また、殺鬼軍全員を出す予定でいますので、楽しみに待っていてください。
沖縄県のとある島で、織美亜達は緊急の呼び出しを受けた。
司令官・糸村一直々に桜ヶ島で確認された鬼の活動についてのようだ。
「最近、桜ヶ島で鬼の活動が活発になってきているようだ」
「どういう事なのぉ、それ?」
「文字通りだ。……それに、黒鬼も滅ぼしたわけではなく、子供達に何かを残さないわけがない」
一の言い分は、織美亜には分からなかった。
彼は超天才的な頭脳を持った少年でそのために時に織美亜達に理解できない事を言う事がある。
確かに的確なのはいいが、どうにも分かりにくい発言ばかりだ。
「このままでは桜ヶ島が危険という事か」
「そうだな。故に、エージェントは必要である」
「そうね……」
桜ヶ島の人達から見れば、
彼らエージェントは勝手に超能力を使って侵略する部外者以外の何者でもない。
だがそれでも、彼らにとって鬼を倒す事は正義の行動であり、迷いはないのだ。
「そこで、儂は新たに五人目のエージェントを派遣する事にした」
「五人目?」
「来るがよい、No.2!」
一の呼び声に応じるように、部屋の扉が静かに開いた。
そこに立っていたのは、オレンジ色のショートヘアーを持ち、
瞳に鋭い知性を宿した女性、比嘉理々庵だった。
「No.2――比嘉理々庵。本日付で桜ヶ島への派遣任務を拝命した」
理々庵は、道具を創造する「創造」の能力者である。
その能力は多岐に渡り、
状況に応じて銃器などの武器から日常道具までを生み出す事ができるオールラウンダーだ。
一方で、何でもこなせるが故に器用貧乏と揶揄される事もあるが、
エージェント内では貴重な調整役・穴埋め役としての地位を確立している。
「あらぁ、理々庵じゃない。あなたが来てくれるなら心強いわぁ」
織美亜が、いつもの妖艶な調子で歓迎の意を示す。
「……五人、か。戦力としては十分すぎるほどだな」
隣で腕を組んでいた狼王も、短く頷いた。
これで桜ヶ島に集結するエージェントは五人となった。
治癒の能力を持ち、パーティーでは「僧侶」のような役割を担うNo.6の織美亜。
前衛で「戦士」として荒事を受け持つNo.8の狼王。
「勇者」の如きリーダーシップでチームを牽引する阿藍。
そして、強力な雷を操る「魔法使い」役のNo.16、上原麻麻である。
理々庵は一瞥して仲間の顔ぶれを確認すると、淡々と、しかし強い意志を込めて告げた。
「桜ヶ島での鬼の活性化……そして黒鬼の残した火種。
それらを放置する事は、俺達の正義が許さない。裏切りや妥協は、死に値する罪だ」
阿藍は、かつて鬼となった恋人を自らの手で葬った事があり、震える。
理々庵の言葉には、他のエージェント達とは一線を画す冷徹な覚悟が宿っていた。
「厳しいわねぇ。でも、それがアタシ達の仕事だものね」
織美亜は少しだけ困ったように微笑んだ。
司令官・糸村一は、その様子を満足げに眺めながら、机上の資料を指先で叩いた。
「目的はただ一つ。桜ヶ島の平穏を脅かす鬼の殲滅だ。エージェント諸君、直ちに現地へ向かえ」
「了解!」
五人の超能力者達は、それぞれの想いを胸に、桜ヶ島へと再び足を踏み出すのだった。
これは、大翔達が中学校に進級してからの話――
沖縄の照りつける太陽とは違う、桜ヶ島の湿り気を帯びた風がエージェント達の頬を撫でる。
比嘉理々庵が合流し、五人となった琉球エージェントは、
司令官・糸村一から受けた指令を果たすべく、
独自のネットワークをフルに活用し、情報の断片を繋ぎ合わせていた。
「見えてきたな。この島に潜む影の正体が」
理々庵が鋭い声を出した。
彼女と麻麻、そして狼王が掴んだ情報は、極めて不吉なものだった。
「鬼を指揮している黒幕……そいつはこの桜ヶ島中学校の中に潜伏している。
しかも、驚いた事に正体は『子供』だ。
鬼から逃げ出した同年代の子供達を、口封じのために始末しようと動いている」
その言葉に、阿藍が眉をひそめる。
「子供が鬼を操っているというのか?
