イェーガーズの一員であるウェイブ・クロメ・ボルスはカッパーマンに案内されて、エスデス将軍たちと合流地点に設定してあった街へと到着した。
彼はすぐに他の助けを求めている人間の声が聞こえたと、ウェイブたちの元を去っていった。
【街のとある宿屋にて】
「すみません、隊長。クロメちゃんはウェイブ君が看てます。怪我はないのですが、少し怖かったみたいでして」
「かまわん。ナイトレイドの策で欠員が出なかった・・・それだけでいい。この借りをキョロクで返すぞ」
「はい!」
ボルスはそう答えて、すぐに部屋から出て行った。どうやら彼もクロメの様子が気になっていたらしい。
スタイリッシュはセリューのメンテナンスをしながらもその様子を眺めいてた。
ボルスが部屋から出て行ったと同時に、エスデスが珍しくため息を吐いた。
「・・・まったく、これだから正義の味方は厄介だな。怪物そのものだ」
「怪物?」
メンテナンスを施されているセリューがエスデスの言葉を反芻するように口に出した。スタイリッシュもエスデスの様子が気になり、彼女に声をかける。
「あら、どういう意味なんです隊長?」
「・・・そのままの意味だ。奴は善意で行動している。その善意を遂行できるだけの強さもある。公平であろうと老若男女善悪問わず、人を助ける。そうだろう?」
エスデスに問われ、セリューは小さく頷いた。・・・少々、不服そうな表情を浮かべているが。
スタイリッシュは「えぇ、そうですね」と適当に相槌を打って、エスデスの言葉を待った。
「だが、その善意がいつも正しいとは限らないだろう。正しさなんぞ、この世の中の道理には無いんだ。弱肉強食・・・強い者が己の意地を通せる、それが真理だ。」
その言葉にセリューは言葉を失ったが、スタイリッシュはエスデスの意見に興味を持ったらしい。
期待した目で彼女を見つめ、次の言葉を暗に促した。
「・・・奴が正義の味方なのは、弱者から求められているからだ。弱者の言葉を、敗者の我儘を全て聞いてしまうから、あんな怪物になるんだ。」
「た、隊長・・・その・・・善意は正しいんじゃないですか?」
セリューが震えながら、小さく彼女に尋ねた。
「・・・善意が悪いとは言わないが、正しいものではないぞ。善意だけで人間が生きていけるわけがない。あくまでも、善悪は個人の主観だぞ、セリュー」
「ですがそれはっ・・・その、我々は、正義のために戦っています。善意を正しくないとするのは・・・」
「・・・お前はそうなのだろうな」
セリューの言葉に、エスデスはそう答えた。
「お前はそれでかまわない。私はお前のその考えは否定しない。・・・メンテナンスは終わったなら、ゆっくり休むといい」
「・・・はい」
セリューを部屋から追い出すかのように退席させるのを見計らって、スタイリッシュはワインとワイングラスを用意してエスデスへと渡した。
「あんな態度をとっていいんですか、隊長?」
「・・・カッパーマンのような正義の味方になられては困るからな。あれは見込みがある。」
エスデスはワイングラスを受け取って、グラスを傾けて喉を潤した。
「スタイリッシュ・・・弱者は我儘だと思わないか?」
「・・・いきなりなんです?」
エスデスの言葉にスタイリッシュは疑問符を浮かべる。弱い人間が我儘である、なんて聞いたこともないし考えたこともなかった。
「弱くても抗おうとする者は良い。だが、弱いままの人間が、何もしないまま他人にばかり助けを求めることは我儘だろう」
「・・・考えたことすらないですよ」
「弱者であるがゆえに、【弱いのだから守られるべきだ】【弱いから強い者に勝てるわけがない、助けてほしい】・・・何もせずに、弱者であるということにすがっている弱者は私は嫌いだ。強者の傲慢ならば私も受け入れるが、弱者の傲慢は見るに堪えない」
その言葉にスタイリッシュは呆気にとられた。
・・・彼はエスデス将軍に対して、圧倒的なカリスマ性やサディスティックな魅力もろもろ、「人間離れした魅力」を今まで見ていた。
彼にとって、エスデス将軍の人間らしい面を垣間見たといってもいいだろう。
人間臭い部分をさらけ出しても、彼女の在り様は美しい・・・と
「エスデス隊長の新しい一面も実にスタイリッシュですね!」
「・・・そうか。相変わらずよくわからんが、まぁいいだろう。とかく、カッパーマンは嫌いじゃないが、奴に縋る弱者が気に入らんだけだ」
「あらあら・・・でも、カッパーマンは嫌いじゃないんですね」
「そうだ、奴は強いぞ。何度か手合わせしたがすべて受け止められた。本気で戦いたいが・・・奴が戦うような理由が無い。奴は戦闘よりも救助を優先する」
エスデスが不機嫌そうにつぶやいた言葉で、スタイリッシュは一つの考えを思いついた。
思いついたものは、ありきたりなものだった。
本人も合いの手程度の認識で言っただけの、そう、本当に偶然思いついた考えを彼女に言った。
「それじゃあ、カッパーマンが一番親しくしてそうな相手を殺せば、もしかしたら本気で戦ってくれるかもしれませんね」
その言葉に、帝国最強の女は口角をあげて笑う
「スタイリッシュ、それはいい考えだな。是非やってみるとしよう」
ロッドバルト「さて、次回からいよいよキョロク編ですね。お楽しみに」