というよりも、チカラがあれば性別はどうでもいいのがエージェントですから。
「見つけた。次の鬼の潜伏先だ」
沖縄の作戦室にて、司令官・糸村一が瞑目し、
その強力なテレパシー能力で空間の残滓を読み取る。
彼が目を開いた時、モニターには鬱蒼と生い茂る緑の迷宮――富士の樹海が映し出されていた。
「最奥の鬼ヶ原樹海に、夜鬼と呼ばれる鬼が潜んでいる」
その言葉に、部隊の指揮を執る阿藍が険しい表情で報告を重ねた。
「司令官、先日の北御門での調査で判明しました。
色鬼の一角である紫鬼が、組織的に鬼を動かしています。
現代の鬼は直接暴れるだけでなく、
変身や擬態を使って人間を欺き、隠れて始末する術を得ているようです」
一は腕を組み、冷徹に頷く。
「鬼も組織的になってきたな。
単なる化物の集まりではなく、効率的な捕食と隠蔽を覚え始めたという事か」
作戦室にいた麻麻が、納得したように口を開いた。
「なるほど、コンピューターウィルスと同じね。
昔のウィルスは画面に変な画像を出して人間を驚かせるだけだったけれど、
今はこっそり情報を盗んだりファイルを暗号化して身代金を要求したりするのが主流でしょう?
鬼のやり口も、それと同じくらい陰湿に進化しているわけだわ」
「その通りだ。だからこそ、今回は慎重かつ確実なメンツを送り込む」
一が視線を鋭くし、樹海へ向かうエージェントを指名した。
「現地は敵の罠で覆われている。リーダーは阿藍。
そして、超スピードと音を操る喜屋武暮夫、闇を操る知念民斗。お主ら三人が向かえ」
資料をめくりながら、一が付け加える。
「情報によれば、夜鬼は女性に対して効果的な精神攻撃や技を持っているようだが……」
その言葉を遮るように、男勝りなエージェント、民斗が一歩前へ出る。
「フン、エージェントに男女は無関係だ。鬼を殺す力に、性別の差など存在しない。
私が同行する。すぐに片付けてみせるさ」
こうして阿藍、暮夫、民斗の三人は、
青白い光の粒子に包まれ、テレポートで富士の樹海へと跳んだ。
着いた場所は、不気味な静寂と濃霧が立ち込める、鬼の罠で覆われた空間だった。
この奥に、敵を倒すための重大な秘密が隠されている。
三人は覚悟と共に、樹海の闇へと足を踏み入れた。
「まずは僕が偵察に行くよ!」
暮夫が自身の超スピードを発動し、目にも留まらぬ速さで木々の間をすり抜けていく。
だが、足元に仕掛けられた不可視の結界に気づき、危うく罠にかかりそうになる。
「おっと、危ないっ!」
暮夫は持ち前の神速の反応で強引に軸をずらし、ギリギリのところで罠を打破した。
しかし、奥の鬼ヶ原樹海に進むにつれ、
地獄の瘴気の影響で空間そのものが歪み、複雑に入り組んで突破が困難になっていく。
「これ以上、時間をかけるわけにはいかない。力尽くで道を開くぞ!」
リーダーの阿藍が光の銃を構え、行く手を遮る瘴気の障壁へと突撃した。
暮夫が超スピードで追従し、阿藍は光の力を全開にして罠の核を爆破していく。
鬼の反撃に肉体を裂かれ、負傷しながらも、二人は強引に空間の歪みを打破した。
歪みを抜けた先は、怨念が渦巻く「死霊の巣」だった。
不気味な音と共に、虚ろな目で読経を繰り返すおぞましい人造の人形達が群れをなして現れる。
その近くでは、巻き込まれた大翔、悠、荒木先生、章吾の四人が、
死霊の精神攻撃に頭を抱えて激しく苦しんでいた。
「う、頭が割れそうだ……!」
大翔が喘ぐが、異能者である阿藍達には、この程度の呪詛は一切通用しない。
