鉄籠へと押し込められていた。
「おい……あれ、普通の警察や自治体の動きじゃねえぞ。大人達の目が完全に死んでやがる!」
理茶土は、路地裏の影に身を潜めながら、あまりの異常事態に額から冷や汗を滑らせた。
彼は数々の凶悪な怪異をねじ伏せ、調伏した多数の使い魔を操るエージェントだ。
だが、この街全体を覆う狂気には、背筋が凍りつくような恐怖を覚えざるを得なかった。
「静かにしろ、理茶土。気付かれたら面倒だ」
隣で低く囁いたのは、女性エージェント・岸本終だった。
彼女はあらゆる異能を模倣して行使できる万能の能力者。
個々の能力の最大出力では阿藍や狼王といった特化型には一歩譲るものの、
その圧倒的な知識と対応力で数々の死線を潜り抜けてきたベテランである。
「これ……紫鬼の術だよな? なんで俺達には効いてねえんだ?」
「紫鬼の精神支配は、波長を合わせた人間の脳幹に直接働きかけるタイプ……。
でも、私達超能力者は常人に比べて精神の防壁が格段に強い。
それに、桃鬼様由来の異能の波長が、紫鬼の毒を弾いているんだ」
終は冷静に分析しながらも、その瞳の奥には激しい憤りを宿していた。
理茶土は小鬼のような小さな使い魔を数体召喚し低空を飛ばせてトラックの行き先を探らせた。
使い魔達が持ち帰った視界の映像には、街外れの廃工場が映し出されていた。
そこは、まさに地上に作られた暫定的な「地獄収容所」と化していたのだ。
「……子供ばかりを集めてどうするつもりだ? 鬼どもの食糧か?」
理茶土が拳を握り締め、歯の隙間から漏らす。
「それだけじゃない。社会から子供を消し去り、大人を傀儡にすれば、
人間社会は戦うまでもなく内側から勝手に崩壊する」
終は路地裏の壁にそっと手を触れると、
僅かな感覚強化の異能を発動させ、収容所周辺の警備配置を探った。
「操られた大人達が外囲を固め、奥には数体の鬼……手強いな。
下手に大人達を攻撃すれば、操られているだけの一般人が命を落とす」
「畜生、手出ししづらいように大人を盾にしてやがるのか! どこまでも卑怯な野郎だ……!」
理茶土は使い魔達を蠢かせながら、苛立ちを隠せない。
「嘆いていても始まらない。他の仲間にこの状況を伝えて、収容所の解放ルートを確保するんだ。
君の使い魔で潜入経路を探らせてくれ。
私は周囲の防衛線の網の目を潜り抜けるための隠蔽異能を準備するから」
「……分かったよ。子供達をあんな場所に閉じ込めさせてたまるか」
怯えを殺し、決意を固めた二人は、紫鬼の邪悪な陰謀を打ち砕くべく、
大人達の虚ろな目と鬼の監視を掻いくぐるようにして、暗闇の中へと滑り込んでいった。
超能力もあってか、二人は何とか、鬼と洗脳された大人の監視網を掻い潜る事に成功した。
理茶土の使い魔が暗闇から盗聴してきた情報を繋ぎ合わせると、
紫鬼の恐ろしい狙いが浮き彫りになってきた。
「親子の絆……か」
理茶土が険しい表情で呟く。
子供達が親と強制的に引き離された事で、
「親子の絆」という強い精神的結びつきが断ち切られていた。
それこそが、鬼を打ち祓う「鬼祓いの秘技」の根幹をなすエネルギー源だったのだ。
紫鬼は子供達の親を演じ、その歪んだ情愛によって真の親子の絆を無効化し、
地獄から大量の鬼を地上へと呼び寄せようとしていたのだった。
「どこまでも狡猾だな……」
終が唇を噛み締めたその時、廃工場の陰から一人の少女が姿を現した。
章吾達と別行動をとっていた、彼の双子の姉――有栖であった。
「大人なのに無事だなんて……でも、そんなのはどうでもいいわ」
有栖は二人を見つけると、安堵と焦りの混ざった表情で駆け寄ってきた。
「こんなところで一人で何をしてるの? 章吾達は?」
「弟達とは別ルートで潜入中なの。それより……あの収容所に術をかけて大人達を操り、
子供達から絆を奪っている元凶が分かったわ。
紫鬼の部下で、赤ん坊の姿をした鬼――紫星よ!」
その言葉を聞き、理茶土と終の目が鋭く光る。
「赤ん坊の鬼か……。なら、話は早い」
終が静かに手首のウォーマーを締め直した。
「ターゲットが分かったなら、迷う必要はない。その紫星って奴をぶち殺して術を解けば解決だ」
理茶土も影から数体の獰猛な使い魔を這い出させ、戦闘体勢に入る。
「で、でも……っ!」
勢いづく二人に対し、有栖は不安そうに叫んだ。
「今の子供達は親と引き離されて、鬼祓いの秘技が使えないのよ!
