『陥陣営戦記 ~恋こそ至高!龍牙、乱世を穿つ~』 作:パスカルDX
第十二話「陥陣営、戦場を駆ける!」
朝日に照らされた河北の大平原。
昨日までの戦いで踏み荒らされた大地には、無数の足跡と車輪の跡が刻まれていた。
その上を、再び二つの大軍が進む。
袁紹軍。
公孫瓚軍。
そして、公孫瓚軍の右翼には黒山賊の黒い旗が風にはためいている。
張燕は馬上から袁紹軍を眺め、不敵な笑みを浮かべた。
「やっぱりいるな。」
視線の先には恋。
そのすぐ横には龍牙。
さらに少し離れて霞と音々音。
「面白ぇ。」
張燕は肩を鳴らした。
「今日はどう動く、高順。」
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一方、袁紹軍。
龍牙は恋の馬の手綱を引きながら歩いていた。
「恋様。」
「?」
「昨夜はよく眠れましたか。」
「うん。」
「朝食も召し上がりました。」
「うん。」
龍牙は満足そうに頷く。
「本日も万全です。」
霞は思わず吹き出した。
「戦場で体調確認すな!」
音々音も笑う。
「毎朝の日課なのです。」
恋は少し首を傾げた。
「変?」
霞は優しく笑う。
「いや、恋らしいわ。」
---
その頃、本陣では袁紹が兵たちへ檄を飛ばしていた。
「皆さん!」
「はっ!」
「敵は黒山賊を味方につけました!」
兵士たちがざわつく。
「ですが!」
袁紹は胸を張る。
「こちらには天下無双の呂布さんがおります!」
「おおっ!」
「そして張遼さん、高順さん、陳宮さんもおりますわ!」
大歓声が湧き上がる。
恋は少し照れくさそうに龍牙を見る。
「いっぱい呼ばれた。」
龍牙は微笑む。
「当然です。」
「恋様は天下無双です。」
霞が肩をすくめる。
「龍牙はいつでも恋を褒めるなぁ。」
「本当のことです。」
「否定できへん。」
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法螺貝が鳴る。
ブオオオォーーッ!
両軍が一斉に前進を開始した。
大地が震える。
槍兵が歩みを揃え、騎兵が土煙を上げる。
恋は静かに方天画戟を握る。
龍牙は龍眼斬を肩へ担いだ。
「恋様。」
「?」
「参りましょう。」
「うん。」
「一緒。」
その一言だけで龍牙は満足そうに頷く。
「はい。」
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戦端が開かれた。
「突撃!」
袁紹軍と公孫瓚軍が正面から激突する。
金属音が平原へ響き渡る。
恋は軽やかに方天画戟を振るい、敵兵の武器を弾いていく。
「うわっ!」
「強い!」
一方の龍牙も龍眼斬を大きく振り抜いた。
「チェストォォォーーッ!!」
轟音とともに敵兵がたまらず後退する。
「またあの声だ!」
「高順だ!」
「近寄るな!」
敵兵がざわめく。
霞は飛龍偃月刀を振るいながら笑う。
「もう"チェスト"だけで敵が逃げとるやん!」
音々音も兵を指揮しながら頷いた。
「龍牙殿の名物になっているのです!」
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その様子を遠くから見ていた張燕は、口元を歪める。
「やっぱり正面からじゃ崩れねぇか。」
部下が馬を寄せる。
「頭領。」
「どうします?」
張燕はニヤリと笑う。
「高順は相変わらず呂布しか見えてねぇ。」
「はい。」
「なら、その目をもっと忙しくしてやる。」
黒山賊たちは一斉に散開した。
「行け!」
「袁紹軍の補給隊を狙え!」
「伝令を足止めしろ!」
「攪乱だ!」
黒山賊らしい戦い方だった。
霞がすぐに異変へ気付く。
「あいつら!」
音々音も叫ぶ。
「また散らばったのです!」
龍牙も黒山賊の動きを見つめる。
「……。」
恋は静かに尋ねる。
「龍牙。」
「はい。」
「追う?」
龍牙は張燕を見据えながら、ゆっくりと首を横に振った。
「いいえ。」
「恋様のお側を離れません。」
その返答を聞いた恋は、小さく微笑む。
「うん。」
その様子を遠くから見ていた張燕は舌打ちした。
「ちっ……。」
「また引っ掛からねぇか。」
しかし、その目にはまだ余裕の笑みが残っていた。
「なら、次の手だ。」
黒山の狼は、新たな策を巡らせ始める。
一方、龍牙は龍眼斬を握り直し、恋の一歩前へ立つ。
「恋様。」
「?」
「何があろうとも。」
龍牙は静かに笑う。
「私は恋様をお守りします。」
恋はこくりと頷いた。
「うん。」
その穏やかなやり取りとは裏腹に、河北の戦場はさらに激しさを増していくのだった。
平原を吹き抜ける風は、砂煙と戦の匂いを運んでいた。