「悪趣味な人形劇だ。操り糸ごと叩き切る」
民斗が冷酷に言い放ち、影から溢れ出させた闇の触手を伸ばす。
人形達を遠隔で操作していた、陰に潜む巨大な骸骨の鬼を闇の奔流で包み込み、
一瞬にして圧殺した。
元凶である骸骨が消滅したことで人形達は全員倒れ、死霊の呪縛から解放される。
「な、なんだ、こいつらは……」
大翔達は、目の前で起きた超常的な光景に驚愕して目を見開いた。
「おい、お前ら無事か! 動けるならついて来い!」
阿藍が大翔達を促し、さらに樹海の奥へと進む。道
中には、これまでに犠牲になった人間のたくさんの遺留品が散乱していた。
しかし、奇妙な事に、何度前方に進んでも、
血塗られた不気味な呪いの祭壇がある元の場所へと戻ってきてしまう。
「無限ループか……。阿藍、元凶を炙り出せるかい?」
暮夫が周囲を警戒する。
阿藍が静かに精神を集中させ、光の波長で周囲の空間をスキャンすると、
茂みの奥に潜む夜鬼のしもべを発見した。
「見つけたぞ」
その中級鬼は、視線を合わせた者の自由を奪う弱い邪眼を持っていた。
中級故に地獄の加護が厚く、通常の攻撃では浄化しにくい特性を持っている。
「浄化が難しければ、消滅させるまでだ!」
阿藍は一切の躊躇なく、限界を超えた強力な光の力を銃身にチャージし、
極大の光線で夜鬼のしもべを無理矢理消し飛ばした。
「す、げえ……化物だろ、あいつら……」
章吾達がその破壊力に圧倒されてリアクションする中、
同行していた荒木先生が顔を真っ赤にして阿藍の胸ぐらに掴みかかろうとした。
「お前達のせいで貴重な樹海の自然がめちゃくちゃじゃないか! なんて乱暴な事をするんだ!」
「五月蠅いな。命があるだけありがたいと思えよ」
阿藍が冷たくあしらい、一触即発の喧嘩になりかける。
それを制するように、民斗が犠牲者達の遺留品を見つめながら、
静かに、しかし深い殺意を込めて呟いた。
「カタキは絶対に取る。こんなところで足止めを喰らっている暇はない」
民斗が祭壇の前に立ち、その美しい顔を歪める。
「すぐに片付ける。――闇よ、全てを侵食しろ」
彼女が操る絶対的な闇が呪いの祭壇を包み込み、その因果ごと呪いを激しく攻撃して破壊した。
「今だ、僕の速さについて来なよ!」
暮夫が超スピードで乱れた空間の結界を物理的に解き明かし、
一行はついにループを抜けて先へと進んだ。
薄暗い洞窟の入り口近くで、僅かな休憩を取る一同。
だが、一瞬の静寂を破り、羽から怪しい粉塵を撒き散らす「幻覚蝶」の群れが襲いかかった。
吸い込めば凄まじい狂気に陥る幻覚。
当然、精神を鍛え上げた阿藍達には、幻覚蝶の幻覚など微塵も効かない。
しかし、一般人である大翔たちは既に虚ろな目をしていた。
「おい、しっかりしろ! 大翔! 章吾!」
阿藍が声を張り上げるが、大翔達は完全に幻覚に囚われて反応しない。
「チッ、面倒な虫ケラどもめ!」
阿藍は光の散弾を放って幻覚蝶の群れを次々と撃ち落とし、
撃ち漏らした個体を民斗が濃厚な闇の力で確実に押し潰してとどめを刺した。
全ての幻覚蝶が消滅すると、大翔たちはハッと正気に戻った。
ひとまずの「やすらぎスポット」を離れた阿藍達が、
ついに目的地の鬼岩窟の前に辿り着いた時、そこを守る一人の妖艶な女性が立ちはだかった。
「クスクス……よくここまで来られたわね、可愛い小鳥達」
彼女の名前は、夜鬼夫人。
夜鬼が最も寵愛する高位の女鬼である。
「……ふふふ」
