ウチのオリキャラも何とか頑張っていきますよ~。
街は赤天に覆われている。
太陽は既に地平線の彼方に沈み、月のない、血のような空がどこまでも広がっている。
見渡せるのは、大地震に見舞われ、崩壊した街の惨状だ。
そこで暮らしていた人々は、今、各地の防災避難所に閉じ込められている。
代わって街を練り歩くのは、地獄からやってきた鬼達だ。
だが、彼らもまた、囚われている。
意思を奪われ、機械のように歩いていく。
今、この街を支配するのは、地上と地獄の狭間で何千年と生き続けていた……災厄の王。
まだこの世界に生まれてすらいないのに、そいつは意思を持っていた。
自分の誕生を邪魔しようとする、五月蠅い生き物達の存在を感じ取っていた。
災厄の王――“絶鬼”は、命令を下す。
王を守れ、我が影よ。
(これで、全てを終わらせるんだ――――)
大場大翔は、走っている。
足を振り上げ、腕を振り抜き、木々が鬱蒼と葉を茂らせた中、
どこまでも続く石段を、隣を走る銀華と二人、一直線に駆け上がっていく。
目指すのは、五芒星の北の頂点――桜ヶ島神社の上の宮だ。
「頑張って、銀華ちゃん! もう少しだ!」
走りながら、大翔は、不思議な感じがしてならなかった。
小学校に閉じ込められて、初めて鬼に襲われた日の事を思い出していた。
あの日の大翔は、こんな日が来る事を想像もつかなかった。
自分が、世界の終わりを食い止めるべく、走っていく日が来るなんて事を。
石段を登り切ると、広場に出た。
鬼祓いの修業の時に何度も通った、見慣れた場所だ。
境内の鳥居も、石像の狛犬も、剥げかけた瓦屋根を被った拝殿も、そのままだ。
あの拝殿内の祭壇に、結界石を祀る。
大翔は、立ち込める瘴気に気づいた。
様々な色の絵の具をぶちまけたような瘴気が、霧のように辺りに立ち込めている。
『最後の鬼ごっこのルール』
大翔は気づいた。
境内の看板に、じわじわと浮かび上がっていく、その文面に。
『ルール①:子供は、鬼から逃げなければならない。』
『ルール②:鬼は、子供を捕まえなければならない。』
『ルール③:能力者は、鬼と戦わなければならない。』
『ルール④:鬼を封印できれば、子供と能力者の勝ち。』
『ルール⑤:朝陽が昇って目覚めれば、鬼の勝ち。』
『ルール⑥:鬼が勝ったら……』
大翔はそれ以上、もう読まなかった。
初めて黒板にルールを見たあの日、大翔は、訳も分からず従った。
しかし、母と喧嘩してへそを曲げていた、あの日の自分とは、もう違う。
誰かが決めたルールなんていらない。
たとえ神様だって、絶鬼だって、自分達の運命は、自分達が決める――と、大翔は誓った。
「ルール・∞!」
そして、彼は力いっぱい、宣言した。
「俺達が―――――――勝つんだ!!」
「ひ、酷い目に遭った……」
「まったく、私がいなかったら今頃お陀仏だったわよ」
我妻総一朗は、まだくらくらする頭を押さえて、ぶるりと首を振った。
彼の恋人の上原麻麻は、まるで姉のように総一朗を気遣っている。
大翔達のいる桜ヶ島市から、東南東へ数km。
総一朗と麻麻は、テレポートによって、この地まで辿り着いたところだ。
「さて、と……」
総一朗と麻麻は、ぐるりと辺りを見回した。
辿り着いた場所は、広々とした庭園だった。
向こうに、西洋建築の白い建物が見えた。
以前みんなで訪れた――土御門美術館だ。
「あそこが私達の担当ね」
全てを終わらせるために、総一朗と麻麻はこの地を訪れていた。
