『陥陣営戦記 ~恋こそ至高!龍牙、乱世を穿つ~』 作:パスカルDX
第十話「白馬将軍、公孫瓚見参!」
河北の大平原。
土煙が立ち込める戦場では、袁紹軍と公孫瓚軍が激しくぶつかり合っていた。
槍と剣が交差し、怒号と鬨の声が絶え間なく響く。
その戦場の中央で、一際目立つ白馬が駆ける。
純白の軍馬に跨る一人の武将。
長い赤い髪を高い位置でポニーテールに結び、銀の鎧をまとったその姿は、戦場でもひときわ目を引いていた。
公孫瓚である。
白馬を自在に操りながら、公孫瓚は前線を見渡した。
「……押されてる?」
副官が馬を寄せる。
「はい! 敵軍中央に呂布がいます!」
「やっぱりか。」
公孫瓚は苦笑する。
「天下無双が相手じゃ、兵も大変だな。」
その時だった。
ドォォォン!!
大地が揺れた。
副官が驚いて振り返る。
「な、何です!?」
「……。」
土煙の向こうから、聞き覚えのない雄叫びが響く。
「チェストォォォォォーーーーッ!!」
公孫瓚は思わず耳を押さえた。
「何だ今の!?」
副官も困惑する。
「わ、分かりません!」
「呂布じゃないのか?」
「違います!」
「じゃあ誰だ!」
「巨大な剣を持った男です!」
公孫瓚は呆然とした。
「……何それ。」
---
その頃。
龍牙は敵兵を押し返していた。
「恋様!」
「うん。」
「前方は安全です!」
恋は静かに頷き、方天画戟で敵兵の武器を弾く。
「……。」
「うわぁ!」
「強い!」
龍牙は満足そうだった。
「恋様。」
「?」
「本日もお強いです。」
「うん。」
「そして。」
胸へ手を当てる。
「可愛さも至高です。」
霞が思わず叫ぶ。
「戦場やぞ!」
「はい。」
「空気読めや!」
「恋様が可愛いことに場所は関係ありません。」
「そういう問題ちゃう!」
音々音も肩を震わせて笑う。
「龍牙殿は平常運転なのです!」
---
一方、公孫瓚は自ら前線へ出てきた。
白馬を駆りながら兵士たちへ叫ぶ。
「慌てるな!」
「将軍!」
「陣形を立て直せ!」
その声だけで兵たちの動きが変わる。
龍牙は公孫瓚へ視線を向けた。
「……。」
霞も気付く。
「敵の大将や。」
恋も静かに見つめる。
「白い馬。」
龍牙は頷いた。
「恋様。」
「?」
「敵将です。」
「うん。」
「私が前へ出ます。」
恋は首を横に振る。
「一緒。」
龍牙の表情が一気に和らぐ。
「はい。」
「ご一緒いたします。」
霞は呆れ顔だった。
「この二人はほんま……。」
---
公孫瓚はゆっくり馬を止める。
目の前には、赤い髪の少女と、大剣を担ぐ大男。
「お前たちが呂布と高順か。」
龍牙が一歩前へ出た。
「恋様の前へ出るな。」
公孫瓚は眉をひそめる。
「恋様?」
霞が小声で頭を抱える。
「始まった……。」
龍牙は真剣な顔で続けた。
「恋様は私がお守りする。」
「いや、それは分かった。」
公孫瓚は苦笑した。
「だが戦場だ。」
「ええ。」
「なら武人らしく勝負だ!」
龍牙は静かに龍眼斬を構える。
「望むところ。」
その隣で恋も方天画戟を構えた。
風が三人の間を吹き抜ける。
周囲の兵士たちは自然と距離を取り、三人を囲むように円ができる。
霞は飛龍偃月刀を肩に担ぎ、小さく呟いた。
「さて。」
音々音も息を呑む。
「始まるのです……。」
龍牙は大きく息を吸い込んだ。
そして、戦場中へ響き渡るほどの声で叫ぶ。
「チェストォォォォォーーーーッ!!」
その雄叫びとともに、大剣を構えた龍牙が公孫瓚へ向かって駆け出した。
「チェストォォォォォーーーッ!!」
龍牙の雄叫びが戦場を震わせる。
龍眼斬を構えた巨躯が、一気に公孫瓚との間合いを詰めた。
公孫瓚は白馬の手綱を巧みに操り、その突進を正面から迎え撃つ。
「速い!」
周囲の兵士たちが思わず息を呑む。
馬上から繰り出される槍は鋭く、まるで白い稲妻のようだった。
ガキィィン!