絆の力がない状態で、上級鬼に勝てるわけが――」
「心配はいらない」
終は有栖の肩にそっと手を置き、柔らかく、けれど揺るぎない口調で言葉を遮った。
「鬼祓いの秘技が使えなくても、私達には超能力がある。
この力は……親子の絆なんてものとは、全く関係のない場所にある力なんだ」
――これが、かつて子供を守るために全てを捨てた桃鬼から分け与えられた、
鬼由来の力だとは、決して明かす事はできないけれど。
「だから僕達に任せておけ。あんな歪んだ赤ん坊、一瞬で片付けてやるからさ」
理茶土が頼もしく笑ってみせると、終も力強く頷いた。
「行こう。子供達の未来を取り戻すよ」
「……うん!」
かつて子供達の歓声が響き渡っていた桜ヶ島の学校は、
今や異様な静寂と惨劇の予感に包まれていた。
校門を潜った瞬間、肌を刺すのは校庭の土の匂いではなく、
重く湿り気を含んだ妖気と、意志を失った大人達の冷たい気配だった。
校舎の窓からは電灯の明かりが虚ろに漏れ出し、
校庭には整列させられた保護者や地域の大人が、
ロボットのように規則正しい歩調で見張りを続けている。
その中心に鎮座するのは、地獄収容所――校舎そのものが、
地上に現出させた地獄の出張所と化していた。
「……酷い。みんな、目が完全に死んでいるわ……」
校門の陰から校庭の様子を窺う有栖が、唇を噛み締めながら声を潜めた。
「静かに。見張りの密度が半端じゃない」
終が鋭い視線で校内を見回す。
その隣では、理茶土が影の中に指を滑らせ、既に無数の使い魔達を索敵へと放っていた。
「ここから校舎の最奥……校長室か体育館あたりに術の元凶がいる。
ただし、正面突破は愚策だ。洗脳された一般人を傷つけるわけにはいかないからな」
理茶土が低く囁くと、有栖が静かに頷き、手の中で小さな光の粒子を弄んだ。
「私の魔法で視覚と音を騙す霧を展開するわ。短い時間だけど、大人の監視網の死角を作れるわ」
「助かるぞ。私が異能の波動で、鬼側の感知センサーを相殺する術式を重ねる。
使い魔で進路上の影の道を作れ」
「了解だ。行くぞ!」
三人は一糸乱れぬ連携で動いた。
有栖が唱えた呪文と共に、薄桃色の半透明な霧が校庭の隅をそっと覆う。
洗脳された大人達が虚ろな目を向けるが、
その視線は有栖の魔法によって屈折し、三人の姿を認識できない。
さらに、終が模倣した超能力が、鬼達が仕掛けた警報結界を無力化していく。
そして理茶土の影から這い出した漆黒の小鬼達が、
校舎の外壁や廊下の影を押し広げ、三人を通すための完全な暗道を作り出した。
すり抜ける瞬間、かつて有栖の知人であった近所の大人とすれ違った。
手首には冷たい鉄枷が握られ、子供達を容赦なく校舎へ押し込む作業を繰り返している。
その瞳には光がなく、ただ紫色の怪しい術式が瞳孔の奥で渦巻いていた。
(待っていて、みんな……絶対に助けるから!)