夜鬼夫人は、冷徹な視線を崩さない民斗を見て、いやらしくだらしのない笑みを浮かべた。
「あら、そこのお嬢さん、とても素敵な闇を纏っているのね。夜鬼様に捧げたいわ。
……そっちの二人も、なかなかいい男じゃない?」
阿藍は彼女を無視してそのまま通り抜けようとするが夜鬼夫人は鋭い爪を光らせて立ち塞がる。
「ダメよ、お通りなさい。ここにはね、世界を滅ぼす何かが眠っているの。
だから、ここに来ちゃダメよ」
「世界を滅ぼすもの、か。ならなおさら、見過ごすわけにはいかないな」
阿藍達は鬼の言葉に容赦などせず、夜鬼夫人を討伐するために一斉に戦闘態勢を取った。
「這い寄れ、私の闇!」
民斗が地を這う闇を操って先制攻撃を仕掛ける。
しかし、夜鬼夫人もまた高位の闇の異能を操る存在だった。
同質の力によって相殺され、民斗の攻撃は僅かなかすり傷に終わる。
「僕の速度を受け止めきれるかい!?」
すかさず暮夫が超スピードで死角から回り込み、
音響を伴う超高速の連撃を夜鬼夫人に叩き込んだ。
「あはっ、痛いじゃない! でも、これはどうかしら!」
夜鬼夫人が妖しく瞳を光らせると、
阿藍の身体から直接、莫大な生命力が吸い上げられ、彼女の傷が癒えていく。
「くっ……生命力吸収か……!」
阿藍が膝を突きかけるが、その隙を見逃さず、民斗が影の配置を瞬時に換えた。
「調子に乗るなよ、化物が」
「いやぁぁぁっ!?」
民斗の放った予測不能の角度からの闇の一撃が、夜鬼夫人の無防備な脇腹を捉える。
凄まじい衝撃波と共に、夜鬼夫人は闇の力で吹き飛ばされ、
樹海の遥か彼方へと消え去っていった。
「一気にケリをつけるぞ」
阿藍は自身の光の力を周囲に展開し、鬼岩窟に張り巡らされていたあらゆる残存トラップを
光の波動で強制的に無力化しながら、洞窟の最奥へと突き進んだ。
(最初からそうしろよ……)
あまりにも力任せな突破劇に、後ろをついていく大翔は心の中で毒づく。
鬼岩窟の最奥。
冷徹な空気の満ちる空間の玉座に、その男はいた。
「クスクスクス。ようこそ、鬼岩窟へ」
夜鬼が阿藍達を迎え入れる。
金髪にワインレッドの美しい瞳。
すらりとした手足に、彫刻のように整った顔をした男。
しかし、その背中には大きな蝙蝠のような翼が生え、額には禍々しい角が突き出ていた。
「お前が地獄の上級鬼、夜鬼だな」
民斗が夜鬼を睨みつける。
「当然だよ。おや、そこのお嬢さん。随分と威勢がいいね。私が全部吸っちゃうからね」
夜鬼は民斗に下劣な興味を示しているようだが、民斗の瞳に宿る殺意は揺るがない。
「黙れ。エージェントにとって、男女は力とは無関係だ。
お前の首を狩るのに、私の性別など何の影響もない」
「ハハッ、手厳しいね! ならば、まずはそのお喋りな口を塞ごうか!」
夜鬼が鋭い鉤爪を突き出し、超高速で暮夫へと襲いかかる。
「速い……! でも、僕のスピードには追いつけないよ!」
暮夫は超スピードを発動し、紙一重で爪撃をかわす。
だが、夜鬼はすかさずその紅い邪眼で暮夫を正面から睨みつけた。
「っ……!? 身体が、重い……!」
邪眼の呪縛により、暮夫の気力が激しく削ぎ落とされる。
「助けるぞ! 畳みかけろ!」
阿藍の号令と共に、三人の猛攻が始まった。
暮夫が超スピードで牽制し、阿藍が眩い光の力で肉体を焼き、
民斗が超強化した純黒の闇の力を叩きつける。
しかし、夜鬼は不敵に笑うと、今度は民斗に向けて邪眼の光を放った。
「動くな、美しいレディ」
「く、うぅっ……!」
民斗の気力が削がれ、動きが止まる。
