正義の味方が帝国を翔ける   作:椿リンカ

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ロッドバルト「今回はナイトレイドVSボルス・クロメ・ウェイブ戦ですよ」


「怖がられる視線には、慣れてしまった」

ナイトレイドは現在、二手に分かれた振りをしてイェーガーズを罠にかけるためにとある渓谷に潜んでいた。

イェーガーズは全員帝具使いである。全面戦争ともなれば互いに死傷者が出るだろう。

だからこそナジェンダはイェーガーズを分断させ、戦力差で勝利しようと作戦を立てたのだ。

 

エスデスはナジェンダと因縁がある。おそらくはナジェンダが行ったであろう方角に自ら出陣したくなるはずだ、と。

・・・だから彼らは、エスデスが来ないルートで仕掛けることにしたのだ。

 

正当な暗殺者たる人材がいないため、後方支援にはラバックとシェーレが担当することとなり、サヨとイエヤスはその補佐として彼らと待機することとなった。

それ以外のナイトレイドは前線で戦うこととなる。

 

「タツミ!お前も頑張れよ!俺たちもしっかり支援させてもらうぜ」

「そうよ。怪我しないようにね」

「あぁ、分かってるって」

 

タツミはそう答えたものの、幾許かの不安はある。

イェーガーズが結成されてから応戦したことも遭遇したこともないが・・・その中にはアカメの妹がいるらしい。

 

アカメ自身は、妹を自分が殺して救済したいと、そう言ったのだ

 

「(妹と敵対するって、どういう気持ちなんだろうな・・・)」

 

そう思いながらも、彼はアカメに妹のことを詳しく聞けずにいた。

 

彼自身には兄弟はいないため、兄弟姉妹という感覚はよくわからない。幼馴染とは明らかに違うのだろう。

自分の家族と敵対するのは、どれだけ辛いのだろうか?

想像はしてみるものの、それはやはりただの空想、机上の空論みたいなものだ。実情を伴っているわけではない。

 

「(・・・俺にとっての正義は帝国を打倒して、みんなが幸せになれる国にすること。アカメの妹は敵だから倒さなくちゃいけない。アカメもそれをわかっているし、だからせめて自分が決着をつけようとしてるんだ・・・俺がとやかく考えることじゃないけど・・・)」

 

そう、仲間の身内であろうがタツミやほかの仲間にとっては敵なのだ。

私情を挟んではいけないし、何よりアカメ自身が敵対するならば妹でも斬ると言っている。

 

「(でも・・・それは、正義なのかな)」

 

本当なら、姉妹で戦うことのないようにするのが正しいのではないか

タツミは今でもそう考えてしまう

 

・・・カッパーマンに悪人が救済された上で河童にされたのは事実だが、それ以前に彼は確かに悪人とはいえ人を殺したのだ。

 

ナイトレイドは、決して正義の味方ではない。

 

革命を起こすため、革命が起きた後の国のために悪人を殺している暗殺者に過ぎないのだ。

だから悪人や敵対組織は切り捨てる。切り捨てなければならない。

 

「(・・・・・・本当に俺の正義はこれでいいのか?)」

 

 

 

 

数時間後、ナイトレイドが隠れている渓谷にイェーガーズの半数がやってきた。どうやらエスデスは作戦に引っかかったようだ。

すぐさま彼らは行動を移し、戦闘が始まる。

 

スサノオの攻撃によりグランシャリオの使い手が遠方にまで吹き飛ばすことに成功し・・・残るは、革命軍の標的とされているボルスとクロメだけになった。

 

「・・・クロメ」

「お姉ちゃん、久しぶりだね」

 

姉妹の感動の再会・・・とはいかず、クロメも八房による能力を発揮して死者を呼び出して応戦する。

ボルスも自らの帝具を使い、向かってくるナイトレイドと応戦を始めた。

 

 

 

・・・とはいえ、八房がキープしている死者は大体が危険種ばかりであり、質の良い人間の死体は使われていない。

もしも戦闘能力の高い人間の死体があればナイトレイドは更に苦戦しただろう。

 

クロメは危険種であるカイザーフロッグとエイプマンを護衛につけて高台に避難していた。

 

「・・・ナイトレイドの誰か、八房で斬れたらいいんだけどなぁ」

 

そんなクロメに、後方支援組であるシェーレとイエヤスが近づいていた。

・・・危険種が二匹、十分に倒せる相手だろう。

遠方からは追撃としてサヨが弓矢を構えている。

 

「シェーレ、行くぜ」

「わかっています・・・」

 

彼らは気付かれないようにクロメに近付いた。不意打ちでならきっと・・・・・・

 

 

「みぃーつけた」

 

 

後ろを向いたままクロメがそう呟いた。

シェーレとイエヤスは背後から何かに掴まれる。

・・・フェイクマウンテンに生息している、木獣である。クロメの指示で動いているあたり、恐らくは八房に操られた死者なのだろう。

 

「離せっ!」

「っ・・・まさか木獣なんて・・・」

「ふふっ、こういう時のために擬態できる危険種を使ってるんだ。案外使えるんだよ?」

 

クロメはにこやかにそう答えながら八房を構える

 

「帝具使いの死体って初めてだけど、死んでも帝具って使えるのかな」

 

八房の刃先がシェーレに向けられる。

逃げようとするが、木獣に掴まれ、さらにはワイプマンも動かないようにシェーレを固定する。

 

「シェーレ!!くっそ、やめろ!」

「・・・・・・(せめてここは奥の手で、イエヤスだけでも逃がさないと・・・)」

 

シェーレがそう覚悟してエクスタスの奥の手を発動しようとした直前、どこからともなく何か平たいものが飛んできて、ワイプマンと木獣に直撃する。

・・・河童の皿のようだ。

 

