吾輩は猫である、ただしゴジラが来たせいで飼い主に置いてかれて死にそうです 作:よよよーよ・だーだだ
わたしたちはレストランを出た。
正確に言えば、出たというより、転がり出た。
背後では人間の黒い道具が火を吐き、爬虫類が叫び、猫たちがあちこちで鳴いていた。椅子が倒れ、机が滑り、割れた窓から湿った風が吹き込んでくる。
かつて食べ物の匂いがしていた広い場所はもう食べ物の場所ではない。逃げ遅れたものが食べられる場所である。
ジャックが叫んだ。
「こっちだ!」
「どこへだ!」
「下だ!」
わたしはジャックの尻尾を追った。
普段なら、あんな薄汚れた尻尾を目印に走るなど、わたしの品位に関わる。だが今は品位より命である。命があってこその品位だ。死んだ猫は、いくら優雅でも毛づくろいができない。
「猫は上へ行くものだと言ったではないか!」
「今は下だ!」
野良の言うことはすぐ変わる。しかし文句を言う余裕はない。
レストランの外に出た途端、わたしたちは足を止めた。
通路に爬虫類がいた。一匹ではない。止まった黒い階段の脇。倒れた案内板の上。閉まった店のシャッターの前。観葉植物の鉢の陰。人間が作った小さな乗り物のような箱の中。あちらにも、こちらにも、濡れた鱗と細い尾があった。
爬虫類たちは、床の匂いを嗅いでいた。猫の匂い。人間の匂い。血の匂い。腹を空かせた肉食の目が、通路を舐めるように動いている。
「人間ども、猫どころじゃなさそうだな」
ジャックの言うとおり、人間たちはもう猫を追い出そうとしていなかった。
もはやそれどころではないのだ。灰色と黒の服を着たGフォースの人間たちは、通路の向こうで爬虫類たちに向かって黒い道具を構えていた。白い光が揺れ、火が跳ねる。耳が裂けるような音が連続して、床や壁や店の看板を叩いた。
爬虫類の一匹が、その閃光の中で跳躍した。
細い体が弓のようにしなり、人間の上半身に飛びつく。人間が悲鳴を上げる。別の人間が黒い道具を向ける。火が出る。爬虫類は床を転がり、すぐにまた起き上がった。
人間は大きい。道具も多いし、声も大きい。だが、爬虫類は速くて数がいた。
ジャックは身を低くした。
「いいか。あのトカゲどもが人間を見てる間に抜ける。目を合わせるな。音を立てるな。鈴を鳴らすな」
「最後だけわたしを見て言うな」
「おまえに言ってるんだよ」
たいへん不愉快だが、正しい。
わたしは首を固めた。固めすぎると走りにくいが、走りやすくすると鳴る。この首の鈴は、どうしてこうも融通が利かないのか。
通路の先で、片耳の古参が飛び出した。あの猫はたぶん厨房の方から逃げてきたのだろう。毛を逆立て、目を丸くし、ただ前だけを見て走っていた。
だが、その足音に近くの爬虫類が反応した。奴らの細い首が、ぴたりとそちらを向く。
片耳の猫は、それに気づかない。
「そっちへ行くな……」
わたしは思わず叫びかけたが、ジャックがわたしの肩を体で押して制した。
「見るな」
「だが」
「見るな。走れ」
爬虫類が跳んだ。
わたしは見なかった。見なかったことにしたが、音は聞こえた。
猫の短い悲鳴と、爪が床を引っかく音、それから液体と肉が引き裂かれる音。
わたしの足が一瞬止まりかけて、ジャックが低く唸った。
「止まるな」
その声には怒りがあった。
わたしにではない。たぶん、この世界に対してだ。
わたしたちは走った。
倒れた看板の陰を抜け、子ども用の小さな車の下をくぐり、床に散らばった紙袋を踏んで滑った。通路の向こうでは、Gフォースと爬虫類がぶつかっている。火の音。叫び声。爬虫類の鳴き声。ガラスの割れる音。
その全部に紛れて、わたしの鈴も鳴った。
ちりん……。
その音はほんの小さい音だったが、近くの爬虫類がこちらを向いた。
わたしの心臓が、腹の中で跳ねた。