夜鬼はその隙に彼女の喉元へ手を伸ばし、生命力を一気に吸収しようとした。
「させるかぁっ!」
阿藍が光の速度で割り込み、民斗を突き飛ばして自らが盾となる。
「がはぁっ……!!」
民斗の代わりに、阿藍の生命力が凄まじい勢いで夜鬼へと奪われていく。
「阿藍! クソッ、超スピード・ソニック!」
暮夫が即座に超スピードで夜鬼の首を狙って突撃するが、夜鬼は蝙蝠になる。
そのため。暮夫の渾身の一撃は、浅いかすり傷にされてしまう。
「こいつ……ただの鬼じゃない。吸血鬼のような性質を持っているのか!?」
民斗が息を荒くしながら叫ぶ。
「だったら、相性は抜群だな! 吸血鬼なら、光で焼き尽くすだけだ!」
生命力を奪われ疲弊しながらも、阿藍は折れない闘志で拳を突き出し、
これまで以上に強力な光の力を解放した。
夜鬼の闇の異能を貫き、強烈な光がその白い肌を激しく焼き焦がす。
「ぐっ……アアァッ! 忌々しい光め!」
夜鬼の身体から黒煙が上がる。
そこそこのダメージを与えたのを確認し、
民斗は次の必殺の一撃のため、背後で濃密な闇の力を蓄え始めた。
夜鬼は顔を歪め、再び阿藍を邪眼で睨みつけてその動きを縛ると、
同時に鋭い鉤爪を民斗に向けて振り下ろした。
「邪魔だな!」
「させるかいっ!」
暮夫が超スピードで突入し、夜鬼の腕を弾こうとする。
しかし、夜鬼は身体を一瞬だけ無数の蝙蝠へと変化させて攻撃を受け流し、
暮夫の刃はまたしてもかすり傷に留まった。
「今よ! 闇の因果よ、弾けろ!」
チャージを終えた民斗が、凝縮された闇の弾丸を解き放つ。
同時に、阿藍も残る全魔力を振り絞り、強烈な光の力で夜鬼の胸元を撃ち抜いた。
光と闇の相反するエネルギーが夜鬼の肉体で爆発し、凄まじい衝撃が轟く。
「ハァ、ハァ……やったか!?」
暮夫が息を切らせて叫ぶ。
しかし、煙の向こうから響いたのは、余裕を崩さない夜鬼の冷笑だった。
「クスクス……惜しかったね。だが、私の乾きを潤すには、まだ足りないな」
夜鬼は先程、阿藍から奪った潤沢な生命力を自らの肉体へと循環させ、
負傷を急速に再生していく。
疲労の色が濃い阿藍達を見下ろし、冷笑を浮かべた。
「さあ、次はそっちのスピードスターの番だ」
夜鬼の邪眼が暮夫を捉える。
強烈な精神圧が暮夫の脳内を駆け巡り、戦う士気が無惨に砕かれていく。
「う、うあぁぁ……! 身体が、動かない……!」
「しっかりしろ!」
阿藍が叫び、再び強烈な光の力で夜鬼を足止めしようとする。
民斗もまた、影から這い出させた闇の力で夜鬼の退路を断つ。
しかし、夜鬼の対応は狡猾だった。
こちらの決定打が届く直前、彼は必ず身体を一瞬だけ蝙蝠へと霧散させ、
決定的なダメージをかすり傷へと留めてしまうのだ。
「何度も蝙蝠になりやがって……! これじゃあ、まともにダメージが通らないよ!」
暮夫が焦燥の声を上げる。
夜鬼はその隙を逃さず、心を挫かれた暮夫の背後に回り込み、
その牙を首筋へと突き立てて生命力を一気に吸収した。
「あがっ……ぁ……!」
暮夫の身体から力が抜け、その場に倒れ込む。
「これで、残るは二人か」
夜鬼が唇を血で濡らしながら笑う。
「舐めるな……!」
満身創痍の暮夫と阿藍が最後の力を振り絞って夜鬼の四肢を掴み、その動きを肉体で固定した。
「今だ! 最大火力を叩き込め!」
「任せろ……! これで終わりだ、夜鬼ぃ!」
阿藍が叫ぶ。
民斗の超強化された渾身の闇の奔流が、夜鬼の胸標を正面から完全に貫いた。