有栖は胸の中で強く祈りながら、理茶土と終の背中に続いて校舎内へと滑り込んだ。
薄暗い廊下を進むにつれ、空気は一層冷たくなり、
精神を腐らせるような紫鬼特有の毒気が濃くなっていく。
数々の罠や鬼の監視網が網の目のように張り巡らされていたが、
終のあらゆる属性を網羅する異能の応用力と、理茶土の使い魔による先回り、
そして有栖の繊細な魔法のサポートによって、三人は一度も警告を鳴らされる事なく、
最奥――巨大な重圧が漏れ出る体育館の重い扉の前へと到達したのだった。
ドスン、と重い音を立てて体育館の扉が開く。
広い体育館の中央には、数百人もの子供達が怯えきった様子で丸くなり、
涙を流しながら身を寄せ合っていた。
そして、中央に鎮座していたのは――顔の半分を占める歪んだ一つ目をニイと歪めた、
赤ん坊の姿をした鬼、紫星であった。
「くっくっく……何事かと思えば、鼠が三匹、首を突っ込みに来たか」
口から発せられたのは、見た目からは想像もつかない、しわがれた老人のような声だった。
紫星は一つ目を細め、体育館の天井を仰ぎ見ながら嘲笑う。
「こんな簡単な暗示の瞳術に、まんまとかかるとはのう。
人間どもの大人という生き物は、真に大したものではない。
子供を守るだの抜かしながら、親子の絆を一筋断ち切ってやれば、
この通り容易く我が忠実なる犬に成り下がる。愚かの極みじゃな!」
「てめぇ……! 子供達を恐怖に陥れて、大人を玩具みたいに扱いやがって……!!」
紫星の侮蔑に満ちた言葉を聞き、理茶土は激昂した。
影から溢れ出た使い魔達が凶暴に牙を剥き、体育館の床を黒く染め上げていく。
理茶土が今にも躍りかかろうとした瞬間、その両肩を終と有栖が強く掴んで押し留めた。
「落ち着け! 敵の挑発に乗ってはダメだ!」
「駄目よ! まだ敵の全貌が見えてないわ!」
「……ちっ、分かってるよ!」
理茶土は歯を食いしばり、必死に怒りを抑え込んだ。
そんな三人の様子を見て、紫星はさらに嘲笑を深める。
「ほほう、少しは頭の回る奴もおるようじゃな。じゃが……たった三人で、わしに挑むつもりか?
わしの真の姿、そしてこの場の本当の絶望を知らぬというのに」
「真の姿だかなんだか知らんが、一人しかいないなら十分すぎる戦力だ。覚悟しな、赤ん坊!」
理茶土が強気に言い放った、その時だった。
「一人だと、誰が言ったかしら?」
頭上から、冷酷で美しい女の声が降り注いだ。
体育館のキャットウォークから、ひらりと舞い降りた人影。
長いまつ毛に酷薄そうな目、紫のヴェールで頭を覆い、
妖しいドレスを身に纏った冷酷な美女――紫鬼の側近、紫姫であった。
「紫姫……! 何故、お前がここに!?」
終が表情を険しくし、瞬時に異能の障壁を最大展開する。
本来、鬼という生物は傲慢であり、
他者と群れて協力する事を何よりも嫌う性質を持つはずだった。
紫姫は不快そうに眉をひそめ、紫星を一瞥した。
「……勘違いしないで頂戴。私はこの見苦しい赤ん坊と手を組むつもりなど毛頭なかったわ。
けれど、貴方達の妨害によって作戦が滞り、紫鬼様のお叱りを受けるわけにはいかない……。
追い詰められたからこそ、渋々こうして手を貸してあげるのよ」
「言い草よのう、紫姫。
まあよい、さっさとこの鼠どもを片付け、紫鬼様に捧げる楽園の糧としようぞ!」
紫姫がフンと鼻を鳴らすと、その全身から溢れ出る魔力が爆発した。
彼女の身体が妖しく歪み、ドレスが裂け、背中から無数の節足が突き出す。
「我が真の姿の前に、露と消えなさい!」
