私は大翔は“嫌い”なキャラではありますけどね……。
鬼達が、アジトの周りを、群れをなして取り囲んでいる。
各アジトには鬼避けの仕掛けが施してあったが、これだけの数の前では意味をなさない。
――殴れ。壊せ。奪え。本能のままに。
――街の人間を、全員、殺せ。
鬼達は絶鬼の命令に従い、人間達のアジトを押し潰そうとしていた。
「大翔……君……?」
大翔が、じっと、銀華を見つめている。
銀華も、じっと、大翔を見つめた。
合わせ鏡のように、二人、互いの瞳を見つめて立ち尽くす。
「そ、それって……。どういう、意味ですか……?」
銀華は、呆気に取られたように呟いた。
「こ、言葉通りの意味だよ……」
大翔が答える。
「し、シチューが好き、とか。サッカーが好き、とか……?」
銀華は問いかける。
「し、シチューもサッカーも好きだけど、その好きじゃないよ……」
大翔は答える。
「…………あっ!!」
気づいたように、大声を出した。
「もしかして、さっきの銀華ちゃんの好きは――シチューとかサッカーのだった!?」
「…………」
慌て始める大翔を見ていて。
銀華は、ようやく気づいた。
決戦の前に、銀華は大翔へ、特大のヒミツを打ち明けた。
自分は鬼だって、みんなを騙し続けてきたって、エージェントに殺されそうになったって。
その事へ、大翔が返事をするのだと思っていた。
しかし、大翔が今、答えているのは、別の事だ。
勢いで、一緒に打ち明けてしまったヒミツへの。
――大翔君の事が…………好きです……!!
恋のヒミツへの返事を、しているのだ。
「……ま、まあ、いっか。俺の気持ちだし」
呆然とする銀華に構わず、大翔は頭を掻いた。
改めて銀華に向き直り、じっと瞳を見つめる。
「俺、銀華ちゃんの事、好きだよ。その…………一人の、女の子として」
「で、でも……」
銀華は怯えた様子で、首を振る。
「わたしは……鬼なんですよ……?」
「……ん? ああ、そういえば」
大翔は、ぽん、と手を打った。
「銀華ちゃん、そんな事も言ってたっけ! あっはっは!」
そういやそうだったね! と、笑っている。
銀華はぽかんとしてしまう。
「そ、そんな事って……。わたし、凄く、勇気を振り絞って……。打ち明けたのに……」
「あ、ごめん! そうじゃなくって! そういう事じゃなくって!」
大慌てで、ぶんぶん、首を振ると。
「…………て、いうかさあ」
大翔はぽりぽり、頭を掻いた。
「知ってたよ?」
「…………」
銀華は、きょとんとしてしまう。
「……え?」
「銀華ちゃんが、人間じゃないって事さ。俺、前から。何となく、だけど」
こともなげに言って、笑っている。
銀華は、呆然としてしまう。
「……どうして」
「結構色々、違和感あったしなあ~」
大翔は腕組みして、首を捻った。
「最初に、あれっ? って思ったのは、花火大会の前。2度目に屋上で会った時だったかな」
「……そんなに、前から?」
銀華は唖然とする。
「銀華ちゃん、青空のある生活って素敵だなって、言ってたろ?
空のないところに住んでたのかな、って思ったら、そんな場所、地上にはないよなあ! って」
大翔は頭の後ろで手を組み、伸びをする。
「初めて鬼を見た時も、全然、驚いてなかったしさ。前にも、鬼を見た事あるのかな?
って、ちらっと思ったんだ。
警察から匿ってくれた時は、あの人達みたいに不思議な力で俺を癒してくれたし。
……天使、なのかなあ~って」
鼻の下を掻いて、照れたように笑っている。
「…………」
「引っ越してくる前の国の事、何度か話してくれたろ?