龍眼斬と槍が激しくぶつかり、金属音が平原へ響く。
衝撃で白馬が数歩後ろへ下がる。
「くっ……!」
公孫瓚は驚きを隠せなかった。
(この怪力……!)
一方の龍牙は、その場から一歩も動いていない。
「恋様。」
戦いの最中にもかかわらず、ちらりと後ろを見る。
「危なくありませんか?」
恋は静かに頷いた。
「うん。」
「大丈夫。」
その一言を聞いた龍牙は安心したように笑う。
「何よりです。」
公孫瓚は思わず声を上げた。
「いや、私と戦ってる最中だろ!」
霞が腹を抱えて笑う。
「気にしたら負けや!」
音々音も苦笑する。
「龍牙殿は恋様が最優先なのです。」
---
公孫瓚は気を取り直して槍を構え直した。
「もう一度行くぞ!」
白馬が地を蹴る。
鋭い突きが連続して放たれる。
龍牙は龍眼斬でその一撃一撃を受け止める。
ガン!
ガキン!
ギィン!
周囲の兵士たちは目を丸くしていた。
「すごい……。」
「互角だ。」
「いや、あの高順ってやつ、片手で受けてないか?」
霞も感心する。
「ほんまに馬鹿力やな。」
龍牙は静かに言った。
「恋様。」
「?」
「少しだけ失礼します。」
「うん。」
「すぐ終わらせます。」
「え?」
公孫瓚が聞き返した次の瞬間。
龍牙は龍眼斬を大きく振りかぶる。
「チェストォォォォォッ!!」
ズドォン!
地面を叩く一撃。
巻き上がった土煙に白馬が驚き、思わず足を止める。
公孫瓚はすぐに手綱を引き、落ち着かせた。
「……なるほど。」
龍牙を真っ直ぐ見つめる。
「お前、本気なら私を斬れたな。」
龍牙は首を横に振った。
「武将として戦っているあなたを、不必要に傷付けるつもりはありません。」
「……。」
「私の目的は。」
龍牙は恋を見つめる。
「恋様をお守りすることです。」
霞が額に手を当てる。
「また恋や。」
「そこは一切ぶれへんな。」
---
その時。
恋が静かに前へ出た。
方天画戟を手に、公孫瓚と向かい合う。
公孫瓚はその姿を見て、小さく笑った。
「ようやく本人が出てきたか。」
恋は小さく頷く。
「……。」
しばらく沈黙が流れる。
やがて公孫瓚は槍をゆっくり下ろした。
「今日はここまでにしよう。」
副官が驚く。
「将軍!?」
「兵をこれ以上失う意味はない。」
周囲を見れば、両軍とも疲弊し始めていた。
戦いは膠着している。
これ以上続けても決定打にはならない。
公孫瓚は恋を見る。
「呂布。」
恋も静かに見返す。
「……。」
「次は本気で勝負だ。」
恋は短く答えた。
「うん。」
---
やがて両軍から退却の法螺貝が鳴る。
ブオォォォーーッ!
兵士たちはゆっくりと陣へ戻り始めた。
袁紹軍では歓声が上がる。
「押し返したぞ!」
「敵将と互角だった!」
「呂布様だ!」
「高順様もすげぇ!」
龍牙は恋のそばへ戻る。
「恋様。」
「?」
「お怪我はありませんか。」
「ない。」
「安心しました。」
恋は少し考えてから言う。
「龍牙。」
「はい。」
「おつかれさま。」
その一言だけで龍牙の表情は満面の笑みになる。
「ありがとうございます。」
胸へ手を当て、深々と頭を下げる。
「恋様のお言葉だけで疲れが吹き飛びました。」
霞が吹き出す。
「安上がりやなぁ!」
音々音も笑う。
「恋様の一言で全回復なのです。」
龍牙は真剣な表情で頷いた。
「その通りです。」
そして恋を見つめ、いつものように口にする。
「恋様。」
「?」
「本日も可愛さが至高でした。」
恋は少し照れたように「えへ」と微笑む。
その笑顔を見た霞は肩をすくめた。
「戦の最中でも、結局いつも通りやな。」
夕日が戦場を赤く染める。
初日の激突は決着がつかないまま終わった。
だが、公孫瓚もまた、龍牙と恋という二人の存在を強く意識することになる。
そして翌日、河北の戦いはさらに大きく動き始めるのだった。
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