「お前は、鬼ごっこのルールを知っているか?」
夜の20時を、少し過ぎた頃。
学習塾の裏にある、駐車場。
佐々木学は、勉強カバンをぶらぶらさせながら、つまらなそうに佇んでいた。
学は、小学校の3年生で、黒縁メガネの男の子。
塾が終わって、迎えの車を待っていたところ。
車が次々にやってきては、友達を乗せて去っていく。
そうして学以外誰もいなくなってしまった後も、母の迎えはまだ来ない。
学は腹を立てながら、がらんとした駐車場で待っていた。
突然、声をかけられたのだ。
「お前は、鬼ごっこのルールを知っているか?」
振り返ったが、人の気配はない。
「知らないようなら、教えてやろう」
「その前に、アナタを殺すわ」
その時、五人の男女が駐車場の入り口に現れ、後ろに二人の少年と一人の少女が立っていた。
目の前にいたのは、“バケモノ”。
「勝手に割り込んでくるなよ」
「そうよ、鬼払いは私達の役目なのに」
「アタシ達はねぇ、鬼を殺すためだけの存在なの」
「違いが判らないならエクソシストと
そう言って、阿藍は光の銃を生成する。
今回はライフルタイプだ。
阿藍は一歩も動かず、生成した光のライフルで銃撃するが、“バケモノ”は素早く身をかわす。
「チッ」
阿藍は舌打ちし、さらに後ろに下がった。
「……邪魔よ。消えて。サンダースピア」
麻麻が電撃を放つが、“バケモノ”はギリギリで電撃をかわす。
「こいつ、意外に運動神経がいいのねぇ。伊達に鬼やってないわ」
「感心している場合か。食われる前に殺せ」
そう言って、理々庵は拳銃を創造し、“バケモノ”に発砲。
だが、それも“バケモノ”はかわしてしまう。
「あぁんもう~、三回連続でかわすなんておかしいわ~。
こうなったら、力任せにやるしかないわねぇ」
織美亜は回復と補助が得意なサポート役だ。
相手の攻撃を食らってしまうかもしれないが、
一番攻撃力が高い狼王を強化し、一撃で倒す戦法を取ったのだ。
“バケモノ”は腕を伸ばし、理々庵に殴りかかる。
「ぐあぁぁぁぁぁっ!」
理々庵は倒れてしまうが、超能力者特有の超回復力で即座に復活する。
「倒されたはずなのに復活するなんて……いや、もういいや」
「あいつらは、鬼と戦うために来たんだよな」
「でいやぁぁぁぁぁっ!」
狼王は勢い良く、斧を“バケモノ”に振り下ろす。
しかし、“バケモノ”は、ふらふらしながらもまだ倒れていなかった。
「これでとどめだ。死ね!」
そして、阿藍が放った光の弾丸が“バケモノ”を一撃で倒し、消滅させた。
「うわ、倒す速度が早すぎ」
「これがゲームじゃなかったら一体何なんだ……」
「悪いけど、そのために私達は動いてるから」
そう言って、五人の男女は去っていった。
織美亜達は琉球の殺鬼軍に所属する、鬼を殺すためだけに存在する超能力者だ。
とある漫画では、鬼○隊のような組織と思われるかもしれないが実際は違う。
彼らは鬼の力で戦っており、使えば使うほど鬼に近づいていくためク○イモアに近い。
彼らはアウトサイダー、この世界にはいてはいけない存在だ。
それでも彼らは、己の存在意義のために、戦い続けている。
夜の静寂が戻った駐車場を後にし、織美亜達は再び桜ヶ島の闇へと溶け込んでいった。
彼らにとって先程の戦闘は日常の一幕に過ぎないが、
島で活発化する鬼の動きは無視できない段階に達していた。
桜ヶ島に鬼が増え続けている原因を探るため、一行は二手に分かれて情報収集を開始した。
織美亜と理々庵は、周囲の気配を探りながら精神を集中させる。
二人は琉球エージェント特有のネットワークを使い、
遠方にいる他の超能力者からテレパシーで情報を共有した。
「聞こえるわ。不穏な思念が混じっている」
理々庵が眉をひそめる。
テレパシーを通じて伝わってきたのは、組織を揺るがす衝撃的な事実だった。
「原因が判明したわ。ローブを着た男……裏切り者が、鬼を誘導している」
織美亜もまた、いつものおっとりした表情を消し、鋭い視線を闇へと向けた。
「あらぁ、それは聞き捨てならないわねぇ。
アタシ達が命懸けでお仕事してるっていうのに、足を引っ張る子がいたなんて」
その直後、理々庵の視界の端に、建物の陰から立ち去ろうとする怪しい人影が映った。
報告にあった通りの深いローブを纏っている。
「見つけた」
理々庵は瞬時に超能力を発動し、手に機能美溢れる拳銃を創造した。
一切の躊躇なく男の急所を狙い、引き金に指をかける。
しかし、裏切り者の男は超常的な反応速度で闇へと身を躍らせ、追跡を振り切って逃走した。
