正義の味方が帝国を翔ける   作:椿リンカ

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一つの命を救える人は、世界も救える。
映画「シンドラーのリスト」



「皇帝にも正義の味方にも依存しない、民衆が自ら考える国に」

【タツミside】

 

ナイトレイドの皆で最後の宴をやることになった。殺し屋として仕事してきて、誰一人欠けずにここまでやってこれた。

・・・そもそも、殺した相手も自分たちも、カッパーマンが助けたから全員いるわけだが。

 

「かーっ!いよいよ明日だな!なぁラバック!」

「おう、そうだなイエヤス。ここまでこれたのも奇跡みたいなもんだよな」

「お前も明日はしくじんなよ?」

「お前こそな」

 

「みんな、今日は好きに飲み食いしてくれ。明日の励みにしないとな」

 

ボスがそう宣言すると、スーさんがなにかを持ってきた。どうやらボスが持っていた高価なお酒や美味い酒を全部出してきたらしい。

 

「ボスったら太っ腹よね。それ高いやつじゃない」

「マインにも分かるか。」

「当然よ。だって大事そうに飲んでたのを見かけたことがあるもの」

 

「俺も飲むか。明日に支障がないぐらいだがな」

「ブラートさん、こっちのごはん美味しいですよ!」

 

兄貴やサヨたちの会話を聞きながら、俺も明日のために食べることにした。

これでいよいよ最後の戦いか。緊張してきたが、明日で全て終わると思うと背筋が自然と伸びる。

 

「・・・」

「アカメ、食べるのが遅いな」

 

レオーネ姐さんがアカメに声をかける。確かにいつもと違って食欲がないようにみえる。

 

「・・・きっと、明日もカッパーマンは救えるだけの人間は救うのだろうな。そう思っていた。」

「そりゃー、正義の味方ってやつだからね」

 

「多分それは、私たちが暗殺する高官やオネスト大臣も代わりがないのだろう。」

「・・・まぁ、あいつはそういう奴だよ。誰だろうと助けるからさ」

 

「・・・皇帝も救うのだろうな」

 

その言葉に少しだけ場が静まった。

 

「本来なら民主国家を築くためには皇帝がいると困るのだがな」

 

ボスは少し酒を飲みながら、アカメの言葉に対して返答する。

 

「国を変えるならば、前の政権支持層の反発は抑えるものだ。ましてや王族ともなれば、貴族たちや民衆の中には支持層は・・・」

「でもさ、ぶっちゃけ皇帝よりもカッパーマンのほうがみんな頼りにしてるよなぁ」

 

ボスの言葉を遮るようにイエヤスが言った。

悪気はなかっただろうが、ボスからチョップをくらってしまっていた。

 

少しばかり場が砕けたところで、ラバックたちも「確かにそれはあるよな」と賛同の声をあげる。

 

俺たちがいた村でも、皇帝よりもカッパーマンのほうが身近というか・・・そう、支持されていた。

 

「英雄も大したもんよね、国を治める人間より支持されてるなんて」

「そうですね。スラム街でも人気がありました」

 

・・・なんだか、変な感じもする。

 

「・・・コホン、確かにそれもある。皇帝にしろカッパーマンにしろ、民衆が特定の個人に依存することは危険だ。革命軍はそういう見解を出している」

 

依存・・・依存かぁ。たしかに行く先々でみんなカッパーマンを頼りにしたり、過剰な期待を寄せていた気がする。

正義の味方ではあるし、誰にでも優しい。

 

でも、カッパーマンに結果を丸投げするのは無責任な気もする。

きっとそれは楽なことだ。俺だって考えるのは苦手なほうだし、カリスマ性があるというか・・・頼りになる相手がいるなら頼ってしまうと思う。

 

「だから、革命軍はカッパーマンに頼らなくてもいいように人道支援や土地整備など、民が自らの力で生活するように尽力するそうだ」

「それは楽しみだな・・・」

 

そんな会話をしていると、革命軍の人がやってきた。諜報員らしき人間がボスに何か伝えている。

 

「・・・秘密警察ワイルドハントの人間が来ただと?」

 

 

 

 

【カッパーマン視点】

 

春も近くなりつつある季節、少し肌寒さを感じながらも革命軍と帝国軍はそれぞれの熱気に包まれていた。

いよいよ決戦といえるだろう。革命軍本隊と援軍が帝都を取り囲み、帝国軍も城壁内外で戦の準備を整えている。

 

隠れ村でもそういった国の内部に広がる緊張感が伝わっているらしい。

 

「とうとう内戦か。短期決着になればいいが・・・」

「下手に長引くと国中がもっと荒れますよね。特にエスデス将軍の部隊が西の国境付近にいますし・・・泥沼になりかねないかと」

 

ウェネグとムディの会話を聞きながら、私も支度を整えた。

 

どれだけの人間を救えるかわからない。

きっと、取りこぼしてしまう人間も多くいるだろう。

 

何百、何千の人間を、取りこぼして見殺しにしてしまう・・・

 

「行くのですね、貴方は」

「いいの?内戦なんて本人たちの都合なんだし」

 

「ラン君もチェルシー君も心配してくれてありがとう。しかし、まだ帝都の人間も、両軍の兵士もいるからね」

 

今までも大きな戦争や内戦には関わってきた。

取りこぼしたこともある。助けようと思っても、助けられないことは・・・確かにあった。

 

・・・始皇帝と呼ばれた彼も、結局のところ心までは救えなかった。

 

不老不死になれなかったことを・・・私と共に帝国を見守ることができないことを最後まで悔やんでいた。

 

「それじゃあ、私はいってくるよ」

 

友の愛したこの国の行く末を、私は見届けよう。

 

どちらが勝ったとしても・・・私のやることに、代わりはないのだから

 


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