いつも争いに溢れてて、親も友達もいないのが普通の国って。それは、地獄かもな~って。
一つ一つは小さな事だったけど、だんだん、ひょっとして……と思うようになっていったんだ」
「…………」
「決定的だったのが、アジトでだ。銀華ちゃん、鬼の事に、凄く詳しかったから。
あ、やっぱり、地獄から来たんだな~って。俺だけじゃなく、みんなもそれで分かったみたい」
「皆さんも……」
「悠と葵と章吾と有栖は、俺と同じで薄々気づいてたみたい。総一朗は、驚いてたけど。
アジトで、みんなで話したんだ。銀華ちゃん、鬼だったんだなって」
「皆さん……怖がられたんじゃ……」
「ううん?」
俯く銀華に、大翔は笑って、首を振った。
「全然、気にしてなかったよ? そうだったんだねえ~、でおしまい」
「…………」
銀華は、きょとんと立ち尽くす。
「どうして……」
「だって、銀華ちゃんは銀華ちゃんだろ? これまで一緒にやってきた、仲間だもん」
「仲間……」
「俺、思った事があるんだよ」
大翔は銀華の目を、真正面から見つめて続けた。
「鬼も人間も、きっと……心はそんなに、変わらないんだ」
そう言って、照れくさそうに笑ってみせた。
――殴れ。壊せ。奪え。
――街の人間を、全員、殺せ。
脳に下される絶鬼の命令に、アジトを囲んだ鬼達が咆哮を上げた。
人間達へ、攻撃を開始する――直前。
鬼達は、ふと、顔を上げた。
アジトのワイヤレスマイクから、声が聞こえてきたからだ。
八紀継青児が無線をハックし、遠方から届いた通話の中継を始めた。
発信源は、南久遠の地。
遠くの島に残った95人のエージェントからの呼びかけ。
――帰れ。
ややあって、彼らの瞳に、光が戻り始めた。
絶鬼の下した命令が、解除されていくのだ。
気づいた絶鬼が、天と地を震わせた。
地鳴りが響き、空を雷鳴が走った。
しかし、命令が彼らを乗っ取る事は、もうなかった。
彼らは機械でなく魂を持っており、その魂が、判断したから。
今、耳に響き、訴えかけるその声が、
下された無機質な命令よりも、心を傾けるに値するものであると。
彼らは、ほんの少しだけ、考え始めた。
これまでまるで理解できなかった、その概念の事を。
協力しあって、仲良く暮らすという事を。
「鬼だから、人間だから、分かり合えないとか、そんな事ないよ!」
大翔は叫んだ。
「あいつらはみんな、超能力で死んじゃったけど……それでも、分かったんだ!」
銀華の瞳を、真っ直ぐに見つめて伝える。
きっと、通じ合えると思って。
「姿形が、違ったってさ! 住む世界が、違ったってさ! 全部は、分かり合えなくたってさ!」
大翔は、力いっぱい叫んだ。
「分かり合えるものはあるって……俺は、信じてるんだ!」
ポケットに入れていた結界石が、輝く白光を放ち始めた。
想いに、答えるように。
「一緒に行こう!」
二人は固く手を繋ぐと、走り出した。
アジトを囲んでいた鬼達は、やがて、ゆっくりと陣を解き始めた。
街の中を、散り散りになって遠ざかっていく。
その数が、徐々に少なくなっていく。
鬼達は、自分達の脚で、自分達の地獄へと帰っていった。
「まだか、みんなっ!」
我妻総一朗は、焦っていた。
天井から、ぱらぱらと、漆喰の欠片が落ちてきている。
美術館の建物が、ぐらぐらと揺れ始めているのだ。
祭壇の上には、青の光を放つ結界石が置かれたまま。
総一朗と麻麻は結界石を庇いながら、声を張り上げた。
「急いで! こっちは準備、できてるわ!」
「こちら、宮原葵! 桜井悠! No.2!」
「ついでに、荒木先生組!」
「準備、できてるぞっっ!」
宮原葵、桜井悠、比嘉理々庵、荒木先生は、赤の光を放つ結界石を前に待機していた。
再びの地震に、都心では、騒ぎが起こり始めていた。
都心だけでなく、日本中の大地が揺れ始めていた。
どんどん、大きくなってきている。
夜中だというのに、辺りが明るくなってきた。
太陽の光ではなく、禍々しい、血のような光だ。
巨大な掌を広げるように、地上を覆っていき、染め変えていく。
「みんな、急いでっ!」
「早くっ! 間に合わなくなっちゃうよう!」
「滅ぼさなくては……」
「準備は、できてるわ……!」