消えた男の残響を見つめながら、理々庵は冷徹に言い放った。
「逃げたか……。だが、これで確信した。あの男は生かしておけない」
「……そうかもしれないな、理々庵」
狼王の脳裏には、かつて鬼になった恋人をその手で葬った記憶が鮮明に浮かんでいた。
琉球エージェントにとって、裏切りは死によってのみ購われるべき絶対の禁忌である。
「……裏切り者も、殺すしかないようだな」
理々庵の言葉に、他の四人も静かに、しかし確かな殺意を込めて頷いた。
鬼を狩り、仲間を守るために鬼の力を振るう彼らにとって、
後ろから牙を剥く者は鬼以上に許しがたい存在だった。
五人のエージェントは、逃げた裏切り者の足取りを追うべく、街へと駆け出した。
翌日。
大翔と総一朗は桜ヶ島駅で待ち合わせすると、快速列車に乗り込んだ。
そこには、五人の男女も座っているが、彼らは気づかない。
目的地は、御門市・北御門。
桜ヶ島から、快速で30分ほどの距離にある小さな町だ。
「実は、私の曾祖父は我妻喜一郎とは兄弟なの」
「へ~、そうなのぉ」
電車の中で織美亜達が小さな声で会話する。
麻麻の曾祖父は、我妻喜一郎という人物と兄弟関係にあるらしい。
生まれながらに超能力を持っているらしく、麻麻に超能力の制御方法を教えたのも彼だ。
そして、電車は北御門の駅に着いた。
織美亜達は、そこで情報収集をした。
鬼の気配が強くなっているらしく、織美亜達の鬼の因子が強くなっていた。
神社へ向かった彼らの前に、鳥居の外から全身をローブで包んだ謎の男が立ちはだかる。
大翔が緊張に身を強張らせ、総一朗が口元を引きつらせる中、
理々庵は一切の躊躇なく創造した拳銃の引き金を引いた。
しかし、男は左腕の奇妙な腕輪で弾丸を弾き返す。
腕輪は砕け散ったが、直後に狼の遠吠えのような咆哮が周囲に響き渡り、
男は舌打ちを残して霧の中へ消えていった。
阿藍は増幅された鬼の因子を介して、重要な情報を掴み取る。
「分かったぞ。あのローブの男の正体は桜ヶ島中学校の生徒だ。
そいつが『色鬼』という上級の鬼に従っている」
さらに、阿藍は鬼門と呼ばれる場所から無数の鬼が溢れ出している事実を知った。
「つまり、鬼門を壊せばいいんだな」
阿藍は迷いなく結論を下した。
上級の鬼ほど頭が良く、狡猾で、奇妙な術を使う。
人が鬼祓いの秘技を編み出したように、鬼は効率よく人を喰らうための術を編み出した。
織美亜達はその術を、人を守るために使っている、言わば「人と鬼の間の裏切り者」だ。
しかし、力を使いすぎれば次第に鬼になっていく危うさも併せ持っている……。
その時、狼のような頭部と太い手足を持つ強大な鬼、狼頭鬼が姿を現した。
強烈な気配に当てられ、狼王、阿藍、理々庵の因子が暴走を始める。
狼王と阿藍は仲間以外を敵と見なし理々庵はただ純粋な殺意に支配された。
駆けつけた大翔と総一朗に対しても、阿藍達は殺気混じりの視線を向ける。
狼頭鬼が三体に分身する中、織美亜は即座に結界を展開した。
「少し寝ててねぇ」
阿藍は光の銃で狼頭鬼を狙撃し、大ダメージを与える。
麻麻は広範囲の電撃を放ち、狼頭鬼を焼き尽くした。
理々庵は拳銃を創造して狼頭鬼を狙うが、僅かにかわされる。
織美亜の強化を受けた狼王が、斧を振り下ろす。
「牙旋豪斧!」
狼王は狼頭鬼を粉砕した。
そして、狼王を襲った狼頭鬼の鉤爪を、阿藍が至近距離からの銃撃で仕留めた。
しかし、倒したはずの三体はダミーだった。
本物の狼頭鬼は、犬に近い頭部に不気味な首輪をつけ、陰に潜んでいた。
「オレは紫鬼様ノ、忠実ナル犬……ナンテネ」
鬼の嘲笑が終わるより早く、阿藍が再構成した光の銃が火を噴いた。
光の速度で放たれた弾丸に、鬼が反応する術はなかった。
戦いが終わり、目を覚ました大翔達は現場を見て呆然とする。
「助けてくれて、ありがとう」
「感謝される筋合いはないわ」
素直に感謝を口にする大翔に対し、麻麻は冷淡に突き放した。
そこへ、一台の車から眼鏡をかけた男が姿を現す。
彼こそが地獄で紫鬼と呼ばれる存在だった。
「おや……? 君達は、超能力で戦っているだけじゃないか」
「どうして、それを……?」
「死ね」
阿藍は迷わずその額へ発砲したが、紫鬼はそれを凌ぎ、阿藍を明確な敵として認識する。
「次に会った時は、命を奪うだろう」
阿藍はそう言い残すと、仲間を引き連れて去っていった。
紫鬼は直接戦闘は好まないそうですが、社会の敵だそうです。
けれど、エージェントにとって、社会とはどうでもいい存在なのです……道具ですから。
次回は結界石を探しに行きますが……?