ある日の昼下がり。ユカリはここ最近あるトレーナーに熱を上げていた。その熱中ぶりは凄まじく、隙あらばそのトレーナーのバトル動画を鑑賞しているほどである。
「…ユカリさま、ずっと動画見てる」
「そうだな、うちとしては静かにしてくれるならいいんだが……」
「……つまんない」
分かりやすくほっぺを膨らませるカズミを、ハルジオは可愛らしく思った。ハルジオはともかく、カズミは本心からユカリに忠誠を誓い、彼女のことを敬愛している。そんな彼にとって、ユカリの興味関心が別のものに向かうのはあまり好ましくないのだろう。
「ユカリさま、なんの動画観てる、んですか?」
「あらカズミ♡ほら、前に話したセイカ様よ!最近とうとうDランクに上がったのだとか!わたくしとランクアップ戦をする日も近いですわね……うふふ♡」
「……そんなにセイカのことが好き?」
「ええ、とても♡だってご覧なさい、この戦い!カナリィ様のメガシビルドン相手に、メガクチートで一歩も退かぬ戦い!しかも調べさせたところ、ミアレに来るまで碌なバトル経験もなかったのに、ですわよ?ああ、なんて才能の塊!!」
「………」
「あら……どうしたの、カズミ?不機嫌なようだけど」
「……わかんない。ユカリさまが楽しいのはいいことなのに……」
「……うふふふ、カズミったらかわいい♡そんなにわたくしのことが好きなのね♡」
「どうしてそうなるの?確かに、オレはユカリさまのことスキだけど」
「それは嫉妬と言うんですわ。カズミはわたくしがセイカ様にお熱なのが気に食わないのよ」
「嫉妬……」
「でも安心して?」
ユカリが、カズミの首輪を掴み、引き寄せる。カズミとユカリの顔は、今にもぶつかってしまいそうだ。
「わたくしの犬は、あなただけよ。カズミ」
「……はい!!ユカリさま!」
「よろしい。それじゃあわたくしは会議がありますからこれで。ハルジオ、ついてきなさい」
「……はい」
「いってらっしゃい、ユカリさま!」
「はぁい。良い子で待っててちょうだいね、カズミ♡」
(この関係に比べたらうちはマシ…なのか?)
ユカリを見送り、カズミは休憩に入った。今日は息抜きのためにヌーヴォカフェに行くのだ。
「えっと、もえつきローストひとつと、クロワッサンひとつ」
「ぷむ!」
「あ……あとチョコクロワッサンひとつ、ください」
「あいよ!」
カズミのペロリームもヌーヴォカフェのチョコクロワッサンが好きで、必ずボールから出てきてリクエストするのだ。ちなみに一度もえつきローストを飲んでとんでもないくしゃくしゃの顔になったことがある。
「……ふう」
「おら、もえつきローストにクロワッサンな!早く飲んでおかわりしろ!」
「ぷむ!」
「ありがとう、ございます」
カズミはヌーヴォカフェが好きだった。というのもヌーヴォカフェの店員であるグリーズにはかつて助けられたことがある。まだカズミがストリートチルドレンだった頃、ボロボロだったカズミに無償でコーヒーとクロワッサンを振る舞ってくれたのだ。その恩もあって、カズミは今もヌーヴォカフェに通い続けている。
「あ、あの!」
「?」
「わたしのこと……覚えてますか?」
「……セイカ」
突如として、セイカが声をかけてきた。よく見ると、先日会った時よりもファッションが変わっている……気がする。いかんせんカズミはそういったものに疎いのだ。ちなみにカズミのパンクな私服はハルジオに見繕ってもらったもの。
「はい、セイカです!あの…相席いいですか?」
「いいよ」
「やった!ありがとうございます……あ、ひのこローストお願いします!」
「それで……何か用?」
「ええっと……その、前助けてもらったお礼をしたくて。」
「お礼?別にいい。困ってる人を助けるのは当たり前のこと」
「えへへ……かっこいい上に優しいなんて…」
「ぷむ!」
「ペロリーム……もう食べたの?」
「ぷむ!」
「おかわり?」
「ぷむ!」
目の前のなんともゆるく可愛らしいやり取りに、セイカはこれでもかと癒されていた。カズミのような人物がペロリームを連れているのも意外だったが、こうもギャップのあるやり取りをされると心に刺さる。
「そういえば、カズミさんもZAロワイヤルに参加してるんですよね?Cランクだとか」
「うん。オレは叶えたい願いはないけど」
「え?じゃあどうして…」
「ご主人様の命令。強くなりなさいって」
「……ご主人様?」
「うん。オレはご主人様の犬だから」
「………はい?」
「そろそろ行く。それじゃあ」
カズミの言葉に処理落ちしたセイカを置いて、カズミはカフェを出て行った。どう聞いても爆弾発言だが、カズミは何もおかしいとは思っていないのだった。
カズミ
ユカリさま大好き。ユカリさまの犬であることに誇りを持っている。
セイカ
カズミに憧れている。……犬?
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