島袋織美亜は、喉の奥から声を絞り出した。
空に閃くのは、無数の稲妻。
竜の群れのように、縦横無尽に。
玉城狼王と喜友名阿藍も、それぞれ戦闘態勢を取っている。
辺りは嵐で、全てを消し飛ばし、無に帰そうと唸る豪風。
織美亜、狼王、阿藍は空を睨み上げた。
「アンタの好きになんて、させるものですか!」
「オレ達は人間で、鬼の力を使う」
「琉球エージェントだ!」
握り締めた結界石から、紫の光が立ち上っていく。
「守るのよ! アタシ達の地上を!」
「金谷章吾! さっきから! 準備! できてるぞーっ!」
鬼岩窟の奥で、金谷章吾は叫んだ。
地響きと共に、天井から砂が零れ落ちていく。
ただの地震ではないと、章吾は直感した。
「噴火、しかけてやがる!」
富士山の鳴動だ。
江戸時代の大噴火以降、年以上も溜め込んだマグマが、吐き出されようとしている。
そうなれば、とんでもない大災害になるだろう。
祭壇に祀った結界石から、黒の光が立ち上っている。
「何やってやがる! とろくせえぞ!」
章吾は叫んだ。
「さっさとしやがれっ! バカ大翔っっ!」
走る、走る、走る。
大場大翔と八紀継銀華は、走っていた。
歪み、捻じ曲がった空間の中を、只管前へと足を踏み出し続ける。
二人が進むと、空間が膨張する。
ゴムのように伸びて、遠ざかろうとする。
まるで、鬼に捕まるまいと逃げていく、子供のように。
「鬼ごっこだああっっ!!」
大翔は銀華の掌を、ぎゅっと握り締める。
「いくよ、銀華ちゃんっっ!」
「はい! 行きましょうっ!」
二人、足を踏みだす。腕を振り上げ、足を振り抜く。
速く、空間が二人を遠ざけるよりも速く、走る。
風になったように、光になったように。
距離が縮まっていき、拝殿が近づいてきた。
潜り戸が開き、奥に古びた祭壇が見えた。
大翔は踏み込み、腕を伸ばす。
「捕まえたっ!」
瞬間、辺りの光景が切り替わった。
伸ばした腕が、空を切る。
「なんだ!? これ!」
目の前に広がっているのは、広大な池だった。
鏡のように綺麗な水面を湛えている。
祭壇は、いつの間にか、ずっと向こう岸の上に佇んでいた。
池の上には、小さなイカダが、何十枚も連なって浮かんでいる。
「気をつけてください! どういう術か、分かりません!」
銀華が叫んで、ツノに手をやった。
「空間転移か、幻影か、催眠か……。調べるのに、時間がかかりそうです!」
「大丈夫だ! 行ってみようぜ、銀華ちゃん!」
二人は手を繋ぎ、池の淵からジャンプした。
1枚目のイカダに飛び乗り、2枚目に飛び映る。
3枚目、4枚目……リズムに乗って、進んでいく。
たちまち、池が真っ赤に染まり始めた。
灼熱の溶岩のように、ぐつぐつと煮立っていく。
「うわっ! 血の池地獄だ!」
「大丈夫です、大翔君! 手を離さないでください!」
銀華が叫んだ。
「どんな術にも、負けません! 大翔君は銀華が、守ります!」
「ひゅうっ! かっこいいな、銀華ちゃん!」
タンッ、タンッ、タンッ――煮えたぎる溶岩の上に浮いたイカダを、二人で走る。
手を繋いで、呼吸を合わせて、スキップするような足取りで。
まるで、運動会の二人三脚だと大翔は思った。
母の、結衣の、皆の声援が聞こえてきそうだと思った。
向こう岸まで辿り着く。
祭壇に駆け寄り、手を伸ばした。
「捕まえたっ!」
瞬間、辺りの光景がまた変わり、二人は見慣れない場所に立っていた。
「くそ、しつこい奴だな! 逃げんじゃねえっ!」
「大翔君、気をつけて! 動いちゃダメです!」
二人が立っているのは、断崖絶壁だった。
ほんの数m程度の地面の外側が、切り立った崖になっている。
丸太の吊り橋が宙に張り渡され、崖の向こうまで続いている。
断崖向こうの拓けた地面の上に、祭壇は佇んでいた。
崖の下、数100mの眼下に、尖った針、針、針。
「針山地獄です! 落ちたら、アウトです!」
「だいじょーぶ!」
大翔は、ぐっ、と拳を掲げてみせる。
「俺、慣れてるからさ! こういうの!」
「ヘンな事に慣れてる大翔君!」
銀華が笑った。
大翔はそれで、嬉しくなってしまった。
「行こう! 銀華ちゃん!」
「行きましょう! 大翔君!」