そこには最早美女の面影はなく、
体育館の天井に達するほどの巨大で禍々しい蜘蛛の姿となった紫姫が立ちはだかっていた。
毒々しい紫色の体躯から、数千の単眼が三人を見下ろす。
「戦闘開始だ! 有栖、子供達を守れ! さあ、行くぞ!」
「ええ、合わせて!」
破滅的な威圧感が吹き荒れる中、地獄の小学校での死闘が幕を開けた。
蜘蛛と化した紫姫が叫びを上げると、
その口から無数の粘着質な毒糸が弾丸のような速度で射出された。
「ファイアーボール!」
終が前線へ飛び出し、手から放たれた極大の火炎弾で毒糸を焼き払う。
しかし、紫姫の巨躯から繰り出される鋭い節足の突刺しは炎を容易く突き破り、
終の防御障壁を激しく叩いた。
「くっ……重い……! 単体での戦闘力が違いすぎるわ」
「下がって! マジック・ミサイル!」
後方から有栖が魔法陣を描き、純白の光弾を紫姫の目眩ましとして打ち込む。
紫姫が怯んだ隙に、理茶土が影から無数の漆黒の猛獣を解き放ち、紫姫の脚へ噛みつかせた。
「鬱陶しい羽虫どもが!」
紫姫は激しく暴れ回り、猛獣達を力任せに振り払い、体育館の床を叩き割る。
その衝撃波だけで有栖と終が後方へ吹き飛ばされた。
一方で、紫星は高みの見物を決め込みながら、
一つ目から怪しい精神波を放ち、三人へ精神攻撃を仕掛けていた。
「ほれほれ、どうした! 絶望に呑まれよ!
親子の絆を失った子供らのように、ただ泣き叫んで死ぬがよい!」
(ダメだ……正面から紫姫の巨躯を押し切りつつ、紫星の精神波を防ぐのは消耗が激しすぎる。
何か……何かこの場を打破する仕掛けがあるはずだ!)
激しい攻防の中、理茶土は冷徹に周囲の違和感を観察していた。
紫星は一歩も動こうとしない。
そして、紫星が暗示の術を強めるたび、体育館の壁の陰――
暗がりに隠された祭壇のような魔導器が、紫色の光を脈打たせている。
(あいつ……あの肉体はただの依り代だ!
本体は、あの祭壇の向こうの異空間に隠して連動させてやがるんだ!
だからあんな小さな姿で高位の術が使えるんだ!)
理茶土は終と一瞬だけ視線を交わした。
長年のエージェントとしての呼吸が、言葉なしに作戦を伝達する。
(紫姫を引きつけてくれ! 僕が元凶を叩く!)
(任せろ!)
「最大出力の支援魔法を! 全開で突っ込んでくれ!」
「了解! シールド……行って!」
有栖の全魔法力が終に注ぎ込まれ、終の体が青白い光に包まれる。
「ハァァァッ!」
終はあらゆる属性の超能力を全身に纏い、一筋の彗星となって紫姫の正面へと突撃した。
炎、氷、雷、風が交錯する嵐のような連続攻撃が蜘蛛の巨躯を乱打し、
紫姫の意識を完全に自らへと惹きつける。
「な、生意気な女がぁっ!」
紫姫が狂乱して終へ全攻撃を集中させた、まさにその瞬間。
理茶土は自身の影を最大限に広げ、体内に潜ませていた最強の使い魔――
巨岩をも粉砕する漆黒の巨大ゴーレムを、紫星の背後の暗がりへ直接召喚した。
「いけぇぇぇっ! 全部ぶち壊せ!!」
ゴーレムの巨大な岩の拳が、紫星の魔力供給源である暗闇の祭壇と、
そこに繋がっていた魔導器を正面から直撃した。
体育館全体が激しく揺れ動き、異空間の亀裂が弾け飛ぶ。
「な……なんじゃとぉぉぉ!?」
紫星が驚愕の悲鳴を上げた。
祭壇から溢れ出ていた黒い肉塊が粉々に砕け散り、
紫星と地獄を結んでいた肉体のラインが完全に断ち切られたのだ。
「バ、バカな……! わしの……わしの真の肉体との接続が……破砕されたというのか!?