俺の調べでは、そこまでは辿り着けなかったが、この学校に何かがいるのは間違いなさそうだ」
一方、織美亜は別の角度から不穏な情報を提示した。
「ねぇ、アタシが調べたところだと、敵は『愚鬼』っていう特殊な個体みたい。
特殊な寄生虫を使って人間を操るの。
それだけじゃなくて……もう、ここの教師を食べて、その姿に成り代わっているらしいわよ」
「教師に化けているだと? 反吐が出るぜ」
狼王が拳を鳴らす。
さらに、彼らにはもう一つ、看過できない懸念事項があった。
それは、毒島崇という少年の存在だ。
「毒島崇……彼、何者かに操られているみたいね」
麻麻がテレパシーで得た情報を読み上げる。
「驚いた事に、彼は元々私達のいた島の出身。つまり、同郷よ」
理々庵が冷徹に補足する。
「ああ。彼はかつて、私達と同じ改造手術を受けながらも超能力を発現できなかった『欠陥品』。
エージェント本部も、いずれ彼を処分する事を決めていた問題児だった。
それがどういう風の吹き回しか、この島で鬼の騒動に関わっている……」
「救いようがないわねぇ……」
織美亜が溜息をついた、その時だった。
校舎の影から、歪な笑みを浮かべた一人の男が現れる。
それは、生徒達から信頼されているはずの教師の姿をしていた。
しかし、その瞳には知性ではなく、捕食者のぎらつきが宿っている。
「……鬼について、コソコソ嗅ぎ回っているようだね」
男の喉から、複数の声が混ざり合ったような不快な音が響く。
これこそが、教師を喰らい、その皮を被った「愚鬼」だった。
織美亜は動じず、人差し指を頬に当てて首を傾げる。
「当たり前でしょ~、アタシ達は仕事で来たんだから。不法占拠してるのは、そっちじゃない?」
「これ以上、鬼の秘密を知る必要はない。今すぐに死んでもらうよ」
愚鬼の皮膚が脈打ち、背中から醜悪な触手が突き出した。
一触即発の空気が弾ける。
「全員、戦闘態勢! 理々庵、サポートするわよ!」
麻麻が叫び、自身の脳細胞を加速させる。
「戦局判断! 敵の隙を見極めて!」
麻麻の放つ電磁波が理々庵の思考をリンクさせ、彼女の反応速度を劇的に跳ね上げた。
「……準備はできている」
理々庵は冷静に頷く。
同時に、阿藍が虚空から光の粒子を収束させた。
「光の銃、起動! 邪悪を射抜く光よ、我が手に集え!」
阿藍の両手に、眩い光を放つ二丁の拳銃が出現する。
彼はそのまま、先陣を切って地を蹴った。
「喰らえ、フォトン・ガン・ショット!」
阿藍が放った超高密度の光弾が、愚鬼の胸元へ殺到する。
だが、愚鬼は嘲笑うように腕を振った。
「無駄だよ」
不可視の障壁を展開し、完璧なタイミングで光弾を霧散させる。
阿藍の攻撃は、紙一重の差で弾かれた。
「次は僕の番だね」
愚鬼が地を這うような速さで織美亜へ肉薄する。
その指先が黒く変色し、鋭い爪へと変貌した。
「逃がさないよ」
「あっ、まずいかもぉ……」
織美亜が回避を試みるが、愚鬼の放った一撃が、織美亜の防御を紙のように切り裂いた。
「やめろ!」
狼王の叫びも虚しく、織美亜の体が大きく吹き飛び、地面に叩きつけられる。
しかし、彼女は意識が遠のく寸前、無理矢理自身の細胞を活性化させた。
「……まだ、お仕事は終わってないからぁ……」
鼻血を拭い、ふらつきながらも織美亜は立ち上がる。
織美亜の瞳には、まだ闘志が消えていなかった。
「よく耐えたわね、織美亜。次はこっちの番よ!」
麻麻が空中に浮遊する。