「そこまでにしてもらおう」

 

捕まっていたシェーレとイエヤスを助けるようにして現れたのは、カッパーマンだ。

彼の姿を見て、クロメは少し後退して八房を構える。

カイザーフロッグやワイプマン、木獣をカッパーマンを襲えるように配置しながら、彼女は彼に問うた。

 

「・・・ここでも、邪魔をするの?」

「・・・人が殺されそうになっているなら、助けるのが私の役目だ」

「そうやって・・・そうやっていつもいつもいつも、私が斬った相手も、斬ろうとしてる相手も助けて、私の邪魔ばかり。ナタラだって・・・ナタラだって私のそばにずっといてくれたはずなのに!!」

 

クロメの仲間であったナタラも、八房でとどめを刺したことがある。

だが運良く彼はカッパーマンに救われ・・・・・・今は、暗殺部隊からいなくなってしまったのだ。

 

「・・・」

 

カッパーマンは何も答えない

クロメの言葉が間違っているとも、正しいとも言わない

 

そのまま彼は黙って彼女へと近づいていく

 

八房によって操られた危険種たちを殴って下へと落としてく

 

「・・・何が、何が正義の味方なの。みんながいなくなって、私が一人になるのに、なんで」

 

静かに近寄る彼に彼女は八房を構える。

しかしカッパーマンはそのまま彼女に近付き、立ち止まる。

 

「・・・・・・八房で斬ったところで、私は死なない。無意味な戦いはやめるべきだ。君が戦闘をしないでくれると約束したら、下の戦いも止められる」

「ふざけないで。無意味なんかじゃない・・・無意味なわけがない!!国のために戦うのは、死ぬのが正しいの!!」

「・・・」

「許せない・・・!!」

「・・・許せない、か」

 

クロメはそのまま無防備なカッパーマンの心臓部分に八房を突き刺した。

 

「カッパーマン!!」

「そんなっ・・・」

 

様子を見守っていたイエヤスとシェーレは彼が八房によって死んだと思った。

・・・それはそうだろう。不老不死とは言われているものの、そんなものは眉唾物でしかない。

さすがに心臓を貫かれたら・・・死ぬだろう、と。

 

だが彼らの予想に反して、カッパーマンは倒れることなく八房の刀身を掴んだ。

 

「・・・・・・これで満足か?」

「ひっ・・・」

 

クロメが八房を抜こうとしても、カッパーマンが刀身を握っていて抜けそうにない。

 

心臓を突き刺した感覚はあった。肉を切り裂いた感覚、そしてスーツを濡らし始めた真っ赤な血の色。・・・確かに、心臓を貫いている。

 

しかしそれでも目の前の”それ”は生きて喋っている。・・・クロメは驚くと同時に、恐怖を感じた。

怒り狂うわけでもなく、痛みに堪えている様子もなく、恐れる感情すらない・・・ただただ静かに彼は問う。

 

それが何より、彼女にとっては恐ろしく見えた。

 

「君はこれで、満足したのか?」

「っ、ば、化け物・・・」

「よく言われることだ」

 

八房から手を放し、クロメはその場にへたり込んでしまう。

 

「君が満足するまで、私が付き合ってあげよう。それで君の気が済むなら、何度殺そうとしてもかまわない」

「っ・・・」

「あと何回私を殺せば、君は私を許すんだ?」

 

刺さっている八房を抜いて、カッパーマンはクロメの傍に八房を落とした。

 

 

「・・・君がこれ以上、誰かを殺そうとするなら、殺すなら、私は君を」

 

 

「やめろ!!」

 

カッパーマンとクロメの間に割り込むようにやってきたのは・・・下で戦っていたはずの、アカメである。

 

「・・・」

「お姉ちゃん・・・!」

「・・・妹に、手を出すな」

 

彼女は村雨を構えて、カッパーマンの首元に切っ先を向ける。

ナイトレイドということも忘れ、彼女は今・・・妹を守るために、正義の味方に刃を向けていた。

 

「・・・双方、引いてほしい。私は争いは好まない。争い続けるならば私も正義の味方として仕事をこなそう」

「・・・・・・」

「・・・わかった。下にいる仲間にも伝える。シェーレ、イエヤス、後方支援組に伝えてくれ」

 

アカメの言葉に、イエヤスとシェーレも後方支援をしている仲間の元へと向かった。

そして彼女は村雨をカッパーマンに向けるのをやめて、へたり込んだままのクロメの前にしゃがみこんだ。

 

「お姉ちゃん・・・」

「大丈夫か、クロメ」

「・・・うん、大丈夫」

「お前の姿を探していていたら・・・間に合ってよかった」

 

カッパーマンはそんな彼女たちの様子を見ながら、ひとりで下に行こうとする。

・・・アカメが仲間に伝えるとは言ったが、やはり自ら戦いを止めなければならないと思ったのもある。

しかし今は・・・今だけは敵味方を忘れて会話している彼女たちをそっとしておこうと思ったのだ。

 

 

「(怖がられる視線に、慣れてしまったな。彼女には悪いことをしてしまった)」

 

 

そう思いながら、すでに治癒された胸元を彼は撫でる。

血に濡れたはずのスーツもいつのまにか血の痕が薄まりつつある。

 

「(・・・私ができる正義はこれしかない。できるだけ助けて、悪人にもチャンスを与える。それしかできないのがもどかしい。彼女のように生きている人間の心を傷つけているのだから・・・まだまだ私は二流だな)」

 

そう思いながら、今も戦闘を続けている場へと彼は赴くのであった・・・

 




ロッドバルト「次回はやっとキョロクが舞台・・・のはずですね。どうなるかまだまだ未定ですが」

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