西の王国の国境近くにとある村がある。西の王国も帝国も把握していない森深くの村であり、彼らも人から隠れるようにこっそりと暮らしているのだ。
数多くのカッパが生息していることから、ここを偶然訪れた旅人からは「隠れ河童村」と呼ばれていた・・・
「はぁー、つっかれたー!」
「お腹すいてきちゃったね」
「お疲れ様です、チェルシーさんにコルネリアさん」
山菜やキノコなどを収穫してきたチェルシーとコルネリアにランが優しく声をかける。少し離れた場所ではランが勉強を教えている生徒たちがポニィと鬼ごっこなどをしているらしい。
テストの採点をしていたランは一通りまとめると、チェルシーとコルネリアが収穫したものを担いで食糧庫へと運んだ。
「ここの生活も慣れてきたけど、未だに肉体労働は慣れないなー」
「ふふっ、でもチェルシーが来てから事務関係の仕事は早く済むようになったし、新しく物資も入るから楽になったわよ」
「チェルシーさん、コルネリアさん。グリーンさんやツクシさんたちが昼ごはんを作っているので食べてきてください。午後からは私とナハシュさんで魚や獣でも狩ってきます」
「お疲れー!ふぅ、やっと昼ご飯かー」
「余裕があれば、他の人たちとも資源を探したり、薬草探しをしておきましょう」
この村はカッパーマンに救われ、居場所を無くしたり、様々な事情で家に帰れなくなった者たちが作り上げた村である。
カッパーマンも時折立ち寄ることもあるため、治安はかなり良い。
それに加えて・・・帝具使いや、様々な武術や武器を持っている人間も多いのだ。
帝国に追われた者、狙われている者、そういった者もここは受け入れている。
・・・そして、一度カッパーマンに河童にされた者も、いることにはいる。
河童は世間一般では不老不死扱いされており、実験対象や不老不死を得られるとして食われたり売買されることも多々あるのだ。
そういった経緯から、ここは虐げられていた河童も引き取っているのだ。
「あ、あの・・・」
「話には聞いておるぞ、新しい住民だとな」
プトラで墓守をしていた元長のウェネグが、新しくやってきた一家を出迎えた。ジャモたちがどうやら荷物を運ぶように手配していたらしい。
お互いに張り合いつつも引っ越し作業を手伝ってくれているようだ。
「どうやら西の王国のほうから魔女扱いされたらしいのぉ」
「・・・はい。その、コスミナちゃんはただ、歌が好きで・・・それなのに・・・」
「ふむ、そういう偏見はよくあることじゃあ。とりあえず今は家族共々ゆっくりしておるとえぇ」
「あ、あの、ここの村はカッパーマンさんになじみがある村だって聞いて・・・安全、なんですよね」
「そうじゃな、わしもこう見えて別の土地で墓守をしちょったけぇ、かなり強いぞ?」
コスミナに話をしながら、ウェネグがコスミナの荷物を代わりに持った。
「これからよろしく頼むのぉ、お嬢ちゃん」
「はっ、はい!」
一方、村の中では新しい建物をいくつか作っていた。と、いっても簡単なものではなく帝国の帝都で行われている最新の建築技術を使っているらしい。
ガイやダイダラが作業をし、ゲンセイが監督をしているらしい。
「ふむ、新しい建築技術の書籍ももらって良かったな」
「働くのは俺たちだけどな・・・」
「まぁ、俺はかまわないぜ!あのカッパーマンとまた手合わせできるからな!」
「お前は懲りないな・・・」
「あいつに勝てないんじゃないか?」
「俺は最強を目指してるんだ!その先にあの正義の味方がいるなら倒すまでだ!」
・・・ダイダラはここに住む村の中では珍しく、命を狙われているわけでもカッパーマンに救われたわけでもない。
彼は元々最強を目指していた武人であったが、カッパーマンの存在を知るや否や彼に挑みかかった。
無論、攻撃をいなされてしまい反撃された。もちろん、それだけでカッパーマンは彼を倒さずにまた人を救いに行った・・・が、ダイダラはあきらめなかった。
本気のカッパーマンと戦えるように毎回毎回探しては戦いを挑んで負け続けた。
ある時、カッパーマンは戦闘態勢の彼と向き合って、問答を始めた。
ダイダラとしては早く戦いたかったのだが、どうやら彼は戦う気は無いらしい。諦めて話をしてみることにしたのだ。
「・・・君は最強の武人を目指しているのか」
「あぁそうだ!他の奴には笑われるけどな!俺は強くなりたいんだ!」
「そうか。良い夢だ。・・・しかし、その力を奮って君は何を為すんだ」
「あぁ?何をって・・・何だよいきなり。そんなのはしらねぇな。俺はただ、最強になりたいんだッッ」
「最も強くなったとして、そのあとはどうするつもりだ?」
「・・・そのあと?」
「最強になったあとに、君は一体何をするんだい?何かを目指すのは良いことだが、目指した後に、君は何をしたいんだ?」
そう問われてダイダラは答えることができなかった。
そんなことすら考えたことが無かったのだ。
「その答えが見つかるまで、私は君とは本気で戦うことはできない」
「なんだと!?」
「答えが見つかるまで、ここの村を紹介しよう。丁度、君のような武人がいると心強い。私は正義の味方だが、個人の味方にはなれない・・・だから、君に頼みたい」
「それは俺には関係ないだろう?」
「答えを見つけたら、その信念をもって私に向かってくるといい。君は君の正義を、見つけるべきだ」
カッパーマンにそういわれて、ダイダラは考えた末にその提案に乗った。
小難しいことは彼にはよくわからない。カッパーマンの言った「自分の正義」が何かも見つけることができていない。
だからこそ最初はこの村になじむことができなかった。
・・・しかし、意外とここの生活が気に入り始めている。
「さぁてと、おいガイ!鍛錬するぜ!」
「おう!」
「まったく・・・血気盛んな奴らじゃな」
今日のノルマが終わったガイとダイダラは早速鍛錬場へと足を向ける。ゲンセイはそれを見送りながら空を見上げた。
「今日も良い天気じゃな」
ロッドバルト「今回はサブキャラでしたね。次回からは救済ターンでしょうか・・・?セリューVSシェーレ&マイン回か、とにかくバトルにカッパーマンが乱入する可能性は高いです。とはいえ、あくまで予定は予定、かなり端折るかもしれませんね」