高速移動で愚鬼の死角へ回り込み、指先を突き出した。
「ライトニング!」
一点に凝縮された青白い電撃が、愚鬼の側面に直撃する。
今度は愚鬼の防御が間に合わず、焦げた異臭と共に奴の肉を焼いた。
「ぐっ……やってくれるじゃないか!」
「隙だらけだ。構築を開始する」
理々庵が手をかざすと、空気中の分子が結晶化し、長大な槍を形作った。
「炎よ、貫け!」
炎を纏った槍が、愚鬼の腹部を深く抉る。
理々庵の正確無比な一撃が、確実に敵の体力を削り取っていく。
「アタシも、最後のお手伝いをするわねぇ」
織美亜が祈るように手を組む。
「さあ、お願いね!」
織美亜から放たれた癒しの光が、狼王の全身に活力を与え、狼王の集中力を極限まで高めた。
「ああ、任せろ! これでおしまいだ!」
狼王が虚空から巨大な斧を「取り出す」。
それは彼が持つ、物質を呼び出す簡単な異能だった。
「行くぜ、かち割りダイナミック!」
織美亜の支援を受けた狼王の一撃は、
空間そのものを断ち割るような勢いで愚鬼の脳天へ振り下ろされた。
大地が震え、愚鬼の体が地面にめり込む。
「……やったか?」
阿藍が光の銃を構えたまま注視する。
土煙の中から、ボロボロになった愚鬼が這い出してきた。
その体は崩れかけ、再生が追いついていない。
「……ふふ、危なかった。流石はエージェントだね」
愚鬼の姿が、陽炎のように揺らぎ始める。
「今回はここまでにしよう。でも、次はそうはいかないよ。
僕達の『王』が、君達を待っている……」
捨て台詞を残し、愚鬼の気配は完全に消失した。
静寂が戻った校庭で、五人のエージェントは武器を下ろす。
「逃げられたか……」
狼王が悔しそうに斧を消す。
「でも、確信した。敵は確実にこの学校に根を張っている。そして、本当の戦いはこれからだ」
五人は互いに視線を交わし、さらなる激闘を予感しながら、静かにその場を後にした。
桜ヶ島の中学校に潜む悪意を、根絶やしにするその時まで。
湿り気を帯びた夜の校舎。
織美亜は目を閉じ、自身の知覚を極限まで研ぎ澄ます。
「……そこね。アタシの鼻は誤魔化せないわよぉ」
彼女が指し示した理科室の扉を、狼王が蹴り破った。
「見つけたわよ、愚鬼。それに……毒島崇!」
織美亜の鋭い声が室内に響く。
そこには、月光を浴びて蠢く異形がいた。
牛の頭部に蜘蛛の胴体。
八本の脚先には草刈り鎌のような鉤爪が備わっている。
その首には、不気味な文様が刻まれた首輪が嵌められていた。
まるで誰かの飼い犬であるかのように。
その化け物の足元で、我妻総一朗が腰を抜かしていた。
「……う、あ……」
喉を震わせ、ただ恐怖に身を竦める少年。
麻麻は迷わず総一朗の前に立ち、背中で総一朗を庇った。
「下がっていなさい。あなた達を、殺す」
麻麻の全身から、青白い火花がパチパチと弾ける。
対する愚鬼は、複眼をぎょろりと動かしてせせら笑った。
「殺すっていうのは物騒だねぇ。……あ、いや、お前らならそう言うしかないのか」
「牛鬼程度なら問題ないわねぇ。さっさと片付けて、お茶にしましょうか」
織美亜は余裕を見せるが、その視線は毒島崇を捉えていた。
彼は鬼の幼虫に寄生され、無理矢理超能力を引き出されている。
最早正気ではない。
五人は、彼を「殺してでも救う」という悲しい決意を胸に、武器を構えた。
「阿藍、先陣を切って!」
麻麻の叫びに、リーダーが応える。
「光の銃、起動!」