これでは、わしは真の姿を現す事ができぬではないかぁぁぁっ!」
紫星の悲鳴が体育館に響き渡る。
赤ん坊の肉体は、本来、
地獄にある巨大な本体から魔力を吸い上げるためのアンテナに過ぎなかった。
それを理茶土の使い魔が破壊した事で、紫星は真の姿へ変身する術を永遠に失い、
脆弱な依り代のまま取り残されてしまったのだ。
「ひ、ひぃぃぃっ!? お、覚えておれぇぇぇっ!」
力を失い、超能力者達の底知れぬ力と作戦勝ちに完全に恐れをなした紫星は、
なりふり構わず自らの足元に小さな地獄の穴を開けると、
情けない悲鳴を上げながら地獄の底へと逃げ帰っていった。
「あの役に立たぬ赤ん坊が……っ!」
紫星が逃亡し、動揺した紫姫の隙を、終と有栖が見逃すはずはなかった。
「拘束を!」
「ええ! ホールド・モンスター!」
有栖が放った光の鎖が、巨大な蜘蛛の節足を次々と縛り上げる。
「くっ……離しなさい、この虫ケラども!」
暴れる紫姫に対し、終が限界を超えた異能を右拳に集約させた。
「これで……終わりだ! グラビティ・フィスト!!」
終の放った強烈な重力波と衝撃波の直撃を受け、紫姫の巨大な体躯は半壊し、
元の美女の姿へと強制解除されながら床に叩きつけられた。
「ガハッ……紫鬼様……申し訳……ございません……」
吐血し、身動きの取れなくなった紫姫が死体のように横たわる。
「お前みたいな危険な鬼は、二度と地上に上がってこられない場所に送ってやる」
理茶土が冷徹な眼光で歩み寄り、両手をかざした。
彼の影から巨大な顎を持つ使い魔が現れ、紫姫の体を丸呑みにするようにして咥え込む。
「放しなさい……放し……あぁぁぁぁっ!」
紫姫の悲痛な叫びと共に、使い魔は空間を切り裂き、
二度と這い上がれない地獄の最果てへと彼女を叩き落とし、完全に封印した。
しんと静まり返る体育館。
次の瞬間、体育館の天井を覆っていた禍々しい紫色のモヤが、
光の粒子となってサラサラと消えていった。
校庭や校舎内にいた大人達の瞳から、怪しい紫色の光が消えていく。
「……あ、あれ? 私はここで何を……?」
「ぼ、僕の息子は……!? 一体どうなったんだ!?」
大人達が次々と自我を取り戻し、困惑しながらも、
自分の子供を求めて校舎内へと走り込んでくる足音が聞こえてきた。
紫星の瞳術が完全に解け、大人達にかかっていた洗脳が解除されたのだ。
「お父さん! お母さん!」
「よかった……よかったよぉ!」
体育館の扉が開き、駆け込んできた親達と、怯えていた子供達が次々と抱き合う。
失われていた親子の絆が温かい涙と共に再び結ばれ、
体育館は大きな歓喜と安堵の声で包まれていった。
「……やったな」
理茶土が肩の力を抜き、やれやれと息を吐いた。
「ああ。君の機転のおかげだ。見事だったよ」
終が柔らかく微笑み、理茶土の頭を軽く撫でる。
「ありがとう、二人とも……! これで、桜ヶ島のみんなが助かったわ!」
有栖も涙を拭い、晴れやかな笑顔を浮かべた。
窓から差し込む朝の光が、地獄と化していた校庭を優しく照らしていく。
紫鬼の邪悪な陰謀は打ち砕かれ、桜ヶ島に束の間の、しかし確かな平和が戻ったのだった。
どうでもいいですが、児童書って表現の自由があるようで実はないんですよね。
女性主人公=恋愛とか、作者が書いているジャンルの偏りとか。