ユカリ様の番犬   作:三笠みくら

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ユカリ様の犬

 

ユカリがカズミを拾い、犬にすると宣言した次の日。早速その教育は始まった。

 

が、カズミのレベルは思った以上に低かった。読み書きもろくにできず、食事の作法は当然身に付いていない。しかしユカリはそれを意に介さず、むしろ教え甲斐があると喜んだ。

 

ユカリ自らカズミに読み書きを教え、彼を直接育てる。ハルジオはいつユカリがカズミに飽きるのかとハラハラしていたが、飽きるどころかむしろどんどんカズミにのめり込んでいる様子だった。

 

 

「ユカリ、さま。これ…」

 

「あらカズミ、どうしたの?」

 

 

カズミから手渡された紙には、拙い文字でユカリの名前が書かれていた。それを見て、ユカリのボルテージは急上昇した。

 

 

「まあまあまあ!!カズミったらかわいいことをしますのね!!いつの間にわたくしの名前が書けるようになっていましたの!?ああ嬉しい!!よ〜しよしよし、なんていい子なのかしら!!」

 

 

犬を愛でるように撫でまわし、ほっぺをすりすりする。それでも足りないのか、ハルジオに大量のケーキを持ってこさせた。

 

 

「ご褒美ですわ、好きなだけ食べてよくってよ♡」

 

「ほんとうに!?」

 

「ええ♡その代わり、これからもわたくしのために頑張ってね?」

 

「ん、がんばる。ユカリさまの、ため」

 

 

ハルジオが大量のケーキを部屋に運んできたのと同時に、ユカリは部屋を飛び出した。カズミが書いてくれた自分の名前を、額縁に入れて飾るためである。

 

 

「なあ、オマエ……大変じゃないのか?」

 

「なにが?」

 

「ユカリに色々教えられてるだろ、読み書きとか食事の作法とか。ユカリは無理やりすぎるからな」

 

「いやじゃ…ない。オレは、学校いったことないから。」

 

「…そうなのか」

 

「それに…ユカリさまは、やさしい。オレのこと、ほめてくれる。ケーキにマカロンもいっぱい食べさせてくれる」

 

 

モンブランを頬張りながら、カズミはそう答える。確かにカズミにとって、ユカリは優しい主人なのだろう。……今のところは。だが本当に恐ろしいのは、カズミが本格的にユカリに仕えることになってからだ。ハルジオもそうだった。初めて会った時は、ユカリのことをバトルへの熱が強いただのお嬢様だと思っていた。だが現実は違う。

 

兎にも角にも唯我独尊。まるで世界の中心は自分だとでも言わんばかりの物言い。そして気に入った相手に対してとにかく圧が強い。なんでもかんでも自分のものにしたがるせいで、ミアレにはユカリに負かされて彼女の言いなり…奴隷となった哀れなトレーナーが結構いる。そして何よりその強引さ。気に入らないことがあればどんな手を使っても望みを叶えようとする。そんなユカリに、ハルジオは1年半振り回されっぱなしなのだ。

 

 

「まあ、その時になったらうちが色々助け舟出してやるよ。ユカリが話を聞くかは別として」

 

「わたくしがなんですって?ハルジオ」

 

「ぎゃあ!?ユ、ユカリ様……」

 

「まあいいわ。今日は特別授業です!カズミの情操教育のため、ミアレ美術館に行きますわよ!」

 

「……美術館?なにそれ」

 

「うふふ、素敵なアートがたくさんある場所ですわ。ハルジオ、車を用意して」

 

「は、はい」

 

 

黒塗りの高級車に乗って、あっという間にユカリとカズミ(ハルジオは車で待機)はミアレ美術館にたどり着いた。静かで荘厳な空気が落ち着かないのか、カズミはあたりを見回している。

 

 

「2階ではヒスイ展なるものをやっているみたいですけれど……どう、カズミ?」

 

「……この絵」

 

「あら、この絵が気になりますの?」

 