再び鬼門に結界を張り直し、鬼達を地獄に追い返すため。
街に現れた絶鬼の卵を、元通り地中深くに封じ込めるために。
そのために使うのが――“大鬼門封じの術”。
五つの新しい結界石で、巨大な五芒星を描いて発動させる、非常に強力な結界術だった。
それで、総一朗達はアジトを発った後、5チームに分かれて目的地を目指している。
総一朗と麻麻の担当は、五芒星の北東の頂点。
土御門美術館奥の小部屋にあった、封印の祠だ。
以前にも来た事があるため、場所は分かっている。
「早く済ませて、デートしましょう」
「お前はそれしか考えてないのか?」
「これが当たり前なんだから」
カバンに入れた結界石を確認すると、総一朗と麻麻は美術館の前へと移動した。
辺りに人の気配はなく、門は閉ざされている。
大地震の騒ぎで、休館になっているようだ。
「失礼します……」
「随分と礼儀正しいのね」
総一朗と麻麻は足をかけると、そそくさと門を乗り越えた。
入り口の扉をノックするが、反応なし。
「壊す?」
「やめろ」
総一朗はポケットから、悠達に分けてもらった、『開』の符を取り出す。
扉に貼りつけると、軋んだ音と共に開いた。
恋人と共に、中へ踏み込む。
(以前に来た時は、入った途端、青髭男爵って鬼に襲われたんだったな……)
(でもまあ、殺しちゃったし、ね?)
吹き抜けの、だだっ広い玄関ホール。
羽目殺しの窓の向こうから、朱い光が射し込んで室内を照らしている。
高い天井には、豪奢なシャンデリア。
磨き上げられた、大理石の床。
並んだ彫刻に、壁にかけられた色とりどりの絵画。
「うっ……」
……瘴気が立ち込めていた。
何百色もの油絵の具をぶちまけたような瘴気が、空間のあちこちで渦を巻いているのだ。
総一朗は唾を飲み、麻麻は口を手で押さえる。
まるで、自分達が絵の中に――
それも、訳の分からない抽象画の中に、放り込まれてしまったようだ。
ホール奥の扉の向こうから、音が聞こえてきた。
――オ゛ロロン。オロロン゛。オ゛ロロン……。
何故か思った……天災の音だって。
地震の音、雷の音、竜巻の音、それと同種の音。
鳴き声を上げて近づいてくる災厄。
総一朗と麻麻は、足を踏ん張る。
――オ゛ロロン。オ゛ロロン。オ゛ロロン……。
「俺は、鬼祓いの家の長男だ……」
「……私は、戦う事しかできない」
鳥肌の立った腕を、さすりながら。
ずっと昔、曾祖父――麻麻の曾祖父の兄弟に言われた言葉を自分に言い聞かせるように呟いた。
「ヒーローとは、強い者を言うのではない。みんなに勇気を与えられる者の事を言うのだ……」
「……戦わなきゃ、いけない」
音もなく扉が開いて――やってきたものの姿が見えた。
ひたひたと、総一朗と麻麻の方へ歩いてくる。
「あなたは代わりに行って! すぐに追いつくから!」
「ああ! いざ、尋常に――さらばだ!」
麻麻が戦う間に、総一朗はくるりと背を向け、壁伝いに走って逃げる。
それが跳ねて、総一朗を追いかけ始めた。
「逃がさないわよ!」
麻麻が放った強烈な電撃が、それを打ち据える。
彼女は総一朗を信じて、戦い続けた。
「葵さんのスーパー推理タイム。聞きたい? 悠」
「別に聞きたくない……っていっても、話すんでしょ? どうぞ。聞くよう」
すぐそこにあるのは、夜の闇の中に揺蕩う東京湾だ。
漆黒の海の向こうに見えているのは、きらきらした光を放つビルの群れ。
頭上にかかったレインボーブリッジを、幾筋もの車のライトが行き交っている。