「まずい」
「わかっている!」
爬虫類の目が、わたしたちを見つけた。わたしたち猫を、食べられる大きさの肉として見る目だ。
わたしはああいう目が嫌いだ。犬の目も嫌いだったし、カラスの目も嫌いだ。
だが、爬虫類の目はもっと嫌だ。そこには怒りも遊びもなく、ただ食べるか、食べないかしかなかった。
爬虫類が追ってきた。
「くぐるぞ!」
ジャックの合図でわたしたちは崩れた壁の隙間をくぐり抜け、横の通路へ逃げ込んだ。
間一髪、爬虫類が顔を突っ込もうとしたが、図体が大きすぎて通れなかった。
ジャックは、止まった黒い階段へ向かった。
人間が足を乗せると勝手に動くらしい階段である。今は止まっているようで、黒くてぎざぎざした段が下へ続いていた。
「これで降りるのか」
「他に道がねえ」
「この階段は信用ならない」
「今動いてねえから大丈夫だ」
「動いていたら大丈夫ではないのか」
「動いてたらもっと嫌だ」
それはそうだ。わたしたちは黒い階段を駆け下りた。
段は固く、角が足裏に当たる。わたしの肉球はもうとっくに悲鳴を上げていたが、悲鳴を上げる器官を間違えている。口で悲鳴を上げる余裕はない。足だけで我慢してもらうしかない。
下の階にも爬虫類がいた。
一匹が、閉められた服の店の前で何かを食べていた。何か、は見なかった。見ない方がよいものが、この世界には多い。
ジャックは階段の途中で止まり、鼻を動かした。
「右に行こう」
「なぜ」
「左は血の匂いが濃い」
「右は?」
「トカゲの匂いが薄い」
「ないわけではないのだな」
「贅沢言うな」
右へ走る。
その階には、光る飾りの店、布の店、子どもの遊び場、人間が顔を塗る小さな瓶を並べた店があった。どれも今は役に立たない。人間の道具というものは、危機になると驚くほど役に立たないものが多い。
爬虫類が遠くで鳴き、別の方向で人間の黒い道具が火を吐いて、その拍子に天井から何かが落ちてきた。白い粉が舞う。わたしはくしゃみをしそうになり、必死でこらえた。くしゃみで死ぬ猫など、あまりにも間抜けである。
その時、前方の店の中から猫が飛び出した。
カストルかポルクスだった。黒くて白いところが少しあったがどちらかは知らない。今は名前などどうでもよい。本人もたぶんどうでもよい顔をしていた。
「モモコ! モモコはどこだ!」
彼は叫びながら走っていた。身を隠そうともしない死に物狂いの振舞いに、近くの爬虫類が反応した。
「馬鹿……ッ!」
ジャックが吐き捨てる。
黒猫はわたしたちに気づいた。
「おまえたち! モモコを見なかったか!」
「知らない、声を出すな!」
だが黒猫は聞かなかった。爬虫類が棚の上から落ちるように飛びかかる。黒猫は悲鳴を上げて横へ跳び、紙袋の山に突っ込んだ。爬虫類もその後を追う。
ジャックは迷わず逆方向へ走った。
「助けないのか」
「今ので助かっただろ」
「そういう意味ではない」
「じゃあどういう意味だ」
また黒い階段を下りる。下へ、さらに下へ。最上階から一つ下、そのまた一つ下。人間なら階の名前をつけるのだろうが、猫に必要なのは高いか低いかだけである。
低くなるほど、匂いが濃くなった。血。火薬。爬虫類。割れた卵のぬめり。恐怖。
そして、外の匂い。雨の名残。焦げた街。壊れた車。犬。空。
あんなに嫌だった外の匂いが、今は少しだけましに思えた。屋根があるから安全とは限らないし、餌があるから家とは限らない。高いから助かるとも限らないこともある。この世界は、猫に許しもなく決まりを変える。
一階、つまり入口のあるいちばん下の広い場所が見えた。
そこはもう、以前の入口ではなかった。自動扉の片方は外れて倒れ、ガラスは割れ、床には泥と水と餌の粒と血が混じっていた。Gフォースの人間が二人、柱の陰で黒い道具を構えている。別の人間が倒れていて、若い人間がその腕を引っ張っていた。