二人で丸太を渡り始めた。
手を繋いで、足を踏み出し、奈落の上を進んでいく。
その時――遥か遠くで、火山が噴火した。
世界中のありとあらゆる火山が、一斉にマグマを吐き出し始めたのだ。
溢れる黒煙が空を覆って、地球は一面、暗黒に閉ざされた。
続いて、隕石が落下した。
6500万年前に、恐竜達を絶滅に追い込んだ巨大隕石が、地表に降り注いだ。
衝撃波が山野を抉り、大地は平らになって、
数kmにも及ぶ巨大津波が、大地の全てを押し流していく……。
「一歩一歩だ! 銀華ちゃん!」
「はい! 大翔君!」
崩壊していく世界の中。
二人は、丸太を渡っていく。
「呼吸を合わせて! 大翔君っ!」
「おう! 銀華ちゃんっ!」
手を繋いで、息を合わせて、前だけ向いて走っていく。
丸太が途切れ、足場がなくなった。
向こう岸まで、十数m。
大翔は自分の足に『跳』の符を貼りつけると、銀華に向かって、両手を伸ばした。
「ぎ、銀華ちゃん。掴まってて!」
「……はい」
頬の赤くなった銀華の肩と両足を抱え、持ち上げると、大翔は丸太を蹴り込んだ。
『跳』の符が輝き、二人の体は、ふわりと宙に浮き上がる。
視線が合うと、銀華と大翔は笑った。
崩壊した世界は、いつの間にか消えていた。
地面を踏み締める。
どちらからともなく視線をそらし、そそくさと離れる。
「ともかく、祭壇へ!」
「ああっ!」
ポケットから結界石を取り出す。
祭壇に駆け寄り、腕を伸ばす。
辺りの景色が滲み始めた。
水に溶かれた絵の具のように、混ざり、薄まって、消えていく……。
「くっそ、しつこいやつだなあっ!」
大翔は叫んだ。
「いくらやっても、ムダだぞっ! いい加減、観念しやがれっっ!」
答えるように、視界が切り替わった。
二人は、丘の上に立っていた。
広がっているのは、果てなく続く、荒涼とした灰色の大地だ。
辺りに池はなく、崖もなく、イカダも吊り橋も、何もない。
「祭壇は……」
大翔は首を巡らせ……見つけた。
血のように染まり、黒雲が棚引く、地獄の空。
その只中に、揺蕩う一艘のボートのように、小さな島が浮かんでいる。
島の上に、祭壇はあった――空の彼方に。
絶句する大翔の横で、銀華が叫んだ。
「もう、時間がありません……!」
日本中で、大地が鳴動していた。
治まる気配はなく、どんどん、大きくなっていく。
あちこちで嵐が渦を巻き、雷が縦横無尽に閃いていく。
鳴り止まないサイレンの音が、不安に駆られた人々の悲鳴が、列島を包み込んでいく。
桜ヶ島の街に鎮座していた巨大な卵に、ぴしり、と一筋、亀裂が入った。
枝のように伸びて、広がっていく。
卵の一部がぼろりと崩れ、中に潜んだものが覗けて見えた。
底知れぬ闇の中に横たわった、絶望の形をした生き物。
それは巨大な目玉をぎろりと見開いて、これから自分が生まれる世界を見据えて笑った。
「くっそおっっ! あんなところ、どうやって行けばいいんだよっっ!」
大翔は叫んだ。
祭壇は、遥か天空にある。
高度数1000mの――空の彼方に浮かんでいる。
『跳』の符ではとても届かない、人間の足では辿り着けない。
空を飛べない限り、絶対に。
「卑怯者おっっ! 降りてきやがれえっっっ! くっそおおおおおおっっっ!」
大翔は地面を拳で打ち据えて叫んだ。
ゴールは、見えているのに。
手の中の結界石は、光を立ち昇らせているのに。
日本中から、絶望の声が聞こえてきているのに。
最後の最後で、絶鬼に完全に逃げおおされてしまった……。
「キャッキャキャキャ! お困りのようだなあ!」
声が響いた。
ハッとして振り向くと、いつの間にか、一匹の鬼がいた。
真っ白い毛並みに、コウモリのような小さな翼。
短い足をトコトコと動かし、大翔の方へ歩いてくる。
「いいですなあ! ガキんちょが困ってるのを見るのは、いいもんですなあ!」
ギザギザの牙を剥き出して、笑っている。
「ツノウサギ! 何しにきやがった!」
「何ってえ? 決まってんじゃん! 世界が終わっちまう前に……お前を喰いに!」
ツノウサギは、ぱかっと口を開いた。
二叉に分かれた舌が、ちろちろと揺れる。
「お前らみたいなガキの肉は、ほんっと、美味い!
