やっとキョロクに辿り着いたが、すぐに【ボリックを暗殺】とはいかなかった。
イェーガーズがキョロク入りするというのもあるが、ボリックはオネスト大臣から護衛【羅刹四鬼】を借り受けているし、何よりボリックがいる場所は警備が厳しい。
革命軍の諜報部隊と協力しながら、長期的な暗殺計画を遂行することになったのだ。
街の地図を把握し、敵の警備の数や交代の時間にも気を配る。
もちろん、イェーガーズや羅刹四鬼もナイトレイドを警戒しているだろうから、見つからないようにしなければならない。
ブラートとスーさんをメインに私やイエヤス、タツミを交えて地下通路を掘り進めていくことになった。
・・・ボリックの屋敷まで地下を移動するってことだ。土を掘って掘って掘りまくって・・・土木作業でなんとかストレス解消している状態だ。暗殺しに来たはずなんだけどね。
ただ、あくまでも地下通路は作戦決行時のルートの一つだ。
上空からの潜入や正面突破の部隊編成もボスが考えているとかなんとか。そのあたりはまた詳細が決定したら教えてくれるだろう。
「あーあ、すぐに終わると思ったら長引きそうだなぁ」
キョロクまでやってくるのにも日数がかかったが、ボリック暗殺もかなりの時間がかかりそうだ。
こればっかりは仕方ない。死亡者がいないとはいえ、何度も危機的な状況に陥ってきた。
・・・カッパーマンがいなければ、シェーレもブラートも死んでいた。
仲間が死んだほうがいいとは思わない。
けれども、なんでもかんでも助けに行くあいつは・・・・・・あいつの行動は、あまり良くない
そう考えながら町中を散歩しているとカッパーマンが人々に囲まれていた。
どうやらまた河童の皿の水で人々を癒しているらしい。
「ありがとー、カッパーマン!」
「ハハッ、これぐらいはお安い御用だ」
そう言いながらカッパーマンがまた自分の頭の皿に水を掛けようとしたのを止めた。
「君は・・・レオーネ君」
「ちょーっと、付き合ってもらおうか」
そのままカッパーマンを連れて人気のなさそうなところを探した。
「レ、レオーネ君、せめて水をかけてから・・・」
「言いたいことがあるから、落ち着いて話せる場所に・・・」
「だ、だがそろそろ・・・」
そう言いかけたカッパーマンがぼふんっ、と音を立てて一頭身の河童姿になってしまった。
人間のサイズから、馴染みのある河童姿になったのに驚いた。
「あ、アンタそれ・・・」
「すまない、水を補給しなければこの大きさになってしまうんだ」
「・・・」
「レオーネ君、話なら聞こう。だから水だけでも・・・」
「ちょーどいいからちょっと屋根の上あたりに上るよ」
「えっ」
カッパーマンをしっかりと片手で抱きしめて適当な屋根の上に上った。キョロクの街並みは屋根というか、屋上みたいな構造をしている。ゆっくり話すにはちょうどいい。
「・・・その、それで話というのはなんだね?」
「・・・あのさ、アンタって死にたくないから正義の味方になったんだよね?」
「あぁ、そうだ。それから千年の間に、助けを求める人々を助けてきた」
「・・・そういう時、アンタはどんな気持ちで他人を助けてるんだい?」
そう尋ねると、カッパーマンは困ったように言葉が詰まっていた。
「・・・そう、だな。聞かれたこともなかったから、答えに迷ってしまう」
「いーんだよ。んでさ、どういう気持ちで他人を助けてる?」
「・・・・・・・・・なんとも言えないな。元々私が今の姿になったのは自分が死にたくなかったからだ。正義の味方になるのを約束したからであって・・・・・・負い目、といえばいいのか。罪悪感かもしれない」
「・・・ふーん?罪悪感、ねぇ」
「自分が生きるために、正義の味方であるために助けているようなもの・・・だろう?」
「そういう気持ちなら、アンタは人助けに向いてないと思うよ」
そう言い切ると、カッパーマンは黙ってしまう。
こうやって思いつめるところとか、人が良いっていうかなんていうか・・・自分とはまったく違う、逆の思考の人間だ。
「あのさ、人間っていうのはもともと自分の事しか救えないと思うんだよね。どうあがいても自分だけが自分のことを救えるんだ」
人間というのは器用なもので、自分のことは自分で助けることができる。
他人に助けられても、それに気が付かなかったり意識してなかったり・・・そもそも迷惑と感じたり。
そういうものなのだ。
「人をどうしても助けたいってんなら・・・相手に負い目や罪悪感を覚えちゃいけない。相手のために、なんて論外だ。自分が助けたいから助ける。これでいいんだよ」
「・・・」
他人を助けるっていうのは、結局は自分のための自己満足だ。
どう言い繕ってもこればっかりは変わらない。
他人のため、相手のため
それは傍から聞けばよい言葉だし、耳障りもいい。自分のプライドも保たれる。
・・・でもそれは、相手への押し付けだし、相手に責任を負わせていることと表裏一体だ。
「アタシは、悪い貴族や役人をぶちのめしたらスカっとする。そりゃあ、革命軍の暗殺部隊にいるけど・・・結局自分がスッキリするし満足するから殺しをやってるんだ」
「・・・それは・・・あぁ、でも、それが君の正義だから、そうなんだろう」
「正義ってもんじゃないよ。アタシはアタシが満足するからやってるんだ。・・・別に、アンタが悪いってわけじゃない。人を助けること自体は良いことさ」
「・・・・・・」
「アタシ、あんたのことは結構好きだよ?」
「それは・・・ありがたいな。感謝する」
まったく、もう少し顔を赤らめるとか照れたらかわいげがあるってものなのにな
「正義の味方なんてやめればいいのに」
「!」
「・・・正義の味方、やめたくなったらアタシに教えなよ。キスの一つや二つやってやるよ」
「・・・・・・・・・お世辞が上手だね、君は」
なんと失礼な河童なんだ。わりと本気で言ってるのになぁー
・・・女心がわからない奴め
「センパーイ、あれってこのあたりで見かけない人だね。河童に話しかけてやんの」
「・・・」
「センパイ?」
「・・・へぇ、カッパーマンと仲良くおしゃべりしてるなんて。親しげね」
「・・・は?カッパーマン?あれが?」
「そうよぉ。あれはカッパーマンのお皿が乾いた姿。見たことあるもの。・・・ふーん・・・カッパーマンと親しそうねぇ・・・ホント」
ロッドバルト「さぁ、次回はサクサクと進みますよ!意外なあの方の視点になります。お楽しみに」