船着き場に積まれたコンテナの陰に、宮原葵、桜井悠、比嘉理々庵は身を隠していた。
――オ゛ロロン。オロロン゛。オ゛ロロン……。
三人の隠れたコンテナの向こうを、這うように歩いていくものがいる。
不気味な鳴き声を撒き散らしながら、徘徊している。
サイズは人間の大人よりも、二回り大きい。
四肢を持った人型だが、腕は異様に長く、地面までついている。
体は半透明に透け、ドロドロとしていて、個体か液体かも分からない。
表面を絵の具のように色が渦を巻き、あちこちでうようよと短い触手が蠢いている。
「……ま、絶鬼の護衛ってところでしょうね」
葵が、ピンと指を立てて続けた。
「絶鬼の分身――いえ、影みたいなものなんじゃないかしら。
自分が孵るのをあたし達に邪魔されないよう、本体が派遣したっていうのがあたしの考えよ。
どう思う? 悠、No.16。この推理は」
「正しいと思うな」
「絶望的な推理だと思うよう」
悠はがっくりと肩を落とし、理々庵はほくそ笑んだ。
三人も、青児の乗り物に乗って、ここへ――東京湾沿いの埋め立て地へやってきていた。
三人の担当は、五芒星の南東の頂点。
以前ハロウィンの日に訪れた、鬼鎮神社の祭壇だ。
今いるのは、神社から数km離れた湾沿いの埠頭。
周囲に人の気配のしない、都会の中のエアポケットのような場所だった。
レインボーブリッジの上を、消防車が、サイレンを鳴らしながら通り過ぎていく。
カーステレオから、桜ヶ島の異変を伝えるニュースが響く。
不安そうに聞き入る彼らは、すぐそこで起こっている異常には気づかない。
辺りに瘴気が漂っている事には。
「ヘンな感じ。空間がぐにゃぐにゃしてるっていうか。……酔いそう」
「酔い止めを創造するか?」
「いらないよ」
周囲を見渡し、悠が呻いた。
葵が肩を竦める。
「それも、絶鬼の影響なんでしょうね」
「桜ヶ島から、こんなに離れてるのに?」
「絶鬼にとっては、大した距離じゃないんじゃない?
あたし達が、休み時間に、隣の教室まで遊びに行くくらいのノリなんでしょう」
「そこは、自分のクラスにいてほしいよう」
「まあ私も、絶鬼には少し驚いたがな」
――オ゛ロロン。オロロン゛。オ゛ロロン……。
絶鬼の影が、歩いてくる。
隠れた三人の100mほど向こうから、奇妙な鳴き声を響かせながら、近づいてくる。
「でもまあ、ちょっとだけ安心したよう」
悠は言って、深呼吸した。
「わざわざ僕らを邪魔しに来るって事は、大鬼門封じの術はちゃんと効くって事だよね」
葵も頷き、深呼吸。
「ともかくあいつに捕まらないように、鬼鎮神社に向かいましょ」
「がってんらじゃー」
「私も手伝うぞ」
葵がポケットから和紙を取り出し、さらさらと筆ペンで呪印を描いた。
悠が額に当てて念じると、淡く光を放つ。
――オ゛ロロン。オロロン゛。オ゛ロロン……。
絶鬼の影が、近づいてくる。
50m、40m……。
飛び出すタイミングを、伺いながら。
「そんなに離れたところから邪魔できるなら、この会話も絶鬼に聞かれてるのかなあ?」
「……試してみましょうか」
「おい馬鹿やめろ」
二人は理々庵が止める間もなく、ぼそぼそと呟いた。
「バーカ、バーカ。絶鬼のバーカ」
「おたんこなすの、あんぽんたん。へなちょこ、へっぽこ、すっとこどっこいー」
「……語彙が豊富だね? アオイ」
「悪口といえども、語彙力を豊かに、よ」
――オ゛ロロン。オ゛ロロン。オ゛ロロロロロロロロロロロロロ!