 

カズミがふと立ち止まる。そこには、宝石のポケモンがモチーフとなった絵画が展示されていた。

 

 

「こちらの絵は、世界一美しいと呼ばれるポケモン…ディアンシーをモチーフとしていますの。ほうせきポケモン・メレシーの暮らす国の女王という存在らしいですわ」

 

「へえ……」

 

「カズミ、あなたはこの絵を見てどう思いました?」

 

「……ピンク色で、きれいで、キラキラしてて…」

 

「ええ、それで?」

 

「……ユカリさま、みたい」

 

「………」

 

 

 

「もう!!!♡♡♡カズミったらなんてかわいいことをおっしゃるの?ディアンシーがわたくしみたいだなんて!!ええ確かにゴージャスでフェアリーでそっくりですけどね?それでもそんなことを平気で言えるだなんて……ああやっぱりあなたはとっっても素敵!!」

 

 

よ〜しよしよし。超絶ご機嫌になったユカリに撫でまわされ、カズミはなんだか恥ずかしいような、こそばゆいような気持ちになった。その後はユカリがご機嫌すぎて落ち着かなくなったので、早々にホテルに戻ることになった。

 

 

「うふふ、カズミったらわたくしを喜ばせることが上手なのね♡」

 

「? ほんとうのこと」

 

「ええそうね、その通り♡でもその褒め言葉を素直に言えることが大事なんですのよ?」

 

「そんなものかなあ……」

 

 

それから数ヶ月が経ち、カズミは読み書きも食事も立派にできるようになった。彼自身吸収が早く、ユカリが思ったよりも早く技術が身についたのだ。

 

 

「ふふ、そろそろ良い頃合いかしら……ハルジオ、あれを」

 

「はい」

 

 

ユカリの指示で、ハルジオが持って来たもの……それは、燕尾服だった。

 

 

「これがあなたの燕尾服。サイズもぴったりですわ♡」

 

「えんび……なに?」

 

「わたくしの番犬にふさわしい衣装でしてよ♡さ、着替えてちょうだい♡」

 

 

MSBCの男性会員に手伝ってもらいながら、カズミは燕尾服に着替えた。それからヘアメイクも参加し、カズミはみるみるうちに変身していった。

 

 

「ユカリ様、完了したとのことです」

 

「まあ、待ち侘びてましたわ!さあカズミ、あなたはいったいどんな姿に……」

 

 

ユカリが部屋に入ると、そこにかつてボロボロだった少年はいなかった。その代わりにいたのは、整えられた銀色の髪に、パリッとした燕尾服。立派な執事が、そこにはいた。

 

 

「まあまあまあ……とっっても似合ってますわ、カズミ!!やっぱりわたくしの思い描いた通り!うふふ、髪もこんなにきれいになって……」

 

「ユカリさま、これきつい……」

 

「あら、これから毎日着るのだから慣れてちょうだい。それに、まだ仕上げが終わっていませんわ」

 

 

そう言うと、ユカリは小箱から……首輪を取り出した。それを見て、ハルジオはドン引きした。そもそもカズミを拾ったのも「犬が欲しい」などという割と理解できない理由だったが、まさか本気でカズミに首輪をつけるつもりなのか。

 

 

「それ、なに?」

 

「うふふ、これはあなたがわたくしの犬であるという証。わたくしへの永遠の忠誠の証ですわ」

 

「ユカリさまの、犬である証……わかった、つける」

 

(つけるのかよ!!!)

 

 

ユカリが手ずから、カズミに首輪をつける。ちなみにこの首輪はカズミのためのオーダーメイド品である。

 

 

「さあカズミ、これで今日からあなたは正真正銘わたくしのもの。わたくしの犬。よろしい?」

 

「……わん」

 

「うふふ!」

 

 

こうして、ユカリの犬が誕生した。




カズミ
優しくて色々教えてくれるユカリ様がすき。

ユカリ
カズミの純朴さに驚かされてばかり。


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