「ゴハァッ!? が、あぁぁぁっ……!!」
流石の夜鬼もこれには耐え切れず、激しい苦悶の声を上げて血を吐き出す。
「やったか!?」
民斗が確信する。
しかし、夜鬼の肉体は崩壊する直前、不気味に膨れ上がり――
次の瞬間、無数の黒い蝙蝠の群れへと完全に分裂した。
「クスクス……気づくのが遅かったね! 私の身体は、数万の蝙蝠の集合体そのものなのだよ!」
空を埋め尽くす蝙蝠の群れが、一斉に阿藍へと襲いかかる。
キィキィと不快な鳴き声を上げながら、
蝙蝠達は阿藍の身体に群がり、その鋭い牙で彼の血を容赦なく吸い始めた。
「う、うあぁぁぁっ! 頭の中に……直接、悪意が……!」
凄まじい精神攻撃と失血により、阿藍は精神的に完全に追い詰められていく。
「今、助ける!」
暮夫が超スピードで虚空を駆け、音速の拳で蝙蝠の群れを叩き落とそうとする。
しかし、実体のない煙を殴るかのようで個々の蝙蝠にはなかなかまともなダメージが通らない。
「クソッ、キリがないよ!」
何度も攻撃するが、あまりにも数が多く、倒すのが難しい。
「……まだだ、これくらいで、俺達の光は消せない!」
蝙蝠の群れに埋もれながらも、阿藍の瞳に宿る光の因子が激しく明滅する。
彼は残された全ての力を暴走させ、
自身の身体から全方位へと爆発的な光の波動を放ち、群がる蝙蝠達を次々と焼き払った。
「ギエェェェッ! 忌々しい光がぁ!」
蝙蝠の統率が乱れる。
その好機を、民斗は見逃さなかった。
「闇の牢獄よ、全てを拒絶しろ!」
民斗が放った最大最強の闇の力が空間ごと蝙蝠の群れを押し潰し、
その強烈な衝撃によって、夜鬼の精神は完全に制御を失って暴走を始めた。
「ア、ガ、ガガガ……! 私の、私の身体が……!」
数万の蝙蝠が、空中で苦悶しながらのたうち回る。
その中に、一際大きく、魔力の核を宿した本体の蝙蝠が一瞬だけ姿を現した。
「――今だっ!」
それまで陰で息を潜めて戦闘を見守っていた大翔が、決死の覚悟で飛び出した。
その手には、強力な「封」の呪符が握られている。
大翔は超常的な戦いの中で培った直感を信じ、
暴走する本体の蝙蝠目掛けて呪符を正確に叩きつけた。
「しまっ――」
夜鬼の短い悲鳴が響いた瞬間、呪符から目映い呪力が溢れ出し、本体の蝙蝠の肉体を包み込む。
呪力は瞬く間に全ての蝙蝠へと伝播し、夜鬼の身体はみるみるうちに岩石へと変化していった。
石化し、物言わぬ彫刻となった夜鬼が、地面に激しく落ちて砕け散る。
鬼岩窟に、ようやく本当の静寂が戻ってきた。
「ハァ……ハァ……。何とか、任務完了、だな……」
暮夫が膝をつき、荒い息を吐きながら呟く。
阿藍も民斗に肩を借りながら、何とか立ち上がった。
「大翔、よくやった。お前の機転に救われたよ」
「へへ、まぁな。お前らが隙を作ってくれたおかげだよ」
阿藍が短く感謝を述べると、大翔は照れ隠しに鼻を擦った。
激戦の跡が残る鬼岩窟を後にし、帰路につくためテレポートの準備を始める一同。
しかし、その時、阿藍の脳内に突如としてノイズ混じりの強力なテレパシーが直接受信された。
『聞こえるか……警告だ。紫鬼の目的は単なる人間の捕食ではない。
奴は社会の根幹に、取り返しのつかない毒を流し込もうとしている――』
一はそれだけ言うと、霧のように消え去った。
「社会に、毒を……?」
阿藍は一人、誰もいない樹海の闇を見つめ、
紫鬼という存在の底知れぬ不気味さに、深く眉をひそめるのだった。
次回は、麻麻が活躍する……? かもしれませんよ。