正義の味方が帝国を翔ける   作:椿リンカ

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ロッドバルト「お久しぶりですね!数か月放置でしたね。いやー、カッパーマンさんはすごいですが、果たして死亡者ゼロ・・・なーんて甘いことを続けられるんでしょうか?」


カッパーマンについて:sideイェーガーズ

帝国海軍所属、ウェイブはカッパーマンに憧れている。

もちろん、恩人である帝国海軍の某男性のことだって憧れはあるが、恩人への憧れとヒーローへの憧憬は別のものだ。

 

 

【イェーガーズ談話室にて】

 

「カッパーマンには何度か助けてもらったことがあるしさ、あの人がやってる殺さず助けるってのが、俺の信条と似てて・・・」

「ウェイブは甘いんです。助けた後に悪事を働く悪人もいるでしょう!もしもそうなったら・・・それこそ後悔します。だから私は悪人はなるべくは殺すべきだと思うんです」

「お前なぁ、話し合えば分かることだってあるだろ?生活が苦しいからやむを得ずっていうのだってあるし・・・悪事を一度でも働いたらアウトって心狭すぎだろ!」

「そんなことありません・・・何かを守るためには何かを切り捨てることも必要です。軍属ならなおさら必要なことじゃないですか」

「そりゃあ・・・確かに軍人としては甘いって、何度も言われてきた。でもよ、できるならカッパーマンみたいに殺さずにいたいんだよ」

「・・・本当に甘いです。いつかそれで、大事なものを無くしたら取り返しがつかなくなりますよ」

「無くならないように守るだけだ」

「・・・単純ですね」

 

イェーガーズの談話室でウェイブとセリューは机を挟んで喧々諤々していた。

内容はもちろん、カッパーマンについてだ。

 

二人の正義への信念はベクトルが違う。

ウェイブはカッパーマンと似ていて、悪人にも機会や慈悲を与えるべきだと思っている。

セリュー・ユビキタスの信念は・・・犯罪被害者側のことを重視しているのだ。

 

そんな二人を見ながら、クロメは静かにクッキーを食べる。

ウェイブやセリューにクッキーを分けながら、だ。

 

「・・・そういえばクロメはカッパーマンについてはどう思ってるんです?」

「あっ、俺もそれは気になってた。いっつもカッパーマンについては話題にしないし、黙ってるよな」

「・・・聞きたいの?」

 

クロメはクッキーを齧りつつウェイブとセリューの顔色を見る。断り切れそうにないと悟ると、彼女はぽつりぽつりと話し始めた。

 

 

 

【クロメの語り】

 

私はカッパーマンのことが嫌い

 

暗殺部隊の試験の時も脱落してた子みんな助けてた、合格した私やお姉ちゃんは助けなかった

 

暗殺部隊の任務に失敗した子はみんな助けてた、生き残ってた子は皿の水で癒すだけだった

 

薬に頼ってる子たちを皿の水で癒してくれた、暗殺部隊から逃げたい子を手助けした

 

薬に頼らなくても暗殺部隊の子たちは助けられているうちに強くなった、けれど帝国から離れていく子たちが多くなった

 

私を連れ出そうとするお姉ちゃんとの戦いを止めた、お姉ちゃんを逃がした

 

 

いつもいつも、あの人は余計な事ばかりする。私の大事なものが離れていくんだ。そのくせ、いつも私たちに選択を委ねる。

・・・あの人はとても狡い人だ。選択肢を相手に委ねているだなんて、本当に酷い。

 

帝国を裏切るのは悪い事なのにカッパーマンに助けられることが多くなるにつれて、お姉ちゃんのところに行きたい気持ちが強くなる

 

・・・みんなと一緒にいたいのに、みんなは離れていく

 

「彼や彼女たちは、自分で選んで帝国を離れた。私が唆したわけじゃない」

 

嘘。だってみんな、一緒に訓練して任務をこなしてきたのに

帝国を裏切るのは悪いことで、任務を続けて命が尽きる事こそがいいのに

 

「何が良いのか、自分にとってのベストな選択肢なのか・・・それは自分自身が決めることだ。他人が指図したところで、心の声は止まらないさ」

 

・・・本当に狡い、狡い正義の味方

 

だから私は嫌い。

お姉ちゃんと仲間、どちらも選びたい自分からすれば・・・そんな選択肢があるだなんて簡単に言ってしまえるあの人が嫌い

 

 

 

【再び、イェーガーズの談話室】

 

「・・・だから私は、カッパーマンが嫌い。正しすぎるあの人が、嫌い」

 

クロメの言葉にウェイブとセリューは黙ってしまう。

そこへボルスがお茶を運んでやってきた。

 

「ほら、みんなお茶だよ」

「あ、あぁ・・・ボルスさんありがとう」

「ありがとうございます」

「・・・ありがとう」

 

彼らの会話を聞いていたのか、ボルスはそわそわとして3人の顔を見ていた。だが、何かを決めたかのように「私はね」と話し始める。

 

「私はカッパーマンのしていることは良い事だとは思う。疫病だって治せる皿の水で村を救ってるし、悪人から弱い人を助けてる。でもね、命令を受けてやってきた私や他の軍人からすれば敵になっちゃうんだ」

 

お盆をしっかりと持って、沈んだ声で更に続ける。

 

「それでも彼は私たちのことを怖いとも間違っているとも言わなかった。疫病が広がらないように焼き払うことにだって正しさがあるって。帝国という国を守るために反乱軍と戦うことだって軍人として正しいって」

 

「・・・軍人として正しい、ですか」

 

セリューがボルスの言葉を反芻して、苦虫をつぶしたような表情になった。

 

「私たちも養ってる家族がいたりするからね。・・・だから私は彼のことは人としては正しいと思うけど、仕事の上では敵として割り切ってるよ。これからイェーガーズの仕事が増えれば敵対するかもしれない。その時は・・・私は戦うよ」

 

その言葉にクロメとセリューは相槌を打った。しかしウェイブは複雑そうにしている。

 

 

「(俺はカッパーマンと戦えるんだろうか・・・)」

 

 




ロッドバルト「いやー、悩める若者は良いものですね!ウェイブさんとタツミさんはお互いに悩める若者キャラとしていい性格してると思いますよ?」

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