阿藍の両手に収束した光が、瞬時に二丁の拳銃へと姿を変えた。
「まずは目を覚ましてもらうぞ、毒島!」
放たれた光弾が空気を焼き、毒島の肩を貫く。
「ア、アガガガッ!」
毒島は絶叫しながらも、その手から無数の銃器を錬成した。
「死ね、死ね死ね死ねぇ!」
狂乱の雨がエージェント達を襲う。
無数の弾丸が織美亜達の身体を容赦なく穿った。
「きゃあああっ!」
「ぐおっ……!」
全員が血飛沫を上げ、その場に崩れ落ちる。
だが、織美亜達は超能力者なので死なない。
「これくらい、かすり傷よぉ……」
織美亜が執念で立ち上がり、仲間達に再生の波動を送り込む。
そこへ、愚鬼が鎌のような脚を振り下ろした。
「邪魔だよ、獣!」
狙われたのは狼王だ。
重い一撃が狼王の胸を叩き、彼を再び沈黙させる。
しかし、彼もまた、不死者のように蘇る。
「……へっ、甘いぜ。織美亜、準備はいいか!」
「ええ、最高の強化をあげるわ!」
織美亜の舞と共に、理々庵と狼王の肉体が膨大なエネルギーで満たされた。
「お返しよ。サンダーストーム!」
麻麻が両手を広げ、部屋全体に広範囲の雷撃を落とす。
愚鬼は咄嗟に盾を展開して凌ぐが、毒島はその余波を浴びて膝をついた。
「道を開ける。構築、完了」
理々庵が冷徹に告げる。
彼女は滑走路を一瞬で作り出し、スケートのように滑りながら毒島との距離を詰めた。
「食らいなさい!」
炎を纏った一撃が、毒島の胸元を深く斬り裂く。
「やった……か?」
手応えを感じて理々庵が呟くが、織美亜が即座に突っ込んだ。
「フラグはダ~メ!」
織美亜の予感通り、毒島の傷口から鬼の触手が溢れ出し、無理矢理肉体を繋ぎ合わせた。
「まだだ、まだ壊し足りない……!」
復活した毒島が、再び狂ったように弾丸をばら撒く。
二度目の蹂躙が五人を襲った。
「あ、あの、アタシ……もう怒ったわよぉ!」
織美亜の中で何かが弾けた。
彼女は怒りを力に変え、無理矢理立ち上がる。
阿藍もまた、かつての恩師との絆を力に変え、限界を超えて再起した。
「これで、終わりだ!」
阿藍の放った光が、毒島の防御を完全に粉砕する。
「麻麻、決めろ!」
「言われなくても……!」
麻麻が電磁力を右手に集約させる。
「ライトニング!」
極大の電光が、毒島の頭の中にある「鬼の幼虫」を正確に撃ち抜いた。
「……ガ、はっ……」
毒島は糸の切れた人形のように崩れ落ち、そのまま動かなくなった。
同時に、愚鬼もまた、狼王の斧によってその巨躯を真っ二つにされ、塵となって消えていく。
静寂が戻った理科室で、麻麻は荒い息をつきながら、自分達の体を点検した。
「……全員、無事ね」
侵蝕率は限界に近いが、日常へと帰還する意志は失っていない。
麻麻は、まだ震えている総一朗に歩み寄った。
「あなた、どうしてあんなに怯えてたの? 鬼祓いの家系なんでしょう?」
総一朗は、弱々しく首を振った。
「……鬼を見た事が、一度もなかったからだ。
本の中の話だと思ってた……あんなに、あんなに怖いものだなんて……」
麻麻はその言葉を聞いて、少しだけ悲しげな目を向けた。
「そう。それが『普通』なのよね。……でも、もう大丈夫よ」
麻麻は総一朗の手を取り、ゆっくりと立ち上がらせた。
「アタシ達の仕事は終わり。……帰りましょうか」
織美亜が優しく微笑み、五人は夜の校舎を後にした。
桜ヶ島の夜風は、戦いの前よりも少しだけ、穏やかに感じられた。
次回は鬼ではない敵が現れる? なお話です。