深夜・バトルゾーン。赤く仕切られたエリアの中で、少年は必死に走っていた。
金を稼がなければ。そうでなければパンも買えない。頼れる親も友人もいない。そうなれば自分で稼ぐしかない。ZAロワイヤルは非常にちょうどいい。バトルに勝てば金が手に入る。なんて単純なのか。
しかし今夜は運が悪かった。大勢のトレーナーに囲まれて、袋叩きに遭った。おかげで少年も相棒もボロボロだ。なんとかしてバトルゾーンを抜けて、相棒だけでも回復させなければ。そう思いながら走っていた、その時だった。
「見つけました!」
あっという間に、大勢のトレーナーに囲まれる。見ると、皆モンスターボールを構えている。自分はともかく、相棒はもう戦えない。どうにかしてこの場を切り抜けなければ……
「うふふ、みなさまご苦労ですわ。しかし…このような子がZAロワイヤルを荒らしていたなんて。」
人間をかき分けて、ひとりの女がやってきた。その女に、少年は目を奪われた。
なんて、うつくしいのだろう。
「ああ、その姿……ボロボロで、それでも諦めていない…なんて、可愛らしいの!そうですわね、決めました!」
女は、少年の顎をクイっと上に向かせた。少年の瞳は、女に釘付けだった。
「あなた、わたくしの犬になりなさい」
そう告げられたところで、少年の意識は途絶えた。
「………?」
目が覚めると、そこは真っ白な天井だった。あたりを見回すと、やたら豪華な家具が並べられていて、目がチカチカする。体のあちこちが痛み、うまく動かせない。
「あら、お目覚めになって?」
ドアが開いて、あの美しい女が姿を見せた。傍には、奇妙な服を着た緑髪の女が。
「わたくしはユカリ。あなたの主人ですわ」
「……しゅ、じん?」
「ええ。まだお返事はいただいていないけれど、まあ決定事項ですから。あなた、お名前は?」
「なまえ……」
少年は考え込んだ。久しく名前というものを呼ばれていない。しかし、過去に何度か呼ばれたような。
「……カズミ」
「カズミ!いい名前ですわね!」
「…そうだ、アブソル、アブソルは!!」
「落ち着きになって。あなたのアブソルなら、今治療を終えて休ませているところですわ。あなた自身もそうですけど、ずいぶんボロボロでしたから」
ユカリが緑の女を見やると、少ししてアブソルがゆっくり歩いてきた。
「ああ、アブソル……!!よかった、よかった…」
「うふふ、あなたのアブソル…とっても鍛え上げられていましたわ。MSBCの間で噂になるのも納得です」
「……噂?」
「ええ!なんでもめっぽう強いアブソル使いがいるとかで。MSBCにはフェアリー使いが多いのですけど、それでも返り討ちにあったというから…わたくし、いてもたってもいられなくて!そこで、あなたに会いに行ったんですのよ」
そういえば、前に倒した男がその名前を言っていた気がする。豪華なスーツやドレスを着た大人は賞金が高いのでよく狙っていたのだが、どうやらそれが原因だったらしい。
「さて、自己紹介も済ませたところで……改めて問いますわ。あなた、わたくしの犬になりなさい?」
「……犬?」
「そう、犬!正確には番犬ですけどね?わたくしに忠実で、それでいて強力な!そんな番犬が欲しかったんですの!あなたはわたくしの思い描いたイメージにぴったり!」
「はあ……」
「もちろんタダでとは言いません。三食お昼寝お給料つき。わたくしの権限でホテルシュールリッシュのお部屋やサービスはいくらでも使い放題!いかがかしら?」
ユカリが指を鳴らすと、たくさんのパンが盛られて運ばれてきた。久しく見ないたくさんの食事に、思わずカズミはよだれを垂らす。
「さ、好きに食べていいんですのよ」
「!? ほんとうに?」
「ええ♡わたくしの犬になれば、パンもマカロンもなーんでも食べ放題ですわよ?」
「なる!犬になる!」
「うふふ、決まりですわね!そうと決まれば色々と準備をしなければ!ハルジオ、ついてきなさい」
「はい、ユカリ様」
パンを夢中で頬張るカズミを見ながら、ハルジオは頭を悩ませた。ああ、またユカリの犠牲者が出るのか……と。
しかし、そんなことにはならないのだった。
カズミ
身寄りのないストリートキッズ。年齢は14歳くらい。ユカリ様に拾われる。
アブソル
カズミの相棒。
ユカリ
超絶わがままフェアリーお嬢様。カズミを拾って番犬にする。
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