爬虫類が一匹、近くをうろついている。外はその向こうだ。わたしは思わず喉を鳴らした。喜びではないし、恐怖でもない。たぶん、疲れすぎた猫が出す音である。
「出口だ」
ジャックが言った。
「見ればわかる」
「走れるか」
「誰に言っている」
「足を引きずってるぞ」
「これは優雅な歩き方だ」
「じゃあ優雅に死ぬんじゃねえぞ」
ジャックは爬虫類を見た。爬虫類はこちらに背を向けている。
「今だ」
ジャックが合図して、わたしたちは走った。
床を蹴る。
滑る。
立て直す。
そして鈴が鳴る。
ちりん。爬虫類が振り向くのが見えた。
わたしは心の底から思った。この鈴をつけた人間は、後で必ず説教してやる。
爬虫類が走り出した。細い体が床を這うように低くなり、尾が割れたガラスを弾く。鋭くて硬い爪が床を叩く音が、こちらへ向かってくる。
かしゃ。
かしゃ。
かしゃ。
速い。
「走れ!」
「走っている!」
わたしたちは入口へ向かって跳んだ。
あと少し。あと数歩。外の匂いが鼻いっぱいに広がる。
その時、横から白い光が飛んできた。光ではない。火だ。
だだだだだっ。
黒い道具の音が入口に響いた。わたしの耳が伏せる。爬虫類の足元の床が跳ね、ガラスの破片が散った。爬虫類は横へ跳び、口を開けて人間の方を向いた。
撃ったのは、あの若い人間だった。
彼は倒れていた仲間の腕を離し、膝をついたまま黒い道具を構えていた。顔の透明な板の向こうで、目が大きく開いている。恐怖の匂いがした。汗と血と火薬の匂いもした。
それでも、彼はわたしたちと爬虫類の間に火を放った。
「…………!」
若い人間が叫んだ。言葉はわからないが、前足が入口の外を指していた。
外へ。
さっきと同じだ。ここは危ない、早く逃げろ。たぶん、そういう意味だった。
「人間が何か言っているぞ」
「聞いてる暇があるか!」
ジャックが怒鳴った。
若い人間はもう一度、黒い道具を撃った。
だだだっ。
爬虫類が後ろへ下がる。完全に逃げたわけではない。だが、ほんの少しだけ道が開いた。
ほんの少し。
猫には、それで十分な時がある。
ジャックが先に飛び、わたしも続いた。
若い人間の横を抜ける時、彼の匂いが鼻に入った。
恐怖。
血。
泥。
火薬。
それから、ほんの少しだけ、猫を見つけた時のさとみに似た匂い。
わたしは彼を見上げ、若い人間も一瞬だけわたしを見た。その目は、猫を捕まえる目ではなかった。食べる目ではない。追い出す目でも、たぶんなかった。
だが、わたしは礼など言わない。猫は忙しい時に礼を言わないし、そもそも人間の言葉で礼を言えない。
だから、わたしはただ走った。
若い人間は、わたしたちが通り抜けるとすぐに顔を戻した。倒れていた仲間の腕をまた引っ張り、別のGフォースの人間に向かって何か叫ぶ。爬虫類が再び動く。黒い道具が火を吐く。
彼は、もうこちらを見なかった。見ている余裕がなかったのだ。人間もまた、逃げなければならない生き物だった。
外は、もう目の前だった。
割れた自動扉の隙間。濡れた空気、灰色の光。
わたしたちがそこへ飛び込もうとした時、横の倒れた案内板の陰から、白いものが現れた。
長い毛。焦げたような顔。青い目。
モモコだ。
モモコはまだ美しかったが、毛は乱れ、片方の耳の毛は焦げ、尻尾には灰がついていた。窓際のカウンターにいた女王ではない、生き延びるために窮地を逃れてきた猫だ。
それでもその目だけは高い場所にいる時のままだった。モモコは言った。
「待ちな。このまま行かせるわけにはいかないよ」
好きなキャラクター
-
サリー
-
ジャック
-
モモコ
-
ソーセキ
-
カストルとポルクス
-
さとみ
-
Gフォース隊員