ぼとぼとぼとっ……絶鬼の影から雫が垂れた。
白煙を上げて、アスファルトの地面を溶かしていく。
「ほら、あんまり言うから、怒っちゃったみたいだよう!」
「意外に繊細! 逃げるわよ!」
「ふん、私が相手してやろう!」
二人はコンテナの陰から飛び出すと、一目散に走り始めた。
理々庵は超能力で槍を創造し、絶鬼の影に立ち向かった。
「あの四人がやっつけた場所、久しぶりねー」
「以前に来た時も不気味だったが、拍車がかかってやがるな……」
鬱蒼とした木々の間を走りながら、金谷章吾と双子の姉、金山有栖はそう言った。
木がネジのように渦を巻き、フォークのように何叉にも分かれ、天を衝くように伸びている。
一面を埋め尽くした異様な樹木が、空を覆い隠そうとするように枝を広げ、
その脇でまともな木は倒れ、朽ちている。
地獄から漏れ出した瘴気が漂う。
現代日本の禁足地、大自然の要塞――鬼ヶ原樹海。
章吾と有栖の担当、五芒星の南西の頂点は、この鬼ヶ原樹海の中にある。
夏休みに、大翔や荒木先生達と一緒に来た場所だ。
章吾と有栖は足早に進んでいく。
樹海奥の鬼岩窟まで、結界石を運ばなければならない。
護衛は、有栖が魔法で担当する。
タイムリミットは夜明け。
できなければ、絶鬼の卵が孵って、
章吾と有栖の過ごした学校も、街並みも……地上の全てのものが、失われてしまう。
(……とすると、今の俺は、世界の平和を守るために走ってるってわけか?)
(まるで私達、エージェントみたい)
その考えに、章吾は苦笑してしまう。
(じゃあ、俺は、どうして走るんだ?)
「やっほう、章吾君とそのお姉ちゃん」
声が降ってきた。
見上げると、ガサリと木々の葉が揺れて、枝に腰かけ、足を組み、
こちらを見下ろす「彼」と目が合った。
こんな時だってのに、有栖は思わず、笑ってしまった。
まるで歓迎できない相手なのに。
「じゃあ、殺しちゃっても、いいわね」
章吾と有栖を見下ろして微笑んでいるのは、サマーセーターを着た背の高い男。
表向きには、親からも生徒達からも大人気だった、小学校教師の杉下先生。
その正体は、地獄の色鬼――黒鬼だ。
章吾の左手の甲に、うっすらと、鬼の刻印が浮かび上がってくる。
「待ってたよ。来ちゃった♪」
涼しげに笑って、ウインクしてきた彼。
「章吾の刻印を消さないと、殺すわよ」
有栖が冷たい声で言うと、まったまたあ、と笑った。
「ボクを殺したところで、刻印が消える保証はあると思う?」
「絶鬼が復活すれば、お前達鬼も、ただじゃすまないわよ」
「うふふふふ。愚問だね、有栖ちゃん」
黒鬼は、髪をかき上げた。
「興味ないよ、そんなの。鬼が滅ぼうが、世界が滅ぼうが、どうでもいい。ちっとも興味ない」
黒鬼の答えに、有栖は「生かす価値がない」と感じ、目の前の男に魔法の矢を放った。
「いたたた、本当に乱暴だね」
「乱暴で結構」
「欲望? 野望? 夢?
自分という存在の色で、世界の全てを塗り潰す事。それを何より優先するのが、鬼だ」
黒鬼が枝から飛び降りる。
「世界っていうのは、ボクの事なんだ。ボクは滅ばないから、何も問題はないよ」
黒鬼は宣言する。
自分の存在が、世界そのものだと。
だから悩まないし、比べないし、恐れない。
自分の色で、全てを塗り潰す力を持った黒。
「ボクが今、興味があるのは、キミ達だけだ」
ニコニコと笑って、章吾と、有栖を指差した。
「キミは生かす価値なんてないし、キミは十分に成長した。今度こそボクの後継者になりたまえ」
「じゃあ死ね」
章吾は鬼祓いの破邪刀を抜き払い、有栖は精神を集中する。
「仕方ねえ。最後まで、付き合ってやるさ」
「うふふ。キミにその、嫌そう~な顔をさせるのが、ボクはたまらなく楽しいんだ」
「……ますます殺したくなったわね」
黒鬼は笑って地面を蹴り、章吾と有栖も蹴った。
一刻も早く彼を倒して、鬼岩窟へ急ぐために。
ストレスを溜めないようにはしています。
これを投稿すれば、解消にはなるのではないかと、私は思っています。