まろやかで、コクがあり、とろけるような舌ざわり! 栄養バランスもよい!」
毛皮の中からナイフとフォークを取り出し、チャンチャンと打ち鳴らす。
「ふざけんなっ! 今、お前なんかに構ってるヒマ、ねえんだよっ!」
「え~。そう言うなってえ~。遊ぼうZE~!」
「あのさ~」
ツノウサギは、大翔の足下に、トテンっと座り込んだ。
「手を貸してやらん事もないぜ?」
小さな翼を、パタパタとゆらして笑う。
「お前が、真心こめて、ていね~いに、『お願いします!』って頼めたらな!」
「るせえっ!」
「そういうなってえ~」
「お前と遊んでるヒマはねえって、言ってるだろっっ!」
「……んな事、言いつつさあ」
ツノウサギは翼を竦めて、ニヤリと笑った。
「お前はいつも、遊んでくれたじゃねーか」
「…………」
眉を顰めた大翔の脇で、銀華が進み出た。
屈み込み、ツノウサギに視線を合わせて首を傾げる。
「力を貸してくださいますか? シロさん」
「ダ~メダメ! いくら銀華嬢の頼みだからって。オレ様、このガキんちょに言ってんの!」
「そう言わず、どうぞお願いします。この通りです。シロさん」
銀華が言って、ツノウサギの頭を撫でる。
「え~? そこまで言われちゃうと~? どっしよっかなあ~?」
ツノウサギが、照れたようにパタパタと翼を揺らす。
大翔はツノウサギを、見下ろしていて、気づいた事があった。
(俺、知らない……)
何度も大翔達の前に現れ、何かと絡んできたその鬼の事。
ツノの生えたウサギのようだったので、大翔達はそう呼び始めた。
だが、ツノウサギとあだ名をつける前の……本当の名前を知らない。
「ま、いっか! 他ならぬ、銀華嬢の頼みだ!」
ツノウサギは、パサリと翼をはためかせた。
「オレ様の真の姿、見せてしんぜよう! キャーッキャキャキャキャキャキャ!」
「ツノウサギ――」
大翔が呼びかけた、瞬間だった。
――ドクン!
ツノウサギの全身が震えた。
ふわふわとした真っ白な毛並みが、爆発するように逆立ったのだ。
みるみる、体が大きくなってゆく。
大翔の背丈の何倍、何十倍。
ウサギの耳のようだったツノが、伸びて枝分かれしていった。
おもちゃのようだったコウモリの翼が、みるみるうちに大きく広がってゆく。
「だから、何度も言ったじゃん! オレ様、地獄でも、最強最悪の悪鬼だってさあ~っ!」
翼をはためかせると、風が唸りを上げる。
大翔は、思い出す。
紫鬼も銀華も、言っていた。
1年半前、鬼門の結界の緩みに気づいて地上にやってきた色鬼は……7匹、いたって。
大翔達の前に何度も姿を現した“黒鬼”。
エージェントが討伐した“赤鬼”。
八紀継銀華の弟の“青鬼”。
エージェントが終わらせた“紫鬼”。
有栖が迷宮の中で出会った“黄鬼”。
それともう1匹――“白鬼”が。
(会ってたんだ……)
大翔は「彼」と、会っていた。
小学校に閉じ込められた、あの日。
母とケンカしてへそを曲げていた、あの日。
現れた牛頭鬼に絶望して膝を抱えていた、あの日。
一番、初めに。
そこにいたのは、竜だった。
「キャッキャキャキャ! どうよ? ガキんちょ! おっどろいた!?」
立派なツノを生やし、悪戯げな瞳で大翔を見下ろす、白の体を持った竜。
「これがオレ様の、真の姿だZE! いつお披露目しようか、伺ってたんだ!」
パタパタと大きな翼を揺らして、笑っている。
まるで、とびっきりの悪戯が成功して、嬉しくてたまらないように。
ぽかんとした大翔に、告げた。
「色鬼が1匹――白鬼様とは、オレ様の事だZE!」
次回がラスボスとの本当の最終決戦となります。