袁紹軍と公孫瓚軍は完全な乱戦へ突入し、至るところで槍と剣が激しくぶつかり合っている。
怒号。
鬨の声。
金属音。
そのすべてが混ざり合い、戦場は混沌としていた。
その混沌の中でも、恋の姿はよく目立っていた。
赤い髪が風になびき、方天画戟が弧を描くたび、敵兵たちは武器を弾き飛ばされ、後ずさる。
「ひっ……!」
「やっぱり呂布だ!」
「近寄るな!」
恋は必要以上に敵を傷付けることなく、確実に戦線を押し上げていく。
その少し前では、龍牙が龍眼斬を構えて敵兵の前に立ちはだかっていた。
「恋様の前を塞ぐ者は……。」
大きく息を吸い込む。
「チェストォォォォォーーーッ!!」
龍眼斬が唸りを上げる。
轟音とともに敵兵たちは吹き飛ばされるのではなく、その圧倒的な威圧感に思わず後退した。
「ば、化け物だ!」
「近づけない!」
龍牙は剣を肩へ担ぐ。
「これ以上、恋様へ近付くことは許しません。」
その真っ直ぐな言葉に、袁紹軍の兵たちから歓声が上がる。
「高順殿だ!」
「押し返せ!」
「今だ!」
霞も飛龍偃月刀を振るいながら豪快に笑った。
「龍牙、ええ壁になっとるやん!」
龍牙は真顔で答える。
「恋様の盾です。」
「そこは絶対ぶれへんな!」
音々音も苦笑しながら兵を指揮する。
「前衛は恋様たちに続くのです!」
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その頃、黒山賊を率いる張燕は戦場を冷静に見渡していた。
「やっぱり高順は離れねぇ。」
部下が尋ねる。
「頭領、このまま押し切りますか?」
張燕は首を横に振る。
「違う。」
「もう少し戦場をかき回せ。」
「兵糧隊は?」
「放っておけ。」
「今日は違う獲物を狙う。」
張燕の目が細くなる。
「陳宮だ。」
「え?」
「軍師を揺さぶれば、呂布たちも動かざるを得ねぇ。」
黒山賊たちは頷き、素早く散開していった。
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「音々音!」
霞が叫ぶ。
「右から黒山賊や!」
音々音はすぐに兵へ指示を飛ばす。
「弓隊、迎撃!」
矢の雨が降り注ぐ。
しかし黒山賊は巧みに散り、森へ隠れ、また別の場所から姿を現す。
「くっ……!」
「素早いのです!」
その様子を見た龍牙は恋へ声を掛ける。
「恋様。」
「?」
「少しだけ前へ出ます。」
恋は静かに頷いた。
「気をつけて。」
「はい。」
龍牙は一礼すると、大剣を握り直す。
「陥陣営!」
彼の号令に、直属の兵たちが集まる。
「我に続け!」
「おおっ!」
陥陣営は楔のような陣形を組み、黒山賊が暴れる一角へ突撃した。
「チェストォォォォォーーーッ!」
龍牙の雄叫びを合図に、兵たちは一斉に突き進む。
黒山賊は素早く応戦するが、陥陣営は崩れない。
盾が盾を支え、槍が前へ伸びる。
龍牙自身が先頭に立ち、龍眼斬で敵の武器を弾き飛ばして道を切り開いていく。
張燕はその様子を見て、口元を吊り上げた。
「なるほどな。」
「それが陥陣営か。」
「面白ぇ。」
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一方、公孫瓚は白馬に乗ったまま戦況を見つめていた。
「黒山賊が押し返されている……。」
副官が答える。
「高順が率いる部隊です!」
公孫瓚は静かに息を吐いた。
「やはり強い。」
「呂布だけではない。」
「高順もまた、侮れぬ武将か。」
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戦場では、陥陣営の突撃によって黒山賊は徐々に押し返され始めていた。
霞は豪快に笑う。
「よっしゃ! このまま押し込むで!」
恋も静かに前へ進む。
「みんな。」
方天画戟を握り直す。
「いこう。」
龍牙は恋の隣へ戻ると、深く頭を下げた。
「恋様、お待たせしました。」
恋は少し安心したように微笑む。
「おかえり。」
その一言だけで、龍牙の顔は満面の笑みになる。
「ありがとうございます。」
そして胸に手を当て、いつものように堂々と言い放つ。
「恋様の可愛さが至高!」
霞は思わず吹き出した。
「戦場のど真ん中で言うなぁ!」
周囲の兵士たちも笑い声を上げる。
その笑いにつられるように、袁紹軍の士気はさらに高まっていった。
しかし、その笑顔を遠くから眺める張燕は、不敵な笑みを消していなかった。
「高順……。」
「まだ終わりじゃねぇ。」
黒山の狼は、新たな策を胸に秘めながら静かに馬首を返す。
河北の戦いは、なおも激しさを増していくのだった。
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